第九十八話「第二部:プロローグ」
——黒と赤。
暗煙の立ち込める街並みを私は見下ろしていた。
燃え盛る音。人々の呻き声。吹き抜ける風。
世界の音は、それだけだった。
——ザザ
インカムから、通信を受信する。
私の管理者、ロイドだった。
『A-3R、任務は完了だ。撤退しろ。』
「……了解、しました。」
この場での、私の役割は終えた。
そのまま、私は踵を返そうと——
「……けて。」
声がした。
私は、声のする方向へ振り返る。
「助……けて。」
「……。」
「お願い……します。この子、だけでも…」
誰かの、母親だった。
瓦礫に埋もれて、身動きが取れないのだろう。
自分の子供を抱えていた。
地面には、血だまりが広がっている。
——ズクン
胸に、痛みが走った。
これが、何かは分からない。
ただ、手が震えていた。
「ロイド、生存者です。」
『——殲滅が命令だ。対処しろ。』
「……了解。」
私は、懐から杖を取り出し、母親へと向ける。
母親の瞳が、大きく見開いた。
「……そ、そんな!お、お願い……お願いします!」
「……。」
——カアァァン
氷の刃が、親子を貫いた。
二人は、親子だったモノへとなり果てた。
「対処完了です。」
『了解。帰還しろ。』
「……はい。」
私は、踵を返した。
燃え去る街を背にして。
——全てを壊し、殺すための兵器。
それが、私の、『A-3R』の生まれた意味。
それ以外の私に、価値などない。
他に意味を考えることなど、許されない。
——ズクン
また、胸が痛んだ。
耐えがたい、痛み。
——もう、嫌だ。
今にして思えば——
その感情が、私の始まりだった。
——ビー、ザザ。
インカムが鳴った。
先ほどとは違う、非正規の通信。
『……初めまして。』
「……あなたは?」
『アーヴィン・ロックウェル。』
アーヴィン・ロックウェル。
アッシュタウンの支配者。
第二次魔術大戦を終わらせた、三英雄の一人。
「上に報告します。」
『その前に、取引をしないか?』
その言葉が、私を檻の外へ連れ出した。
けれど、自由にしたわけではなかった。
そこから、私が私として生きるための戦いが始まった。
それは、私だけの戦いではなかった。
そして私は、彼と出会う。
キムラ・ジュディという、私を私として見た一人の男と。
第九十八話、お読みいただきありがとうございました!
いよいよ「スペル・エラー」第二部がスタートです。
お待たせいたしました。
お待たせしすぎたかもしれません。
本日は、三話まで10分おきに公開予定です!
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