第九十五話「タコパしよーぜ!」
工房の朝。
依頼のない、平和な日のはずだった。
俺は、物思いにふけっていた。
——粉ものが、食べたい。
というより、たこ焼きが食べたい。
ネットで検索をしても、それらしいものは見当たらなかった。
一応、ソースや、お好み焼きに近いものは見つかった。
ただ、たこ焼きだけが、この世界にはなかった。
俺は、決意した。
たこ焼きを食べると。
この世界で、あの丸い希望をこの手で掴み、口に運び、ハフハフすると。
ダメ元で、工房の厨房を漁る。
ホットプレートは見つかった。
エルナ、一人でこれ使ってたのだろうか?
なんか、寂しくね?
「……いてぇ!」
上の棚から、鍋蓋が落ちてきた。
俺の頭に直撃する。
扉、閉まってたはずだよな?
「……ごめん。」
なんとなく、謝罪した。
だが、やはりたこ焼きを作るプレートはない。
それだけが、なかった。
—
「カイラ。」
「ん~?どうしたの?」
「美味しいの、食べたくない?」
「え、食べたい!」
……しめた!
「ふふふ。そのためには、カイラの力を是非お借りしたいんだ。」
「うん!なんでもするよ!」
「ん?なんでも?」
「うん!なんでも!」
この子には、一度警戒心というものを教える必要がありそうだ。
でも、そんなものは後だ。
「じゃあ、それを作るための『機械』を作ってほしいんだよ。」
「機械!全然作る!」
カイラが一層目を輝かせた。
あれ、別に飯で釣らなくてもやってくれたかも。
俺は、カイラにたこ焼きというものと、それに必要な機械の概要を伝えた。
………………。
…………。
……。
「……う~ん。つまり、半球状の凹みがあるプレートを作ればいいの?」
「そう!このホットプレートに合うように。」
「……つまんない。」
「え?」
「ちょっと、アレンジしていい?」
「ま、まぁ。」
「うん!任せて!まずは試作品、作るよ!」
試作品ってほどのものでもないんだけど……。
この際、たこ焼きが食べられれば何でもいい。
カイラに開発を任せて、俺は材料の調達に外へ出た。
—
工房に帰ると、カイラとサヤがリビングにいた。
机に、壺のような機械が置かれている。
……嫌な予感がした。
カイラがこちらに振り返り、俺を呼んだ。
「あ、ジュディ!」
「お、おぉ。」
「出来たよ!見て!球状粉末調理製造機!」
——ペカー。
あまりにも、たこ焼き器のオーダーとはかけ離れていた。
作れるのか?これ?
「……あ、ありがとう!」
「へへん!」
一応、お礼を言った。
使ってみないと分からないしな。
「で、これどう使うんだ?」
「サヤさん!」
「えぇ!」
「実践お願い!」
「任せて!」
サヤのテンションもおかしかった。
「いい!ボンクラ、よく聞きなさい!」
「……はい。」
「まず、この上部に空いた穴に、材料をぶち込むの!」
「へ~。」
「入れなさい!」
「え、分量とかは?」
「全部、機械がやってくれるわ!」
……え、めっちゃ便利かも。
俺は、それぞれの材料を少しずつ入れた。
「入れたわね!」
「……はい。」
「そしたら、ここのスイッチを押すのよ!」
サヤがボタンを押す。
こんなにテンションが高いサヤは初めて見たかもしれない。
知育菓子とか好きなのかも。
機械が、左右に震えた。
その後、異様な音を奏で始める。
——はんにゃはんにゃはんにゃはんにゃ!
これ、食べ物作ってる音か?
しばらくして、駆動音が止まった。
サヤが、壺の下側にお皿を構える。
よく見ると穴が空いていた。
——ぶりゅぅう。
終わってる音がした。絵面が最悪だった。
もう、これだけで食欲が失せた。
「できたわ!ボンクラ!」
「うん!大成功だね!」
サヤとカイラが、キラキラと目を輝かせてこちらを見る。
その何かが乗った皿を差し出した。
「「食べてみて!」」
俺は、皿の上にある物体を見た。
なんか、もんじゃのようなものだった。
食いたくない……。素直にそう思った。
「「……。」」
サヤとカイラが、こちらをじっと見つめている。
逃げる術はなかった。
意を決して、スプーンでそれを掬う。
プルンっと音がした。
……うわぁ。
——パクッ。
「「……。」」
「もぐもぐ。」
「「どう?」」
「あ、美味い。」
思わず、料理を二度見する。
美味いのかよ……。
サヤとカイラも続けて食べた。
「あ、本当だ!美味しいね!」
「ふふ!カイラ!成功ね!」
二人がはしゃいでいる。
でも俺は、たこ焼きが食べたい。
これではない。
「あー、カイラ。」
「んふふ。びっくりした?」
「いや、びっくりしたけど……。これは、たこ焼きじゃない。」
「なんで?たこ焼きと成分は一緒だよ?」
「そうじゃないもん!たこ焼きは、そうじゃないもん!」
俺は駄々をこねた。
全力で。
いい年した大人が、全力で。
—
あれから、紆余曲折あったが、なんとか希望通りのものを作ってもらった。
長かった……。本当に。
カイラが、渋々俺に尋ねる。
「そんなのでいいの?」
「これがいいの!」
サヤが、ジト目で俺を見た。
「あっちの方が手間がかからないわよ?」
「いいの!手間も含めてたこ焼きなの!」
そのまま三人で、ホットプレートを囲んだ。
生地を流し込む。
タコを入れる。
ひっくり返す。
「焦げてる焦げてる!」
「ジュディがモタモタするから!」
「まだ火加減が分かってないんだよ!」
——出来た。待ち望んだ、たこ焼き。
ハフハフしながら食べた。
熱くて、丸くて、美味かった。
これだよ、これ。
これが、たこ焼きだ。
サヤが、興味津々にたこ焼き器を見ていた。
「これ、チーズとか入れても美味しいんじゃない?」
「入れてもいいけど、まず普通のを食べてよ。」
「なんでよ?」
「風情だよ!順番があるの!」
「意味わかんないんだけど。」
「意味なくていいから、まず食べて。」
サヤが渋々普通のたこ焼きを食べた。
少しだけ、目が丸くなった。
「……美味しいじゃん。」
「だっろ~~?」
「あっちの方が手間かからないけど。」
「そういう問題じゃないの!」
分かってない。
分かってないよサヤ。
—
しばらく焼いていたら、カイラが立ち上がった。
「あ、そうだ。」
「ん?」
「エルナの部屋に、賞味期限がそろそろなものがあったんだけど。」
「……何が?」
「入れてみる?」
カイラが持ってきたのは、小さな袋だった。
中に、しわしわとした赤いものが入っている。
「……干し梅か?」
「たぶん。」
「エルナの部屋にあったの?」
「うん。枕の下に入ってた。」
枕の下……。
なぜ?
「エルナ、たまに謎なんだよな。」
「うっさいわねって怒られそう。」
サヤが言った。
俺は、なんとなく後頭部が疼いた。
「……入れてみるか。」
「いいの?」
「賞味期限ギリギリなんだろ?食べてやるよ。」
干し梅を、生地の中に押し込んだ。
ひっくり返す。
焼けた。
——パクッ。
「「「……。」」」
「「「すっぱぁ~~~!」」」
三人で笑った。
エルナは、酢ラーメンといい、酸っぱいものが本当に好きだったんだな。
全然、知らなかった。
まだまだ知らないことが、たくさんある気がした。
それでも、同じ屋根の下で暮らしていた。
彼女がいた工房で、今でも俺たちは生活をしている。
—
そのまま、みんなでたこ焼きをつついた。
長い道のりだったけど。
それが手に入れた、いつもの夜だった。
第九十五話、お読みいただきありがとうございました!
たこ焼き回でした。
「はんにゃはんにゃ」は、カイラが一番一生懸命作っていたので、文句は言えないやつです。
干し梅、枕の下にあったやつです。
エルナ、なんで枕の下に……。
次回から少し設定資料集とIFストーリーを挟み、第二部へ続く予定です。
ここまで読んでくださって、本当にありがとうございました。
また読みに来てくれたら、嬉しいです。
ブクマやコメントをいただけると、カイラ製たこ焼き器の改良が続きます。
よろしくお願いします!




