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第八十七話「共に」

意識が戻った時、すでに引き金を引いていた。

レールガンの反動が、右腕に残っていた。


弾丸がデスへと向かっていく。


……あいつ。

全然、諦めてねぇじゃねーか!


「——っ!」


デスが前に倒れながら弾丸を避けた。

それでも間に合わなかった。

弾丸が、デスの左肩を抉った。


……。


静かになった。

レールガンの残響だけが、部屋に漂っていた。


「ふ、ふはは。はははは!!」


デスが、体勢を起こしながら笑った。

左半身が、ほぼなくなっていた。


「油断したなぁ!!アルト!最後の最後で拘束を解くとはな!!」

「……アルトじゃねぇよ。今は。」

「細かいことはいい!!続けよう!続けるだろぉ?」


デスがフラフラとこちらに歩み寄ってくる。

あんなでも、まだ動けるのか。


——ピーピーピー


レールガンのアラートが脳内に響いた。

魔力を込めすぎたせいで、オーバーヒートしかけていた。

あいつ、余計なことしかしねぇな。

くそっ。


俺はレールガンを懐にしまった。

普通の銃じゃ、あの装甲は貫けない。


「……形見だし、あんま使いたくねーんだけどな。」


右腕のストーンウェアを開いた。

中から、クロウのダガーが弾き出た。


それを、右手で掴み取る。


「まだ、手があるのか?」


デスが静かに俺を見ていた。

体の半分を失っていても、目だけは変わらない。

まるで、こちらの準備が整うのを待っているようだった。


「いんや。手ってほどのものじゃねぇけどな。」

「……まぁ、いい。準備はできたか?」

「なんで、待ってた?」


デスが、ニヤリと笑った。

今が、本当に幸せだとでも言うように。


「俺は、戦いが好きなんだよ。」

「……へぇ。」

「特に、自分の命が刈り取られるかもしれないスリル。何事にも代え難い。」

「理解できねぇな。」

「戦士の矜持だ。貴様には分からないだろう。」


意味は分からなかった。

でも、こいつにもこいつなりの信念があることは分かった。


「死ぬのは、怖くねぇのか?」

「戦士として死ねるなら、本望だ。」

「やっぱ、理解できねぇわ。」

「……良い。行くぞ?」


デスが、身を屈めた。


——来る。


俺は残り少ない魔力を練り上げ、電撃魔術を全身に纏わせた。

同時に、電撃をダガーにも流し込む。


その瞬間、背中から風を感じた。

煙草の匂いがした。


「……クロウ。」


声が出た。

あいつは、もういない。

それでも、俺の右手に残っているものがあった。


「……行こうか。」


合図はなかった。

ただ、俺とデスは、同時に動いていた。







俺とデスだけが踏み込める、高速の世界。


最後の戦いが、始まった。


俺の今出せる最高速度。

これで、決着をつける。


——デスの拳が、目の前に迫った。


速い。

このままでは、避けられない。

そう直感した。


——そのまま、踏み込め。


また、背後から風を感じた。

気のせいかもしれなかった。


「——っ。」


俺は、踏み込んだ。

今だけは背中を押されている気がした。


くそ。

まだ、足りねぇ!


胸元の宝石が、前へ引かれるように揺れた。


——体が、宝石に引っ張られた。


そんな気がした。


「あ、ああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


体が、前に動く。

誰かが、俺の背中を押した。

誰かが、俺を前へと引っ張る。


俺は、いつだって、そうやって助けられてきた。


前に。

ただ、この足を、前に。


拳の内側に入り込む。

そのまま、ダガーをデスの胴へ届かせた。


——一閃。


そのまま、俺はダガーを振り抜く。

デスの体を、上下に切り裂いた。






「——っ。はぁ。はぁ。はぁ。」


デスが、地面へと落ちた。

呼吸が、定まらない。


そのまま、俺はデスを見た。


「……見事だ。」

「……まだ、生きてんのかよ。」


デスが、吐血する。

動かない体で、俺を確かに見つめた。


「私の、負けだ。」


デスは、仰向けのまま動かない。


「見事だ。」


そんな一言と共に、上から拍手が聞こえた。

ゼノがこちらを見下ろしていた。


「ジュディ。まさか、デスを退けるとは。」

「……あんたは、見てるだけかよ?」

「大したものだ。」


ゼノが、端末を取り出した。


「デス。貴様には失望した。」

「……申し訳ございません。」

「戦士として死ぬなどという矜持、貴様の身には余るだろう。」

「……。」

「契約通り、心臓を潰す。企業の駒として死ね。」


ゼノが、端末を操作した。

俺は、デスを見た。


エルナのためじゃない。

こいつを許したわけでもない。

ただ、ゼノのボタン一つで終わらせるのだけは、気に食わなかった。


「デス。」

「……何だ。」

「死に方を、選ばしてやる。」


デスの目が、俺を見た。


「企業の犬として死ぬのと、俺に殺されるの、どっちがいい。」

「……それは、慈悲か?」

「死に方くらい、いいだろ?」


デスは、少しだけ黙った。


「甘すぎる。お前は。」

「……。」

「……しかし、だからこそか。」

「何が言いてぇんだよ。」

「あの踏み込み。お前だけでは、なかった。」


言葉の意味は分からない。

でも、何のことかは分かった気がした。


「早くしろよ。時間ねぇぞ?」

「……戦士として、死にたい。」


俺は、ダガーをデスの顔に充てがった。


「じゃあな。デス。」

「……ジュディ。」

「なんだよ。」

「……感謝する。」


俺は、返事をしなかった。

そのまま、ダガーを振り下ろした。


デスの血が、俺の頬に飛んだ。

拭う気には、なれなかった。







しばらく、動けなかった。


デスは死んだ。

俺が殺した。


「……。」


敵だというのに、胸が軋んだ。

心は、晴れない。

エルナも、戻らない。


——ただ、虚しかった。


でも、背負う。

俺は、これも背負って進む。


俺は、立ち上がりゼノへと視線を移す。


「……ジュディ。」


ゼノが、上から言った。

俺はゆっくりとダガーを格納して、拳銃をゼノへ向けた。


「さて。一旦、振り出しだな。」

「……。」

「……交渉、させてくんない?」

「……いいだろう。」


ゼノが、こちらへ降りてきた。

銃口を向けられていても、まったく動揺する気配がなかった。


「お主が何を知りたいかは、すでに分かっている。」


ゼノが端末を操作した。


部屋の奥が、開いた。

地下への階段が現れた。


「……着いてこい。」


ゼノが歩き出した。

俺は、その後を追った。





第八十七話、お読みいただきありがとうございます!


デスとの戦い、決着ですね。

ジュディの刃が届きました。

誰かと誰かのおかげですね。


次回、ゼノとの対面です。

真実に、近づきます。


明日は、第一部最終回スペシャル!

20:10から、第88〜90話の計3話を10分おきに公開いたします。

ブクマやコメントをいただけると、ジュディがもう一歩だけ前に踏み出せます。

よろしくお願いします!


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