第八十二話「作戦会議」
翌朝、同じ部屋に作戦メンバーが集まった。
カイン、ザイン、カイラ、サヤ、俺。
それから、画面越しにバッツとゼナも繋がっていた。
「よう。」
「え、なんで?」
「いや、案件の相談だろ?ガレスから連絡来たぜ?」
「私が、アテンドしたんだよ。」
カインが、補足するように告げた。
「今回の作戦には人手がいるからね。事前に必要そうな実動部隊に声を掛けておいた。」
「……なるほどね。」
しかも、俺が一緒に動いたことのある相手だ。
そこまで含めて、カインは人選しているのだろう。
「MANAからの依頼なんて初めてだぜ!俺も、顔が広くなったな!」
「……あんたは、少しは空気を読みなさいよ!」
バッツが、でかい声ではしゃいでいる。
ゼナはそんなバッツをたしなめる。
相変わらずだなこの二人は。
「ははは。頼りにしているよ?」
「任せてくれ!金積んでくれりゃ、成果は出す。」
「では、始めようか。」
カインが端末を開いた。
「今回の目標は、アルカナ本社へ侵入し、エネルギー転送技術に関する情報を取得すること。それから、ジュディの帰還に関して直接交渉の糸口を作ることだ。」
「……こう見ると、かなりざっくりしてますね?」
カイラが言った。
まぁ確かにアルカナが相手なら、もっと目的を絞ってコンパクトに動くべきなんだろう。
「仕方がないさ。正直、情報がなさすぎる。しかも、エルドが案内できるのはフロントの会議室まで。そこから先は自力になる。」
俺は、カインを見た。
その表情は、苦しい。
本来なら、もっと情報を詰めていきたいところなのだろう。
「その先の、セキュリティはどうなってそうなんだ?」
「ネルが管轄している。今回は向こうも乗り気だから、表面上は穴が空く。ただし——」
「信用はできない。」
ザインが短く言った。
カインが頷き、言葉を続けた。
「その通り。表面上は穴があるように見せるだろうが……。向こうの意図はまったく読めないね。」
俺は、地図を確認した。
エルドから事前に送られてきた、アルカナ本社の簡易マップだ。
「ってなると、単純な潜入だけじゃ足りないよな?」
「そう。潜入する部隊とは別に、セキュリティを抑える部隊も必要になるだろう。」
「なるほどね。それで、バッツとゼナか。」
「あぁ。その通りだ。」
カインが続ける。
「侵入班はジュディとサヤ。エルドの来客として正面から入る。これが一番目立たないだろう。」
「え、私?」
サヤが、眉をひそめた。
「理由は?」
「護衛だよ。ジュディ一人では対処できない場面もあるだろう。」
「私である理由には、なってないんだけど?」
「君とジュディなら、『見た目』はビジネス相手に見えなくもない。重要だろう?」
「釈然としないけど……。まぁいいわ。」
サヤは口の中の飴を転がした。
まぁ、アカデミーを卒業したくらいだ。
礼節などは、やろうと思えばできるのも知っているし適任なんだろう。
カインは、端末を見ながら続ける。
「支援班はカイラ、バッツ、ゼナ。別館のセキュリティ管理室へ潜入してもらう。侵入班の通信と監視の死角を確保するのが役割だ。」
「……了解です。一応、理由を聞いても?」
「まず、セキュリティを制御するだけの技術が必要なこと。君しか適任がいない。」
「セキュリティ管理室へ潜入できれば、可能ではあるけど……。」
カイラの指が、資料の端を少しだけ握った。
カインが静かにカイラを見つめ続ける。
「正直、セキュリティ管理室への潜入中は、十分な支援ができない。」
「……そうですね。ネルの裏をかくことが目的ですし。」
「セキュリティ管理室の場所と侵入経路は、エルドの情報で大体は分かっている。バッツとゼナが護衛を行いながら、カイラを管理室まで送り届けてくれ。」
「アルカナ本社が相手かよ。まぁ、なんとかするぜ。」
バッツが、画面越しにあっさり言った。
ゼナは小さく頷いた。
これで、実働に関しては決まったか。
ただ、これだけだと連携に不安が残るな。
「相互の状況報告や、周辺情報の取得は現場で判断か?」
「もちろん、バックアップを付けるよ。侵入班にはガレス、支援班にはヴィンという人物を当てる予定だ。」
「ヴィン。あのハッカーか。」
ザインが、煙草を弄びながら言った。
「確かカリドでの任務時に情報があったな。そいつ、ちゃんと動くか?」
「動くと思う。カリドの時じゃ、あいつがいなかったら転送装置の奪取はできなかった。」
「……そうか。」
「そういうお前は、どうすんだよ?」
俺が聞くと、ザインは少しだけ間を置いた。
「アルカナの周辺で待機する。撤退の時に、全員をスムーズに逃がせるように。」
「流石に、アルカナには入れないか?」
「……あぁ、まずいだろうな。」
珍しく、ザインが言葉を選んだ。
「俺が入ったら、それはMANAの侵略と取られかねないからな。今回、俺はサポートに回らざるを得ない。」
「分かった。」
カインが、全員を見渡した。
「私も同じだ。MANAの社長である立場上、この作戦に関わっていることを表立って言うことはできない。」
「……下手したら戦争になる、か。」
俺が続けると、カインは小さく笑った。
「その通り。ただし、非正規での通信であればアルカナに悟られることはないだろう。緊急時には判断を仰いでくれ。」
「……随分、ギリギリのところで動いてくれてるんですね。」
カイラが、静かに言った。
「これは、MANAにとっても重要な案件だ。当然だよ。」
「……。」
「それに、君たちの力になりたいという気持ちもある。」
カインは、それだけ言った。
部屋が、少しだけ静かになった。
「明日の朝、君たちはカルディアへ戻り準備を進めてくれ。」
カインが、最後にそう言った。
「向こうで最終確認をして、アルカナへ向かってくれ。それまでに各自、抜けのないようにしておいてほしい。」
全員が頷いた。
会議が、終わった。
—
MANAの宿舎に戻って、少し経った頃。
俺は、カイラとサヤの部屋をノックした。
「入っていいか。」
「……どうぞ。」
カイラの声だった。
二人とも、気づいていた顔だった。
「……話したいこと、あるって顔してるね。」
サヤが先に言った。
「あぁ。」
どこから言えばいいか、少し考えた。
でも結局、正直に言うしかないと思った。
「今回の作戦で、本当に帰る目処が立つかもしれない。」
カイラが、俺を見ていた。
「……うん。分かってるよ。」
「俺が帰れることも含めて、ずっと研究してくれてたんだよな。」
「……うん。」
「ありがとう。」
カイラは、少しだけ目を伏せた。
「お礼なんか、言わないでよ。」
「……なんでだよ。」
「……お礼言われると、本当に終わっちゃう気がするから。」
俺は、それ以上言えなかった。
サヤは黙って、キャンディを口の中で転がしていた。
「俺が帰ったら、多分二人には会えなくなると思う。だから、ちゃんとけじめを——」
「嫌だ。」
カイラが、静かに遮った。
「嫌だもん。それは、聞きたくない。」
「……カイラ。」
「ジュディが帰ることを望んでるのは知ってる。」
「……。」
「だからね。私は、嬉しいよ?帰ってほしいと思う。明里さんと娘さんのところへ。それは本当。」
カイラの声が、少しだけ揺れた。
「でもね。けじめとか、そんな言い方は嫌だ。」
「……。」
「私が装置を作ったのは、ジュディと、みんなの幸せのためだよ。義務でなんか作ってないもん。」
俺は、黙って聞いていた。
「帰ったら、本当に、もう会えないの?」
カイラが、ぽつりと言った。
その目には、涙が溜まっていた。
「……それは。」
「分かってる。」
「……。」
「ただ、会えなくなるのが、寂しい。」
カイラの正直な言葉だった。
俺も同じ気持ちだ。
ただ、それを言葉にして良いのか、分からなかった。
横で、サヤがキャンディを噛んだ。
「なんか深刻な顔、二人ともしてるけどさ。」
ぼそっと言った。
「……え?」
「会いに行く装置、作ればいいじゃん。」
カイラが、瞬きをした。
「……そんな、簡単に。」
「簡単じゃないのは、カイラの担当じゃん。」
カイラが、何も言えないでいた。
「みんなを幸せにする装置作ってんならさ。」
サヤは、少しだけ視線を逸らした。
「あんたも、勘定に入れなよ。」
「……私も?」
「てか、そう決めたんでしょ?自分も幸せになるって。」
カイラの手が、止まった。
サヤは、それ以上何も言わなかった。
キャンディを一度噛んで、また窓の外を見た。
俺は、二人を交互に見ていた。
カイラが、ゆっくりと息を吸った。
それから、サヤを見つめて言葉を発した。
「……そっか。」
「うん。」
「会いに行く装置、か。」
「できるっしょ?ジュディが帰れるってことは。」
カイラが、少しだけ笑った。
目が少し赤くなっていた。
「……サヤって、すごく雑だよね。」
「……悪かったわね。」
「でも、そういうとこ、私大好き。」
「っは。何よそれ。」
サヤが、俺の方を向いた。
「ジュディ。」
「……。」
「あんたは、『一旦』帰っていいよ。」
真正面から言われた。
「帰れるなら、帰れ。明里さんのとこ行って、娘に会え。」
「サヤ……。」
「でも。」
サヤは、少し間を置いた。
「私も、あんたが傍にいないのは嫌だ。普通に。」
「……普通に、っすか。」
「私は、絶対あんたに会いに行く。」
強がりでも、照れ隠しでもなかった。
決意だった。
クロウには、もう会えない。
エルナにも、もう会えない。
でも俺は、まだ死ぬわけじゃない。だから、諦める理由がない。
たぶん、サヤはそういう人間だ。
「……分かった。」
俺は言った。
「あんたは帰って、待っとけ。」
「……。」
「絶対に、また会う。そんでカイラと引っ付く。」
「……え、引っ付くの?」
「あんた、それ嫌でしょ?奥さんの前で。」
「……勘弁してくださいませんか?」
カイラが、また少しだけ笑った。
泣きそうな顔のままだった。
「……いいね、それ。私、作るよ。会いに行く装置。」
「……分かった。帰って、待ってる。」
サヤが、そっぽを向いたまま言った。
「うん!頑張る!」
三人でいる時間が、少しだけ続いた。
窓の外で、ノヴァの空が明るくなり始めていた。
帰るためだけじゃない道が、少しだけ見えた気がした。
第八十二話、お読みいただきありがとうございます!
作戦が、いよいよ動き出しましたね。
みんな、ジュディの近くにちゃんといる。
サヤの言葉、個人的にはかなり好きです。
雑なのに、ちゃんと優しい。
次回、いよいよアルカナへ。
明日も20:10にお会いしましょう!
ブクマやコメントをいただけると、会いに行く装置の研究がはかどります。
よろしくお願いします!




