表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スペル・エラー ~娘が生まれるのに異世界へ召喚されたので、何があっても帰ります~  作者: とろたま愚鈍
第一部:第五章|パフパラ編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

73/148

第七十二話「そうして彼は、苦しみを捨てる」

EVAirの中で、ジャスに通信を入れた。


「今カルディアへ向かっている。そっちの状況は?」

「最悪だ。」

「……何が起きてる?」

「カルディアに移管した製造拠点に、パフパラの中毒者が押し寄せてる。」


なぜ中毒者が押し寄せる?

誰かが情報をリークしたのか。


「……。」

「正直、暴動に近い。カルディア政府が抑え込んでいるが——」

「時間の問題か。」

「あぁ。急いでくれ。」


通信を切って、操縦パネルを操作した。

速度設定を書き換える。

法定速度の上限ギリギリ。


窓の外を、雲が流れていった。







座標の拠点に近づいた時点で、火の手が見えた。


着地して外に出ると、熱気がきた。

人の怒号が、遠くから聞こえる。

すでに、暴動が激化していた。


「……くそ。」

「ジュディ!」


駆けだそうとした瞬間、背後から声をかけられた。

振り向くと、ジャスとリオが立っていた。


「見ただけで分かる。想像より最悪だな。」

「あぁ。」


ジャスが、端末を見ながら言った。


「問題は、パフパラじゃない。」

「じゃあ、何だよ。」

「派生品だ。パフパラをもとにした感染型の薬がある。」

「感染型?」

「服用者の魔石化した体から、空気中にウイルスが拡散する。」


なんてものを作ってんだ。

冗談じゃねーぞ。

俺は、リオへと視線を移し質問をする。


「止める方法はあんのか?」

「……母体を殺すしかありません。」


俺は、上着のポケットから小瓶を取り出した。

白い錠剤が、数錠残っている。


「この錠剤は、効くのか?」

「予防にはなります。服用すれば、ウイルスへの感染は防げます。ただ——」

「母体には、効かない。」

「えぇ。」


俺は錠剤を一錠口に含んだ。

ジャスとリオにも、それぞれ一錠渡す。


「分かった。とにかく早急に止める必要があるってことだよな。」

「あぁ。」

「なぜ、カルディア政府は暴動を止めるだけに留まってる?麻薬そのものを抑えてしまえばいいだろう。」

「無理だ。」

「は?」

「パフパラは、アルカナの管轄だ。カルディア政府が手を出せば、組織そのものが危うくなる。」


「……クソの役にも立たねーな。」

「……すまない。」


ジャスの声が、珍しく沈んでいた。

俺はリオに目を向けた。


「中にいる中毒者を制圧して、薬品を確保する。判別はお前に任せる。それでいいな?」

「えぇ。構いません。」


駆けだそうとした瞬間、リオに呼び止められた。


「私も、行きます。」

「ダメだ。危険すぎる。」

「中の薬品を、私でなければ判別できません。」

「……。」

「それに、これは私が持ち込んだ情報です。最後まで見届けるべきです。」


リオの目が、俺を真っ直ぐ見ていた。


「……分かった。離れんなよ?」


カルディア政府に道を開けてもらい、工場の内部へ踏み込んだ。







内部は、煙と怒号が充満していた。


パフパラ中毒者が、複数こちらに向かってきた。

俺はリオを後ろに庇いながら、腕を広げる形で受け止めた。


「っ——」


一人が掴みかかってくる。

俺はその手首を押さえて、壁際に押し込んだ。

非殺傷弾を、足元へ。


——パン。


「ぐぁ——!」


男が崩れ落ちる。

また一人が来た。

リオの体を引き寄せながら、回避。

魔術を展開して、足元に電流を走らせた。


「あ——っ!」


二人が同時に硬直した。


廊下を抜けながら、奥へと進んだ。

リオは黙ってついてきた。

怯えているようには、見えなかった。


………………。

…………。

……。


建物の最深部。

扉を開けた。


——ルイが、立っていた。


右手に、注射器を握っていた。

針の先に、透明な液体が光っている。


パフパラは、粉か錠剤のはずだ。

それは違う。


「……ジュディさん。」


ルイが、こちらを見た。


「ルイ。それはパフパラじゃない。捨てろ。」

「……理由は、聞かないんですか?」

「ここにいる時点で、答えは出てるだろ。」


ルイが、少しだけ笑った。

覇気のない、あの笑いだった。


「もう、眠りたいんです。」

「……。」

「眠れば、会えるんですよ。親父にも、お袋にも、妹にも。」


俺は何も言えなかった。


「バカ野郎。お前、死ぬんだぞ。」

「えぇ。でも、家族に会えるならそれでもいい。」

「ルイ。それは、逃げだよ。家族がそんなこと望んでると思うのか。」


「——それは、あなたもでしょ?」


空気が、止まった。

ルイが、注射器を見た。


「でも、無駄死にじゃありませんよ。」

「……待て!」


俺は一歩、前に出た。


「ルイ、頼む。置いてくれ。」

「……頼む、ですか。」

「そうだ。頼む。」

「ジュディさんが、俺に。」


ルイが、注射器を見たまま、少しだけ動きを止めた。



「……あの人は言ったんです。」

「誰が。」

「苦しみを、意味に変えられるって。」


ルイの手が、震えていた。

恐怖か、怒りか、自分でも分かっていないようだった。

それでも、注射器を離さなかった。


「これなら、俺だけで終わらない。」

「……!やめろ!」


ルイが注射器を腕に刺した。

薬品が、体の中へと入っていく。


「ジュディさん。知ってますか?これはウイルスだそうです。」


俺は、動けなかった。


「お前、誰から、それを——」


ルイは答えなかった。

ただ、俺の横にいるリオへ、少しだけ視線を移した。


それが、答えだった。

一瞬、思考が冷えた。


リオ。

お前か。


だが、問い詰める時間はなかった。


「最高ですよ。家族にも会えて、世界に復讐もできる!!」

「会えてねーよ!それは幻覚だ!」

「でも、世界への復讐は、本物ですよ!!!」


ルイの声が、割れた。


「壊れればいい。こんな世界、いらない。」


ルイの腕に、魔石が滲んだ。

首に、胸に、広がっていく。

体が、大きくなる。

人の形が、崩れていく。


「……。」

「リオ。あれを、殺すしかないのか。」


リオが、答えた。


「えぇ。」

「くそったれ。」


俺はリオを自分の背中へと追いやった。


「下がってろ。」


魔石の怪物が、咆哮した。

人の声ではなかった。


それでも、かすかに混じっていた。

笑い声のような、泣き声のようなものが。


ルイの、声だった。







銃を引き抜いて、発砲した。


——パンパンパン。


弾が、魔石の表面で弾かれた。

通常弾では、傷一つつかない。


俺はリロードしながら後退する。

魔石の怪物が、腕を振るった。

地面が、抉れた。


俺は横に転がってそれを避けた。

膝をついたまま、弾倉を換装した。


電撃誘発弾。


怪物が再び腕を振るう。

俺は立ち上がりながら、その腕の下を潜る。

関節の裂け目を狙って、発砲した。


——パン。


誘発弾が、着弾した。

怪物がひるむ。


また一発。また一発。

関節を、繋ぎ目を、狙い続けた。


五発、着弾した。


俺は魔術を展開した。

五つの着弾点に向けて、電流を流す。


——バッコン!!


爆発が、連続した。

轟音が、室内に響いた。


煙が晴れた時。

怪物の四肢が、砕けて床に落ちていた。


しかし、まだ魔石が体を覆っていた。

胸部が、かすかに動いている。

生きている。


俺は懐に手を入れた。

引き抜いたのは、もう一丁の銃だった。


——レールガン。


俺の電撃魔術にのみ反応する、特注の魔力銃。


銃身が、低く唸った。


出力レベルを、三に設定した。

魔石の表層を貫き、中の命まで届く威力。


俺は、怪物の胸へと銃口を向けた。


引き金に、指をかけた。





第七十二話、お読みいただきありがとうございました!


今回は、ルイ・ベックの回でした。


家族に会いたかった。

眠りたかった。

でも、その苦しみを利用されてしまいました。


あと、ジュディがいろんな新武器を出してましたね。

何あれ。すごい。


次回、ジュディは引き金を引けるのか。

この世界を「いらない」と思っている彼が、何を選ぶのか。


明日も20:10に更新予定です!

ブクマやコメント、評価をいただけると、ルイが少しだけ静かに眠れるかもしれません。

よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ