表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スペル・エラー ~娘が生まれるのに異世界へ召喚されたので、何があっても帰ります~  作者: とろたま愚鈍
第一部:第五章|パフパラ編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

69/148

第六十八話「拒絶する心」

朝、ガレスに通信を入れた。


「フィーレの調査をしたい。パフパラの製造拠点が絡んでいる可能性がある。」

「……フィーレか。」


ガレスが、少しだけ間を置いた。


「正直に言おう。あの街の詳細な情報を、短期間で集めるのは難しい。」

「……おいおい。ノヴァほどじゃないだろ?」

「分かっている。今回の課題は時間だ。」

「じゃあ、どうすんだよ。」

「土地に詳しい人物に聞くのが一番だろう。」

「……。」


嫌な、予感がした。

フィーレで、土地に詳しい人物。

おそらく、一人しかいない。


「現クロイツ家当主。ヴェルト・クロイツだ。」

「……だよな。」


ガレスも、事情を分かっている。

ヴェルト・クロイツは、エルナの父親だ。

向こうがエルナの事に関してどこまで知っているかは分からないが……。


「時間があれば、調べることもできる。」


俺に気を使ってか、ガレスがそんな提案をしてくる。

この数年の付き合いで分かった。

この男は、こういうところで妙に気が利く。


「……いや、接触しよう。ヴェルトに。」

「……。」

「一応、面識もなくはない。」


おそらく、向こうの印象は最悪だろうが。


「分かった。手配しよう。」

「それは、どうするんだ?」

「ジャスの経由で調査協力申請を出す。政府の依頼となれば無下にはできないだろう。」

「……なるほどね。」


ガレスが、少しだけ間を置いた。


「明日、接見できるように手配しよう。」

「あぁ。分かった。」

「迎えを出す。準備しておけ。」


そのまま、ガレスは続けた。


「それと、依頼されていた『錠剤』の件。結果が出たぞ。」

「何か分かったのか?」

「あぁ。これはパフパラの影響を抑制するどころじゃない。」

「……どういうことだよ?」


ガレスから、珍しく感情が見え隠れした。


「これは、パフパラの成分を根絶する薬だ。とんでもない代物だぞ。」

「……それを、リオが持ってたってことか。」

「あぁ。そこが問題だ。」

「人体に悪影響はないんだよな?」

「あぁ。服用しても問題はないだろう。」


また、間があった。

今度は、少し長かった。


「……ジュディ。」

「なんだよ。」

「健闘を祈る。」


通信が切れた。

ガレスなりの気遣いだった。

窓の外が、少しずつ明るくなっていた。







朝食は、いつも通り三人分だった。


カイラが卵を焼いていた。

サヤはすでに席についていて、ぼーっとしている。

……寝ぐせ直せよ。


「昨日は遅かったじゃん。」

「仕事だよ。お前も寝不足か?」

「昨日、ドラマ見てたら止まらなくて。」

「……。」


何も言わなかった。

やっぱり、年相応な女の子なのだと感じた。

そのまま、席に座る。

カイラが皿を並べながら、「進捗どうだった?」と聞いた。


「ルイ・ベックという被害者に会ったよ。麻薬はフィーレで製造されている可能性が出てきた。」


カイラが、手を止めた。

サヤが、目を開きこちらを見る。


「フィーレ。」

「あぁ。だから、クロイツ家に当たることにした。明日、ガレスが迎えを出してくれる。」

「一人で行くの?」


カイラが聞いた。


「あぁ。」

「……そう。」


カイラが、静かにコーヒーを置いた。

サヤが、俺を見たまま言った。


「それって、麻薬の製造工場に行くってこと?」

「まぁ、その可能性もあるな。」

「麻薬の製造工場なんて、正直リスクだらけよ?」

「分かってるよ。」

「いや、あんたは分かってない。」


サヤは、苛立ちを抑えられないと言わんばかりに、頭を掻いた。


「警備もあるけど、空気中の有害物質を吸ったらアウトになる可能性だってある。」

「……。」

「しかも、一人。下手したら死ぬよ、ボンクラ。」

「こんな案件、今回だけじゃない。」


サヤが震えている。

怒りを必死に抑えているのだと、分かった。


「なんで、あ、あんたはさ。死ぬかもしんないのに。そこまで追うのよ?」


声に、怒りが漏れていた。


「サヤ。ジュディは——」

「分かってる!」


サヤが、カイラの言葉を遮った。


「何度も聞いた。元の世界に帰るためだって。」

「……。」

「あんたさ。周りに心配かけてるって分かってるよね?」


俺は、コーヒーを一口飲んだ。


「早く、帰りたいんだよ。」

「じゃあ、MANAに行けよ!転送装置があるだろーが!」

「嫌なんだよ!!」


思ったより、強い声が出た。


「あそこは、エルナが死んだ場所なんだぞ。」


とうとう言ってしまった。

今までごまかしてきた、本音だった。


サヤが、息を飲んだ。

俺は、カップを置いた。


「もう、嫌なんだ。何もかも、奪ってくる。この世界は。」

「……。」

「どうせ、帰るんだよ。お前らとも、いつか会えなくなる。」


もう、止まらなかった。

決壊した心から、言葉が溢れ出す。


「だったら、もういいだろ。失うものを、増やさなくても。」

「……何が、言いたいのよ。」

「いらない、こんな世界。」

「——っ!」


サヤが、立ち上がった。


「——あんたにとっては『こんな世界』でもね。」


声が、低かった。


「私たちにとっては、今、必死に生きてる世界なんだよ。」


俺は、何も言えなかった。


「……もういい。」

「……。」

「一生そういう生き方してろ!ボンクラ!」

「あ、サヤ!」


カイラの制止も聞かず、サヤが扉を開けて出ていった。

音が、静かに残った。


カイラが、椅子を引いた。

立ち上がりかけて、一度だけ俺の方を振り返った。


「サヤ。連れて帰ってくるね。」

「……。」


俺は、俯いたままだった。

カイラの顔が、見れない。


「ジュディ。」

「……。」

「言い過ぎちゃったね。……でもね、サヤの言いたいことも、分かるよ。」

「……あぁ。」

「帰ったら、お互いに謝ろうね。」

「……。」

「だから、絶対帰ってきてね。」


俺は、少しだけ間を置いた。


「分かった。」

「……ジュディ。」

「何だ。」


俺は、カイラを見上げた。

その目には、少しだけ涙が浮かんでいた。


「私はね。」


カイラが、小さく息を吸った。


「ジュディが、大事だよ。」

「……うん。」

「じゃあ、行くね。」


そのまま、カイラが扉の方へ向かう。

思わず、声をかけた。


「カイラ。」


カイラが、振り返った。


「ありがとう。」


カイラは、何も言わなかった。

でも、少しだけ笑った。

それから、扉の外へ消えた。


工房に、俺一人が残った。

食卓の上に、三人分の皿がそのままあった。

カイラのコーヒーからは、まだ湯気が出ていた。


煙草に火をつけた。

煙を、ゆっくり吐いた。


——言い過ぎた。


分かっていた。

でも、訂正する言葉が出てこなかった。


サヤの言った通りだ。

俺にとっての「こんな世界」は、サヤとカイラにとっての、今生きている場所だ。


それでも。


煙草を灰皿に押し付けた。

荷物を持った。

扉を開けた。


外の空気が、冷たかった。







フィーレへは、ガレスが手配したEVAirで向かった。

一人だった。


窓の外を、雲が流れていく。

昨日は、結局サヤとは話せなかった。


フィーレ。

エルナの故郷だ。

最後に来たのは、あの頃だった。


窓に、うっすらと自分の顔が映った。

くたびれたスーツ。

目の下が、少し落ちている。


煙草を取り出した。

車内では吸えないので、口の端にくわえたまま、しまった。


エルナが死んで、二年が経つ。

この世界で出会った大切な人間が、いなくなった。


俺は、この世界が嫌いだ。


じゃあ今俺の傍にいてくれる、あいつらは俺にとって何なのか。

答えは出なかった。

でも、今朝のサヤの言葉が、頭の中でずっと繰り返されていた。


『私たちにとっては、今必死に生きてる世界なんだよ。』


……そうだな。


EVAirが、フィーレの街に入った。

木々の間から、蒸気が漏れている。

枝の上に鉄が敷かれた街。

夜になれば、木々が光って美しい。


エルナが、好きだと言っていた光景だ。

それだけで、胸の奥が少しだけ軋んだ。







クロイツ家の屋敷は、街の中心に近い高台にあった。


石造りの門。

蔦が、壁に這っている。

案内を受けて、中へ通された。


廊下が、静かだった。

窓から、フィーレの街が見えた。


「こちらでお待ちください。」


使用人に促されて、応接室に入る。

重い木の椅子。

暖炉に、火が入っていた。


しばらく待つと、扉が開いた。


入ってきたのは、ヴェルトだった。

二年が経っても、その風貌には変わりがない。


クロイツ家の当主としての品格を感じた。


「お久しぶりです。ジュディです。」

「……。」


俺が名乗ると、ヴェルトが少し動きを止めた。


椅子に腰を下ろしながら、こちらをじっと見た。

静かな目だった。

何かを確かめるような目だった。


「……あなたは。」


ヴェルトが、低い声で言った。


「エルナの傍にいた。あの時の青年か。」





第六十八話、お読みいただきありがとうございました!


今回は、ジュディの本音が出ちゃった回でした。


サヤがキレるのも無理ないよ。

あとカイラ、ちょっとは怒ってもいいんだよ?


明日も20:10に更新予定です!

ブクマやコメント、評価をいただけると、ジュディがちゃんと「ごめんなさい」って言え。

よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ