表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スペル・エラー ~娘が生まれるのに異世界へ召喚されたので、何があっても帰ります~  作者: とろたま愚鈍
第一部:第五章|パフパラ編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

67/148

第六十六話「都合のいい内通者」

朝食は、三人で取ることになっていた。

カイラが決めたルールだ。

俺が文句を言う前に、「絶対」と言われたので従っている。


今朝はスクランブルエッグと、薄切りのトーストだった。

カイラが作った。

エルナがいた頃とは、少し違う朝だった。


「サヤ。今日の予定は?」


カイラがコーヒーカップを両手で包みながら聞いた。


「バッツと仕事。情報強奪の依頼が入ってる。」


サヤが、トーストを噛じりながら答えた。


「……情報強奪。」


俺は、トーストを置いた。


「それ、止めろ。」

「は?」

「危ないだろ?」


サヤが目を丸くしてこちらを見る。

信じられないという顔をしていた。


「あんたに、言われたくないんだけど。」

「……心配、なんだよ。」

「大丈夫よ。バッツもいるし。」

「分かってんのか、本当に。」


サヤが、トーストを置いた。

どことなく、空気が緩んだ気がした。


「……うざい。親かっての。」


それで終わりだった。

言い返す気にもなれなかった。


カイラが、コーヒーを一口飲んで口を開いた。


「研究の進捗なんだけど。」


声のトーンが少し落ちた。


「転送距離の問題が、やっぱりネックで。MANAと暗号通信だけだと、やり取りできる情報に限界があるの。」

「……。」

「ジュディ。」


カイラが、俺を真っ直ぐ見た。


「私、やっぱり一度は直接会うべきだと思う。」

「……。」

「ジュディ。お願い。」


俺は、少しだけ考える。

自然と、『行かない』理由を探してしまっていた。


分かっているのに、どうしても足が向かなかった。

だって、あそこは、ノヴァは……。


「協力関係は、お互いに情報を出し合ってこそだ。今のままだと、こっちが一方的に受け取ることになる。それは、フェアな契約じゃない。」


サヤが、俺を訝しげに見た。


「ペラペラと……。言い訳だけは一丁前ね。」

「何が言いたいんだよ。」

「逃げんなって言いたいのよ。」

「サヤ。」


カイラが、突如として間に入った。


「言い過ぎだよ。ジュディに『ごめんなさい』できる?」

「……っぐ。」


あ、辛そう。

サヤが、ぎこちなくこちらを向いた。


「……ごめな、さ。」


最後まで言えていなかった。

でも、それが今のサヤなりの譲歩なんだろう。


……でも、そうだな。

逃げ続けるのも、もう限界だろう。


「……考えておくよ。」


その言葉で、カイラが少しだけ目を輝かせる。


「本当に?」

「今受けている依頼が、片付いたらな。」

「絶対だよ?」

「絶対だ。」


カイラが、少しだけ息を吐いた。

サヤは何も言わなかった。


「それで、ジュディはこの後どうするの?」


俺は、コーヒーを一口飲んだ。


「麻薬の案件を追うことになった。」


カイラの顔が、少し歪んだ。


「……本当に大丈夫なの?」

「アルカナの情報も手に入るかもしれない。内部と繋がれる可能性もある。」

「……答えになってないよ。」


カイラの体が少しだけ震えていた。

本当に、心配してくれているのだと分かった。


「大丈夫だよ。無理はしない。」

「絶対だからね?」


カイラが、静かに言った。

サヤは、飴を口に入れて窓の外を見ていた。


「ほら。人のこと言えないじゃん。」

「……。」

「こっちが心配してないって、思ってんの?」


俺は、黙ってトーストの残りを口に入れた。

三人分の食器の音だけが、しばらく続いた。







リオ・サーンが指定した場所は、都心の外れにある小さなカフェだった。


入口から奥まった席。

昼間でも薄暗くて、他の客の声が届かない。

ここなら聞かれる心配もない、という判断だろう。


彼女は、俺より先に来ていた。


髪を後ろで束ねた女だった。

年齢は二十代半ばくらいか。

テーブルの上に端末を一台置いて、こちらを見た。

目付きが鋭かった。


「ジュディさんですね。」

「そうです。初めまして。」


向かいに座る。

リオが、静かに口を開いた。


「本日はお時間をいただきありがとうございます。リオ・サーンと申します。」


丁寧な口調だった。

淀みがない。


でも、服装の所々に無頓着な着こなしが感じられた。

どうにも、口調と身なりにアンバランスさを感じる。


「ジャスさんからは、ある程度お聞きになっていますか?」

「一応は。でも、概要だけです。詳しい話を聞かせてもらっても?」

「承知しました。」


リオが、端末をスクロールした。


「パフパラの研究は、アルカナ内部の一部門で行われていました。私はその部門に近い位置で仕事をしていた。被験者データを見たのは、半年ほど前です。」


声に感情がなかった。

報告書を読み上げているみたいだった。


「それで、なんでわざわざタレコミを。」

「人道に反していると判断しました。こんなのは、人のすることじゃない。」

「……。」


俺は、煙草を取り出した。


「……いいですか?」

「どうぞ。」


煙草に火をつけて、一口吸う。

リオが、端末から目を上げた。


「流通ルートは、私では把握できていません。研究段階までは分かりますが、それ以降は別のラインで動いていました。」

「まぁ、そうでしょうね。麻薬の流通なんて他部門に言うわけがない。」

「はい。ルートを追うには、現状被害者に当たるしか方法がありません。」

「目星はついているですか?」

「はい。」


少しだけ、間があった。


「ルイ・ベック。二十歳の男性です。ヴェーラへの出稼ぎ中に家族全員がパフパラで亡くなっています。帰国後、カルディア政府に陳情に来た記録がある。現在は捜査協力者として登録されています。」


よく調べていた。

タレコミをした人間にしては、少し踏み込んだ情報量だった。


「ルイ・ベックと、あなたはどういう関係ですか。」

「接点はありません。政府の資料で知りました。」


答えが早かった。


俺は煙草を吸いながら、リオを見た。

嘘をついているようには見えなかった。

でも、どこか引っかかった。

うまく言葉にはならないが。


「一点、お渡ししたいものがあります。」


リオが、ジャケットのポケットから小瓶を取り出した。

中に、小さな錠剤が入っていた。


「パフパラの製造拠点に行く場合、空気中の成分を吸うだけでも危険です。製造拠点に近づく場合は、これを服用してください。成分の効果を一定時間抑制できます。」

「……。」


俺は、小瓶を受け取った。

白い錠剤だった。


「成分を聞いても?」

「資料をお送りします。」


リオが、端末を操作した。


「以上です。何かご不明な点はございますか?」

「……今のところは大丈夫ですね。」


俺は、煙草を灰皿に押し付けた。


「では、何卒よろしくお願いいたします。」

「こちらこそ。進展があれば連絡します。」

「……。」


リオが、少しだけ戸惑っているようだった。


「随分と、礼節をお持ちなのですね。」

「え?」

「会社の人間と、話すような感覚でしたので。」

「……まぁ。元々は企業の人間だったので。」

「……。」


リオは、何か考え込むように俯いた。


「……そうですか。」

「何か、問題でも。」

「いえ、よろしくお願いいたします。」


リオが、軽く頭を下げた。


俺はそのまま立ち上がり、カフェを出た。

外の空気が、少しだけ冷たかった。







カフェから少し離れた路地で、ガレスに通信を入れた。


「よぉ、ガレス。」

「お前もこの数年で随分と馴れ馴れしくなったな。」

「そう言うなって。あんたの紹介してくれたジャスの案件、進展したぞ。」

「ほう。では、正式に依頼が来たと?」

「あぁ。ついでに、一つ頼みたいことがある。」

「聞こう。」


手の中の小瓶を、もう一度見た。


「ある錠剤の成分を調べてほしい。今、データを送る。」

「……何があった。」

「タレコミしてきた研究員から受け取った。パフパラの効果を抑制できるらしい。」


少しだけ、沈黙があった。


「調べておこう。」

「頼む。後で現物も一錠送るよ。」

「あぁ。」

「じゃあ、頼んだ。」


通信を切ろうとしたところで、ガレスに呼び止められた。


「ジュディ。」

「……何だよ。」

「その錠剤、飲んでないよな。」

「飲んでねーよ。」

「そうか。」


通信が切れた。


小瓶を、上着のポケットにしまう。

リオ・サーンが嘘をついているとは思わなかった。


でも、何かが引っかかったまま、消えない。

どうにも、情報が揃いすぎている気がする。

何かに誘導されている……そんな違和感。


煙草に火をつけた。

煙を吐きながら、路地の先を見た。

バイクは、少し先に止めてある。


さて、次はルイ・ベック、か。


煙草を灰皿代わりの缶に押し付ける。

バイクにまたがって、エンジンをかけた。





第六十六話、お読みいただきありがとうございました!


早速、調査開始ですね。


カイラの決めた「朝食は三人で取る」ルール。

ナイスルールです。

ジュディ、お前ちゃんとルール守れよな。


そして、今回はリオ・サーンが登場しました。

どうにも雲行きが、怪しいっすね……?


次回は、ルイ・ベックという青年に会いに行きます。


明日も20:10に更新予定です!


ブクマやコメント、評価をいただけると、朝食のメニューが洋風になるかもしれません。

よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ