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第六十話「君のいない世界で」

「なんだ、壊れたのか?」


デスが俺を見下げて言った。


「……。」


言葉が、出ない。

体に力が、入らない。

俺には、何もできない。


「っち。壊れた玩具ほど、邪魔なものはないな。」

「……。」

「……殺しておくか。」


デスが俺へと手を伸ばす。 その直後だった。


——バコンッ


俺とデスを隔てるように、地面から鋭い岩石が現れた。

デスは手を引き後退する。


「……無事では、ないな。」


横にザインが駆けつけていた。

胸ポケットから煙草を取り出し火を付ける。

デスが、岩石越しにザインを見ていた。


「……MANAの者か?」

「あぁ。一応、役員だ。」

「面倒なことになったな。」


ザインが煙を吐きながら言った。


「デス、ここは引け。」

「……。」

「この状況を見るに、エルナ・クロイツは始末したんだろ?」


その言葉を聞いて、俺は思わず耳を塞いだ。

……止めてくれ。


「あぁ。ゼノの命令は果たした。」

「なら、もう帰った方がいい。MANAの役員に手出してみろ。」


ザインが、デスを睨んだ。


「そちらを発端とした戦争になるぞ。」

「……。」


デスは、そのまま踵を返した。


「もういい。今日はもう興ざめだ。」


デスは言葉を残して、吹雪の中へと消えた。

ザインが俺とカイラの方へ振り向く。


「ジュディ、カイラ。立て。」

「……っ。」


カイラが、震えたまま立ち上がった。

俺は、動けなかった。


「ジュディ。」

「……。」

「折れたか。」

「……。」

「俺はどうやら、お前を過大評価していたらしい。」


ザインが煙草を深く吸った。

そのまま、俺に言葉を投げかける。


「あの女が命を張って守った先が、それか。」

「……。」

「……これでは、無駄死にだな。」

「——っ!!!」


気がつけば、俺は立ち上がりザインに掴みかかっていた。

ザインが俺に煙を吐く。


「ごっほ。」

「なんだ、立てるじゃねーか。」

「……てめぇ。」

「今は、それでいい。怒りでもなんでも。とにかく進め。」


その言葉で、ザインは焚きつけたと理解した。

足が、動く。


「ひとまず、お前らはこのままカルディアへ向かえ。」

「……。」

「今、MANAはアルカナの対応に追われている。戻るのは得策じゃない。」


ザインは、煙草を捨て足でもみ消した。

そのまま俺の肩に手を回す。


「とりあえず、俺も同行する。カイラ。」

「……はい。」

「カルディアの、お前らの拠点まで案内しろ。」


そのまま、俺達はEVAirに乗り込んだ。







EVAirの中は、静かだった。


三人とも、口を開かない。

ただ時間だけが過ぎていく。

窓の外は、まだ吹雪だった。


唐突に、ザインが口を開いた。


「先ほどの発言は撤回する。」

「……。」

「無駄死にという言い方だ。」

「……。」

「状況を詳しく話すのは、落ち着いてからでいい。」


ザインはそう言いながら胸ポケットを漁った。


「ここ、禁煙。」


カイラが、静かに言った。


「……っち。」


ザインが、姿勢を正す。

そのまま、言葉を続けた。


「カインから連絡があった。アルカナは撤退したそうだ。」

「……。」

「同盟も急ピッチで進んでいる。明日には結べるだろう。」


俺は、窓の外を見ていた。

吹雪の向こうに、何もなかった。


「明日の朝までは、俺が護衛する。今後の話は、気持ちの整理がついてからでいい。」


ザインが、少しだけ間を置いた。


「……俺も、家族を失った時は長期間動けなかった。」

「……。」

「まずは、休め。」


それだけだった。

カイラが、何も言わずに俺の隣にいた。

ただ、横にいてくれた。


窓の外で、吹雪が続いていた。







カルディアに着いたのは、夜明け前だった。

ザインは、そのまま朝まで外で監視を行うと言って別れた。


工房の扉を開けた。


エルナが読んでいた本。

使っていたコップ。

お気に入りのクッションが、そのままあった。


——何も、変わっていなかった。


カイラが、後ろで誰かと通信していた。

通信を終えて、こちらに話しかける。


「バッツ達、無事だって。」

「……そうか。」

「うん。今は、カルディアに居るみたい。」

「……。」

「ジュディ?」


俺は、ふらふらとエルナの寝室に向かった。

なんとなく、エルナが居る気がした。


扉を開けた。


少しだけ、エルナの匂いがした。

起き抜けに髪を解くヘアブラシ。

机に乱立している本と、魔術式のメモ。

頭の形に凹んだ枕。


カルディアを出発した時のままだった。


——ただ、エルナだけがいなかった。


そのまま、体に力が抜けて倒れ込む。


「あ、ああああぁぁぁぁぁぁぁ。」


この世界に、エルナはもういない。

それを、今になってようやく理解した。


「ああああぁぁぁぁぁぁぁ。うわぁぁぁぁあああ。」


嗚咽が、止まらない。

ふと、背中に温かみを感じた。


カイラが手を添えてくれていた。


二人は、そのまま泣き明かした。

エルナのいない世界を、ただ嘆き続けた。




これで、第四章「ノヴァ編」完結です。

ここまで読んでくださり、本当にありがとうございました。


重い章ではありましたが、最後までお付き合いいただけて嬉しいです。

今後は、間章を挟み第五章へ続く予定です。


明日も20:10に更新予定です。

引き続き、見守っていただけますと幸いです。

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