第五十七話「アルカナ進軍」
皆で食事をした翌日の昼過ぎ。
カインに呼ばれ、応接室に通された。
「今後の方針について、話したいことがある。」
カインが、端末を操作しながら言った。
「契約とは別に同盟を結ばせてほしい。」
俺は、カインを見た。
カインはそのまま言葉を続ける。
「MANAと同盟を結び、各企業にその旨を通達する。これが整えば、アルカナはお前たちに手出しがしづらくなる。戦争の口実を自分たちで作るわけにはいかないからな。」
「……それはありがたいけど、結構厄介そうだな。」
「その通りだ。少し時間がかかるが、価値はある。手始めに、この契約書にサインを頼みたい。」
端末に、書類が表示された。
俺が確認してから、エルナ、カイラ、俺の順にサインをした。
「ありがとう。」
カインが、端末をしまった。
さて。
同盟の話は進んだ。問題は、この先だ。
エルナが、カバンからUSBのような小型端末を取り出した。
「カイン、これ。」
カインに差し出した。
「昨日のうちにまとめておいたわ。ジュディの世界に関する情報よ。」
カインが、受け取りながら言った。
「……随分と、あっさり渡すのだな。」
「正直、異世界の情報自体はそこまで危険でもないのよ。どちらかというと、重要なのはその橋をどう使うか。」
エルナが、腕を組んだ。
「そこは今後、私抜きではできないわ。」
「……なるほど。前金のようなものか。」
「まぁ、そんなところね。」
カインが、口元をわずかに緩めた。
「……ん?」
カインが、突然顔を上げた。
「……なんだって?」
誰かと通信をしているようだった。
短い言葉を幾つか交わして、通信を終える。
俺達に向き直った。
「アルカナが、ノヴァへ向かっている。」
カインの表情が、わずかに強張った。
その一瞬で、部屋の空気が変わった。
嫌な、予感がした。
………………。
…………。
……。
カインが、すぐに動いた。
「君たちは、一旦ノヴァを出た方がいい。カルディアへ戻るのが安全だろう。」
「待ってくれよ。カイン、お前はどうするんだ?」
「アルカナは我々が引き受ける。対峙するのはMANAの役目だ。君たちが巻き込まれる必要はない。」
「……。」
「同盟の準備が整えば、アルカナは君たちに手出しができなくなる。今はその時間を稼ぐのが先決だ。」
俺は、少しだけ間を置いた。
「……わかった。」
「案内をつけよう。ノヴァの裏口から、EVAirの定着場へ向かえ。」
カインが、傍に控えていた隊員に目を向けた。
「頼む。」
「承知いたしました。」
隊員が、先に立って動き始めた。
—
応接室の会議から、しばらく後。
ノヴァの入口で、カインは部隊を待機させていた。
後ろには、ザインが控えている。
目の前には、三台のEVAir。
中央の扉が開いた。
大柄な男が、ゆっくりと降りてくる。
ゴード・ラムス。
アルカナの軍事開発部門責任者。
ここまでの大物が直接ノヴァへ出向いた。
ただ事ではないと、カインは直観した。
「アポイントはなかったはずだがね。」
カインは、開口一番に切り出した。
「……そんなもの必要か?」
「最低限の礼儀は弁えてもらいたいものだがね。」
「現在、MANAに接見している者がいるだろう。」
ゴードが、大雑把な口調で言った。
「それが、何か問題なのかね?」
「理由などどうでもいい。その者たちを引き渡してもらおう。」
「随分と強引だな。アルカナらしくない。」
「貴様が、アルカナを語るな。」
ゴードが、目を細めた。
「大人しく渡せばいい。エネルギーの提供を止められたくなければな。」
カインは、内心で息を吐いた。
脅しか。予想通りだ。
「残念ながら、一足遅かったようだ。」
「……何?」
「その者達は、つい先ほどノヴァを発ったよ。」
ゴードが、ニヤリと笑った。
「MANAの敷地にいないのであれば、貴様は何も関与できないわけだ。」
その笑みを見た瞬間、カインは気づいた。
この接見の目的は、確認だった。
ジュディたちがノヴァにいるかどうかを確かめるための。
すでに、ジュディ達がこの場にいないことは筒抜けだった。
「お前のことだ。MANAの同盟に引き入れる準備はしているのだろう。」
「……。」
「そうなれば、アルカナは手出しができない。戦争の火種をこちらが作るわけにはいかないからな。」
ゴードが、笑いながら続けた。
「見誤ったな、カイン。我々としては、そのままノヴァの内部にいた方が厄介だった。」
「よく言う。内部にいれば、そのまま戦争の口実にしていただろう。」
「違いない。お前たちはすでに詰んでいたのだ。」
カインは、振り返った。
「ザイン。」
「……。」
「すぐにジュディ達の元へ行け。同盟書の発行には全企業への通達に時間がかかる。なんとしても今この場では逃がせ。ノヴァへ引き入れても構わん。」
ザインは、返事をせずにその場を後にした。
カインは、再びゴードを見た。
ザインの背中が遠ざかっていく。
頼む。間に合ってくれ。
—
ノヴァの裏口を抜けた先は、吹雪だった。
白い。
何も見えない。
「……読まれていたな。」
バッツが、静かに言った。
前方に、アルカナの部隊が展開していた。
人数が、多すぎる。
「えぇ。厄介ね。」
「カインの話が本当なら、あいつらの狙いはお前たちだ。」
バッツが、腕を変形させながら言った。
金属の銃口が、腕の先から展開される。
「私達が道をこじ開ける。あなた達は後ろで援護を。」
ゼナが言い、サヤを見た。
「サヤ。準備はいい?」
「えぇ。」
サヤが、口のキャンディを吐き捨てた。
ダガーを、逆手で握る。
——ドン!
バッツの腕から、銃撃が放たれた。
大きな衝撃が、部隊の中心を貫く。
ゼナが、土の魔術で部隊の足を絡め取る。
動きが止まった敵の背後に、サヤが風の魔術で瞬時に回り込んだ。
——シュッ。
一つ。
二つ。
三つ。
すげぇ。
これなら定着場まで——。
「……っち。見境いなしかよ!」
バッツが叫んだ。
部隊の奥から、バズーカのような兵器が構えられていた。
「みんな、散開して!」
ゼナの声で全員が動いた。
俺は、カイラを抱えて走った。
エルナが杖を構え、防壁を展開しようとする。
——カァァァン!
「ダメ!展開が間に合わない!」
エルナが叫んだ直後、弾丸が足元に直撃した。
衝撃が、全身を貫く。
そのまま、全員が吹き飛ばされた。
「っく!」
俺はすぐに立ち上がり、状況を確認した。
カイラは、まだ抱えている。
少し前方に、エルナの姿があった。
バッツたちが、見当たらない。
——ザザ。
通信が入った。
バッツだ。
「聞こえっか?」
「あぁ。こっちは無事だ。」
「よし。俺もゼナとサヤ、全員一応無事だ。」
「じゃあ合流を——」
「いや。このまま俺達は部隊の足止めをする。」
俺は、言葉を止めた。
「あいつらの狙いはお前らだろ?まずはお前らが先に離脱しろ。」
「……でも——」
「今回の依頼、正直退屈してたんだ。金の分は働くぜ。」
俺は、少しだけ息を吐いた。
「……頼む。」
「任せとけ。」
通信が切れた。
吹き飛ばされた位置からでも、定着場の灯りがかろうじて見えていた。
そこまで、遠くない。
「行くわよ。」
エルナが、先に動いた。
俺とカイラが続く。
定着場は、もうすぐのはずだ。
—
定着場が見えた。
EVAirが二台、並んでいた。
「あ、あった!」
カイラが言った。
俺も頷いた。
その時。
EVAirの陰から、影が動いた。
音がなかった。
気配もなかった。
ただ、そこに何かがいた。
俺の足が、勝手に止まった。
今まで感じたことのない重さだった。
戦うな、と体が訴えていた。
エルナが、その影を真っすぐに見つめた。
「……デス・トゥルエレ。」
静かな声だった。
吹雪の音だけが、残った。
第五十七話、お読みいただきありがとうございました!
なんとか和解した翌日に、アルカナ襲来。
今回はジュディ達大忙しですね。
そして最後に、ついにデス・トゥルエレ登場です。
どんな奴なのか。いよいよ本番です。
明日も20:10にお会いしましょう!
ブクマやコメント、評価をいただけると、吹雪の中でも前を向いて進める気がします。
よろしくお願いします!




