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スペル・エラー ~娘が生まれるのに異世界へ召喚されたので、何があっても帰ります~  作者: とろたま愚鈍
第一部:第四章|ノヴァ編

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第五十六話「信頼」

翌日。


昨日と同じ応接室にいた。

俺の仲間六人が、一列に座っている。

対面には、カインとザインがいた。


「さて、改めて交渉を進めよう。」


カインが切り出した。


「……長くなんのか?」


バッツが、開口一番に言った。


「長くなるなら俺、寝ててもいいか?」

「ちょっと、バッツ!」

「いや、だってよ。……俺、あんま関係なくねぇ?」


ゼナが、バッツの脇腹を小突いた。

バッツは「いたた」と言いながら姿勢を正した。


少しだけ、空気が緩んだ気がした。

なんとなく、ありがたかった。


「まずは、色々と聞きたいことがある。」


俺は、カインを見た。


「なぜ転送装置が必要なのか。本当の理由を聞かせてくれ。」

「……主要人物の暗殺のためだ。それは、カイラ君にも話している。」

「それだけじゃないはずだ。」


カインが、わずかに目を細めた。


「それは、何故そう思う?」

「勘だよ。一昨日までは、そうは思わなかったけどな。」


カインが、少しだけ息を吐いた。


「……どうやら、我々を本当に理解しようとしてくれているらしい。」


カインが、指を組んだ。


「その説明の前に、一つ聞こう。なぜアルカナは企業の中でも頭一つ抜けていると思う?」

「……何か独占している事業があるとかか?」

「良い線だ、ジュディ。そう、エネルギー事業。アルカナはそれを独占している。本来、辺境の地でしか採掘できないはずの魔石。世界の約五十パーセントはアルカナから提供されている。」

「……ってことは、単純にアルカナを失脚させた先にあるのは。」

「そう。エネルギー問題という大きな問題が残る。」


だとすれば、やはり転送装置の動機とは噛み合っていない。


「じゃあ、なおさら単純に主要人物を殺すことはできなくなるんじゃないか。」

「あぁ。この転送装置の本当の狙いは、そのエネルギー事業に参入するためだ。」

「……話が見えないんだが。」


転送装置とエネルギー。

どうにも、まだつながらない。


「我々が掴んだ情報では、その転送装置が鍵となる。アルカナの土地柄、あれほど膨大なエネルギーを採掘できるわけがない。」

「……それで、研究が必要ってわけか。」


エルナが、腕を組んで口を開いた。


「一つ確認していいかしら。アルカナが魔石を大量生産できる理由——その仮説は持っているの?」



カインが、エルナを見た。


「あぁ。ただし、これは我々の仮説に過ぎない。」

「聞かせて。」

「過去や未来から人間を召喚し、魔石へと変換。それをエネルギーとして活用している可能性がある。」


俺は、少しだけ黙った。

……召喚。変換。エネルギー。


「ばりばり禁術じゃねーのか?」

「あぁ。だがカルディア政府に止める術はないだろう。この世界にとってはなくてはならない事業だ。」

「……胸糞悪い話だな。」



部屋が、しんとした。

カイラが、テーブルの上で拳を握っていた。 静かに、でも確かに。


「……カイラ。」


俺は、声をかけた。


「大丈夫。」


カイラは、顔を上げた。 目が、少し赤かった。


「ライアス……、お父さんは、どこまでこの事を知っていたの?」

「……彼には、全てを話していたよ。」


カインが、静かに答えた。

カイラが、身を乗り出す。


「じゃあ、あなたは人を殺すだけでなく、人を魔石に変えようとしていたってこと?」

「いや、魔石に関しては確証を得るために過ぎない。主要人物の暗殺は企てていたがね。」

「……最低。バカ。」


カイラは、また俯いた。 何も言わなかった。

でも、その沈黙の重さは全員に伝わっていた。


俺は、もう一点確認した。


「ザイン。」

「なんだ。」

「お前が、フィーレにいた理由は?カリドならまだ分かる。転送装置の護送だ。でもフィーレは違う。」



ザインが、俺を見た。


「……セラムという人物が時間に関する禁術を使っていた。接触するよう指示を受けていた。」

「そうなる前に、俺達が先に接触していたと。」

「あぁ。」

「さっき言っていた、過去や未来から人間を召喚していることを調べるためか?」

「あぁ。カルディアの立地では、どう考えても魔石を生成できるわけがない。何か裏があるはずだ。」

「……それが、時間って訳か。」


ザインは、それ以上は言わなかった。

短い。でも、嘘はない。そういう話し方だった。


「最後に、なぜエルナの異世界に関する情報を欲しがる?」

「これも、アルカナのエネルギー事業を解き明かすためだ。異世界にエネルギー問題を解決する鍵があるかもしれない。……これは、望み薄だがね。」


その後も、細かな確認をいくつか重ねた。

気づけば、隣でバッツが寝息を立てていた。


………………。

…………。

……。


「お前らのことは大体分かったよ。」


俺は、カインとザインを見た。


「少なくとも、悪意だけで動いている人間じゃないことは分かった。」

「……あぁ。こちらも、君に気付かされたことがある。」

「何だよ、それ。」


カインが、静かに言った。


「悪を撃つには、巨悪になるしかないと諦めていた。」

「……。」

「しかし、その先にあるのは、おそらく我々の望む世界ではない。君を見て、そう思ったよ。」


少しだけ、間があった。

カインは、それ以上は言わなかった。

言葉で埋めようとしない人間だと、改めて思った。


「改めて、条件を言う。」

「決闘に負けたのだ。約束は守るさ。」

「一つ、人を殺すための研究を行わないこと。二つ、俺達にも全面的に協力すること。」

「……。」

「最後に、カイラとサヤに、場を改めて謝罪すること。」


カインが、少し黙った。


「……それで、いいのか?」

「それが一番大事だろ。そっちのことは分からない。でも、俺はお前らを信用する。その上での条件だ。」

「……もう、契約はできないかと思ったよ。」

「なんだよ。弱気だな。」

「君を見ていると、自分の捨ててしまったものを思い出す。」


カインが、少しだけ目を逸らした。

それから、右手を差し出した。


「……今後とも、よろしく頼む。」

「あぁ。」


俺は、その手を握った。

温かくも、冷たくもなかった。







夜の食事は、MANA本社の広間で行われた。

契約のお祝いとして、カインが振る舞ってくれることになった。


カイン、ザイン、バッツ、ゼナ、カイラ、サヤ、エルナ、俺。

全員が、一つのテーブルを囲んでいた。


「うおっ!なんだこれ!うっま!!」


バッツが、料理を口に入れた瞬間に叫んだ。


「……帰るんじゃなかったのかよ。」

「上手い飯が出るんじゃぁ話は別だ!」


ゼナも、皿に山盛り取りながら笑っていた。

バッツ、さっきまで爆睡してたよな?


カインが、ワインを傾けながら言った。


「ははは。今夜は、契約成立の無礼講だ。構わないさ。」


バッツとゼナのドンチャン騒ぎが、広間に響いていた。


………………。

…………。

……。


食事を始めてしばらく経った頃。

カインが、静かに席を立ち、カイラの横へ向かった。


「……カイラ・ドゥーナ。」

「……なによ。バカ。」


カイラは、口の中のものを慌てて飲み込んだ。

それから、カインに向き直った。


「君を殺そうとしたことを謝罪する。結果として、君の父親を奪ってしまう要因にもなった。」


カインが、頭を下げた。


「本当に、申し訳なかった。」


しばらく、カイラは黙っていた。


「え、全然許さないよ?バカ。」

「……。」


カインが、顔を上げた。


「私は今のままじゃ、あなたを絶対に許さない。」

「……あぁ。それが、私の背負うべき罪だな。」

「違うっつーの。全然分かってないじゃん。」

「……君はいったい、何が望みなんだ?」


カインが、困り果てている。

初めて見る表情だった。


「私はね。みんなを幸せにすんの。それが目標なの。」

「あぁ。」

「だから、協力して。みんなが幸せになれるように。」


カインが目を見開いた。

まるで、少しだけ救われたように。


「その幸せは、あんたも例外じゃない。だから、その不幸代表みたいな面のあんたは、絶対許さない。」


カイラが、まっすぐカインを見た。


「……あぁ。君が、そう望むなら。」

「返事は、『はい』よ。」

「……はい。」


カインが、静かに頷いた。

その場にいる誰よりも、今のカイラが大きく見えた。







食事が終わり、食後の酒盛りへと移った頃。

俺は、席を立った。


そのまま、ベランダへ出る。

ノヴァの夜が広がっていた。

星が、また出ていた。


煙草に火をつけ、煙を吐き出す。

しばらくして、足音が聞こえた。


……ザインだった。


「……タイミング被せんなよ。分かるだろ?」

「人が吸ってるの見ると、吸いたくならないか?」

「……違いねぇ。」


ザインが、煙草に火をつけた。

しばらく、二人で黙っていた。


「ジュディ。」

「なんだ。」

「お前と『話』が出来て、よかったよ。」


俺は、煙草を吸いながら答えなかった。

ザインが、続けた。


「それだけだ。」

「……あぁ、そうですか。」


沈黙。

広間とベランダを隔てるガラス扉越しに、中の様子がぼんやり見えた。

サヤが、こちらを見ていた。

俺は、煙草を吸いながら目だけで返した。


「……。」

「……。」


しばらくすると、サヤが来た。

ザインが、煙草をもみ消した。


「……サヤ・ウインドウ。」

「……。」


ザインが、俺を見た。


「……ジュディ。」

「なんだよ。」

「お前の差し金か?」

「俺は、なにもしてねーよ。」


俺は、煙草をくゆらせてお茶を濁す。


「お節介よね、こいつ。そんでバカみたいに優しい。」


そう言って、サヤがザインを見た。


「あんたが、兄貴を殺したの?」

「……あぁ、殺した。」

「……。」


サヤは何も言わなかった。

ただ、拳を強く握り締めている。

何かと、戦っていた。


「……謝罪する。すまなかった。」


ザインが頭を下げた。

まっすぐに、姿勢を正して。


「……。」


サヤは、しばらく何も言わなかった。


「……あんたさ。私に殺される覚悟はあんの?」

「……当然だ。お前には、その権利がある。」

「ないわよ。私に、そんな権利。」

「……。」

「私はあんたを許さない。でも、やり返さない。絶対に。」


サヤが、俺を見た。

そのまま、俺の肩に手を置いた。


「こいつが言うように、誰にも奪う権利なんかない。私も、そう思うことにした。」

「あぁ。」

「じゃあ、この気持ちをどうすればいいのか、私には分かんない。」

「……。」

「分かんないから、探す。あんたも手伝って、一生をかけて。」

「一生……。」

「返事は?」


ザインが、少しだけ間を置いた。


「……あぁ。誓おう。」


サヤが、小さく頷いた。

そのまま、俺を見た。


「ジュディ。」

「ん?」

「……ありがとう。」


それ以上は、何も言わなかった。







夜が、更けていった。


広間では、まだバッツとゼナが騒いでいた。

カイラが笑っていた。

エルナが、呆れた顔をしながら酒を飲んでいた。


俺は、ベランダから広間を見ていた。


賑やかだった。

でも、どこか遠くにあるような感覚があった。


ふと、明里のことを思った。


元気にしているだろうか。

子供は、もう生まれただろうか。


この騒がしさの中にいながら、俺が帰るべき場所は別にある。

それは、変わらなかった。


でも。

今夜ここで笑っている人たちのことも、大切だと思っている。


両方が、本物だった。







第五十六話、お読みいただきありがとうございました!


紆余曲折ありましたが、なんとか契約は結べたようです。

よかったね。


カイラもサヤも、受け取り方や前の向き方が違うのが、個人的にお気に入りだったりします。

人の数ほど考え方があってよいのです。


明日も20:10にお会いしましょう!

ブクマやコメント、評価をいただけると、今夜は豪華なメニューになるかもね。

よろしくお願いします!

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