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スペル・エラー ~娘が生まれるのに異世界へ召喚されたので、何があっても帰ります~  作者: とろたま愚鈍
第一部:第四章|ノヴァ編

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第五十五話「理解の先に」

目が覚めると、見知らぬ天井があった。

この世界に来てから、目覚めると違う空気を感じることが多い気がする。


ゆっくりと体を起こした。

特に、痛みはない。

少しだけ、頭がぼーっとする。


「——ジュディ!」


気づいた瞬間、誰かに抱きつかれた。


「……エルナ?」


細い腕が、背中に回っている。

痛い。力が強い。


「「……。」」


嫌な視線を感じて、顔を上げる。

カイラとサヤがジト目でこちらを見ていた。


「お、おはよう。」


恐る恐る挨拶。

カイラが口を開いた。


「……ずるくない?ずるいよね?」

「何が?」

「私も、だっこ!!」


カイラが、横から割り込んできた。

三人で、少しだけ揉めた。


「……二人とも、ちょっと離れてくれ。まだ頭がぼーっとしてる。」

「……パキンッ。」


サヤは何も言わない。

ただ、棒付きキャンディを噛み砕いていた。

怖かった。


「おはよう、ジュディ。」


声の方を見ると、カインが部屋の隅に立っていた。


「……ここは?」

「MANA管理の医務施設だ。」


カインが、静かに続けた。


「ジュディ、ザイン、ともに命に別状はない。ただ、今日一日は安静にしておいた方がいい。」

「……そうか。」


俺は、少しだけ息を吐いた。


「交渉は、明日改めてしよう。君にも楽しむ時間が必要なようだしね。」

「あぁ。…………あ?」

「はは。罪深いね、君は。」


カインが茶化すようにこちらを見る。

……止めてくれ。


カインは、そのまま扉へと向かった。


「カイン。」


俺は、呼び止めた。


「ザインを通して、お前のこともなんとなく分かった気がする。」


カインは、何も言わなかった。

ただ、静かにこちらを見ていた。


「明日、改めて話そう。こちらも改めて向き合いたい。」

「……あぁ。」


カインが、扉を閉めた。







廊下を歩きながら、胸ポケットを探った。

煙草が入っている。

屋上はあるだろうか。


「あんた、すっかり煙草中毒ね。」


隣のエルナが、呆れた顔で言った。


「なんだっけ?カス野郎?」


カイラが、首を傾けながら言った。

それはただの悪口だよ、カイラ。


「……ヤニカスだよ。」

「そうそれ!ヤニカス!」


この世界でも、喫煙者は肩身が狭いのか…。

エレベーターを探しながら曲がり角を曲がると、バッツがいた。


「よ。生きてたか。」


いつもの軽い口調だった。


「心配かけたな。」

「まぁな。正直、どうなるかと思ったぜ。」


バッツが、腕を組んだ。


「明日、交渉が終わったら一旦帰るぞ。俺たちは。」

「ありがとうな。本当に助かった。」

「何もできなくて、悪ぃな。」


バッツが、肩をすくめた。


「でも金はもらう。」


俺は、思わず笑った。

こいつのこういうところには、本当に救われる。


「当たり前だろ。しっかり請求してくれ。」






エルナとカイラと別れ、屋上を探した。

すぐに見つかった。


扉を開けると、冷たい空気が来た。

ノヴァの夜だ。

雪は止んでいた。

空に、星が見える。


煙草に火をつけようとして、気づいた。

先客が、いる。


「……。」


ザインだった。

俺より重症なのか、所々に包帯が巻かれている。

俺は、そのまま踵を返す。


「待て。」


ザインに、引き止められた。


「……。」


俺は、そのまま立ち止まった。

ザインが、こちらを見た。


「火ぃ、あるか?」

「……っち。」


俺は、ポケットからライターを取り出した。

ザインの煙草に、火をつけてやる。


「いいライターだな。」


ザインが、ライターを見ながら言った。


「……クロウの形見だよ。」

「……そうか。」


それ以上は、何も言わなかった。

二人で、しばらく黙って煙草を吸った。


ノヴァの夜が、静かだった。


「……すまなかった。」


ザインが、低い声で言った。


「謝るんじゃねぇよ。」


俺は、煙を吐きながら言った。


「それに、相手は俺じゃねぇ。」


ザインが、黙った。


「権利だなんだと、理由を探して背負うことから逃げていた。」

「……俺に言うなって。」


ザインは、煙草を深く吸った。

俺は、少し間を置いてから口を開いた。


「クロウに、妹がいる。」

「……。」

「サヤって奴だ。」


ザインの手が、わずかに止まった。


「そいつは、兄貴が殺されてもなお、やり返さないと言っていた。」


ノヴァの空に、煙が消えていく。


「……強いな。そいつは。」

「あぁ。お前の何倍もな。」

「違いない。」


ザインが、静かに笑った。

初めて見る顔だった。


二人で、また黙って煙草を吸った。

星が、近かった。





第五十五話、お読みいただきありがとうございました!


戦闘後の一服回でした。

エルナさん、もう愛がすごいですね。

遠慮なしです。


そして、ジュディとザインのタバコミュニケーションもありました。

ヤニカスにしか分からない何かがあるのかも。


明日も20:10にお会いしましょう!

ブクマやコメント、評価をいただけると、今夜は星が綺麗ですね。

よろしくお願いします!

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