第五十五話「理解の先に」
目が覚めると、見知らぬ天井があった。
この世界に来てから、目覚めると違う空気を感じることが多い気がする。
ゆっくりと体を起こした。
特に、痛みはない。
少しだけ、頭がぼーっとする。
「——ジュディ!」
気づいた瞬間、誰かに抱きつかれた。
「……エルナ?」
細い腕が、背中に回っている。
痛い。力が強い。
「「……。」」
嫌な視線を感じて、顔を上げる。
カイラとサヤがジト目でこちらを見ていた。
「お、おはよう。」
恐る恐る挨拶。
カイラが口を開いた。
「……ずるくない?ずるいよね?」
「何が?」
「私も、だっこ!!」
カイラが、横から割り込んできた。
三人で、少しだけ揉めた。
「……二人とも、ちょっと離れてくれ。まだ頭がぼーっとしてる。」
「……パキンッ。」
サヤは何も言わない。
ただ、棒付きキャンディを噛み砕いていた。
怖かった。
「おはよう、ジュディ。」
声の方を見ると、カインが部屋の隅に立っていた。
「……ここは?」
「MANA管理の医務施設だ。」
カインが、静かに続けた。
「ジュディ、ザイン、ともに命に別状はない。ただ、今日一日は安静にしておいた方がいい。」
「……そうか。」
俺は、少しだけ息を吐いた。
「交渉は、明日改めてしよう。君にも楽しむ時間が必要なようだしね。」
「あぁ。…………あ?」
「はは。罪深いね、君は。」
カインが茶化すようにこちらを見る。
……止めてくれ。
カインは、そのまま扉へと向かった。
「カイン。」
俺は、呼び止めた。
「ザインを通して、お前のこともなんとなく分かった気がする。」
カインは、何も言わなかった。
ただ、静かにこちらを見ていた。
「明日、改めて話そう。こちらも改めて向き合いたい。」
「……あぁ。」
カインが、扉を閉めた。
—
廊下を歩きながら、胸ポケットを探った。
煙草が入っている。
屋上はあるだろうか。
「あんた、すっかり煙草中毒ね。」
隣のエルナが、呆れた顔で言った。
「なんだっけ?カス野郎?」
カイラが、首を傾けながら言った。
それはただの悪口だよ、カイラ。
「……ヤニカスだよ。」
「そうそれ!ヤニカス!」
この世界でも、喫煙者は肩身が狭いのか…。
エレベーターを探しながら曲がり角を曲がると、バッツがいた。
「よ。生きてたか。」
いつもの軽い口調だった。
「心配かけたな。」
「まぁな。正直、どうなるかと思ったぜ。」
バッツが、腕を組んだ。
「明日、交渉が終わったら一旦帰るぞ。俺たちは。」
「ありがとうな。本当に助かった。」
「何もできなくて、悪ぃな。」
バッツが、肩をすくめた。
「でも金はもらう。」
俺は、思わず笑った。
こいつのこういうところには、本当に救われる。
「当たり前だろ。しっかり請求してくれ。」
—
エルナとカイラと別れ、屋上を探した。
すぐに見つかった。
扉を開けると、冷たい空気が来た。
ノヴァの夜だ。
雪は止んでいた。
空に、星が見える。
煙草に火をつけようとして、気づいた。
先客が、いる。
「……。」
ザインだった。
俺より重症なのか、所々に包帯が巻かれている。
俺は、そのまま踵を返す。
「待て。」
ザインに、引き止められた。
「……。」
俺は、そのまま立ち止まった。
ザインが、こちらを見た。
「火ぃ、あるか?」
「……っち。」
俺は、ポケットからライターを取り出した。
ザインの煙草に、火をつけてやる。
「いいライターだな。」
ザインが、ライターを見ながら言った。
「……クロウの形見だよ。」
「……そうか。」
それ以上は、何も言わなかった。
二人で、しばらく黙って煙草を吸った。
ノヴァの夜が、静かだった。
「……すまなかった。」
ザインが、低い声で言った。
「謝るんじゃねぇよ。」
俺は、煙を吐きながら言った。
「それに、相手は俺じゃねぇ。」
ザインが、黙った。
「権利だなんだと、理由を探して背負うことから逃げていた。」
「……俺に言うなって。」
ザインは、煙草を深く吸った。
俺は、少し間を置いてから口を開いた。
「クロウに、妹がいる。」
「……。」
「サヤって奴だ。」
ザインの手が、わずかに止まった。
「そいつは、兄貴が殺されてもなお、やり返さないと言っていた。」
ノヴァの空に、煙が消えていく。
「……強いな。そいつは。」
「あぁ。お前の何倍もな。」
「違いない。」
ザインが、静かに笑った。
初めて見る顔だった。
二人で、また黙って煙草を吸った。
星が、近かった。
第五十五話、お読みいただきありがとうございました!
戦闘後の一服回でした。
エルナさん、もう愛がすごいですね。
遠慮なしです。
そして、ジュディとザインのタバコミュニケーションもありました。
ヤニカスにしか分からない何かがあるのかも。
明日も20:10にお会いしましょう!
ブクマやコメント、評価をいただけると、今夜は星が綺麗ですね。
よろしくお願いします!




