第五十四話「奪われた者の権利」
ザインが、また距離を詰めてきた。
速い。
でも、もうそのスピードには慣れている。
俺は一歩引きながら、電撃を足元に走らせる。
——バチチチチ!
地面が弾けた。
ザインの足が、一瞬だけ止まる。
その隙に、俺はザインの両足に極小の電撃を放つ。
——ビッ
「——っ。」
ザインの動きが完全に硬直する。
もらった。
俺は、懐に踏み込み渾身の拳を——
——瞬間、足元の地面が盛り上がった。
突き上げるような衝撃が腹にめり込み、そのまま吹き飛ばされた。
「が、ぁ——」
気がつけば、俺は地面に突っ伏していた。
なんだ?
何があった?
「勝利を確信して、油断したな。」
遠くで、ザインの声が聞こえる。
俺は、そのまま顔を上げた。
それは、地面から突き出た岩だった。
ザインの足元から、伸び出ている。
俺は、アレに吹っ飛ばされたらしい。
「土の……魔術か。」
「ご名答だ。」
「ごっほ。」
口の中に広がった鉄の味を、吐き出す。
赤い液体が、地面に広がった。
「——ジュディ!」
遠くから、俺を呼ぶ声が聞こえる。
俺は、震える足を押さえ込み立ち上がった。
「……まだ、やる気か?」
「ったり前だ。この野郎。」
——スッ
ザインがこちらに右手を向ける。
ザインの周辺に、四つほどの小さい岩が生成された。
「どちらにしろ、これで終わりだな。」
「……。」
足は、まだ動く。
魔術も、使える。
俺は、呼吸を整えた。
「ザイン。お前の言う、権利って何だ?」
「何だ?時間稼ぎか?」
「……答えろよ。」
ザインは右手を下ろさない。
周辺の岩が回転し始めた。
「……奪う権利だよ。俺達にはそれがある。」
「……。」
「カイン。俺の兄貴もな、アルカナに奪われた。」
——ダダダダン!
突如、ザインが回転させた岩を放出する。
俺はすかさず横に飛び、岩を回避した。
……地面に穴が空いている。
食らったら一溜りもない。
ザインを見ると、再度周辺に岩を展開していた。
あれを打たせるわけにはいかない。
俺は、ザインに目掛けて電撃を放つ。
——バチチ!
「——っち!」
不意をつけたのか、俺の電撃をザインが浴びた。
その隙にザインへと駆け出す。
「無駄だよ。」
懐に入った瞬間、ザインの足元から岩が伸びてくる。
俺は、横に転がり回避。
立ち上がると同時に、ボディブローを放った。
「っ、ぁ——!」
瞬間、拳に激痛が走った。
人間を殴った感触じゃない。
硬すぎる。
——バコンッ
再び、地面から土魔術の応酬。
俺は咄嗟に腹部をガード。
そのまま、吹っ飛ばされる。
「はー。はー。はー。」
「ギリギリだな。ジュディ。」
「……うるせぇ。」
ザインを見て、拳の痛みの正体を探る。
それは、土で出来た鎧だった。
ザインの一部が土の鎧で覆われている。
「お前は、戦えるようになった。だが、それだけだ。」
「……くそ。」
「まだ、続けるか?」
「同じことを、言わせんな。」
ザインは、胸ポケットから煙草を取り出し火を付けた。
同時に、周辺に小さい岩が再び生成される。
……舐めやがって。
「俺の兄貴も、妻と息子を殺されてる。同じ紛争でな。」
「……。」
「兄貴はその後、MANAの社長へと登り詰めた。俺達と同じ人間を生み出さないために、ノヴァを守り続けた。」
ザインの声が、少しだけ揺れた。
「でもな、世界は容赦なく奪いに来る。どいつもこいつも、自分の欲のために、人から奪うことを何とも思っていない。」
ザインの吐く煙が宙を舞った。
そのまま、岩が回転を始める。
「俺から奪ったやつは殺す。邪魔するやつも、殺す。」
「……。」
「お前も、例外じゃない。」
石礫が、一斉に俺に打ち出された。
俺は、前転してそれを回避した。
「——っ!」
肋が軋む。
ダメだ。今は立つことに——
見上げるとザインが目の前まで迫っていた。
そのまま、俺の顔面に蹴りを放つ。
俺は、また、ふっ飛ばされた。
「がっふ……。」
視界が揺らぐ。
鼻血が止まらない。
俺は、立ち上がった。
「……っち。」
ザインが、苛立っている。
咥えた煙草を捨て、足でもみ消した。
「しつこい。いい加減、寝ろ。」
「……奪った人間って、誰だよ?」
「あ?」
「お前から、奪った人間は誰だ。」
俺は、こいつらを少しだけ理解できた気がする。
目的も、動機も、納得できる。
でも、一つだけ、どうしても容認できないことがあった。
「さっきも言っただろう?アルカナだ。」
「違ぇよ。そいつは、組織の名だろ?」
「……。」
「じゃあ、お前は、アルカナの人間ってだけで人を殺すのか?」
ザインが、表情を変えた。
初めて目にする感情を表す表情。
「あぁ、殺す。俺には、その権利があるはずだ。」
「あるわけねーだろ。そんな権利。」
「……ふざけるな!」
空気が、震えた。
「ならば、妻を返せ!娘を返せ!あの頃のMANAを返せ!」
「……。」
「出来るのか?出来る訳がない!誰にも!」
「だから、てめーも奪うのか?」
ザインが、目を見開く。
俺は、ザインへと歩き出した。
「奪われた痛みを知る奴が、他人から奪うのか。」
「……。」
「正直、答えなんて俺も分からねぇ。」
俺は、進み続ける。
ザインに向かって。
「でもよ、例え奪われた者でも、奪う権利なんてねぇよ。」
「黙れ!」
ザインの足元から、土で生成した槍が俺を襲う。
狙いがお粗末だ。
俺は、体を傾けてそれらを避ける。
そのままザインの眼前に飛び込んだ。
「ちぃ!」
ザインが魔術を発動しようと手をかざす。
俺は、ザインの顔面に拳を叩き込んだ。
「がぁ、ぁ——。」
ザインは、すぐさま体勢を立て直し距離を取る。
顔面を押さえながら、言った。
「……もういい。」
「……あぁ。決着をつけよう。」
ザインは右手を空へと伸ばした。
これまでより一際大きい岩が頭上に生成された。
そのまま、岩は回転を始める。
——これは避けきれない。
そう直感する。
でも、ここで引くわけにはいかなかった。
引きたくなかった。
俺は、ありったけの魔力を体内に溜めた。
放出はしない。
外へ撃ち出すんじゃなく、自分の体に纏わせる。
先ほどのザインの鎧。
魔術を纏うという発想。
上手くいくかはわからない、出たとこ勝負。
「潰れろ。」
ザインが、右腕を振り下ろす。
瞬間——。
——ガゴン!!
岩が地面へと落下した。
周辺が衝撃による爆風に呑まれる。
「はー。はー。はー。」
ザインの息が荒い。
魔力が限界に達したのだろう。
俺は、そのザインの背後にいた。
——チリチリチリ。
「!?」
ザインがこちらを振り向く。
「何だ。それは。」
「さぁな。」
体が、軽い。
電撃を纏ったことで可能となった高速移動。
原理は分からない。今は利用させてもらう。
「……やれよ。」
ザインは、何かを察したようだ。
俺は、右腕の義手でザインの胸を押した。
そのまま、電撃を流す。
——バチチチチチ!
ザインの体が、後ろへ吹き飛んだ。
床を転がって、壁際で止まる。
「……。」
ザインが、立ち上がろうとした。
右腕に力が入らない。
もう一度、試みた。
それでも、立てなかった。
部屋に、静寂が訪れた。
俺は、息を整えながらザインを見た。
「……クロウのことは、まだ許せない。」
ザインが、俺を見た。
「あぁ。そうだろうな。」
「でも、お前のことは『理解』したよ。」
ザインは、何も言わなかった。
ただ、少しだけ目を逸らした。
「……ジュディ。君の勝ちだ。」
カインが、上段から降りてきた。
「あ——」
俺が言葉を発っそうとした瞬間に、世界が歪んだ。
上手く、立てない。
俺はそのまま地面へと倒れた。
「ジュディ!」
複数、俺を呼ぶ声が聞こえた。
俺は、そのまま意識を失った。
第五十四話、お読みいただきありがとうございました!
決闘、決着しましたね。
まさかのジュディ勝利です。
やるじゃん。お前。
今回は、ジュディが出す回答に大分苦しみました。
結局、答えは出ていないのですが。
明日も20:10にお会いしましょう!
ブクマやコメント、評価をいただけると、窮地に追いやられた時に新しい力に目覚めます。
よろしくお願いします!




