第五十三話「相手を知るには」
翌朝。
MANA本社の応接室に、再び通された。
俺、エルナ、カイラが指定された場所へと座る。
カインが、昨日と同じ席に座っている。
「昨日の『プレゼント』は、喜んでもらえたかな?」
カインが開口一番に口を開いた。
「何が『プレゼント』だよ。白々しい。全部知ってんだろ?」
「これで、信頼してもらえたかね?」
カインが薄っすら笑っている。
それが、腹立たしかった。
「無駄話なら交渉の後だ。こっちの条件を提示する。」
昨日の夜、エルナと整理した内容を読み上げた。
抜け道を塞いだ、三つの条件。
カインが、静かに聞いていた。
最後まで聞き終えて、カインは一度だけ目を閉じた。
「……話にならないな。」
「あ?」
「これでは、とても協力関係を結べたとは言えない。」
カインは、俺を静かに見つめる。
「君たちの要求を要約するとこうだ。『情報は利用させない』、『身の安全を保証しろ』。」
「……。」
「条件から、こちらが敵であることが滲み出ているよ。」
カインが、端末を静かにテーブルへ置いた。
「信頼がない、と君は言ったな?なら、我々は敵か?」
「敵だろうが。今までの発言や行動に、俺たちの味方たり得る要素があったか?」
「そこだよ、ジュディ。我々は協力をお願いしているんだ。敵ではない。」
「それが、信用できないって言ってんだ。だから、信頼を作るための条件を詰めてきたんだろうが。」
「違う。信頼とは、条件で作るものじゃない。」
カインが、立ち上がった。
「あんたは、いったい何を考えてんだ?」
「……ノヴァのやり方で決めよう。」
カインが、ザインを見た。
「決闘だ。」
「あ?」
「こちらからは、ザインを出す。そちらは——ジュディ、君が出ろ。」
エルナが、腕を組んだ。
「馬鹿にしてるの?」
「いや、至って本気だ。」
カインが、静かに続けた。
「ルールはシンプルだ。相手が立てなくなった方が負け。君たちが勝てば、その条件で協力しよう。」
「……そっちが勝った場合どうなんのよ?」
「そちらの提示した条件を、改めて相談させてほしい。」
俺は、率直に言った。
「……ふざけてんのか?」
「ふざけてなどいないさ。」
「交渉のテーブルで、なんで決闘になる。」
「君たちの条件は、信頼のない者同士が結ぶ契約だ。それに何の意味がある?」
「それこそ、その決闘の意味は何だ?」
カインが、俺を見た。
「力で示したものは嘘をつかない。ノヴァでは、そうやって信頼を作ってきた。」
「それはそっちの文化だろ。こっちには関係ない。」
「ジュディ。信頼と言う割には、こちらを理解しようとしないね。君は。」
返す言葉が、なかった。
「正直、そちらにデメリットはないはずだ。」
「……。」
「そちらが勝てば、条件を飲む。負けたとしても、我々は条件を相談させてほしいと言っただけだ。」
「……なめんなよ。」
まだだ。
相手に飲まれるな。
「こっちは、そもそもこの契約自体望んでねーんだよ。」
「なら君は、相手を知ろうともせずに敵と断定するのか?」
「……。」
「信頼とは、君から出てきた言葉だったはずだがね。」
エルナが、腕を組んで黙っていた。
カイラが、端末を握ったまま俯いていた。
俺は、頭の中で整理した。
……いくら抵抗しても、この状況は平行線だ。
交渉を反故にした場合、こちらの安全は保証されない。
ノヴァのやり方が正しいとは思わない。
しかし、知る必要があるのも事実だ。
相手の土俵に一度乗らなければ、見えないものもある。
「……わかった。」
俺は、言った。
「ジュディ。」
エルナが、俺を見た。
「その決闘、受けよう。」
「ジュディ、待って。」
「……。」
「私は、反対よ。」
気づけば、服の裾を握っていた。
「ここで引いても何も進展しない。」
「……。」
「エルナ、ここは信じてくれないか?」
エルナが、少しだけ目を細めた。
それから、小さく頷いた。
「……負けないでよ。」
その目が、真剣だった。
俺は、ザインを見た。
ザインは、煙草に火をつけながら俺を見ていた。
何も言わなかった。
—
MANA本社の地下に、広い空間があった。
石造りの床。
高い天井。
周囲には、MANAの部隊が並んでいる。
カインと俺の仲間が、上段から見下ろしていた。
俺に相対するのは、ザイン。
お互いに拳銃は持っていない。
魔術と体術で、決着をつける。
「始めろ。」
カインの一言で、ザインが動いた。
——速い。
俺は咄嗟に後退する。
ザインの右拳が、空を切った。
「っ。」
その隙に、ザインの右拳に電撃を放つ。
——ビッ!
瞬間、ザインの右腕が硬直する。
俺は即座に懐に入り込み、拳を放つ。
——ガッ!
ザインが、体を捻り拳を肩で受けた。
そのまま、後退する。
「……どんな手品だ?」
「負けてくれんなら、教えてもいいぜ。」
「っは。」
——バチン!
すぐさま、電撃をザインに発する。
ザインが横に跳んで回避した。
着地と同時に、また距離を詰めてくる。
「正直、見違えたな。」
ザインが、動きながら言った。
「カリドの頃とは、別人みたいだ。」
「うるせぇ。」
俺は、電撃を時折混ぜながら、隙を伺う。
ザインが、その全てを躱しながら詰めてくる。
「……クロウのことを、根に持ってるか?」
「お前が、その名前を口にすんなよ。」
俺は、答えた。
「あいつは、俺の親友だ!」
「そうか。」
ザインが、一瞬だけ動きを止めた。
その隙に、俺は電撃を放つ。
——バチチッ!
ザインが、右腕で受けた。
ストーンウェアが、火花を散らす。
「……俺もな。」
ザインが、腕を下ろしながら言った。
「奪われた側だ。」
「……何?」
「アルカナに、家族を殺された。」
ザインが、また動き始めた。
俺は、距離を取りながら聞いた。
「数年前に起きたMANAへの侵略。敵は、アルカナだった。」
「……あぁ、知ってるよ。」
「俺の妻と、娘が死んだ。その紛争でな。」
想定しないスピードで、ザインがこちらに詰め寄る。
ザインの拳が、俺の腹に入った。
「——っ!」
吹き飛ぶ。
床を転がって、壁際で止まった。
「——がっ!」
息が、詰まる。
「俺の目的は、アルカナを殺すこと。そのためなら何だってやるさ。」
ザインが、ゆっくりと近づいてくる。
「クロウは——」
ザインが、立ち止まった。
一瞬だけ、間があった。
「あいつは、俺の目的を妨げる障害だった。だから殺した。」
「……。」
「そこに、感情なんてない。」
俺は、壁に手をついて立ち上がった。
「……本当に、そう思ってんのか?」
ザインが、答えなかった。
少しだけ、間があった。
「あの男も、覚悟の上だったはずだ。」
低い声だった。
さっきより、少しだけ違う声だった。
「俺には、その権利がある。」
「……権利だと?」
「あぁ。お前にも、俺を憎む権利がある。」
ザインが、静かに頷いた。
「じゃあ、お前も覚悟はできてんだよな?」
「……あぁ。」
二人の間に、静寂が流れた。
それでも、俺たちはまだ向かい合っていた。
決着は、ついていない。
「続けるぞ。」
ザインが、構えた。
「……あぁ。」
俺も、構えた。
電撃が、また走る。
第五十三話、お読みいただきありがとうございました!
交渉のはずが、何故か決闘になりました。
いや、なんでだよって感じですが、結局物理で解決がノヴァ流なんですかね。
正直、戦闘力低いジュディがどこまで食らいつくのか。
ご期待ください。
明日も20:10にお会いしましょう!
ブクマやコメント、評価をいただけると、あなたも何か問題を物理で解決できるかもしれません。
よろしくお願いします!




