第四十八話「手のひらの上で」
EVAirの中は、静かだった。
外はすでに吹雪の中にいる。
窓の向こうが、白い。
何も見えない。
……これ、本当に大丈夫だよな?
座標を確認する。
無事に目的地へ向かっているようだった。
どうやら、システムは正常みたいだな。
俺は、小さく息を吐いた。
——ザザ。
突如、通信が入った。
バッツだ。
「おう。聞こえているか?」
「あぁ、聞こえてる。状況は?」
「もうすぐ目標地点に着く。道路らしい道路がねーもんで分かんねーが、正面にどデカい門がある。とりあえず行商人のフリをして警備に接触する。派手に暴れるぜ?」
「分かった。こっちも侵入経路にもうすぐ到着する。そのまま待機してくれ。」
「了解。」
——ブツッ。
通信が切れた。
ここまでは順調だ。
あとは出たとこ勝負——
「——っ。」
突如、頭の奥を何かが走った。
頭が痛てぇ!
視界が、白くなる。
見たこともない記憶が、頭の中に流れ込んでくる。
——『白と赤。』
——『横たわる、俺の体。』
——『俺を抱えて、涙を流すエルナ。』
「……んだ。これ。」
「ジュディ!?」
「ちょっと、大丈夫!?」
気づくと、エルナとカイラが俺の体を支えていた。
冷や汗が、止まらない。
「あぁ。大丈夫。二人とも、ありがとう。」
「……。」
エルナが、何か言いかけて、止まった。
俺は、自分の手を見た。
震えていた。
さっきの映像が、まだ頭の端に残っている。
横たわる、俺の体。
泣くエルナ。
——なんだ、あれ。
「ジュディ?」
カイラが、静かに呼んだ。
「……心配かけちゃったな?」
「ううん。」
今は、考えている場合じゃない。
そう言い聞かせた。
でも、完全には払えなかった。
——ガン!
突如、EVAirに衝撃が走った。
くそ。今度はなんだ。
「攻撃を受けてる!?」
「なんだ!?何があった!?」
バッツの声が、通信から飛び込んでくる。
「分からない!ただ攻撃されている!」
「んだよそれ!一旦陽動はなしだ。そちらの座標へ向かう!」
——ピーピーピー。
EVAirに警告音が鳴り響く。
まずい!高度が落ちてる!
「エルナ!」
「分かっているわよ!」
エルナが杖を構え、風魔術を発動した。
EVAirが、ゆっくりと雪の上に降りていく。
不時着。
「……囲まれているわ。ざっと十人かしら。」
エルナが、窓の外を見ながら言う。
静かな声だった。
「あぁ。カイラはそのままEVAirで待機してくれ。」
「分かった。気をつけてね。」
俺とエルナが、外へ出た。
吹雪が、顔に叩きつける。
銃を構えた部隊が、こちらへ向かって進んでいた。
「エルナ。俺が隙を作る。」
「了解。」
「手を上げろ!」
部隊長らしき男が声を上げた、その瞬間。
俺は魔術を発動した。
——バチチチチ!
電撃の十連射。
吹雪の中、照準が定まらない。
狙い通りとはいかなかったが、部隊が散開する。
——何かが、おかしい。
咄嗟に思った。
銃声と怒号が来ると思っていた。
でも、散開した隊員たちは、こちらへ詰めてこない。
それぞれが位置を固め、囲む形を維持している。
——仕留めに来ていない?
「エルナ。」
「ええ。何か、変ね。」
エルナが魔術を発動した。
数人の腕が凍りつく。
それでも、やられた隊員を見て焦れる動きが、ない。
崩れ方が、妙に静かだった。
「っ。」
吹雪で足場が読めない。
踏み込もうとした足が、雪に沈んだ。
一人の隊員が、その隙に銃を向けた。
俺は体勢を立て直しながら、相手の利き手に電撃を走らせる。
「引き金が——!」
そのまま、銃の引き金を引いた。
「がぁ!」
残り三人。
散開したまま、じりじりと間合いを詰めてくる。
仕留めるというより、追い詰める動き方だった。
俺は、こちらに照準をあわせる部隊員の眼前に電撃を発動。
——バチチチチ!
「エルナ!」
「ナイスよ!ジュディ!」
——カァァァン。
三人の隊員が、氷の中に閉じ込められた。
吹雪の音だけが、残った。
勝ちはしたが……、何かが引っかかっていた。
「ジュディ。」
エルナが、俺を呼んだ。
「……何だよ?」
「あなた、想像以上よ。正直、すごい。」
「……へへ。」
「調子に乗らないの。」
エルナが、吹雪の奥へ目を向けた。
笑っていなかった。
「……なんか、変だったよな。」
「ええ。」
吹雪の音が、続いていた。
誰も来ない。
追撃がない。
通信も、ない。
静かすぎた。
十人を制圧した割に、世界が動いていなかった。
勝った感じが、しなかった。
「ほぉ。なかなか腕を上げたな。正直、見違えたぞ。」
吹雪の奥から、人影が現れた。
見慣れたスーツ。
もう、三度目になるか。
「また、テメェかよ。ザイン。」
「そりゃ、こっちのセリフだよ。」
ザインが、静かに立っていた。
「お前ら、MANAを舐めすぎだ。」
「あ?」
「MANAは世界の通信を断片的にだが掌握している。」
俺は、そのまま言葉を受け取った。
「……最初から、筒抜けだったってことか?」
「そこまでじゃあない。だが仮説を立てるには十分な情報は手に入った。」
エルナが、小さく舌打ちした。
「……バッツ達は?」
俺は、聞いた。
ザインが、少しだけ間を置いた。
「すでに確保されている。」
「っ。」
エルナが、俺の腕を掴んだ。
動くな、という意味だ。
分かっている。
今ここで動いても、何も変わらない。
「ついてこい。悪いようにはしない。」
ザインが、背を向けた。
俺は、エルナを見た。
エルナは、小さく頷いた。
俺たちは、従うしかなかった。
第四十八話、お読みいただきありがとうございました!
いよいよノヴァに到着というか不時着というか色々ありましたね。
ジュディがちょっとだけ戦えるようになって、作者ちょっとテンション上がってます。
ここまで長かった……。
次回、MANAの内部へ。
明日も20:10にお会いしましょう。
ブクマやコメント、評価をいただけると、電撃魔術が使えるといいよね。
よろしくお願いします!




