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第四十九話「敵地の席で」

ザインに案内されたのは、MANA本社内の応接室だった。


広く、整然としていた。

窓の外は、吹雪。

イスが、向かい合って並んでいる。


中に入ると、見知った顔があった。


バッツ。ゼナ。サヤ。

全員、無事だった。


「……よかった。」


思わず、声に出た。


「おう。心配かけたな。」


バッツが、いつもの軽い口ぶりで言った。

でも、その姿に隙は感じられなかった。


「……お前らこそ、舐めてんのか?」


俺は、ザインを睨んだ。


ここに来るまでの間、拘束らしい拘束はない。

十人ほどの部隊が周りを囲んでいるが、警戒されている様子はなかった。


「別に舐めちゃいないさ。敵地のこの状況で、暴れようと思うほどオツムが足りない奴らだとは思っていないだけだ。」

「……。」

「座れ。」


ザインに促される。

俺達は、言われるままイスに腰掛けた。


今は、チャンスを伺うしかない。


「俺達を、どうするつもりだ?」

「別にどうするつもりもない。お前達は『交渉』をしに来たんだろ?」

「……。」


全員が動けない。

ただ、ザインの話を聞いて、隙を伺う。


「俺達も、そうだ。黙って待ってろ。」


直後、奥の扉が開いた。







眼鏡をかけた男だった。


四十代くらいだろうか。

高級なスーツ。清潔感がある。

背筋が、まっすぐだった。


部屋に入ってきた瞬間、空気が変わった。

厳格、という言葉が似合う。

でも、その奥にあるものが、俺には読めなかった。


「まずは、ようこそノヴァへ。別に招待はしていないがね。」


低く、落ち着いた声だった。


「この声……。」


カイラが、小さく呟いた。

何かに気づいたような、そんな声だった。


男が、カイラを見た。


「御名答だ、カイラ。私がMANAの社長であり、転送における研究の第一人者でもある。カイン・ヴァルトだ。」

「……。」


カイラは、何も言わなかった。

各国の主要人物を殺そうと企てた張本人が、目の前にいる。

その事実が、重かった。


「本題に入ろう。」


カインが、イスに腰を下ろした。


「我々の要求は三つだ。」


そう言って、指を折る。


「一つ。転送装置の試作品を渡すこと。二つ。カイラ・ドゥーナが開発に参加すること。三つ。エルナ・クロイツが持つ、異世界に関する情報を可能な限り渡すこと。」

「……。」

「その代わり、そちらの要求を三つまで飲もう。」


エルナが、腕を組んだ。


「……随分と、太っ腹ね。」

「交渉とはそういうものだ。」


カイラが、口を開いた。


「飲むわけないじゃない。」


静かな声だった。

でも、芯があった。


「人を殺すための研究に、手なんて貸すか。バカ。」


カインが、少しだけ目を細めた。


「では、人を殺すことに使わないと約束すれば良いと?」

「……。」

「いいだろう。飲もう。」


俺達は、呆気に取られた。

早すぎる。

何を考えているのか、見えない。


「……あんたの狙いはなんなんだ?」


俺は、聞いた。


「平和的な解決だ。」

「答えになってねーよ。」


カインが、少しだけ口角を上げた。

俺は、そのまま言葉を続ける。


「転送装置そのものも、もっと大きな目的を達成するためのピースの一つでしかないだろ?」


カインが、ザインを見た。


「……お前の言うように。ただのガキじゃないらしい。」

「あぁ。ある意味、ネジが飛んでるだろ。」


カインが、こちらを見た。


「その読みは当たりだ、ジュディ。我々の狙いは別にある。」

「それは、なんだ?」

「アルカナの失脚だ。」


エルナが、小さく息を吐いた。


「急に、分かりやすくなったわね。」

「あぁ、目的なんてものは、突き詰めればシンプルなものさ。」

「それが何故、転送装置に?」

「まだ、我々も確証は得られていない。そのための研究だ。」


しばらく、部屋が静かだった。

窓の外で、吹雪が続いている。


ダメだ。

この場で、答えを出すことができない。

ここにいる誰もが、同じ考えだろう。


「そっちの要求はわかった。」


俺は、思考をまとめながら声を上げた。


「ほう?では条件は飲むのか?」

「正直に言う。時間がほしい。」

「随分と甘い。判断の遅い者は損をするぞ?」


どこかで聞いたような言葉だ。


「ただ、この場ですぐ答えられる案件でもないだろ?何しろお互い、信頼がない。」

「あぁ。お互いな。」

「この交渉が上手く行かなければ、損をするのはそっちだ。なんせ、この交渉はこっちの『協力』を前提としているからな。」


ザインが、鼻を鳴らした。


「そんなもの。いくらでもやりようはある。譲歩してるのはこっちだぞ?」

「やりようなんかあるかタコ。じゃあ、こっちが提供する情報の整合性を、そっちはどうやって証明する?」

「それは、交渉が成立してからも言えることじゃないのか?」

「——よせ。」


カインが、右手を上げた。


「確かに、この場に必要なのは信頼だな。ジュディ。」

「……。」

「二日。猶予を与えよう。その間、お前たちは『ノヴァを離れなければ』好きに行動していい。」

「わかった。その条件を飲もう。ただし、これでそっちの要求は『四つ』だ。」

「……それは、少々強引だな。そもそも時間を提案してきたのはそちらだ。」


しれっと入れ込めるかと思ったが、抜け目ない。


「……っち。」

「ひとまず、この会社の宿屋に案内しよう。ザイン。」

「あぁ。」

「案内してやれ。」


カインは、それだけ言って部屋を後にした。


俺達も、ザインの後に続く。

後ろから、エルナの声が聞こえた。


「……交渉事は今後、あんたに任せるわ。」


何も進んではいない。

とりあえず、時間を稼いだだけだ。


……勝負は、これからだ。





第四十九話、お読みいただきありがとうございました!


カイン・ヴァルトが登場しましたね。

胡散臭いです。こいつ。


今回は、作者としては頭いい人たちの交渉を目指したのですが、難しいですね。

書いていて、脳が震えてました。


明日も20:10にお会いしましょう。


ブクマやコメント、評価をいただけると、交渉の場で上手くいくようになります。

よろしくお願いします!

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