第四十七話「ノヴァへ」
ガレスに通信を入れたのは、夕方だった。
「状況が動いた。聞け。」
いつもの、無駄のない切り出し方だった。
俺とエルナは、端末を挟んで向かい合った。
カイラが、その隣に座る。
「MANAが、本格的に転送装置の捜索へ乗り出したようだ。」
「……見つかる可能性は?」
「ほぼ確実に見つかるだろうな。相手は通信に強い企業だ。カイラにたどり着くのも、時間の問題だと見ている。」
カイラが、小さく息を呑んだ。
端末を握る手が、少しだけ強くなった。
「それに、アルカナの動きも活発になっている。」
「アルカナの狙いは分かるのか?」
「あぁ。同じ転送装置のようだな。MANAより先に装置を手元に置き、それを交渉材料にするつもりだろう。」
エルナが、腕を組んだ。
「つまり、MANAとアルカナが、競合しているってことね?」
「そういうことだ。ただ、アルカナに関してはどうにも要領を得ない部分がある。注意するに越したことはないだろう。」
ガレスは、一度だけ間を置いた。
「MANA側に動きが出た今、先手を打つしかない。こちらから、MANAの転送装置研究者に接触し、交渉するのが最善だろう。」
「どうやって接触する?」
俺は、思わず聞いた。
ノヴァは閉鎖的な都市だ。そう聞いている。
「閉鎖的とはいえ、各都市との物流は防げない。物流経路から内部へ侵入し、どうにかして接触を図るしかない。」
「……要するに、『出たとこ勝負』か。」
「あぁ。」
エルナが、小さく笑った。
「ふふ。正直ね。」
「嘘をついても仕方がない。今回は企業への潜入だ。二人ではどうにもならない場面が出てくる。現地での情報収集、陽動部隊も必要になる。」
「……チームを、編成するわ。」
「そちらにツテはあるか?」
エルナと俺は、顔を見合わせた。
「バッツのチームね。」
エルナが言うと、ガレスが短く返した。
「丁度いい。派手な動きが得意なチームだ。アサインしよう。計画はこうだ。陽動部隊のバッツチームが正面から仕掛ける。警備に偏りが出たところで、お前達が内部へ潜入する。」
「……本当に、作戦って呼べるものじゃないわね。」
エルナが、静かに言った。
「あぁ。しかし、仕方がない。ノヴァは余りにも情報がなさ過ぎる。」
「情報屋として、どうなのよ?それ?」
「こちらの力不足は否定できないな。」
ガレスが、珍しく素直に認めた。
「それと、今回はカイラも同行させろ。交渉材料がある方が、すぐに命を奪われることはないだろう。」
カイラが、一瞬だけ静止した。
自分が材料だ、という言葉を、頭の中で整理しているようだった。
「交渉する余地があれば、いんだけど、ね。」
独り言のように呟いた。
でも、声は揺れていなかった。
「座標と侵入経路は通信で送る。準備に取りかかれ。」
——ブツッ。
通信が切れた。
工房の中が、静かになった。
端末の画面だけが、光っている。
「……行くわよ。準備しましょう。」
エルナが立ち上がった。
—
2日後の朝。
カルディアに、EVAirが降りてきた。
そこにあるはずなのに、車体は見えない。
光学迷彩だ。
外に出ると、もう三人が待っていた。
「よぉ!」
バッツが、ニカッと笑い片手を上げた。
ゼナが、腕を組んで欠伸をしている。
サヤが、棒付きキャンディを口に含んだまま俺を見た。
「よっす。ボンクラ。」
「よっす。」
六人が、顔を合わせた。
バッツが、改めて全員を見渡した。
なんというか、こういう時の表情が、兄貴分らしかった。
「話は聞いてるぜ。陽動だろ?お手の物だ。」
「ゼナ、いける?」
「あったりまえでしょ。こっちはそれが仕事なんだから。」
ゼナもニカッと笑った。
頼もしい。
「バッツ。ゼナ。サヤ。」
俺は、三人の顔を見た。
「無理するなよ。まずいと思ったら、すぐに撤退してくれ。」
「MANAの相手はしたことねーが、まぁ大丈夫だろ。」
バッツが、腕を鳴らしながら言った。
軽い口でも、目が笑っていなかった。
これが、プロってやつか。
サヤが、小さく俺の方を見た。
「……ジュディも、無理しないでよね?」
「分かってる。」
サヤは、それ以上何も言わなかった。
ただ、少しだけ目を逸らすのが遅かった。
俺は、手に持っていた煙草を地面に落とし、足で消した。
「よし、行こう。」
—
EVAirが、雲の上へ出た。
カルディアの街が、どんどん小さくなっていく。
窓の外は、白い。
静かだった。
潜入班は三人。
エルナ、カイラ、俺。
カイラは早々に端末を開いて、何かを調べている。
俺は、窓の外を見ていた。
ふと、エルナを見た。
顔が、強張っていた。
いつもと違う。
「……エルナ。」
「なに?」
「ノヴァ、行ったことあるのか?」
「……あるわよ。」
短い返答だった。
それ以上が、続かなかった。
「あそこは、嫌な思い出があるのよね。」
「また、嫌な思い出?」
「……またって、何よ。」
エルナの眉が、わずかに動いた。
「そうよ。正直、いい思い出の方が少ないわ。」
「ジュディ。無神経の極み。」
カイラが、端末から目を離さずに言った。
刺さった。極まっているらしい。
「……ごめん。」
素直に謝ると、エルナが小さく息を吐いた。
「昔、MANAが紛争をしていた時期に、雇われ兵をやっていたの。」
「それは……。」
いい思い出じゃないな。確実に。
言葉を選ぼうとしたが、選ぶ前にエルナが続けた。
「生きるためだったのよ。紛争の部隊に編入して、食いつないだ。仕方がないと思っていても、ね。」
エルナは、窓の外を見ていた。
雲が、流れていく。
「……いい思い出じゃないな。確実に。」
「ええ。」
少しだけ、間があった。
「……それでも、悪いことばかりじゃなかったわ。」
エルナが、静かに言った。
さっきより、声が低かった。
「そうなのか。」
「……忘れられない相手がいる。」
それだけ言って、エルナは窓の外に視線を戻した。
それ以上は、話さなかった。
俺も、聞かなかった。
しばらく、EVAirの低い駆動音だけが続いた。
カイラが、端末を閉じた。
パンっと、手を叩く。
「よぉし!」
空気が、変わった。
「帰ってきたら、いい思い出作ろう!」
「……いいな、それ。」
思わず、俺は同意した。
「具体的には、何がしたいのよ。」
エルナが、少しだけ顔を上げた。
「ふふふ。いいアイディアがあるんですのよ?」
何その口調。
「その名も!ダブル・デートです!!」
「……。」
「えっと、カイラ?その、メンツは?」
思わず、俺はカイラに質問する。
「え?私と、エルナと、ジュディだよ?」
「「……。」」
それはね、カイラ。
ダブルデートって言わないんだよ。
カップルが、いないんだよ。そのメンツには。
「ま、まぁ?いいんじゃない?」
エルナが同意した。
耳が、赤かった。
窓の外の光のせいじゃない。
「へへ。きっと、いや絶対楽しいよ!」
「……まぁ、そうだな。」
まだ見ぬ未来に、思いを馳せた。
それも、悪くないかもと思った。
第四十七話、お読みいただきありがとうございました!
いよいよ第四章スタートです。
この章から、色々大きく進展する予定です。
最後まで、ぜひお付き合いいただけると嬉しいっす。
明日も20:10にお会いしましょう。
ブクマやコメント、評価をいただけると、ダブルデートの相手に選ばれるかもしれません。
よろしくお願いします!




