第四十六話「エルナの見る世界」
魔術道具店。
俺とエルナは、杖のメンテナンスに訪れていた。
「まったく。お使いくらいちゃんとやってよね?」
「申し訳ございません。」
ここは、謝罪するしかない。
完全に俺が悪い。
「そもそもよ?」
「うん。」
「急用ってなんだったの?」
「あぁ、サヤからちょっと誘われて。」
「……サヤから?」
——ピキン。
え、なんか空気変わった。
「何に?」
「えっと、クロウの墓参りに。」
「……なるほどね。」
少しだけ、空気が柔らかくなった。
「で?」
「ん?」
「お墓参りだけだったら、時間あるでしょ?」
「あ~、その後軽くお茶したんだよ。」
「で?」
「ん?」
「杖を忘れたわけ?」
——ピキン。
また空気が冷たくなる。
最近、他人に恐怖を覚えることが増えた気がする。
いや、多分俺が悪いんだけど。
「はい。ごめんなさい。」
「油断も隙もないわね。あんた。」
何がだろうか。
「正直、納得行ってないのよ?」
「何が?」
「カイラとのデートよ!」
「何でだよ!」
エルナが許可したから行ったんじゃないか。
少しだけ、エルナの顔が赤い。
「フィーレで、デートらしいことなんて、してないじゃない!」
「そうですね!」
速攻で負けた。
それは、そうだと思った。
「その上で、サヤですか。そーですか。いいご身分ですね!」
「……何をすれば良いでしょうか?」
むちゃくちゃな気もするけど、気持ちは分かる。
「杖のメンテナンス完了まで、時間がある。」
「はい。」
「付き合いなさい。」
「はい。」
そのまま、俺はカルディア散策へ連行された。
—
まず向かったのは、本屋だった。
エルナは迷いなく店内に入って、棚を見て回る。
楽しそうだ。
こういう表情は、あまり見ない。
「好きなんだな、本。」
「そりゃそうよ。魔法使いとして育ったんだもの。本が一番の友達だったわ。」
さらっと言ったが、少しだけ寂しい響きがあった。
深くは聞かなかった。
エルナは、薄い文庫本を一冊手に取った。
表紙には、見慣れない文字が並んでいる。
「それは?」
「古い魔術書。普通の本屋には置いてないんだけど、ここは結構置いてあるのよ。」
「読めるのか?」
「当たり前でしょ。バカにしないで。」
エルナが、呆れた顔で言った。
そりゃそうか。
結局、エルナは三冊買った。
俺は荷物持ちにされた。
—
昼になった。
「ここに入りましょう。」
エルナが立ち止まったのは、小さなラーメン屋だった。
カウンターだけの、こぢんまりした店だ。
席に着くと、エルナがさっとメニューを開く。
「醤油ラーメン、二つ。」
俺は思わず、エルナを見た。
何か、違和感があった。
「……何よ?」
「本当は、何が好きなんだ?」
「え?」
「俺が来るから、合わせようとしてるだろ。」
エルナが、一瞬だけ固まった。
それから、少しだけ目を逸らす。
「……酢ラーメン。」
「酢ラーメン?」
「何よ?悪い?」
聞いたことがないメニューだ。
ちょっとだけ興味が湧く。
エルナって、どんな味が好きなんだろう。
「それにしよう。二つ。」
エルナが、小さく「いいの?」と言った。
いいに決まっている。
酢ラーメンが運ばれてきた。
見た目は普通のラーメンだが、一口すすると、酸味がかなり強い。
「……ごふっ。なかなか、癖あるな。」
「だから言ったじゃない。無理して食べなくていいわよ?」
「いんや。食う。」
「あ、そう。」
苦戦する俺を横目に、エルナは嬉しそうに食べている。
不思議な味だが、食べていくうちに慣れてきた。
……これ、悪くない。
なんていうか、癖になる味だ。
「美味いな。これ。」
「ふふ。ハマるでしょ?」
「そんなに好きなんだな。」
「それだけじゃないわ。」
エルナが、箸を置いた。
「私の好きなものを、理解しようとしてくれたことが嬉しいのよ。」
少しだけ、照れくさそうに言った。
返す言葉が見つからなくて、俺も黙って麺をすすった。
—
食後は、ストーンウェア専門店に立ち寄った。
義手のメンテナンスついでに、新しいモデルを見て回る。
グレイに勧められたのは、右腕の中にダガーを格納できるタイプだった。
そのまま、換装してもらう。
「あんた、結構なじんできたわね。この世界に。」
エルナが、ショーケースを眺めながら言った。
「もう一ヶ月くらいか?嫌でも慣れるさ。」
「この世界は、気に入った?」
少し考えた。
「最近は、悪くないと思ってるよ。」
エルナが、静かに頷く。
「私はね。嫌いじゃないわ。」
少し間があった。
「残酷だけど、だからこそ人の優しさが見えることもある。」
フィーレでの視線を思い出す。
あの冷え切った眼差し。
それでも、この世界が嫌いじゃないと言った。
それが、彼女の優しさなのだと思った。
その気持ちを、俺も大切にしたいと思った。
「そうだな。」
それだけ言った。
エルナは、また静かに歩き出した。
—
夕方。
魔術道具店に戻ると、杖のメンテナンスはちょうど完了していた。
「これで、今できる準備は整ったわね。」
「あぁ。」
エルナが、杖を受け取る。
——ピピ。
エルナの端末が鳴った。
エルナが画面を見て、少しだけ表情を引き締める。
「……ガレスから。」
「……。」
俺は何も言わなかった。
でも、なんとなく分かった。
次の旅が、始まろうとしている。
第四十六話、お読みいただきありがとうございました!
今回はエルナとの日常回でした。
エルナの大胆なのか、なんなのかよくわからん今の状態面白いですね。
あと、少しだけ彼女がこの世界に何を思うかが分かった回でした。
そして、間章は今回で一区切りになります。
次回から、いよいよ第四章スタート!
明日も20:10にお会いしましょう。
ブクマやコメントをすると、エルナが酢ラーメンを奢ってくれるかもしれません。
よろしくお願いします!




