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スペル・エラー ~娘が生まれるのに異世界へ召喚されたので、何があっても帰ります~  作者: とろたま愚鈍
第一部:第三章|間章

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第四十四話「煙の残傷」

「よっす。」

「……よっす。」


カルディアでの昼下がり。

武器屋で弾薬を購入していたら、突如サヤから通信が入った。


「あなた、今日少し時間ある?」

「……どうしてだよ?」

「兄貴の墓参りに行こうかなって。」


兄貴。

クロウのことだ。

少しだけ、胸が軋んだ。


「あぁ、それなら時間作るよ。大丈夫だ。」


まだ、エルナから頼まれた杖のメンテナンスがある。

まぁ、墓参りの後でも支障はないだろう。


「わかった。じゃあ、待ち合わせましょう。座標、送るね。」







クロウの墓は、カルディアから少しだけ離れた谷の上にあった。

カルディアの町並みを、一望できる場所だ。


バスを降りると、サヤがバス停の前で待っていた。

相変わらず、棒付きキャンディを咥えている。


「よっす。」

「……よっす。」


よっすってオーソドックスな挨拶なんだろうか。


「立派なところだな。」

「そう?普通じゃない?」


この世界のお墓は、日本のものと大分違った。

見上げるほどの高い石碑が、一列に並んでいる。

俺は、サヤに案内されるまま後をついていった。


一つの石碑の前に来た。

正面にはディスプレイが表示されている。


「これ、何だ?」

「え、あんた墓来たことないの?」

「あぁ、初めてだな。」

「……幸せな人生ね。それとも薄情なだけ?」


失礼な言い草だ。

この世界で、人の死に目にあったことが初めてなだけだ。

事情を話すと長くなるので、流すことにした。


「えっと~。確かIDは……。」


どうやら、このディスプレイに何か入力するらしい。


——ウィーン。


ディスプレイが奥に引っ込み、代わりに小さな仏壇のようなものが現れた。

名前が、空中に表示される。


『クロウ・ウインドウ』


「……。」


俺は、そのまま手を合わせて祈った。

彼が、安らかに眠れるように。


「……何、してんの?」

「え?」

「あなた、もしかして、異国の出身?」

「あぁ、まぁ。そうだな。結構、遠い。」


なんせ、異世界だしな。


「カルディアでは、右手を握って胸の上に置くの。」

「あぁ、ありがとう。」

「まぁ、慈しむ心さえあれば礼儀なんて二の次よ。」


なかなか芯を食ったことを言う。

俺は、横にいるサヤを真似て、右手を胸に置いた。


しばらく、二人で黙っていた。


俺は、上着のポケットから煙草の箱を取り出した。

一本だけ抜いて、仏壇の縁に立てかける。


「その銘柄、まだ吸ってたんだ。」

「なんか、変える気にもなれなくて。」


サヤは、何も言わなかった。

ただ、少しだけ目を細めた。


俺は煙草に火をつけて、ゆっくりと煙を吐いた。

煙が、風に流れていった。







「ここで、待ってて。」


墓を後にして少し歩いたところで、サヤが武器屋に消えていった。

俺は、店の前で煙草をふかしながら待つ。


しばらくして、サヤが出てきた。

手に、一本のダガーを持っている。


「……これは?」

「兄貴の刀を加工して作ってもらったの。長すぎて、私じゃ扱えないし。」

「じゃあ、サヤが持っていた方が良いんじゃないか?」

「全部で三本できたのよ。私も一本持ってる。あんたに一本あげる。」

「なんか、悪いな。」

「いいのよ。」


サヤが、少しだけ間を置いた。


「……兄貴のこと、知ってる相手だから。あんたなら、ちゃんと使うと思った。」


それだけだった。

でも、なんとなく、それだけじゃない気がした。


「ありがとう。大切に使うよ。」

「えぇ。魔術を通しやすい素材らしいから、きっと役立つと思う。」

「あんま分かんない。」

「……ボンクラ。今度試してみて。」


サヤは歩き出した。

俺もなんとなく、ついていく。


「あ、サヤ先輩?」


後ろから、誰かに呼び止められた。


振り返ると、サヤと同じブレザーを着た女生徒が立っていた。

同じアカデミーの後輩だろうか。


「やっぱり、サヤ先輩ですね。ごきげんよう。」

「え、えぇ。ごきげんよう。」


——ペカー。


サヤが、棒付きキャンディを咄嗟に俺に手渡し、爽やかな笑顔を作る。


……え。誰これ。


「こんなところで、珍しいですね。お買い物ですか?」

「いえ、実はお兄様が亡くなって……。そのお墓参りに。」

「あ、そうだったのですか。それはお気の毒に。」

「いいのよ。心遣い、痛み入りますわ。」

「……サヤ先輩。そちらの方は?」


女生徒が、俺を見て尋ねる。


「こ、こちらはお兄様のお友達。今日は同席していただいたの。」

「そうなんですね。この度は、お悔やみ申し上げます。」

「あぁ。これは、どうも。ご丁寧に。」


気の抜けた返事をしてしまった。

だって、サヤが変なんだもの。


「申し訳ないわ。今日は少し予定が立て込んでいて……。失礼するわね?」

「いえ、こちらこそ。呼びとめてしまって申し訳ございません。」

「いいのよ。それでは、ごきげんよう。」

「はい。ごきげんよう。サヤ先輩。」


サヤは足早に、その場を後にした。

俺は急いで後を追う。


「……。」

「……。」

「……何よ?」

「え、いや何も。あ、キャンディ、返すよ。」


サヤは黙ってキャンディを受け取った。

めっちゃ顔が赤かった。

ちょっと面白い。


「サヤ。」

「何も言わないで。」

「アカデミーだと、キャラ違うんだな?」

「言うなっちゅ~~~に!」


——ズベシ。


横っ腹を小突かれた。

ひどい。


「なんか奢って。」

「え?」

「奢って。カプチーノとか。」

「……はい。」


理不尽だと思った。







近くのカフェに入って、二人でカプチーノを頼んだ。

俺の奢りで。


サヤが、カップを両手で包みながら言った。


「あいつ、甘い物も好きだったのよね。」

「へ~。」

「……知らないの?」


サヤが、少しだけ目を丸くした。


「実は、クロウと過ごした日はそこまで長くないんだ。」


カリドでの日々を思い出す。

短かった。

それでも、確かにあった時間だ。


「だから、教えてくれよ。クロウのこと。」

「……。」


サヤは、カップを見たまま少し黙った。


「そうね。いいわよ。」


それから、サヤはぽつりぽつりと話し始めた。

甘い物が好きなのに、絶対に人前では食べなかったこと。

クールぶっているくせに、映画を見て泣いていたこと。

無口のくせに、サヤにだけはよく喋ったこと。


俺は、口を挟まずに聞いていた。

知らなかったクロウが、少しずつそこに現れてくる気がした。


「……なんで今日、俺を誘ったんだ?」


少しだけ、間があった。


「あんたなら、ちゃんと覚えてると思ったから。」


サヤは、カップを見たまま言った。


「兄貴のこと、忘れるのは嫌だった。でも、一人で来る気にもなれなくて。」

「……そうか。」

「あんたには、話してもいい気がしたのよ。なんか、ね。」


サヤが、少しだけ照れくさそうに視線を逸らした。

珍しかった。


俺は、それ以上何も言わなかった。

言わなくて良かった気がした。


カルディアに、風が吹いた。

少しだけ、煙草の匂いがした気がした。







工房に帰ると、エルナがソファで本を読んでいた。


「……。あ、おかえりなさい。遅かったじゃない。」

「ただいま。ちょっと用事が入ってな。」

「ふ~ん。珍しいこともあるもんね。」

「ひどくない?」


エルナが、本から目を上げた。


「まぁいいわ。杖、どうだった?」

「あ。」

「え?」


沈黙。


「……ジュディ。」

「す、すまん。今からでも——」

「もう、店しまってるわよ。」

「……すみません。」

「もう、後日でいいわ。」


エルナが、また本に目を落とした。

背中越しに、ため息が聞こえた。


クロウ。

お前のせいだぞ。





第四十四話、お読みいただきありがとうございました!


今回はサヤとクロウの回でした。

クロウは、この世界に来て初めての友達(?)だったりするので、ジュディにとっては大事な思いだったりします。

サヤはまだまだ見せていない部分も多いので、今後もうまく書いていけたらいいな。


次回はジュディいよいよ強くなるか?

明日も20:10にお会いしましょう。


ブクマやコメントをすると、サヤ先輩がごきげんようモードで対応してくれるかもしれません。

よろしくお願いします!

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