第四十三話「カイラ・ドゥーナは挫けない」
懐かしくも、いつも通りの工房での朝。
俺達は三人で朝食を囲んでいた。
今日は、目玉焼き、ベーコン、食パン。
なんとなく俺が食べたくなって、作った。
突然、対面のエルナが声を上げる。
「ジュディ。」
「ん。」
「……。」
醤油がほしいだろうと察して、渡す。
そのまま、二人の指先が触れた。
「あ、ごめんなさい。」
「……いや。」
「……。」
少しだけ、エルナが赤くなる。
らしくない。
けど、少しだけ可愛いと思ってしまった。
エルナは、ごまかすように言葉を紡ぐ。
「これ、シンプルだけど美味しいわね。」
「だろ?俺の世界じゃオーソドックスな朝食だ。」
「こっちじゃオートミールとか冷たい食事がメインだから、温かい朝食も悪くないわね。」
「……。」
嬉しいことを言ってくれる。
今後も、朝食は作り続けようと思った。
「……。」
なんだか、カイラの視線が痛い。
いつもなら、この辺で会話に参加してくるのだが。
突如、カイラが声を上げた。
「……裁判をします。」
「「は?」」
俺とエルナの声が、重なった。
「これは、由々しき事態です。」
「何がよ?」「何がだよ?」
「そういうとこだよぉ~~!!!」
——ダン!
カイラが、少しだけ机を強めに叩いた。
なんなんだ……。
「朝食が終わったら、居間に集合ね。」
有無を言わさぬ、圧だった。
「「はい。」」
俺とエルナは、ただ従うことしかできなかった。
—
俺とエルナは、なぜか正座させられていた。
カイラが棒を持って(それ何に使うの?)俺とエルナの前に立っている。
怖い。
「単刀直入に聞きます。」
「「はい。」」
カイラが、少しだけ間を置いた。
「二人は、その……。アバチュリ、ましたか?」
……なにそのアバチュリって。
アバンチュールのことか?
「チュってません。」
「……意義あり!」
意義あるんだ。
「二人の空気が、のっぴきなりません。これは、由々しき事態です。」
「のっぴき、なってるわよ?落ち着いて?」
エルナもおずおずと反論する。
「おだまり!」
「……はい。」
あ、エルナが負けた。
珍しい。
「何かしましたよね?エルナ。」
「え……。」
「アバチュッてないまでも、何かしましたよね?」
「……した、わね。」
「ほら~~~!やっぱり~~!!」
カイラがうぉ~~んと泣く。
マジ泣きだ。
怖い。
「Aまで進みましたか!」
「なによAって。」
「ちゅ~はしましたか!」
ぶっ。
噴き出してしまった。
「し、してないわよ!!」
「じゃあ、何したのよ!」
「……。」
なんでだ。
なんでこんなに気まずいんだ。
「思いを、伝えただけよ。」
「告った?告ったのね?」
「……。」
俺、もう帰っていいだろうか。
「こく……った。別に、それで関係がどうとかはないけど。」
「よぉ~~っし!よく言いました!エルナさん!」
「……。」
エルナの顔が、真っ赤だ。
もう許してあげてほしい。
「これは、協定違反にあたります。」
「協定って何よ?」
「私も、ジュディとのデートを要求します。」
「……めちゃくちゃね。でも、いいんじゃない?」
あの。
俺の意思は、ないのでしょうか。
そのまま、俺はカイラに外へ連行された。
—
カルディアの街へ出た。
「ねぇねぇ、ジュディ。こっちどう思う?」
カイラが、ハンガーにかかった上着を体に当てながら言う。
カリドを出て以来、カイラはずっとスーツ姿だ。
今も、襟付きシャツにスーツのパンツのみ。
本人がそれでいいならいいのだが、今日のデートに際して服を見繕うことになった。
「悪くないと思うけど、もう少し明るい色の方が俺は好きかも。」
「あぁ、確かに~~。じゃあこっちは?」
次々に色違いを当てながら聞いてくる。
……俺、ファッションに詳しくないんだけどな。
「うん。これくらい明るい方が、俺は好きだな。」
「でしょ~!そっかそっか。やっぱ明るい色だよね!」
カイラが、にっこり笑いながら棚を漁っていく。
こういう場所に来ると、年相応に見えるから不思議だ。
ライアスと来たことは、あったのだろうか。
そんなことを、ふと思った。
「……。」
ふと、カイラの手が止まった。
棚の一点を、じっと見ている。
「カイラ?」
「あ、ごめんごめん。」
カイラが、ゆっくりと手を動かした。
首を振る感じでもなく、ため息をつく感じでもなく。
ただ、静かに戻ってきた。
「前はさ、自分で服を選ぶことってあんまりなかったんだよね。」
「……ライアスが買ってたのか?」
「うん。全部じゃないけど、なんかね。」
カイラは、新しいハンガーを手に取って言った。
「今日は、自分で選ぼうと思って。」
それだけだった。
湿っぽくはなかった。
今日ここに来た意味が、少しだけ分かった気がした。
「ジュディもなんか買う?」
「俺は大丈夫だよ。」
「えぇ~?せっかくだから何か買いなよ~。」
カイラに引っ張られて、なんやかんや俺も一着買うことになった。
カイラのセンスは、思ったより悪くなかった。
—
ショッピングを終えて、近くの店でお茶をした。
テラス席に二人で座って、空を見上げる。
カルディアの空は、相変わらず高かった。
「あ~、楽しかった。」
「それは、よかったですね。」
正直、疲れもあった。
でも、心地よかった。
それは、カイラがあまりにも嬉しそうだからか。
「……付き合ってくれて、ありがとね。」
カイラが、カップを見ながら言った。
いつものテンションより、少しだけ低い。
「実はさ、こういう楽しいこと、ちょっと怖かったんだよね。」
「怖い?」
「楽しいと、その後にライアスのこと思い出しちゃうから。」
カイラは、カップを傾けた。
それだけ言って、泣きもしない。
「でも今日は、ちゃんと楽しかった。」
ぽつりと、本当にぽつりと言った。
うまく返せなかった。
でも、それでよかった気がした。
俺は、思わず声をかけた。
「明日から、また研究頑張れそうか?」
「それはもう、モーマンタイっすよ!旦那!」
「……そっか。」
こういう少し弾けた会話も、今となっては慣れたものだ。
「私ね。」
少しだけ、カイラの声色が変わった。
「私、みんな幸せになってほしいんだよね。」
「……そうだよな。」
そう。
それは、彼女の理想そのものだ。
出会った時からずっと、それだけはブレていなかった。
「でもね。最近ちょっと変わったの。」
「変わった?」
カイラが、カップを両手で包みながら言った。
「その幸せの中にね。自分も含めることにしたの。」
俺は、少しだけ間を置いた。
「それ、最高だな。」
「でしょ~~!」
カイラが、また笑った。
いつものカイラに戻っている。
彼女はきっと、これからもブレない。
そんな彼女を、少しでも支えられればと思った。
第四十三話、お読みいただきありがとうございました!
今回はちょっと息抜き回でした。
裁判が始まったり、デート(?)したり、でもちゃんと前に進もうとしていたり。
カイラは書いてて楽しい子ですね。
次回も引き続き間章予定です。
明日も20:10にお会いしましょう。
ブクマやコメントをすると、カイラのテンションがさらに3割増しくらいになるかもしれません(うるせぇ)。
よろしくお願いします!




