第二十八話「エルナ魔術工房。超絶怒涛のグルメバトル」
「レディース、ィエーンド、ジェントルメーン!」
ヴィンが、握りこぶしに向かって叫んでいる。
マイクのつもりだろうか?
「いよいよ!注目カードの激突が今日、実現するぜぇ~~~!みんなぁ、準備は——」
「ちょっと待って。」
俺は、ヴィンを引き止めた。
カルディアの昼下がり、いつものエルナの魔術工房。
だが、パーティーのような飾りつけと、居るはずのないメンツが顔を揃えている。
ヴィンの首根っこを掴み部屋の隅に移動する。
「帰ったんじゃなかったか?」
「……帰ったよ。すぐカイラに呼び戻されたんだよ。」
「なんで?」
「お前とエルナが料理対決するからって!」
「え、なんで?」
より分からない。
謎は深まるばかりだ。
「俺だってよぉ~。別にやりたかないんだぜ?カイラが『来なかったら、俺が転送装置の奪取に関わっていたことをリークする』って、脅されてよぉ~。」
ガチで泣いている。
鬼だな。カイラ。
「……そもそも、なんでこんな大所帯になったんだ?」
「俺に聞くなよぉ~。お前とエルナの話だろぉ~~?」
「た、確かにいつか白黒つけようみたいな話はしたけどさ…。」
「でもよぉ~。こんな状況になったらしょうがなくね〜か?」
どうにも、腑に落ちないが……。
ヴィンの言うことにも一理ある。
このまま、手ぶらでお客を返すのも申し訳ないしな。
「……分かった。やるしかないか。」
「そうだよ!やるしかねぇーんだ!俺たちゃー!」
もはや、ヤケクソだな。
ヴィンが、涙を拭きながら元の場所に戻っていった。
—
部屋を見渡すと、なかなかカオスな状況だった。
テーブルの前に、審査員席が設けられている。
カイラが体を揺らし嬉しそうにしている。
間違いなく、この状況は彼女のせいだ。
「ジュディ〜!準備は出来てる〜?」
「全然できてないよ。」
「うんうん!エルナは?」
「いつでもいけるわ。」
え、今流された?
会話噛み合ってなかったよな?
エルナが、エプロン姿でこちらを見ている。
とても似合っている。
いいお嫁さんになりそうだ。
審査員席には、四人が座っていた。
おそらく今回の主犯、カイラ。
可愛い六歳の娘、リア。
その母親のアイラ。
そして、端の席に。
「……なんで、私が呼ばれたわけ?」
棒付きキャンディを咥えたまま、サヤが仏頂面でそこにいた。
「サヤぁ〜!来てくれてサンキューなぁ〜!」
ヴィンが、満面の笑みで手を振る。
こいつが呼んだのか。
道連れか?
「……。あんた、騙したわね?」
「騙してねぇ〜よん!この後にちゃんと連れて行くから、な?」
ヴィンとサヤが何やら、わちゃわちゃしている。
以前、ウインドウ家にお邪魔した時に、ヴィンと俺は連絡先を交換していたが……。
何か二人には二人の事情があるらしい。
「美味いもん食えるし、いいだろぉ〜?」
「なんか、癪に触る。なんか。」
サヤが、棒付きキャンディを口の中でくるりと回した。
やっぱり、兄妹だな。
時折の仕草に、ふとクロウを思い出す。
「……まぁ、約束守ってくれるならいいか。」
あ、なんか納得したらしい。
サヤが、俺を見た。
「ジュディ。」
「なに。」
「が、頑張れよ!ボンクラぁ。」
応援なのか、罵倒なのか、はっきりしてくれ。
なんでボンクラ?俺、嫌われてる?
—
「それではぁ~!」
ヴィンが、再び握りこぶしに向かって叫んだ。
「エルナ、バァーサ〜ス、ジュディ!超絶怒涛のグルメバトル!スタートだぜぇ~!!」
カイラが、パンパンと手を叩いた。
リアが、わぁと声を上げた。
アイラが、上品に拍手をした。
サヤが、棒付きキャンディを舐めながら端末をいじっている。
「制限時間は一時間!それでは、調理開始だぁ〜!!」
俺は、キッチンに向かった。
作るのは、もちろんカレー。
この前の約束もあるし、俺の味だと胸を張って言える料理だ。
スパイスは、カリドで買ったものがある。
玉ねぎ、トマト、鶏肉、他野菜も揃えた。
明里にイチオシされたカレーを作ろう。
隣では、エルナが鮮やかな手つきで食材を切り始めていた。
「……なに作るんだ。」
「敵に、教える訳ないでしょ。」
「俺が作るものは知ってるんだろ?」
「カレーでしょ?この前言ってたじゃない。」
俺は、手を止めた。
「……ずるくね?」
「何が?」
「エルナは教えてくれないんだよな?なんか、ルール違反じゃないか?」
「別に、ルールは何も決まっていないでしょ。」
確かに、何も決まっていない。
でも、なんか、ずるくね?
「……何?邪魔する作戦ってわけ?」
「いや、そういうわけじゃないけど。」
エルナが、颯爽とフライパンを火にかけた。
その背中が、なんか様になっている。
くっそ。負けてられるか。
とにかく、こっちはカレーで勝負するしかない。
玉ねぎを飴色になるまで炒め、トマトやその他の具材も丁寧に炒める。
水を加えて一煮立ちさせ、スパイスを加える。
スパイスの香りが、工房に広がっていく。
「いい匂い~!」
カイラが、鼻をひくひくさせながら近づいてきた。
「危ないぞ。後で食べれるから、離れろ離れろ。」
「ちぇ~。」
リアが、審査員席からちょこちょこと近づいてくる。
「ジュディ。何作ってるの?」
「カレーだよ。」
「かれー?」
「あぁ、すっごい美味しいやつ。」
「たべたい!」
「ふふー。そうだろー?楽しみにしててな!」
リアが、ぱたぱたと席に戻っていく。
アイラが、ありがとうございます。と頭を下げていた。
—
一時間後。
エルナと俺、それぞれの料理が完成した。
「まずは、私からね!」
エルナはそう言いながら、いそいそとテーブルに料理を並べていった。
「『ヒレ肉のポワレ。季節の温野菜とオレンジ風味のソース添え。』よ!ご賞味あれ!」
「待て待て待て。」
「ん?あによ?料理、冷めちゃうんだけど?」
……ずるくね?
だって、名前が、オシャレじゃん。
こっちカレーだぜ?
「ずるくね?」
思わず、声に出ていた。
「何が?」
「なんか、本格的な感じじゃん?こっちカレーだぜ?」
「料理そのものに、優劣はないわよ。」
「でも、ヒレ肉のポワレって言われたら、なんかもう負けてる気がするんだが。」
「気持ちの問題でしょ?早く出しなさいよ!」
……認めたくないが、確かにそうかもしれない。
俺は、カレーを盛り付けてテーブルに置いた。
「『カレー』だ。」
「ん?え、名前それだけ!?」
カイラが、思わず突っ込んでくる。
「いや、説明が難しくて、『カレー』なんだよ。」
「もうちょっと、なんかあるでしょ!?ほら、どこで買った〜とか。産地が、どこだ〜とか!」
「……え~、『カリドで買ったスパイスを使ったカレー』です!」
「進歩した!でも、惜しい!くぅ~~!」
カイラが指パッチンを鳴らしながら舌を出す。
本当、楽しそうだな。この子。
「それでは!いよいよ、実食の時間だぜぇ~!」
ヴィンが、高らかに宣言した。
早速、リアが、真っ先にカレーに手を伸ばした。
一口食べて、目を丸くした。
「おいし~!」
次に、ポワレを一口。
「おいし~!」
全部同じだった。
あぁ、可愛い。
カイラが、両方を丁寧に食べた。
しばらく考えてから、口を開いた。
「……うん!食べれるね!」
「「どういうこと?」」
俺とエルナの声が重なった。
「うん?両方、食べれる。栄養もバッチリだね!」
どうやら、カイラの中の評価では、『食えるか、食えないか』、『栄養があるか、ないか。』この二軸しかないらしい。
アイラが、静かに口元を拭いていた。
そのまま、ゆっくりと語り始めた。
「口に入れた瞬間に……あの。芳醇な香りが広がって、芳醇な味わいのハーモニーでとっても芳醇だわ。どちらも。」
「芳醇しか言ってないわね。この人。」
エルナが、小声で呟いた。
俺も思った。
てか、感想の意味わかんねっす。すみません。
最後に、サヤが両方を食べた。
棒付きキャンディを一旦テーブルに置いて、カレーを一口。
次にポワレを一口。
しばらく、無言だった。
「カレーは、スパイスのバランスがいい。小さい子もいるからなのか、辛味を抑えて素材の甘みを活かす方向に舵を切ったのは正解ね。隠し味に醤油入れてる?これが全体を引き締めてていい感じだわ。」
おっ。やっとまともな評価が。
っていうか、サヤ、凄いな。
「ポワレは火入れが丁寧ね。外はパリっと香ばしいのに中はしっとり。お肉の旨味を上手く閉じ込めているわね。オレンジ風味ソース、酸味がいいアクセントになってる。これなら、最後までくどさを感じずに食べられるわね。」
サヤが、棒付きキャンディを再び口に入れた。
「「で、どっちが美味しいの?」」
再び、俺とエルナの声が重なった。
正直、まともに審査できるのは、この中でサヤだけだ。
他があまりにもボンクラ過ぎる。(リアは除く。)
「……どっちも、美味しかった。」
少し、頬を赤らめながらサヤがそう言った。
「どっちが、とかは無視。引き分け。」
「え、それだけ?」
ヴィンが、困惑した顔で聞いた。
「それだけ。」
サヤが、ぼそっと答えた。
「……ま、まぁ!引き分けということで!今回の勝負、痛み分けとなりましたぁ~!」
ヴィンが、無理やりテンションを上げた。
ヴィン、お前がチームにいてくれて、本当によかったと思うよ。
「……次は勝つわよ。」
エルナが、静かに言った。
「次があるのかよ?まぁ、そうだな。次は負けないぜ?」
俺は、そう言いながらカレーを一口食べた。
うん。美味い。
明里は、辛いものが苦手だった。
だから、辛味を抑えつつ、俺が美味しいと思うカレーを作ったんだ。
この味は、まさしく俺のいた世界で食べた味だった。
「ジュディ!もっと食べてもいい?」
感傷に浸っていると、リアが皿を持ってこちらに来た。
「うん。いいよ。いっぱい食べな!」
リアが、嬉しそうにカレーをよそっていった。
アイラが、またありがとうございます。と頭を下げた。
………………。
…………。
……。
工房の中は、騒がしかった。
カイラがヴィンに何か相談している。
エルナが、悔しそうにポワレの残りを食べている。
アイラとリアが二人で楽しそうに話している。
サヤが、窓の外を見ながら棒付きキャンディを舐めている。
俺は、その光景をしばらく見ていた。
なんだか、悪くない。
異世界で、俺が知り合った人達。俺の居場所を作ってくれた人達。
こういう時間が、いつまでも続けばいいと思った。
続かないことは、分かっていたけれど。
第二十八話、お読みいただきありがとうございました!
前回の間章に続いて、グルメバトル回でしたね。
審査員がボンクラ(リアを除く)過ぎて勝負になりませんでしたが。
ちなみに作者もカレーには一時期ハマってまして。
いい塩梅のスパイス調合を見つけていたりします。
明日も20:10に更新予定!
ブクマやコメント、評価をいただけると、スパイスの調合を紹介する機会があるかもしれません。
よろしくお願いします!




