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第二十二話「殺意の根源」

三人で、輸送車に向けて駆ける。

そんな中、突如インカムからヴィンの声が飛んできた。


「ジュディ!後ろから1名、追ってくるぞ!」

「なんだって!?」


その瞬間、背後に悪寒を感じた。

俺は咄嗟に前に飛び出す。


——シュ。


瞬間、先ほどまで俺のいた空間が切り裂かれた。

そのまま前転し、振り返って悪寒の正体を確認する。


細柄の男が、静かに俺の前に立っていた。


細身の体。

手には一本の刀。腰にはもう一本刀がぶら下がっている。

眼鏡の奥の目が、感情を映していない。


クロウが隣に立った。

そのまま、刀の柄に手を添える。


「行け。」


クロウが静かに言った。


「お前はカイラのサポートだ。」

「……。わかった。」


この状況になれば、輸送車への対処はカイラ一人で行わなけばならない。

そうなれば、装置を奪取できる可能性は確実に下がる。


男がもう一本の刀を抜いた。

細い、美しい刃が二本、砂漠の光を反射した。


「カイラ!このまま走れ!俺も後を追う!」

「うん!振り返らないから、絶対追いついてよ!」


意外とスパルタなことを言う。流石は装置開発のリーダーだ。

よし、このまま俺も走ってカイラと合流を——


瞬間。

男が刀を構えて、刀を振るった。

俺とクロウ、それぞれに風の刃が襲う。


「っち!」

「くそ!」


クロウは刀を抜刀してそれを弾き、俺は横に飛び刃を避ける。

すかさず、俺は地面を転がり体勢を立てなお——


一瞬だった。

男が、目前にいた。

そんな、あの距離をどうやって!


「ジュディ!」


クロウが叫んだが、もう遅かった。


——一閃。


右腕から、熱い感覚が走った。

俺は、左腕で腰から拳銃を引き抜き、発砲。


——パンパンパン!


男は、最低限の動作でそれを躱し、こちらに踏み込んでくる。

まずい!


——キンッ


俺と男の間に、クロウが割り込んでいた。


「下がれ!」


その言葉で、俺は立ち上がり体勢を立て直す。

これが、プロの戦いなのか。

正直、取り付く島もない!


男はクロウの刀を弾き、距離を取る。


——ボトン。


突如、何かが地面に落ちた音がした。

俺の、右腕だった。

そのまま、俺は自分の右腕を見た。

肘から上が、なかった。

……は?


——ズクン。ズクン。ズクン。


徐々に、後になって痛みの信号が走ってきた。


「ぐ、あぁぁ、ぁあぁぁぁあああああああああ!」


俺は、痛みを誤魔化すように右肩を全力で押さえ、叫ぶ。

痛い。痛い。いたい。いたい!


「——まず、一人。」


眼鏡を正しながら、男は言う。


「シン。俺の名前だ。……自分を殺す奴の名前くらいは、知っておきたいだろう?」

「クロウだ。」


間をおかずに、クロウがシンに斬りかかる。


「自分を殺す者の名は、知りたいんだろ?」

「……っは。」


そのまま、二人は切り合いへと移行した。

金属がぶつかる音が周辺に響く。


「ふー。ふー。ふー。」


痛がることは、後からでもできる。

この戦闘を生き抜くことに集中しろ。

今は、俺にできることを考えろ!


俺は、目前の二人の戦闘を注意深く観察する。

二人の力量は拮抗しているように見えるが、クロウが少しだけ劣勢だ。

特に、あの風の刃。

距離をとっても飛んでくるし、刀のリーチ延長にも使用している。

速さではクロウが優っているが、手数の差で押されている。そんな印象。


俺は、少しでも援護になればと拳銃をクロウに向け発砲。


——カカカン。


シンは、こちらを一瞥もせずに銃弾を刀で弾く。

くそ!ダメか。

これでは、援護どころか邪魔になる可能性がある。


でも諦めるわけにはいかない。

探せ、なんでもいい。相手の虚を付く行動さえとれれば——。

ふと、地面に落ちる、切断された右腕が目に入る。

防壁魔術の腕輪がついたまま。


——これだ!


クロウとシンは、変わらず激しく刃を交えていた。

シンの風の刃が、クロウの体を何度も掠める。

クロウの腕から、血が滲んでいた。


シンが距離を取った。

刀を構え直す。

シンは風の刃を溜めている。


——今だ。


「クロウ!伏せろ!」


俺は地面に落ちた右腕を拾い上げ、シンに向かって投げた。

シンの視線が、一瞬だけ右腕に向く。


「——っ?」


その瞬間。

俺は腕輪に紐付けられている魔術バッテリーから、遠隔で防壁を展開した。

シンの顔の前で、防壁が展開された。


「——!」


シンがそれを避けようと体勢を低くする。

ダメだ。これでは、明確な隙にはならない!

あと一押し。一押しを!


——静電気でも、一瞬相手の動きを遅らせる事ができれば、戦闘には有利に働く。


脳裏に浮かんだ言葉。

意味があるのか?分からない。

でも、このままでも状況は変わらない!


俺は、拳銃を手放し左手でシンに標準を定める。

上手くいってくれよ!!


——バチンッ!


「——ッガ!」


練習の時よりも、一際大きな電撃だった。

シンの体が硬直する。

そのまま、展開した防壁に体が衝突した!


その隙を、クロウが見逃すはずもない。

クロウは、即座にシンの懐に飛び込んだ。


——一閃。


斜めに切られたシンの上半身が、地面へと滑り落ちた。

そのまま、下半身も遅れてぐしゃりと倒れる。

地面の砂に、赤い血が広がっていった。


——静寂が戻った。


「ふぅ~~~~。」


俺は地面に膝をついた。

右腕がない。血が止まらない。

クロウが近づいてきた。


「……相変わらず、センスがいいな。お前は。」

「あんたが教えてくれたからだよ。」


あれは、右肩を押さえながら精一杯の笑顔を作る。

クロウが、珍しく口元を緩めた気がした。


「お前は、ここにいろ。俺はこのままカイラの元へ行く。」

「いや、俺も行く。体は動く。」

「……。無理はするなよ。」


まだ、作戦は完了していない。

痛み。吐き気はあるが、今は別のことに意識を向けるように集中する。

クロウが俺に手を差し伸べてきた。


「……サンキューな。」


俺は、クロウから差し伸べられた手を掴もうと——。


——パン。


乾いた音がした。

クロウが、前のめりに倒れた。


「——え?」


頭から、血が流れていた。

俺は、クロウの名前を呼ぼうとした。

声が出なかった。


「な?」


後ろから、声がした。

振り返ると、ザインが立っていた。

銃を下げて、煙草に火をつけている。


「人はこうやって簡単に死ぬんだよ。」


ザインが静かに言った。


「自分は死なない。仲間は死なない。でも、敵は死ぬ。そんな道理があるはずもない。お前に教えておいてやりたかったんだ。」


クロウの体が、ピクリと動いた。

ザインは一瞥もせずに、クロウへ数発弾丸を撃ち込む。


——パンパンパン!


……クロウは、動かなくなった。

え、これ。死んだ?

死んだのか?


「はー。はー。」


呼吸が、更に荒くなる。


——俺は、貪欲なやつは嫌いじゃない。正直なやつもな。

——ちょっと、一服付き合え。

——深い意味はないさ。ただ、人生の先輩としてアドバイスをな。


クロウの姿。言葉が頭を巡る。


——センスがいいな。お前は。


「——っ!」


俺の中で、何かが変わった。


——殺さなければ。


じわじわと、体の中から湧いてくる。

その時初めて、俺は殺意の根源を理解する。

『焦り』だ。

こいつを殺さないと、自分が壊れてしまう確信。

殺意という焦燥感が、俺の体を支配した。


「——あ、あぁぁぁ!ザァインーーーー!!!!!」


俺は左手で銃を持ち直し、ザインに向かって走り出した。


殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。

殺す。殺す。殺す。殺す。

こいつは、殺す。


——カァァァァン。


突如、俺とザインの間に氷の城壁が立ちはだかる。

一瞬で、エルナのものだと分かった。


「ジュディ!」


エルナの声がした。

俺を、エルナが後ろから抱きとめていた。


「——離せ!あいつを殺す!!」

「落ち着きなさい!」

「離せって言ってんだろ!!!」

「ジュディ!!!」


エルナの声が、砂漠に響く。

俺は、少しだけ正気を取り戻した。


「今は、カイラの元へ行って!このままだと、カイラが危ないわ!」

「……。」

「クロウの仇は、私が絶対に取るから!」


俺は、氷壁の向こうにいるザインを見た。

ザインは煙草を吸いながら、こちらを見ている。


「……ずる賢い魔女だ。」


ザインが静かに言った。

俺は、感情を殺すように唇を噛みしめる。

血が滴った。


「……頼む。」


それだけ言って、俺はカイラのいる方向へ走り出した。

クロウが、砂漠の地面に横たわっていた。

俺は振り返らなかった。





第二十二話、お読みいただきありがとうございました。


ごめんなさい。

何を言っても、今回は蛇足になりそうなので。


明日も20:10に更新予定です。

ブクマやコメントをしてくれると嬉しいです。

よろしくお願いします。

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