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第二十一話「想定内の奇襲」

午後二時。


北口から十キロ地点。

俺とエルナは、路肩の岩陰に身を潜めていた。


砂漠の熱気が、地面から立ち上っている。

空が広い。

カリドの地下にいると忘れていたが、地上はこんなに眩しい。


「見えた。」


エルナが静かに言った。

前方から、二台の車が砂漠の道を走ってくる。

輸送車と、護衛車。


やはり、少ない。


インカムから、ヴィンの声が聞こえた。


「輸送車、確認!予定通りの時間だなぁ!」

「ヴィン。今だ。」

「了解っ!」


輸送車が、急に速度を落とした。

停止信号が入り、そのまま停止。


よし、あとはこのまま——。


「おい!やべぇ!問題発生だぁ~~!」

「どうした!」

「いきなり、車両システムそのものをシャットダウンしやがった!!おそらく、再起動だ!このままだと、あと数分で動き出しちまう!!」


ヴィンの声に焦りが滲んだ。


「エルナ!」

「分かってる!」


エルナが手を前にかざした。

地面が青白く光り、輸送車の周りを囲う。

そのまま、瞬く間に土が盛り上がり、車を囲む城壁が形成された。

これで輸送車は、システムが再起動したとしても簡単には動けないはずだ。


「カイラ!今だ!行くぞ!」

「うん!エルナ、ありがとうね!」


カイラの声が返ってきた。


俺たちが岩陰から飛び出した瞬間。

護衛車から、三人の男が降りてきた。

ザイン、細柄の男とプロレスラーのような体格の男だった。


「……来たな。」


ザインが静かに言った。

煙草に火をつけながら、こちらを見ている。

驚いた様子は、まるでなかった。


——やはり、仕組まれていた?


だが、今となっては関係ない。

このまま、転送装置をいただく!


「エルナ!」


俺が言う前に、エルナが動いた。


「分かってるわ。あなた達は先に行ってて。」

「待て、一人で三人は——」

「うるさい!さっさと行く!」


エルナが杖を構えた。

その背中が、議論を許さなかった。


「クロウ!カイラ!」

「分かっている!」


俺達は輸送車を目指し、そのまま男三人の右側を通り過ぎようと直進する。

ザインがこちらに銃口を向けていた。


「行かせると思うのか?」

「っは!止められるって思ってんの?」


パンパンパン——


俺達とザイン達の間に氷の防壁が展開される。

ザインの銃弾をそのまま城壁が弾いた。

ナイスだ!エルナ!


左側には氷の城壁、もう簡単には手出しできないだろう。

俺達はそのまま、ザイン達を追い越して輸送車へ向かった。






私に相対するのは、三人の男。

まず、ジュディ達を輸送車へ送り出すことに成功した。

あとは、こいつらを手早く殲滅するだけね。


「あー、あー。まいったね。こりゃあ。」


ジュディから聞いていた、ザインとやらが銃を持つ右手で頭を掻く。

そのまま、横にいる眼鏡ヒョロ男に呼びかけた。


「シン。」

「はい。」

「あいつら追え。カイラ以外は殺していい。」

「御意。」


氷の城壁は、あくまでもジュディ達を輸送車へ向かわせるために右側に一直線にしか展開していない。

追おうと思えば、それは容易に実行できる。

でもね、相対するのはこの私。

力の強大さ故に一部では畏怖される魔法使い。


「行かせると思ってんの?」


私は、自身の周りに、氷の槍を5つほど展開。

そのまま、三人組へと発射した。


「止められると思うのか?」


——パパパパパン。

——パリンッ。


「え?」


的確に、ほぼ同時といっていいほどのタイミングで氷の槍が砕け散った。

ザインが、全てを撃ち落としていた。

シンは、こちらを振り向きもせず、ジュディ達を追っている。

——一人、逃した!


「——っち。」

「まぁ、そう苛立つな。お嬢さん。——マグ。」

「おうよ!」

「仕事だ。」


私の前に、ザインとマグが立ちはだかる。

マグが両腕をゆっくりと回している。

関節が、ゴキゴキと鳴る音がした。


「ぁ~~~。久しぶりだな。人を殺せる仕事は!」


マグが笑った。

その目が、子供のように輝いていた。


「氷の魔術か、見たことがないな。いや?四大元素の組み合わせか?」


ザインが煙草の煙を吐きながら言った。

値踏みするような目で、私を見る。


「面白い。」

「あら、チップでもくれるのかしら?」

「はは。まさか。」


杖を構えたまま、二人の動きを観察する。

シンという男もいる。あまり時間はかけられない。

ここは、通常魔術の手数で押し切る!


私は杖を振りかざし、風魔術を展開。

風の刃が、ザインに向かって飛ぶ。


ザインが横に跳んだ。

同時に、マグが正面から走ってくる。


——こ、こいつ!


大きい。

異様に大きい。

両肩の魔石が、砂漠の日光を受けて鈍く光っていた。


私は即座に炎を展開し、マグの足元に叩きつける。


「!」


マグが炎の中を走り抜けてくる。

ひるむ様子が一切ない。


「そんなもんか?」


マグの両腕が、炎を掴んだ。

そして、その文字通り、炎を握りつぶした。

炎が、消えた。


「っち!」


私は自身に風魔術を纏い距離を取る。

こいつら、思ったよりできる。

厄介だ。


「厄介だよな、二人相手は。しかも素人じゃない。」

「!」


——パパパン。


マグの後方から、ザインが銃撃してくる。

私は即座に、防壁魔術を展開し、それを防ぐ手立てを用意。


——パリン!


っち。反魔術銃弾か!

でも、それが通用するのは素人だけよ!

私はそのまま、複数のコンパクトな防壁魔術を連続で展開。

全ての銃弾と、防壁が相殺される。


「ふー。」


私、二人の位置を再び確認する。

マグは近接戦闘、ザインは銃弾による後方支援。

単純だけど、単純なだけにゴリ押しされると厄介ね。


——でも、それは普通の魔術師が相手ならの話。


私は杖を下から上に振り上げる。

水と風を組み合わせた氷魔術。私の十八番。

近距離も遠距離も関係ない。

ここらへん一帯を氷漬けにしてやるわ!


「——な!?」


——カァァァァン。


前方の視界が、氷山で埋め尽くされる。

前衛だの、後方支援だの、もう関係ない。

よし、あとはジュディ達のところに…。


瞬間、できるはずのない影が足元に落ちる。

私は空を見上げた。


——パン!


ザインが、空中からこちらに向けて落ちてきていた。

足元には、地面から伸ばしたであろう土台。

こいつ、土魔術の使い手か!


咄嗟に、魔術防壁を展開して銃撃を防き、風魔術で距離を取る。


——パリン!


前方の氷山が砕かれ、中からマグが姿を表す。

……どちらにも、効果なしか。


「……流石、魔法使いだ。これだと埒があかないな」

「埒があかない?まるで実力が拮抗してるみたいな言い方ね。」

「なんだ?プライドが傷ついたか?現にまだ、俺もマグも無傷だ。」

「思ったよりも喋るのね。おしゃべりが好きなの?」


しかし、確かにこのままだと埒があかない。

通常魔術のゴリ押しで勝てる相手ではなさそうだ。

そんな中、マグが声を上げる。


「ザイン。もう、俺、我慢できねぇ~。いいよな?な?」

「あぁ。好きにしろ。」


——よっしゃああああああああああ。


そう叫びながら、マグがこちらに突っ込んでくる。

私は再び氷の槍を展開し、発射!


マグはそれを掴み。いとも簡単に砕く。

あの両腕のストーンウェア。魔術を捕獲し掴みとるようだ。

動きは単調、でも単調が故に強力。


——パパパン。


その後ろから、ザインの射撃。

この連携に、今のところ隙が見当たらない!


——仕方がない。


私は自分を包囲するように防壁魔術を展開。

反魔術銃弾への対策として、その防壁魔術を氷でコーティングする。


——ガン!


マグが私の眼 目の前まで、迫る。

私の防壁魔術を握りつぶそうと両腕で押さえている。


「なんだ?さっきとは打って変わって防戦一方だな」


ザインが、マグの背後から声をかける。

悔しいけど、この状況は否定できない。

そんな中、眼前のマグがうっとりした顔でこちらを見ている。


「へへ。これだよ。これ。握り潰すのがよぉ!俺は好きなんだよ。」

「は?」

「それが、人なら、最高だよな。骨のひしゃげる感触。肉がスリ潰れる感触。たまんね~~よな。」

「……。」

「女は、ひさびさ、だぜ。俺はぁ~~~。特に女殺すのが好きなんだ。」

「そう。あんた、人殺しが好きなのね。」


この世界で戦う人には、大体は理由がある。

みんな、それをなんとなく分かりあっているし、だからこそ殺す相手にも敬意を払う。

こいつは、違う。

殺したくて、殺す。ケダモノ。


私の中で、何かが弾けた。


——ミシミシ。


防壁が軋みを上げている、持って数十秒か。

十分よ。


私は防壁魔術を保ったまま、他魔術の準備を進める。


杖を筆代わりに、空中に魔術式を書いていく。

四大元素以外の魔術を使うためには、例外を除いてこの魔術式が必要となる。

だからこそ、この世界では魔術式の埋め込まれているストーンウェアが多くの人にとって必要なのだ。


でも、私は魔法使い。

自身で魔術式を展開し、あらゆる魔術を行使できる種類の人間。


「もう少し……。もう少しだ……。肉。にくぅほねぇにくぅ。」

「感じたい?」

「あ?」

「骨の軋む感触。肉が潰れる感触よ。」

「か、かかかかか、感じたい!!感じたぁい!!」

「そ、ならたっぷり、感じさせてあげる。」


——ドウゥン!!


私の周辺一帯の地面がひしゃげる。

そのまま、防壁の向こう側にいるマグも地面へと押しつぶされた。


——重力魔術。


四大元素以外で放つ、現状を打破する私の魔術。

掴む能力も、そもそも掴めるものがなければ意味がない。


「あ、あぁぁぁぁぁ。い、い、痛ぇ!」


——ギシ。ギシギシ。


「あら、好きなんでしょ?その感触が。たっぷり味わいなさい?」

「お、お、お、し、し、死ぬ。」


「——自分が潰れていく感触をね。」


——プチュ。


そのまま、私はマグを圧殺した。


まだだ。まだザインがいる。

私はそのまま、次の標的へと狙いを定める。

しかし、ザインの姿が見当たらない。


「……逃げたか。」


杖を握り直す。

額に汗が滲んでいた。


遠くから、剣戟の音が聞こえた。

クロウとジュディの方向から。

私は杖を握り直して、走り出した。





第二十一話、お読みいただきありがとうございました!


今回は、今まで見せたことのないエルナの戦闘回でした。

戦闘って難しいですね。


次回以降、いよいよクライマックスに突入します。


明日も20:10に更新予定!

ブクマやコメントをすると、嬉しさの重力に僕が押しつぶされます。

よろしくお願いします!

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