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スペル・エラー ~娘が生まれるのに異世界へ召喚されたので、何があっても帰ります~  作者: とろたま愚鈍
第二部:最終章|キムラ・ジュディ編

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第二百六話「それぞれが、それぞれの責任で」

——ヒュン!!!


二本の刀が、空中を走る。


一本が横薙ぎに。

もう一本が、その少し後ろを追うように。


「せぇ——の!!!」


両手を、大きく振る。


——ガァン!!!


「ぐあぁぁぁぁ!!!」

「うわぁっ!!!」


正面にいた兵士達が、まとめて地面を転がった。


刃は、向けてない。

峰打ちだ。


ジュディが、殺さずにやってんだ。

私が殺すってのは、なしで。


まぁ、そもそも好き好んでやりたくもないしね。

やったことないわけじゃ、ねーけど。


「……んはは。」


二本の刀を、左右へ浮かべる。


これは、悪くない。


兄貴の刀だから、私が普段使っているダガーよりずっと長い。

その分、一振りで巻き込める人数も多い。


ただ、このスタイルにも弱点はある。


——接近戦。


こんな長い刀を二本も浮かべながら懐へ入られると、流石に取り回しが悪い。


いつもみたいに、足のブレードを展開して一気に加速するのも難しい。


魔風結界。


自分を守る風を纏いながら、自分を加速させることはまだできない。てか、無理。


だからこその、この刀だ。


近づかれる前に、遠距離から。

圧倒的な一閃で、片をつける。


「く、くそぉ!!!撃て!!!撃てぇ!!!!」


周囲から、一斉に銃口が向けられる。


——パンパンパンパンッ!!!


複数の銃弾が、私を取り囲む。


「……無駄だって。」


身体へ纏わせた風へ、少しだけ魔力を足す。


——フワッ。


私へ当たるはずだった銃弾が、身体へ触れる寸前で軌道を変えた。左右へ。上へ。私を避けるように、後方へと流れていく。


「ぐあぁぁぁ!!!」


後ろから、悲鳴が聞こえた。


「……あ。」


流れ弾が、別の兵士に当たったらしい。

密集地帯なんだから、気をつけろよ。

……まぁ。流したのは、私だけど。


「なるほどねぇ。」


多対戦だと、こういうメリットもあるわけか。


「んじゃ。もっかい。」


二本の刀へ、魔力を流す。


「せぇ——の!!!」


両腕を振り回す。

二本の刀が、私を中心に大きな円を描いた。


——ガァン!!!


「ぐっ!!!」

「うわぁぁ!!!」


兵士達が、次々と吹き飛ばされていく。


「んはは!!!これなら、全然楽勝——」

「っく!!!ひ、引けぇ!!!」

「……あ?」

「距離を取れ!!!遠距離から魔術を放てぇ!!!!」


「……っげ。」


兵士達が、一斉に距離を取った。

前線にいた奴らが後ろへ下がり、その隙間から別の部隊が前へ出てくる。


流石は、本業。

切り替えが、早いな。


私の魔術を見切ったっていうより、多分。

銃が効かないなら、魔術を使おう。


そのくらいの判断だろうけど。


「それ、ドンピシャだっつの!!!」


「放てぇ!!!!」


——ドンッ!!!


四方から魔術が飛ぶ。

火弾。石弾。水の刃。風の刃。


「っち!!!」


身体を捻る。


火弾が顔の横を通り抜け、そのすぐ下を水の刃が走った。

後ろへ飛び、石弾を避ける。


——ヒュン!!!


風の刃だけを、刀で叩き落とした。


「……やっぱ、ダメだな。」


魔風結界へ魔術が触れた瞬間、身体の周囲を流れていた風が大きく乱れた。


この結界は、まだ魔術を完全には受け流せない。

外から魔力が干渉すると、こっちの操作まで引っ張られる。


特に——。


「火ぃ!!!」


——ボォッ!!!


目の前で、炎が膨れ上がった。


「あっちぃなぁ!!くそっ!!」


咄嗟に横へ飛ぶ。

頬に、熱が残った。


風で逸らせても、熱までは消せない。

下手に流そうとすれば、風を送った分だけ火力が増す。


……相性は、最悪だ。


「ちぃ!!!」


なら、やられる前にやるだけだ。


火を放った魔術師を見る。

距離は、それほど離れてない。


あいつまで一気に詰めて——。


「行かせるな!!!」

「前へ出ろぉ!!!!」

「……っ!」


魔術師との間に、何十人もの兵士が割って入った。


「邪魔だっつの!!!」


——ヒュン!!!


二本の刀を、振り抜く。


「ぐあっ!!!」

「っ!!!」


数人が吹き飛ぶ。

それでも、次が来る。


また刀を振る。

その間にも、後方から魔術が飛んでくる。


「っく!!!」


地面を転がり、火弾を避ける。

すぐに起き上がり、正面から飛んできた銃弾を魔風結界で流した。


「このっ!!!」


刀を操る。風を操る。魔術を避ける。


……数が、多い。


普通に魔術を使う奴が相手なら、いつもの戦い方へ切り替えれば済む。

高速で近づいて、ぶん殴って終わり。


でも、この物量じゃ、それができない。


一人に近づけば、別の奴から撃たれる。

そっちを処理してる間に、魔術が飛んでくる。


「……っ!!!」


——ドォン!!!


地面が、弾ける。

爆風に押され、後ろへ転がった。


「いってぇ……。」


すぐに、身体を起こす。


……このままじゃ、ちょっとまずいな。

一旦、防壁まで撤退して——。


「ぐあぁぁぁぁぁ!!!!」


「……っ!?」


突然、部隊の後方から大きな悲鳴が聞こえた。


——ガコン!!!


「うわっ!?」


瞬間。

私とアッシュガードの間に、大きな岩壁が伸びる。


地面から突き出した岩が、こちらへ飛んできていた魔術を全部遮った。


「な、何だ!?」

「土系統の魔術だ!!!」

「どこから——」


上から、人影が降ってくる。


——ズンッ。


私の隣へ、一人の男が着地した。


「……っち。テメェかよ。」


正直、見たくもない顔だった。


品のいいスーツに、煙草。

見覚えのある、横顔。


私の兄貴を殺した男。


——ザイン・ヴァルト。


ザインが立ち上がり、煙草の煙を吐く。

私は、その横へ並んだ。


「何しにきたんだよ。人殺し。」


ザインが、一瞬だけこちらを見る。


「……依頼主に、話を聞く前に死なれては困るからな。」

「仕事ぉ?」

「ギルドに、依頼を出しただろ。」

「……出したのは、カルディアのギルドだけだけど?」

「たまたま、そこにいただけさ。」

「んはは。言い訳作るのだけ上手すぎでしょ。素直になりゃいいのに。」

「理由はどうあれ、これは仕事だ。」


ザインが、煙草を指で挟む。


「傭兵募集の依頼がギルドにあって、俺が受けた。」

「っは。」


思わず、笑った。


「兄貴を殺したのと同じ、仕事ってわけね?」

「……。」

「黙んなよ。言い返せやコラ。」

「サヤ・ウインドウ。」

「あんだよ?」

「その言葉は、俺に効く。結構、効く。」

「……。」

「後で、受けてやる。」


ザインは、そのまま視線を前に戻す。

岩壁の向こうで、アッシュガードがこちらを囲むように動き始めていた。


私は、鼻で笑う。


「んはは。上等だ!!」


ザインが岩壁へ、手を当てる。


「……お前は、吹っ切れたみたいだな。」

「ん?」

「ジュディに、惚れてるんだろ?」

「……そうだけど、何?」


横を見る。


「……あんたに言われんのは、癪なんだけど。」

「そうか。」

「……。」

「うん。そうか。」


……何なんだよ。

二回言うなや。


ザインが、岩壁の隙間から戦場を見る。


「火を使う魔術師は、左奥に集中している。」

「……なら、私は手前?」

「あぁ。」

「了解。」


二本の刀を、左右へ浮かべる。

ザインが煙草を地面へ落とし、踏み潰した。


「いくぞ!!!」

「おう!!!」


岩壁が、崩れる。


——ドンッ!!!


同時に、二人で地面を蹴った。




—




「右だ!!サヤ・ウインドウ!!」

「分かってるよ!!あと、サヤでいい!!」


刀を振る。


——ガァン!!!


正面の兵士を吹き飛ばし、そのまま身体を捻った。


「ザイン!!!」

「あぁ!!!」


——ズドン!!!


地面から、岩の柱が伸びる。

私へ火弾を放とうとしていた魔術師が、まとめて宙へ飛んだ。


「んはは!やるじゃん!!!」

「次、左だ!!!」

「了解!!!」


左へ身体を向ける。

ザインも、反対方向へ振り向いた。


魔術を放つ。


——ドン!!!

——ヒュン!!!


岩と風。

二つの魔術が、同時に敵陣へ飛んでいった。


「ぐあぁぁぁ!!!」

「っく!!!」


兵士達が、吹き飛んでいく。


横を見る。

ザインも、こちらを見ていた。


「兄貴、殺しただけはあるね。」

「……。」

「黙んなって。」

「……お前な。」

「んはは!!!」


正面から、銃弾が飛んでくる。

魔風結界で受け流し、そのまま二本の刀を飛ばす。


「次!!!」

「あぁ!!!」


……最悪な奴だ。


こいつは、兄貴を殺した。

それは、何があっても変わらない。


許したわけでもない。

忘れたわけでもない。



でも今は、お互いに守りたいもんがある。

だから、こいつと一緒に戦える。


今は、それだけでいい。




—




『ジュディ。任せたわ。』


サヤとの通信が、切れる。


「……うん。」


私は一度だけ頷き、目の前に並んだ監視モニターへ視線を戻す。


タワー・オルタナティブ周辺と、内部の情報。

防壁の稼働状態と、エネルギー使用量。

レガシーコードへ流れている地脈の魔力情報。


……今のところ、問題なし。


ジュディは、既にタワー内部へ入っている。

内部カメラで確認したアーヴィンさんも、まだ一人で移動を続けていた。


これについては、もう手を打ってある。

……どこまで持つかは、わからないけど。


どちらにしても、時間が惜しい。

すぐに、通信を繋ぐ。


(ガレスさん。聞こえますか?)

『カイラ・ドゥーナか。』

(はい。サヤから状況は聞いていますか?)

『あぁ。各窓口とも、既に連携済みだ。』

(ありがとうございます!助かります。)

『時間も、丁度だ。』

(時間、ですか?)

『アルカナの部隊と、カルディア政府の増援が到着した。』


その言葉を聞いて、隅のモニターを拡大する。


「……すごい。」


思わず、声が漏れる。


アッシュガードが攻めてきた位置とは、反対側。

複数の車両と人影が、次々と映像へ入ってきた。


『カイラ。』

(……は、はい!)

『君にはこのまま、タワー内部の情報監視をメインに任せる。アーヴィンがいるのだろう?』

(はい。ジュディと接触できるように、私がバックアップしたいです。)

『了解だ。私はこのまま、各所との連携を進める。戦況に進捗があれば随時通信を送る。取り立てて問題なければ、返信はしなくていい。状況把握に努めろ。』

(分かりました!お願いします!)

『それと。通話を切る前に、各部隊との窓口も繋いでおく。何かあれば直接連携しろ。』

(……えっと。各部隊ですか?)

『カルディア政府とアルカナ。部隊を指揮している二人だ。状況によっては連携が必要だろう。』

(なるほど。)

『この通信の後に試しに通話が来る。応答しておけ。』

(了解です!)


今後の方針は、見えた。

後は、部隊の確認と、タワー内部の状況を——


(じゃあ、ガレスさん。後は——)

『カイラ・ドゥーナ。』


通信を切ろうとしたところで、呼び止められた。


(は、はい。)

『ジュディに、言伝を頼む。』

(言伝……ですか?)

『あぁ。仕事が溜まっている。まず、お前には書類整理を任せると。』

(……あはは。分かりました!!)

『ではな。』


通信が切れる。

ほぼ同時に、別の回線から着信が入った。


『こちら、カルディア政府現場指揮官。ジャス・サインだ。聞こえるか?』

(はい!聞こえてますよ。)

『……タワーの監視は君だったのか。カイラ・ドゥーナ。』

(はい。よろしくお願いします。状況はどうですか?)

『既に戦闘へ移行している。アルカナを合わせれば、こちらも六百程度といったところか。』

(はい。モニターで見ていても、数に大きな差はなさそうです。)

『分かった。このまま制圧へ動く。……それと。』

(はい?)

『ジュディは?』

(……一緒に、戦ってますよ。)


通信の向こうが、少しだけ静かになる。


『……そうか。ならば、いい。』

(‥‥えっと?)

『生きることを諦めていないなら、いい。』

(全然、諦めてませんでしたよ?足震えてましたけど。)

『っは。あいつらしい。ジュディに伝えてくれ。車の補修額が出た、後ほど請求するとな。』

(……え。)

『何だ。』

(い、いえ!伝えておきますね。)

『あぁ。頼んだぞ。カイラ。』


通信が、切れた。


……車?

私、何も話聞いてないんだけど。


何したんだろ、ジュディ。

聞くの、怖いな。


そんな事を考えていると。

また、脳内で着信が来た。


(は、はい!)

『ゴード・ラムスだ。通話は聞こえるか?』

(はい!聞こえます!)

『なんだ。小娘か。聞こえるのであれば切るぞ。』

(……え?)

『久々の戦闘だ。現場の指揮に集中したい。』

(あ、はい。えっと、状況——)


——ピッ。


すぐに、切れた。


「……え。」


何、今の。

全然、状況分からないんだけど……。


——ピッ。


また、通信がかかってきた。

今度は、何!?


「い、忙しいなぁ!!!」


慌てて、通話を取る。


『聞こえるかい?カイラ君。』

(……エルドさん?)

『あぁ。すまない。隣でゴードの通話を聞いていたのだけどね。大雑把過ぎると思って。』

(あ、あはは。助かります。)

『いや、いいよ。現場の指揮はゴード。通信は私が担当する。……ことにしよう。』

(……た、大変ですね。)

『何、いつものことだよ。』


……いつものことなんだ。

エルドさん、大変なんだな。


そのまま、何でもないようにエルドさんは言葉を続けた。


『アルカナ軍も既に戦闘に入っている。軍事力では、今のところ問題なさそうだ。』

(分かりました!アッシュガード側に援軍の気配があれば、すぐ連絡します。)

『あぁ。任せたよ。あぁ、それとね。』

(はい?)

『ジュディに、よろしくと。』


「……はは。」


少しだけ、笑った。


(はい。伝えておきます!)

『あぁ。また。』


通信を切る。


「……これで、全部。だよね?」


端末を開く。

ガレスさん経由で手配した、傭兵の稼働状況。


そこに表示されている名前へ、目を走らせた。

ザインさん。バッツさん。ゼナさん。


他にも、ジュディの口から聞いたことのある名前がいくつも並んでいる。

モニターに視線を移す。


カルディア政府。アルカナ。傭兵。

サヤ。ジャスさん。ゴードさん。エルドさん。


別のモニターには、タワー内部。

ネル。エミリ。


そして、アーヴィンへ向かって進んでいるジュディ。


「……すごいな。」


みんな、ここにいる理由は違う。


政府は、政府として。

アルカナは、アルカナとして。

傭兵は、サヤが依頼した仕事として。


それぞれ自分の目的がある。

自分の立場がある。

自分でやらなきゃいけないことがある。


でも。

こうやって、全部が同じ場所へ繋がったのは。


きっとジュディが、みんなと関わってきたからだ。


誰かを助けて。

誰かに助けられて。

喧嘩して。怒らせて。迷惑をかけて。


それでも、また関わって。

今、その人達が、それぞれ自分で選んでここにいる。


「……。」


世界は、ジュディのために周っていない。

ジュディが選んだことには、ジュディの責任がある。


エミリを助けることも。

自分も生きることも。

そのために、アーヴィンさんと戦うことも。


全部、ジュディの責任だ。


もちろん。

私の選択には、私の責任がある。


サヤにも。ネルにも。

ここにいる、みんなにも。


それぞれが、それぞれの責任で、自分のやることを選んだ。

だったら、その責任を持ったまま。

一緒に進めばいい。


だって。


私達は、繋がっているんだから。

違うからこそ、違う責任があるからこそ。

繋がって、ぶつかって、交わって。


そうやって、生きていけばいいんだ。


「……よし。」


ジュディの回線を、開く。


——ジュディ。一緒に、頑張ろう。


そう思って、通信を送ろうとした。

その時。


「……え。」


監視モニターの一つが、目に入った。


タワーから、少し離れた場所。

防壁を維持するため、外部へ設置した楔。


その管理区画。

本来、誰もいないはずの地下への扉が開いていた。


「そんな。なんで。だって警報は……。」


映像を、拡大する。


扉の鍵は、破壊された様子もなく空いていた。

内部の照明に、明かりが点いている。


「ハッキング……。」


システムに、外部の侵入だと誤認させずに踏み入った。

なら、相手は相当システムに精通してる人物だ。


システムで対応するのは、分が悪い。


すぐに、端末を操作する。


ガレスさんから共有された、各部隊の位置。

一番近くにいる人間を探す。


「……いた!!!」


すぐに、直接通信を繋ぐ。


「お願い!!!」


接続音が、脳内で響く。


「間に合って!!!!」




—




「……楔は、ここか。」


地下。

薄暗い通路の奥。


ロイド・カーターは、防壁を維持している装置を見下ろしていた。


外では戦闘音が響いている。

銃声。魔術。爆発。


戦況は、既に混乱していた。


だが、ロイドには関係がない。


正面から軍勢と戦う必要などない。

防壁そのものを、破壊する必要もない。


必要なのは、中へ入ること。


——ただ、それだけだった。


ロイドは装置の前へしゃがみ込み、携帯端末を接続する。

画面へ、複数の文字列が流れ始めた。


防壁の認証情報。

登録されているID。

内部から外部へ出た人間の履歴。


「……システムは強固だが、まだ甘さがあるな。」


楔を破壊すれば、防壁そのものへ影響が出る。

カイラ・ドゥーナなら、すぐに異変へ気付くだろう。


ならば、壊さずに侵入する。


外部から内部へ入るには、登録IDと管理者の承認が必要になる。

だが、その管理者自身なら、話は別だ。


——防壁管理権限所有者:カイラ・ドゥーナ


「……。」


端末を、操作する。

これで、何も問題はない。


権限の履歴を見れば、異変に気付かれるだろうが。

その時、ロイドは既にタワーの内部。


何も、問題はなかった。


「……これで——」

「やっぱ、きたなぁ?」

「……ん?」


突然背後から、場違いなほど軽い声が響いた。

ロイドが振り向き、背後へと視線を移す。


片腕にガトリングのストーンウェアを構えた。

大柄の男が立っていた。


「真打登場だぁ!!ジャンジャジャン!!」

「……貴様は?」

「バッツ!!!ただのバッツだ。傭兵さ。」

「……。」

「んはは。俺の勘もバカになんねぇな!」


ロイドの表情が、露骨に歪む。


「……傭兵風情か。邪魔をするな。」

「いんやぁ?そういう訳にもいかなくてな。」

「……何?」

「この案件は、金になる。」

「……。」

「それによ。この案件の依頼主は、俺のパーティでね。」


少しだけ、バッツの表情が真面目になる。

そのまま、言葉を続けた。


「久々に、通話が飛んできたんだよ。助けてくれってな。」

「……それが、なんだ?」


……くだらない。

金に、仲間。軽薄で、思慮浅い。


役割などとは、程遠いもので物事を判断する。

バッツという男が、ロイドは気に食わなかった。


「……その銃。弾は入っているのか?」

「あぁ?」

「右腕の動作が異様に軽快だ。硝煙の匂いに、体には所々負傷が見える。」

「……。」

「貴様は、既にひと仕事終えた後だろう?」

「っは!はははは!!目ざといな、お前!!!」


バッツは、何でもないように笑った。


何が、そこまで可笑しいのか。

戦場で、笑える理由は何なのか。


ロイドには、到底理解できない。


「でも、関係ねぇな。」

「……何?」

「確かに、消耗してる。さっきまでアッシュガードとやり合ってたからな。効いてるぜ。」

「……ならば、引けばいい。傭兵としての役割は果たしただろう。」

「いんや?まだ、人情が残ってる。」

「……。」

「初めてなんだよ。サヤが、助けを求めるなんてな。」

「……サヤ。サヤ・ウインドウか。」

「あぁ。俺にとっちゃぁ、部隊相手にするよりも、あの言葉の方が効いてんだ。」


本当に、くだらない。

ロイドにとって、嫌悪すべき思考だった。


「……くだらん。」

「んはは。そうかぁ?俺は結構、大事だと思うけどな。」

「退け。今なら相手をする必要もない。」

「そりゃ無理だ。俺も仕事なんでね。」


ロイドが端末から手を離し、ゆっくりと立ち上がった。


「お。やる気?」

「……邪魔をするなら、排除するだけだ。」

「おぉ~。おっかねぇ~~。」


バッツが、笑う。

そして、背後に向けて声を張り上げた。


「ゼナ!!!」


別の声が、バッツの背後から聞こえる。


「あいよぉ!!!」

「こいつ、とっちめて追加報酬ゲットだ。」

「サヤとの人情は、どうしたのよ?」

「それも、ゲットだ!!」

「あっははは!バカで、いいね!!!」


合図は、なかった。

ロイドは、二人に向けて駆け出した。


第二百六話、お読みいただきありがとうございます!


それぞれが、それぞれの責任で。

なんか、色々大集合してましたね。


同じ理由で動いている人は、一人もいません。

でも、ちょっとだけ誰かと生きた痕跡がありますね。


次回も20:10、更新予定です!

ブクマやコメントをいただけると、バッツとゼナの追加報酬がちょっと増えるかもしれません。

よろしくお願いします!


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