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スペル・エラー ~娘が生まれるのに異世界へ召喚されたので、何があっても帰ります~  作者: とろたま愚鈍
第二部:最終章|キムラ・ジュディ編

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第二百一話「再会と選択」

「……ひ、久しぶり。」


それだけ言って。

目の前の彼女が、少しだけ困ったように笑った。


「あ、あぁ……。」

「……。」

「ああぁぁ……。」


その声を聞いた瞬間。

喉の奥から、勝手に嗚咽が漏れた。


「ご、ごめんなさい。出てくるつもりは、なかったのだけど。」

「あああぁぁぁぁ……。」

「必死に、繋ぎ止めようとはしていたのだけど……。」

「あぁぁぁぁぁ!!!」


何を言っているのか。

頭には、ほとんど入ってこなかった。


エルナが、今、目の前にいる。

三年前にいなくなったはずの彼女が。


俺を、見ている。


「……っ。」


そっと、手を伸ばした。

エルナの手を、握る。


冷たい、エルナの手だった。

ここにいる。


エルナが、ここにいる!


「あ、あぁぁぁ……。」

「……ちょっと、ジュディ?」

「エルナ……。あ、あぁぁぁぁ!!」


ダメだ。止まらない。


泣いている時間は、ない。

分かっているのに、止めることができなかった。


「わぁああああああ!!!」

「……。」

「あああぁぁ、ぁああああ!!!」

「……。」


俺は、エルナの手を握ったまま泣き続けた。


もう二度と会えないと思っていた。

話せないと思っていた。謝れないと思っていた。


それが今、ここに——。


「うるさい!!!」



「へぶぅ!!」



頭に、衝撃が走った。


「……え?」


痛い。いや、そんなに痛くはない。


「え、え。なんで?え?」


頭を、思わず押さえる。

目の前では、エルナが手刀を振り下ろした姿勢のまま、俺を睨んでいた。


……チョップされた?


「え、え。エルナ?」

「だから、うるさい!!時間!!!ないんでしょ!?」

「……。」

「な、何よ?」

「う、うぇ。」


顔を見ると、また涙が出そうになる。

その瞬間、エルナが無言で手刀を構えた。


「……。」

「時間、ないんでしょ?」

「……はい。」

「私はね。やることやってから、くつろぐタイプなのよ。」

「……そうでしたね。」


感傷も何も、あったもんじゃなかった。

そんな、いつものエルナとの再会だった。


「まぁ、くつろぐ時間すらあるのか。微妙だけどね。」

「……。」


全然、笑えなかった。




—




エルナが、小さく息を吐く。


「こほん。じゃあ、まずは端的に情報を伝えるわ。」

「……うん。」

「その後に、あなたの言葉を聞かせて。最悪、時間が足りなくなっても、情報を渡すところまではやり切りたい。」

「あー。えっと。エルナ?」

「……何よ?」

「なんか。なんかさ。」

「え、えぇ。」

「冷たいっていうか、淡泊じゃない?」

「……。」


短い、沈黙が落ちた。

少しだけ、エルナの瞳が揺れる。


「はぁ~。ジュディ。」

「はい。」

「あ、あ、あなたが、大好き。愛してる。本当に。」

「……。」

「はい、話進めるわよ?」

「雑ぅ!!!!」


エルナが、指を二本立てた。


「私が、あなたにマストで伝えたいことは二つ。」

「無視なんですね。あと、マストとか使うんだエルナ。」

「うるさいわね。茶々入れないで。」


一本、指を折った。


「まず、一つ目。この状況について。」

「……この、状況。」

「えぇ。私は少なくとも、エミリの内側から状況を知ってる。」

「……。」


一瞬だけ、エミリの顔が頭に浮かんだ。


同じ顔でも、今目の前にいるのは。

間違いなく、エルナだった。


「これまで私は、なるべくエミリに発作が来ないようにしてた。正確には、私が表へ出ないように。内側から、出来る範囲で押し返してたって感じね。」

「……そんなこと、出来たのか?」

「出来た。と言っていいのかは微妙だけどね。完全には止められなかったし。」

「じゃあ、今エルナがいるのは?」

「単純よ。」


エルナが、自分の胸元に手を置いた。


「限界が来た。ただ、それだけ。」

「……限界。じゃあ、エミリはもう……。」

「それは、違うわ。」


即答だった。

その言葉に、思わず目を見開く。


「まだ、間に合う。」

「……間に合う、のか?」

「えぇ。詳しい時間までは分からないけれど。」

「……。」

「だから、時間はあるわ。いや、ないんだけど。今日中なら、間に合うはずよ。おそらくね。」

「……どっちなん。」

「あんた、そういうとこ細かいわね。相変わらず。」


いやいやいや。大事なところじゃね?

エルナが、二本目の指を折る。


「二つ目。これは……言い訳なのだけど。」

「……なに?」

「あなたの、異世界召喚に関して。」

「……異世界、召喚。」


思わず、聞き返した。

エルナは、少しだけ視線を落とした。


「私は、あなたを『召喚したつもり』だった。独自の魔術式を組み上げて。」

「……した、つもり?」

「えぇ。木村樹莉という人間を、ここへ呼ぶ。そのつもりだった。」

「……えっと、つまり。俺がコピーであることは、エルナも?」

「知らなかった。」


エルナが、真っすぐ俺を見る。


「そんな術式、私は組んでない。」

「……え。」

「世界が、私の術式に干渉した。これは、エミリの記憶で分かったことだけど。」

「……確か。相互の世界に、物理的な干渉は不可能だってゼノが言ってたな。」

「えぇ。まさか、コピーに置き換わるエラーなんてね。」


……なるほど。


俺が、どうして生まれたのか。

どうして、木村樹莉本人ではなかったのか。


その答えの輪郭が、なんとなく分かった気がした。


「……つまり、ね。」


エルナが、小さく言った。


「あなたを呼んだのは、私。それなのに、元の世界に返す術を持ってない。」

「……。」

「結果として、あなたをこんな目に遭わせた。その事実は、変わらない。」

「……。」

「ジュディ。本当に——」

「エルナ。」


エルナの言葉を、遮った。


握っていた手に、少しだけ力を込める。

エルナの手に、少しだけ熱が籠るのを感じた。


「ありがとう。」

「……ジュディ?」

「俺を、召喚してくれて、ありがとう。」

「……っ。」


エルナの目が、大きく開いた。


「色々あったけど。死にそうになったし。いや、今も死にそうなんだけど。」

「……。」

「それでも。君に呼ばれたことを、俺は後悔してない。」


エルナが、しばらく黙っていた。


「……謝る前に、感謝されるなんて、ね。」

「……あ、謝るつもりだったんだ。」

「当たり前でしょ!!!」

「怒るのは、違くない!?」


エルナが、一瞬固まる。

それから、小さく噴き出した。


「ふ、ふふふ。」

「……っは。あはは。」


俺も、少しだけ笑った。


あぁ、変わらないな。

この、心地良い空気は。


エルナとは、こうやって俺は生きていた。




—




「はぁ~。なんか、久しぶりね。この感じ。」

「……そうだな。」


エルナが、俺を見る。


少しだけ、笑ったまま。

それでも、すぐに表情を戻した。


「さて、ジュディ。これで、私の伝えるべき情報は、全部。」

「……うん。」

「あなたは、これから——」

「あ、ちょっと待って。」

「え、えぇ。」

「エルナは、魔法使いだよな?アーヴィンと同じ。」

「今さら、何?」

「なら、俺の上書きに関しては、今サクッと解決できたり……?」

「無理ね。」

「無理かぁ~。」


一秒くらい期待した。

期待は、一秒で終わった。


「……私の魔法は、あの時に死んじゃったから。」

「あの時?」

「……えぇ。」


エルナは、それ以上言わなかった。


「まぁ、ここで詳しい話をしても時間が勿体ない。」

「そう、だな。」

「今は、その選択がない。その上で、話しましょう。」

「……分かった。」




—




「改めて、ジュディ。」

「……。」


エルナが、俺を見ている。

その視線に、少しだけ背筋が凍った。


「その上で、あなたの——」

「あー、エルナ。」

「何?」

「一つさ。俺も謝らなきゃいけないことがあるんだよ。」

「……。」


思わず、エルナの言葉を遮った。

エルナが、何も言わずに俺を見る。


「工房なんだけどさ、色々あって爆発しちゃって。」

「……ジュディ。」

「いや、俺が爆発させたわけじゃないぞ?色々あって、ハピレスって奴らが……。まぁ、その辺も長いんだけど。」

「ジュディ。」

「色々燃えちゃったんだけどさ、栞。栞だけは、なんとか無事でさ。」

「……。」


……止められてる。


そんなのは、分かってる。

分かっているけど、口が止まらなかった。


「今は、仮の住まいで、カイラとサヤとで暮らしててさ。あ、サヤとも、いつの間にか一緒に住むようになってさ。参るよなぁ。狭くって……。」

「ジュディ!!!」

「……っ。」


声が、止まった。


エルナが、俺を真っすぐに見つめる。

怒っているようにも、泣きそうなようにも見えた。


「教えて?」

「……。」

「ジュディ。」


目を、逸らした。


「もう少しも、ダメなのかよ?」


口から出た声が。

思っていたより、弱かった。


「……えぇ。ダメよ。」

「まだ……まだ伝えてないことが。伝えたいことが、たくさんあるんだ。」

「……えぇ。」

「……三年だぞ。」

「えぇ。知ってる。」

「エルナに、聞いてほしいことが——」

「分かってる。でも——」


エルナが、俺の手を握り返した。

先ほどとは違う、温かい手だった。


「私が聞きたいことは、一つだけ。」

「……。」

「あなたの、想いを聞かせて?」

「……それを、君に言わなきゃダメなのか?」

「ダメじゃ、ない。」


エルナの声が、少しだけ震えた。


「ダメじゃ、ないんだけど……。」

「……。」

「お願い。私が、聞きたいの。」


逃げ道が、なくなった。

いや。最初から、そんなものはなかった。


俺は、もう選んだ。

選んだんだ。


「キムラ・ジュディは、どうするの?」

「……。」


息を、吸った。


……言いたくない。


本当は、このままどうでもいい話をしていたい。


カイラのこと。サヤのこと。ネルのこと。エミリのこと。

この三年間にあった、みんなのこと。


全部、それを話して。

エルナに笑ってほしかった。

……エルナと、笑っていたかった。


「……エルナ。」

「……えぇ。」


俺が選んだんだから。

俺が、それを背負わなきゃいけない。


震える声で、俺は言葉を紡いだ。




—




「……。」

「……。」


二人の間に、沈黙が落ちた。


エルナは、ただ待っている。

……俺の言葉を、待っていた。


俺は、目を逸らさなかった。

逸らさずに、言った。


最愛の人への、言葉を。


「俺は、君が。君を、愛してる。」

「……っ。」


エルナの瞳が、揺れた。


「君に召喚されて。君にたくさんのモノを貰えて。君に愛してもらえて。」

「……。」

「俺は、この世界に生まれて、よかった。」


言ってから、胸が痛んだ。


妻がいて、娘がいた。


今でも、帰りたい。

そこが、俺の帰る場所でなくても。

許されるのなら、帰りたい。


この世界に来たことを。

全部よかったなんて、そんな簡単に言えるわけがない。


だから、俺は——。


「……よかったって。」


一度、息を吐く。


「よかったって。言える自分で、ありたい。」

「……ジュディ。」

「俺は、君が好きだ。」

「……。」

「今も、好きだよ。」


エルナの目から、一筋の涙が落ちた。


「……遅いけど。色々と。」

「……うん。」

「本当に、遅い。」

「ごめん。いや、言い訳をすると——」

「分かってるから。言わなくていいわよ。」

「……。」

「ばか。」


エルナが、笑った。

泣きながら、少しだけ笑った。


「……だからこそ——」


俺は、続ける。


……言いたくない。

でも、言わなきゃ。


俺を愛して、俺が愛してる。

この人には、伝えなきゃ、ならない。



「——俺は、君を選べない。」



エルナの表情は、変わらなかった。

笑ったまま、泣いていた。


「……。」


何も、言わない。

俺も、それ以上何も言えなかった。


ただ握った手だけが、少し強くなる。

これから失う手を、失わないように。

矛盾する想いを、ただ握りしめた。


「……そう。」


しばらくして。

エルナが、小さく言った。


「……それを、あなたは選ぶのね。」

「……うん。」

「キムラ・ジュディが、選んだのね。」

「……っ。」


胸が、痛い。


ずっと、会いたかった。

戻ってきてほしかった。


まだ、戻れる。

さっきの言葉を否定すれば、まだ。


——それでも。


「俺は、エミリを生かす。」


俺は、言った。

その選択を、言い切った。


「君が好きでいてくれた。君が信じてくれた『キムラ・ジュディ』を——」

「……。」



「——俺は、選びたい。」



声が、震える。

その言葉を最後に、また涙が溢れた。


「……っ。」

「……。」


……静かだった。

機械の駆動音と、二人のすすり泣く音だけが聞こえる。


エルナは、俯いた。

握っていた手に、力が入る。


しばらく。本当に、しばらく。

何も、言わなかった。


「……私はね。」


やがてエルナが、ぽつりと言った。


「……あなたと生きたかった。」

「……っ。」


顔を上げる。

涙を流しながら、エルナは笑っていた。


「だって。恋が、実ったんだもの。」

「……エルナ。」

「あなたに朝、起こされたかったし。あなたの作るカレーだって、また食べたい。」

「……。」

「……カイラとサヤの件も、詳しく聞かせてほしかったし。」

「え、そこ大事?」

「大事よ。私知ってるんだから、二人があなたを好きだって。」

「……はい。」

「……どうすんのよ?」

「いやぁ……。」

「……ふふ。嘘よ。」


エルナの涙は、止まらない。

それなのに、笑っていた。


本当に、最後までエルナだった。


「あなたの選択が正しいのか。私には分からない。」

「……うん。」

「あなたが後悔しないなんて、そんなことも言えない。」

「……。」

「正直ね。悔しい、なんてことも思ってる。ごめんなさい。」

「……謝るなよ。当然だって。」


その言葉に、胸が締め付けられる。

彼女は、俺に「それでいい」とは言ってくれない。


いや、そもそも。

この選択が正しいとは、言ってくれない。


「でもね。ジュディ。」

「……。」

「かっこいいわよ。あなた。」


エルナが、笑った。

これまで見たどんな顔よりも、大きな笑顔で。


「最後に見たあなたが。」

「……。」

「私の大好きな、『キムラ・ジュディ』であったことが。」


涙を、流しながら。


「——私はね。とても、嬉しい。」


何も言えなかった。

言葉を返したら、声を出して泣いてしまいそうだったから。


「……ジュディ。」

「ん。」

「最後に、一つお願いしていい?」

「……また、俺のままで生きろ、とか?」

「それは、もう言わないわよ。」

「……言わないの?」

「言わない。どんなあなたでも、好きだもの。」

「矛盾してね?」

「してないわよ!」

「えぇ……。」

「一生懸命に選ぶのが、あなたでしょ?」

「……。」


……なんなんだよ。

呪いだと言われていたものは、そんな。


そんなに、単純なことだったのか。


「こほん。え~、ジュディ。」

「はい。」

「えっと、え~。エミリには、後で殴られて頂戴。」

「……なんで、ここでエミリ?」

「き、き。キ——」

「き?」


エルナが、少しだけ頬を赤くする。


なに?なんなんだ?

ちょっと怖くなってきた。


「……キスを、してください。」

「……。」

「何よ。嫌なの?」

「いや。えっと。」

「あ、違った?えっと。キスを、しましょう?キスをしていただけませんか?……ど、どれ!?」

「……っは。」


少しだけ、笑ってしまった。

だって、可愛いから。普通に。


「わ、笑うなぁ!!!慣れてないのよ!!!」

「……あ、あぁ。そうだよな。」

「あ、あ。今バカにしたわね?バカにしたでしょ?」

「……エルナ。」

「何よ!!!」


真っ赤になったエルナを、見つめる。

まだ、知らないエルナがいたんだな……。


もっと沢山、あるんだろうな。


「キスを、してもいいか?」

「……っ。」

「ダメ?」

「……喜んで。」


椅子から、立ち上がる。

エルナの顔が、近い。


「……エルナ。」

「む。」

「……。」


むって、なんだ?

……ま、まぁいいか。


「……っ。」


俺は、彼女の頬に手を添えた。

そのまま、ゆっくりと顔を近づける。


エルナは、目を閉じた。

三年前。あの時は、エルナからだった。


今度は、俺から。

想いを伝えるように。



——唇が、重なった。



短くて、長い。

そんな時間だった。


この時間を。この感触を。


俺は、忘れない。


「……。」

「……。」


やがて、ゆっくりと離れる。


「……っぷは。」


エルナが、目を開けた。

頬は、ずっと赤いままだった。


「……エルナ?」

「い、息って、どうすればよかったの?」

「……っは。ははは。」

「わ、笑うなぁ!!」

「あはははは!!!」

「……っぷ。ふ、ふふ。」


エルナと、笑った。

なんだか、俺達らしい。


それが、嬉しくて。


「……っ。」


突如。

エルナの輪郭が、一瞬だけ揺れた。


「……エルナ?」

「えぇ。そろそろ、みたい。」

「……。」


握っていた手を、さらに強く握る。


「……なんて顔してんのよ。」

「い、いや無理だろ。」

「泣いたり、笑ったり。忙しいわね。」

「……誰のせいだよ。」

「私よね?」

「……あぁ。」

「ふふ。」


エルナが、また笑った。


「……ねぇ。ジュディ。」

「……何?」


エルナが、少しだけ上を向いた。


「私、前は『自分の人生、悪くなかった』って、そう思ってた。」

「……あぁ。聞いてたよ。」

「あぁ。そっか。記憶、見たのね?」

「……うん。宝石で。」

「そう。なら、これからの言葉で十分ね。」


エルナは、俺を見る。

いつものように、真っすぐに。


「それ、違ったわ。」

「……違った?」


エルナは、また笑った。


「私の人生は、『悪くなかった』なんてものじゃなかった。」

「……。」

「あなたに会えて。恋だって、できて。」

「……。」

「キスだって、しちゃったんだから。」


エルナの瞳から、また涙が落ちた。

それでも、彼女は笑っていた。


「最高の、人生だったわ!」


胸の奥が、ぐちゃぐちゃになった。

悲しい。寂しい。嬉しい。

全部が、一緒だった。


「……エルナ。」

「何?」

「俺も——」


言葉が、止まった。

エルナが、首を振る。


「ジュディ。」

「あ、あぁ。」

「ちゃんと、生きてね。」

「……ちゃんと?」

「えぇ。ちゃんと、あなたの選んだ人生を、生きて。」

「……。」

「早めにこっちに来たら、追い返すから。」


握っていた手から。

少しずつ、力が抜けていく。


最後まで。

本当にエルナは、エルナだな。


「……分かったよ。」

「ふふ。」


エルナが、目を細める。

その顔を、俺は知っている。


何度も見た、懐かしい顔。


工房で。街で。旅先で。


俺と一緒に、生きていた時に見た顔。

これからは、もう見れない顔。


「じゃあ、ね。」

「あぁ。」



「バイバイ。ジュディ。」



その言葉を最後に。

握っていた手から、力が抜けた。


静かに、瞼が閉じる。


そのまま、少女は俺にもたれかかった。


「……っ。」


小さな寝息が、聞こえる。

エルナは、もういなかった。


また、少しだけ。

俺は泣いた。


第二百一話、お読みいただきありがとうございます!


再会しましたね。

まぁ、しましたが。


……はい。


エルナとジュディのお話でした。


次回もよろしくお願いします!

ブクマやコメントをいただけると、ジュディが泣き止みます。

……多分、無理です。僕も無理です。


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