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スペル・エラー ~娘が生まれるのに異世界へ召喚されたので、何があっても帰ります~  作者: とろたま愚鈍
第二部:第五章|間章

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第百九十三話「彼と彼女が選ぶもの」

翌日の、昼過ぎ。


「……頭、いてぇ。」


仮住まいの前で。

俺は、しばらく扉を眺めていた。


昨日は結局、朝まで飲んだ。


そのまま、ガレスの拠点で少し寝かせてもらい。

目を覚ました時には、とっくに昼を過ぎていた。


……酒って怖いな。

いや、俺が悪いんだけどさ……。


「……ただいまぁ。」


扉を、開ける。


「おかえり~。」

「おっそ。」

「おかえり、なさい。」


三人分の声が、返ってきた。


カイラとサヤ。

それから——。


「……ん?」


思わず、足を止めた。

エミリが、共有スペースの真ん中に立っている。


昨日まで下ろしていた銀色の髪は。

後ろで、一つにまとめられていた。


「……。」


思わず、目を見張る。


……これ、ポニーテールだよな?


着ているのは、黒いパーカー。

胸元には、小さな犬の刺繍があった。

紐や袖口。所々に、淡い水色が入っている。


下は、動きやすそうな黒いスパッツ。


全体的に、なんというか。

……スポーティな感じ?


「……。」


エルナなら、多分選ばない。


髪型も、服も、色の使い方だって。

全部、全然違う。


「……ジュディ?」

「あ、いや。」


エミリが、不安そうに俺を見る。

改めて、上から下まで見る。


——似合ってる。

ちゃんと、似合っていた。


なんとなく、エミリらしい。

そう思った。


「エミリ。」

「は、はい。」

「……。」

「……。」


少しだけ、言葉を探した。

でも結局、思うままを口にした。


「すっげー似合ってる。可愛いよ。」

「……っ。」


エミリの顔が、一気に赤くなった。


「……っ~~~~!!!」


何故か、そのまま俺に背中を向ける。


「聞きましたか!!カイラ!!サヤ!!!」

「あはは!聞いた聞いた!」

「よかったじゃん。」

「えへ!!えへへへへ!!!大勝利です!!」


……なんだこれ。

何の勝負してたの?


「何か、賭け事でもしてたのか?」

「失礼な!!してませんよ!……これは勝負だったのです。」

「……勝負?」

「はい。」

「なんで?」

「ジュディは、先日。黒いロングコートを提案しましたね?」

「……あ、あぁ。したな。」

「センスないと思いました。しかし、自分で選んでもないのに否定するのは、いただけないでしょう?」

「……。」

「これで、遠慮なくディスれます。あれはないです。本当にない。」

「いやいや!カイラとサヤもいたんだろ?ずるじゃねーか?」


別にセンスがどうのは、似合ってればどうでもいいと思う。

でも、このままタコ殴りにされるのは癪だ。


カイラが、エミリのパーカーを少し摘まんだ。


「ジュディ。これ、エミリが自分で選んだんだよ?」

「……へぇ。アドバイスとかは?」

「してないよ!」

「……。」


エミリを、見る。


「本当に、自分で?」

「はい!」


嬉しそうに、頷いた。

なんか、釈然としねぇ……。


「動きやすくて。可愛いものが、いいと思いまして。」

「……ほう。」

「カイラとサヤに、色々持ってきてもらいました。」

「こいつ。人に持ってこさせといて、ほとんど却下すんだよ。」

「サヤは、ちょっとカッコよすぎます。動きやすそうではありましたが。」

「……意外と自我強いんだよな。こいつ……。」

「カイラは、全体的に可愛すぎます。」

「えぇ~。」

「なので、その中間を取りました。テーマは中和です。」

「……中和。」


エミリのパーカーの胸元を見る。


「なんですか?人の胸ジロジロ見ないでください!」

「いや!違うって、犬の刺繍。カイラの服にもあった気がして。」

「お!目ざとい!流石ジュディです!この犬は、可愛いですね。」

「……目ざとい。」

「あと、この色も好きです。」


淡い水色の部分を、指で摘まむ。


「動きやすくて、可愛い。好きな色に、犬もあります。」

「……全部乗せだな。」

「欲張っては、いけませんか?」

「いや。いいんじゃねぇ?似合ってるしさ。」


好きなもん着りゃいいだろ。

そう言おうとして、なんとなく口を閉じた。


「その、束ねた髪は?」


ポニーテールを指差す。


「サヤに、教えてもらいました。」

「へぇ。確かに、たまに結んでるよな。」

「うん。似合うっしょ?」

「うん。似合ってるな。」


サヤが、少しだけ得意そうな顔をした。


「ほらな?動きやすいし、好印象だろ?」

「はい!」

「随分、仲良くなったじゃん?」

「昨夜、親睦を深めましたので。」

「へぇ。」


……何話してたんだろ。

気になるけど……。


なんか、聞かない方がいい気がした。




—




「ね。せっかくだしさ。」


カイラが、俺達を見る。


「二人で、少し出掛けてきなよ?」

「……え。」


思わず、顔をしかめた。


「あ~、カイラ。俺、頭痛くてさ。寝たくてさ。」

「自分のせいでしょ?」

「……ひぃん。」

「あはは。分かったよ。白湯持ってきてあげる。」

「……行くのは確定なんすね。」


こういう時の、カイラは強い。

為す術がなかった。


エミリが、カイラとサヤを見る。


「お二人は、来ないのですか?」

「ん~。私は、今日はいいかな。」

「私も、いいや。」


サヤが、立ち上がる。

そのまま、エミリの肩へ腕を回した。


「エミリ。」

「……はい?」

「昨日、ジュディに聞きたいことがあるって言ってたろ?」

「……言いましたね。」

「聞いて来いよ。」

「ほう。」


エミリの目が、少しだけ開く。

しばらくして、エミリが満足そうに頷いた。


「ふふん。サヤ。ナイスアシストですね。」

「んはは。だろ?」

「あー、何の話だ?」


二人を見る。

エミリが、俺に向き直った。


「パジャマパーティです。」

「ん。何それ?」

「いいのです。ボンクラは知らなくて。」

「……サヤ。」

「あ?」

「何教えた?」


サヤが、俺を見る。

カイラが、白湯を俺に手渡す。


「……ありがとう。」

「あ、あとこれ。頭痛薬。」

「……ども。」


あぁ。ホッとする。

白湯を飲みながら、サヤの言葉を待った。


「……何も、教えてねぇよ?」

「いや。ならエミリから『ボンクラ』なんて単語出ねぇだろ。」

「教えてねぇって!ジュディの話はしたけど。」

「……どんな話?」

「それは、内緒だろ。プライベート侵害~。」

「プライバシーだろ……。怖ぇよ。」


カイラが、空になったコップを俺から取った。

……楽しそうに笑っていた。


「ほらほら。行ってきなよ。」

「……はぁ。はぁい。」

「あはは。しんどそう!……エミリ。」

「は、はい?」

「楽しんでおいで。」

「えへへ!もちろんです!」


エミリが、勢いよく立ち上がる。


……元気だなぁ。


こっちは、頭割れそうなのに。




—




カルディアの街を、二人で歩く。

天気は、悪くない。


昼を少し過ぎた街には、人が多かった。


エミリは、なんだか落ち着きがない。


「……。」


店の横を通る。


大きなガラスに、俺とエミリの姿が映った。


エミリが、ちらっと横を見る。

立ち止まり、しばらくガラスを凝視する。


「……。」


次の店の前を、通り過ぎる。

また、ガラスを見ていた。


「……エミリ。」

「はい?」

「服、気に入ったんだな。」


エミリが、ガラスに映る自分を見る。

すぐに、笑った。


「えへへ!はい!」

「そっか。」


パーカーの裾を、少しだけ広げる。


「これ、いいですね!いいでしょう?可愛いですよね!」

「あ、あぁ。そうだな。可愛いよな。」

「ふふん。」


胸を、張る。

そんなに気に入ったんなら、よかった。


また、二人で歩き出す。


ポニーテールが。

エミリの動きに合わせて、左右に揺れた。


エルナとは、やっぱり全然違うけど。

今は、それが、とても普通に見えた。




—




少し歩いたところで。

エミリが、急に止まった。


「ジュディ!ジュディ!」

「ん。どうした?」

「……あ、あれ。あれです。」


店先を、指差す。


「プリン。プリンです。」

「あぁ。プリンだな。」

「プリンプリンです。」

「なんなんだよ。見りゃ分かるよ。」


透明な容器に入ったプリンが、店頭の冷蔵棚に並んでいた。

エミリが、じっと見つめている。


「……ジュディ。」

「何。」

「買ってください。」

「……。」

「私は今、直接食べられます。」

「そりゃそうだろ。」

「実際に!!!食べられるのです!!!」

「声でっか。」


感覚共有で、味はもう知っているはずだ。

俺が食べたものを、エミリも一緒に感じていた。


でも、アッシュタウンで話した時。


——プリンも、直接食べてみたい。


エミリは、言っていた。


「はぁ。一個だけだぞ?」

「……二個。」

「ダメ。一個。」

「……ジュディ。お願~い。」

「ダメ。」

「クソが!」


……こ、こいつ。


店頭で一つだけ購入し、エミリに渡す。

そのまま、店の近くにあるベンチへ座った。


「ふっ。ふふふ。いよいよです。」

「何、そのテンション。」


エミリが、容器の蓋を取り、スプーンを持つ。

そのまま、プリンをじっと見た。


「相変わらず、見た目は。人間を溶解して固めたような感じですね。」

「それ、自分で食う前に言ってテンション下がんねーの?」

「シャラップ!!!今から食うのです!静かに!!!」

「なら、早く食えよ……。」


エミリが、プリンを掬う。


少しだけ、スプーンを眺めて。

口へと運んだ。


「……ふぉ。」


……止まった。

というよりも、固まった。


「お、おい。エミリ?」

「……幸せが。」

「あ、あぁ。」

「……今。直接、わらひの、くひの中に……。」


呑み込んでから喋ろうな。

なんか、懐かしい反応だな。


「美味いってことだよな?」

「……ん。美味しいです。」


もう一口。


「でも、知ってた味だろ?」

「はい。これ、好きです。」

「そっか。甘いもの、好きなんだな。」

「プリンは特別です。今確定しました。」


また、一口。


「知っているのと。自分で食べるのは、違いますね。やっぱり。」

「そういうもんか?」

「そういうものです。」

「……一口くんね?」


エミリが、俺を見た。

そのまま、プリンに視線を落とす。


「これは、私のプリンです。」

「……俺が買ったんだけど。」

「細かい男ですね。小賢しい。」

「いやいやいや。正当な要求だと思うんだけど。」


エミリが、笑った。


「えへへ。ダメで~す!」


すぐに、容器は空になった。


「無くなりました。」

「あぁ。無くなったな。本当に一口もくれなかったな。」

「……ジュディ。もう一個。」

「ダメ。夕飯食えなくなるだろ。」

「……滅。」

「それ、はまったんだな……。」


空になった容器を、エミリから受け取った。




—




夕方。


俺達は、カルディアを見渡せる高台にいた。

別に、特別な場所じゃない。


少し坂を登った先にある、開けた場所。

前に、アルトと会話をしながら見つけた場所だ。


……そういえばロイドとも。

最初はここで出会った気がする。


「……おぉ。」


エミリが、声を上げる。

眼下には、カルディアの街が広がっていた。


高いビル。古い建物。街の上を走る輸送路。

遠くには、アルカナのビルも見える。


日が、少しずつ傾いていた。


「……綺麗ですね。」

「あぁ。いいよな、ここ。」


エミリが、柵へ近づく。


「前にも、見ました。」

「……あぁ。そうだな。」


エミリと共感覚で繋いでいた時。

俺の目を通して、カルディアの空を見ていた。


「……直接見ると、やはり違いますね。」

「何が?」

「ん~。分かりません。」

「なんだよ、それ。」

「えへへ。でも、違いますよ。」


……まぁ、そういうもん、なのか?


エミリの隣に並ぶ。

しばらく、二人で、街を見ていた。


「……。」

「……。」


お互いに、何も喋らない。

夕日が、ビルの隙間を赤く染めていた。


「……ジュディ。」

「ん?」


エミリが、こっちを見る。


「一つ、聞きたいことがあります。」

「何だよ。改まって。」

「大切なことです。」

「……大切な、こと?」


……なんだろう。

エミリが、少しだけ姿勢を正す。


「ジュディは。」

「うん。」

「どうしたいですか?」


「……。」


一瞬、言葉が止まった。

聞いたことのある、質問だった。


「……それ、さ。」

「はい。」

「俺が、お前に聞いたやつじゃん。」

「そうですよ?」


エミリが、頷く。


「私だけ聞かれて。私だけ答えるのは、フェアではないでしょう?」

「……そうかぁ?」

「そうです。」

「いや、そうでもないだろ?」

「そうですって。逃がしませんよ。」


エミリが、少しだけ笑った。


「では、ジュディ。改めて聞きます。」

「……。」

「あなたは、どうしたいですか?」


もう一度、聞かれる。


「……。」


カルディアを見る。


夕日。街。人。


その向こうには、俺が今まで歩いてきた場所がある。

帰りたい場所も、ここで出会った奴らも。


まだ、答えなんて。

全然出ていない。


そんなことは、まだ分からない。


でも。今言える。

確実に、俺の中にあるものは。


「……俺は。」


口を、開く。


「俺は、生きたいよ。」


ただ、それだけだった。


エミリは、何も言わなかった。

少しだけ、俺の顔を見る。


「……。」


これが答えの全部じゃないことくらい、分かっている。

俺自身が、一番分かっている。


でもエミリは、それ以上聞かなかった。


「……そうですか。」

「あぁ。そうだよ。」


また、街へ視線を戻す。

エミリが、笑った。


「えへへ。……では。」

「ん?」


夕日に照らされた横顔。

エミリが、当たり前みたいに言った。



「二人で、生き残りましょうか。」

「……。」

「それから、考えるとしましょう。」

「……っは。」


思わず、笑った。


「ははは。」

「む。なんですか?変なこと、言いました?」

「いや。言ってねぇよ。」


頭を、掻く。


「……そうだな。」

「はい。」

「生き残るぞ。」

「はい!」


エミリが、頷いた。


カルディアの陽は、ゆっくりと沈んでいく。

今日が終わり、明日が来る。


「……帰るか。」

「はい。夜ご飯はなんでしょうか?」

「あ、カイラに聞いてみるか?」

「いえ。聞かない方がサプライズ感があっていいです。」

「ははは。んだよ。それ。」


高台を、後にする。


エミリのポニーテールが、歩くたびに揺れていた。


明日も、二人で、生き残る。


その先のことは。

それから、考えればいい。


第百九十三話、お読みいただきありがとうございます!


間章、これにて終了です!

エミリの好きなものが、色々と出来ましたね。


ジュディがエミリに聞いた、「どうしたい?」。

今回は、エミリから返しました。


また、中途半端な回答ですね。ジュディは。

まぁ。こいつらしいってことで。ここは一つ……。


次回からは!!!

いよいよ!!!

第二部最終章です!!!!


ブクマやコメントをいただけると、嬉しいです。

次回もよろしくお願いします!


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