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スペル・エラー ~娘が生まれるのに異世界へ召喚されたので、何があっても帰ります~  作者: とろたま愚鈍
第二部:第五章|間章

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第百九十一話「パジャマパーティ ver2.0」

仮住まいの夜。


夕飯を食べ終えた後。

ジュディが、共有スペースを見回していた。


「……。」


カイラ。サヤ。ジュディ。

そこにエミリを加えて、四人。


三人で暮らすにも狭い、仮の住まい。

これ以上は、限界だった。


ジュディは、三人の背中に向けて声をかけた。


「……なぁ。」

「ん?」


エミリが、振り返る。


「俺、ちょっと用事あるから。出てくるわ。」

「ん?用事?」


エミリが、不思議そうにジュディを見る。


「こんな時間に、ですか?」

「こんな時間にしか、できないこともあんだよ。」

「……変態ですね。」

「なんでだよ……。飲みだよ!飲み!」

「……飲み、とな?」

「そうだよ!!健全な、ただの人付き合い!」

「やけに、必死ですね。」

「……もういいや。なんか疲れたわ。」


サヤは、キャンディを咥えながらジュディを見る。


——分かりやすい奴。

寝る場所がないから、気を利かせたんだろう。


カイラも、気付いたらしい。

少しだけ笑っていた。


「朝には、戻ってくる?」

「多分な。遅くなったら適当に泊まるわ。」

「うん。分かった。」

「悪ぃな。……あ、エミリ。」

「はい?」

「二人の言うこと、ちゃんと聞けよ?」

「む。子供扱いしないでください。片腹痛いです。」

「……今度、一緒に言葉勉強するか?」

「あ!今馬鹿にしましたね?」

「……してねぇよ。」


ジュディが、上着を持つ。


「んじゃ、行ってくるわ。」


「いってらっしゃ~い。」

「……いってら。」

「……いって、らっさい?」


扉が、閉まった。


「「「……。」」」


部屋が、急に静かになった。

エミリが、扉を見る。


「……あっさり、いなくなりましたね。」

「あはは。ジュディは、決めたらすぐ動いちゃうから。」

「まぁ。長所でもあるし、短所でもあるな。」


「「「……。」」」


エミリが、二人を見る。


「いないと、静かですね。」

「いたらいたで、うるさいけどな。」

「……確かに、そうですね。」

「んはは。わかってんじゃん?」


サヤは、キャンディを噛み砕いた。




—




シャワーを済ませた後。

エミリは、カイラの部屋にいた。


「とりあえずさ。今日は私の着る?」

「……いいんですか?」

「もちろん!」


カイラが、棚から寝間着を取り出す。


淡い色のスウェット。

胸元には、小さな犬の刺繍が入っていた。


エミリの目が、少しだけ輝いた。


「……あ、可愛いですね。」

「あはは。こういうのが好きなんだね?」

「はい。色が好きです。」

「じゃあ、それ貸してあげる!」


数分後。

着替えたエミリを、二人は見つめていた。


「「「……。」」」


エミリが、袖を摘まむ。


明らかに、余っていた。

全体的にぶかぶかしている。


「……大きいですね。」

「う~ん。そうだねぇ。」

「カイラと私。身長は、そこまで変わらないですよね?」

「……うん。まぁ。」

「では、なぜ?」


「……は!?」


サヤは、全てを察した。

何も言わず、自分の部屋へ戻る。


パーカーと短パンを持ってきて、エミリへ渡した。


「エミリ。こっちにしな。」

「え?」

「いいから。着替えてみ?」

「……え、えぇ。はい。」


エミリが、受け取る。


また、数分後。

着替えたエミリを、二人は見つめていた。


「「「……。」」」


……ぴったりだった。

エミリが、ゆっくりとサヤを見る。


「……サヤ。こ、これは。こんなことが……。」

「エミリ。何も言うな。」

「いや、だって!!そんなはずはありません!身長は……!!!」

「何も、言うな。」

「み、認められない。認めたくありません!!」

「エミリ。」

「……っ。」


サヤは、エミリの肩に手を置いた。


「私たちは、負けたんだよ。」

「……そ、そんな。」


エミリが、愕然とする。

後ろから、カイラの声がした。


「えっと……。何の話?」

「うるさい!!その二つの凶器をこっちに向けんな!!」

「えぇ……。」

「不平等を、訴えます!!!」

「えぇ……。」


なぜ、初日の夜から。

こんな話をしているのか。




—




三人で、共有スペースに集まった。


テーブルの上には、菓子と飲み物。

サヤは、いつもの棒付きキャンディをパラパラと置く。


エミリは、目の前のチョコを一つ取った。

袋を確認して、口へと放り込む。


「……甘いですね。」

「あはは。甘いお菓子だからね。」

「……お菓子。」


もう一つ取る。

そのまま、また口へと放り込んだ。


「……と、止まりません。た、助けて。」

「んはは。いやいや、止められるでしょ。」

「あぁ、止めたくない。……そんなことよりも、です。」

「んぁ?」


エミリが、二人を見る。


「これから、何をするんですか?」

「え?別に、何もしないよ?」

「……何も、しない、だと?」


カイラの即答に、エミリの手が止まった。

その様子を見て、サヤが吹き出す。


「んはは。止まったじゃん。よかったな。」

「……何もしないのに、集まっているんですか?」

「え、うん。」

「……では、この状況は一体?」

「え。……ただ菓子食って、駄弁るだけだよ。あ、眠かったら寝てもいいけど。」

「……えっと。何か目的は?」

「ねぇよ。そんなの。」

「……。」


エミリが、眉を寄せる。


「これは、何というか。……非効率ですね?」

「んはは。まぁね。」

「あはは!でも、こういうのが楽しいんだよ?」

「……ふぅん?」


納得したような。

……していないような。


それでも、エミリは席を立たなかった。

チョコを、もう一つ取る。


「……これ、美味しいですね。」

「何だかんだ、気に入ってんじゃん?」

「まぁ、はい。」

「じゃあ、それでいいんじゃね?」

「何がです?」

「んはは。何でもな~い。」


サヤは、キャンディを口に戻した。




—




しばらく、どうでもいい話をしていた。


カルディアで、新しく出来た店。

サヤが、最近実家に帰ったこと。

カイラが、アッシュタウンで経験したこと。


エミリは、その一つ一つに質問をする。


妙に細かい。

たまに、どうでもいいところへ食いつく。


それが、カイラとサヤには新鮮だった。


「……あ。」


カイラが、何かを思い出したように声を出した。


「サヤ。」

「んぁ?」

「言っておかなきゃいけないことが、あるんだ。」

「何?」


カイラが、少しだけ姿勢を正す。


「……えっとね。」

「うん?」

「私、ジュディに、ね?」


サヤは、少しだけ考えた。

しかし、考えるまでもなく、思い当たる節は一つしかない。


「はっは~ん。告ったんだ?」

「……いや。」

「え、違うん?」

「告ったとは……。ん~~。まぁ、そうなのかな?」

「なんだよ。なんか煮え切らないじゃん?」

「なんかさ。色々溢れちゃって。そのまま、気持ちが口に出ちゃった。」

「んはは。」


なんとなく、分かる気がした。


「む。笑わないでよ!」

「いやいやいや。ごめんごめん!……私も、似たようなもんだったなって。」

「……そうなの?」

「売り言葉に、買い言葉みたいな感じだったじゃん?カイラも聞いてたっしょ?」

「……あはは。まぁ。聞いてたね。」

「だろ?」

「うん。すんごいビックリした。」


二人で、笑った。

その横で、エミリがチョコを片手に固まっていた。


「……あの。すみません。」

「ん~?」

「どうしたの?」


二人が、同時にエミリを見る。


「お二人は、ジュディが好きなのですか?」

「「うん。」」

「……。」


エミリが、少しだけ身を引いた。


「ハモらないでくださいよ……。あと食い気味で怖いです。」

「お前が、聞いたんじゃん。」

「まぁ。それは、そうなんですが……。」


エミリが、チョコを頬張る。

そのまま、少しだけ考えた。


「あの。いくつか、質問をしても?」

「うん。いいよ?」

「何が、聞きてぇの?」

「……好きとは。」

「「うん。」」

「好きとは……。」

「……。」

「恋とは、なんでしょうか?」


サヤとカイラが、顔を見合わせる。


「ずっと一緒にいたいって思えること。」

「キスしたいって思ったら。」

「……。」


声が、重なった。

エミリが、また少しだけ身を引く。


「同時に違う答えが来て、また怖いです。」

「じゃあ、聞くなよ。」

「いいえ。」


エミリが、姿勢を正した。


「こんなところで、歩みを止める訳にはいきません。」

「お前、何と戦ってんだ?」


隣で、カイラの顔がじわじわと赤くなっていた。


「……サ、サヤ。」

「ん?」

「キス、したいの?」

「……は?」

「ジュディと、キス。」

「……え。」

「今、言ってたじゃん。」

「……。」

「……。」

「……あ~っと……。」


サヤは、視線を逸らした。

テーブルから、キャンディを手に取る。


「……し、したいけど?」

「きゃ~~~~!!!」

「おい!!!はしゃぐなよ!!恥ずいだろ!!!」

「だって、だって!サヤからそういうの聞くの初めてで!!」

「う、うぅぅ、うるせぇ!!!」

「顔、赤いですね。」

「お前も見てんじゃねーよ!!!」


最悪だ。

……本当に最悪だった。


カイラは、楽しそうに笑っている。

エミリは、興味深そうにこちらを見ている。


「……くそ。お前ら。」

「なんです?」

「……なんでもない。」


サヤは、キャンディを噛み砕いた。

エミリが、腕を組む。


「結局、全然分かりませんでした。」

「あはは。まぁ、人によって違うんじゃないかな?」

「まぁ。私とカイラで、もう違うし。」

「……ふむ。」


エミリは、何かを学んだような顔をしていた。




—




「そう言うエミリは、どうなんだよ?」


サヤが、聞いた。

エミリが、目を丸くする。


「どう……とは?」

「いやいや。ジュディだろ。話の流れ的に。」

「ジュディが、なんです?」

「あんたが、好きかどうかだよ。」

「……っ。」


エミリが、固まった。


「よく分かりません。答えなきゃダメです?」

「お前が始めた物語だろ。答えろよ。」

「……ふむ。」


エミリは、自分の顎に手を置いた。

今までのジュディと、先ほどの会話を思い出す。


ずっと一緒にいたいのか。キスしたいのか。


キス。

……ジュディと?


「あ~、エミリ?」

「……うぇ~~~~!!!!」

「あ?」


エミリが、口元を押さえた。

カイラが、慌てて立ち上がる。


「ど、どどど、どうしたの!?大丈夫!?」

「ジュディとのキスを、想像してみました。」

「「……。」」

「すみません。お茶もらってもいいですか?気分が……。」

「……まぁ、嫌いなんだな。」

「それは、違います!!!」

「うぉ。」


急に声が、大きくなった。

エミリは、カイラから受け取った茶を一口飲む。


「っぷは。……ジュディは、なんと言うか。」

「うん。」

「あ、そ、そう。信頼です!!」

「……信頼ぃ?」

「はい!!信頼しています!!」


サヤとカイラが、顔を見合わせる。


「あはは。確かに、ズバリなのかも。」

「んはは。まぁ、この感じだとそうなんだろうな。」

「そりゃ、そうです。なんですか?文句ありますか?」


エミリが、両手を小さく構えた。


「……やりますか?」

「なんで、喧嘩腰なんだよ……。」

「大丈夫!文句なんてないよ!」

「……なら、いいでしょう。」


エミリが、手を下ろす。

少しだけ、静かになった。


「……ジュディは、私に聞いたんです。」

「何を?」

「私が、どう生きたいのか。」


サヤは、エミリを見る。


「敵地で。時間もなくて。早く逃げなきゃいけなかったのに。」

「……。」

「大切なことだから、と。」


サヤは、少しだけ目を細めた。

思わず、笑ってしまう。


「……へぇ。なんか、変わったな。あいつ。」

「変わった?」

「うん。」


以前なら、あいつは聞かなかった。

勝手に抱えて突っ走ていた気がする。


「……まぁ。いい変化なんじゃね?」

「そうでしょうか。」

「うん。まぁボンクラなのは変わらないけど。」

「えへへ。そこはズバリですね!」

「んはは。だろ?」


二人で、小さく笑った。

やがて、エミリは自分の膝を見る。


「……私も、聞いてみたいです。」

「ジュディに?」

「はい。ジュディが、何をしたいのか。」


カイラも、エミリを見る。


「……。」

「私だけ聞かれて。私だけ答えるのは、おかしいでしょう?」

「……そっか。そうだね。」

「はい。酷い男です。」


エミリが、顔を上げる。


「このままだと。フェアじゃないですから。」


サヤは、少しだけ笑った。


「……そりゃそうだ。」

「でしょ?」

「うん。」


カイラも、笑った。


「聞いてあげてよ。」

「はい!」


エミリが、頷く。


「ちゃんと、答えてくれるまで聞きます。」

「……あいつ、たぶん逃げるぞ。」

「逃がしません。追い回します。」

「んはは。頼もしいじゃん。」

「えへへ!任せてください!」




—




夜も、だいぶ更けた。


せっかくだからと。

三人で共有スペースに寝具を並べた。


掛け布団二つと、寝袋が一つ。


ただでさえ、狭い。

三人分となると、ほとんど隙間がない。


エミリが寝袋に入り、真ん中に寝転んだ。


「……これは、また。やっぱり狭いですね。」

「……言うなよ。さっさと寝ろ。」

「本当に、よく三人で暮らしてましたね。」

「寝ろっつってんだろ。」

「あはは。」


カイラが、布団に入りながら笑った。

しばらく、誰も喋らなかった。


やがて、隣から小さな声がした。


「……こういうのも、悪くないですね。」


サヤは、目を閉じたまま聞く。


「何が?」

「……分かりません。」

「んはは。」


なら。

今は、それでいいんじゃないか。


「そっか。」

「はい。」


少しして、エミリの寝息が聞こえ始めた。


「……早ぇな。」

「あはは。寝ちゃったね?」

「一人で、散々喋っといてな?」

「あはは。」


カイラとサヤが、小さく笑う。


三人だけの、静かな夜。

久しぶりのパジャマパーティは。


一人、増えていた。


第百九十一話、お読みいただきありがとうございます!


パジャマパーティ、一人増えてver2.0でした。

意外と、相性のいい三人みたいです。


シンプルに作者が書きやすかった笑


次回は、同じ夜。むさ苦しい男どものお話です。

ブクマやコメントをいただけると、エミリのチョコを食べる手が止まるかもしれません。

次回もよろしくお願いします!


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