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スペル・エラー ~娘が生まれるのに異世界へ召喚されたので、何があっても帰ります~  作者: とろたま愚鈍
第二部:第五章|間章

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第百九十話「仮住まいへようこそ」

エミリとのカルディア散策。


次に向かったのは、本屋だった。

大通りから少し外れた場所にある、昔から変わらない店。


扉を開けると、紙とインクの匂いがする。


「なんか、久々だな……。」


棚いっぱいに並んだ本を見て。

一瞬だけ、昔の光景が浮かんだ。


エルナは、本屋に入ると急に俺への興味を失った。


話しかけても、返事をしない。

気付けば何冊も、抱えている。

……で、俺が持たされる。


本が、一番の友達だった。

そんなことを、何でもないように言っていた。


「……ジュディ?」

「ん?」

「何を惚けているんですか?」

「いや。なんでもねぇよ。」


エミリを見る。


棚をなんとなく眺めている。

ただ、それだけだった。


「エミリ。本とか、読まねぇの?」

「読みますよ。任務の合間とかに、よく読んでました。」

「へぇ。じゃあ、結構好きなんだな?」

「いえ、別に。待機時間に丁度いいので。」

「……それは、ちょっと勿体ねぇな。」

「勿体ない、ですか?」


一冊、棚から取って渡す。

エルナの好きな、魔術式に関する論文だった。


「ほら、これとか。結構面白いぜ?」

「……ふむ。」


エミリが表紙を見て、何ページか捲る。

そのまま、閉じた。


「内容は興味深いですが……。データで、よくないですか?」

「データ……。」

「紙、重いですし。場所取りますし。検索もできませんし。」

「……ま、まぁ。」

「データで、よくないですか?」

「二回言うなよ。聞こえてるよ。」


エミリから本を受け取って。

そのまま、棚へ戻した。


「ジュディは、本が好きなんですか?」

「え、俺?」

「はい。なんか煮え切らないですね。さっきから何なんです?」

「……いや。」


言葉に、詰まる。


別に本は、俺が特別好きだったわけじゃない。

……本は、エルナが。


「……ま、まぁ。こうやって店に来るのもいいもんだぜ?意外な出会いもあるもんだしな。」

「ふぅん。そうですか。」

「もうちょっと興味持ってくんない?」

「だって、データでいいし。」

「……お前、そこ譲らねぇな。」


エミリは、もう別の棚を見ている。


同じ銀色の髪に、同じ顔。


なのに。

本を見ている時の顔は、全然違った。


俺は、少しだけ笑って。

近くにあった一冊を手に取った。




—




昼時になったので、昼食を取ることにした。


暖簾の前で、足を止める。

エミリが、露骨に嫌そうな顔をした。


「……あ。ここは。」

「あぁ。共感覚の時に来たよな?」

「店を、変えましょう?ね?ジュディ。店を変えましょう?」

「必死すぎだろ……。却下だ。久々に俺も食いたい。」

「えぇ~~~。嫌だぁ~~~!!!」

「文句言うな。」

「えぇ~~~~!!!」


俺の服を引っ張るエミリを尻目に。

構わず引き戸を開けた。


「へい!らっしゃ——」


店主が、こちらを見た。

俺の隣にいるエミリを見て、動きが止まる。


「……嬢ちゃん?」


——あ、やっべ。

色々と忘れてた。


「じょ、嬢ちゃん!!!嬢ちゃんじゃねーか!?」

「はぁ!?……この人誰です!?」


エミリが、驚いて俺を見る。


「何だよ!そんなに嫌がらなくてもいいじゃねーか?」

「あー。店主。」

「あんだよ!」

「そいつ、妹。」

「い、妹ぉ~~!?」


店主が、エミリをじっと見つめる。


「そっくりすぎねぇか!?」

「な?ビビるよな?」

「ちょ、ちょっとジュディ!!!」


エミリに、服を引っ張られる。


……さっきから止めてくんねーかな。

服が伸びる。


「いいからいいから。後々面倒なんだから、そうしとけって。」

「不服です!誰が、誰の妹ですか!そうなった場合、私とジュディの関係は!!」

「こ、細かい……。とりあえず、ごめんって。」

「設定に穴があるのはいただけない!!!」

「……なんでそこに拘んだこいつ。」

「むぅ~~~!!!」


不満そうな顔のまま、エミリが席に座る。

店主はまだ驚いていたが、何度か「妹かぁ」と呟きながらメニューを出した。


俺は、開く前に注文する。


「酢ラーメン。」

「はいよぉ!」


エミリは、メニューを眺める。


「お前も、こっちにしねぇの?」

「……しませんが。」

「なんだよ。美味いのに。」

「美味くありません。クソ不味いです。」

「お、お前。食おうとしてる本人を前にして、よくもまぁ。」

「酸っぱい時点で、嫌です。もう。ほんっとに。嫌。」

「……キレすぎだろ。」

「普通の醤油にします。」

「はいはい。」


少しして、二つの丼が運ばれてきた。


俺の前には、酢の香りが強いラーメン。

エミリの前には、普通の醤油。


「「いただきます。」」


久々に、食べる。


あぁ。酸っぱい。

相変わらず、かなり酸っぱい。


でも、これがいい。


「……うまぁ。」


これこれ。これだよ。これ。


隣では、エミリが醤油ラーメンを一口食べていた。

一瞬、目を見開く。


「ん!!!」

「……なんだよ?」

「美味いじゃん?」

「……。」

「なかなか、やるじゃん?」

「どの目線なん?」


もう一口。また一口。

さっきまで嫌そうな顔をしていたくせに、随分と楽しそうに食う。


「エミリ。こっちも、一口食うか?」

「嫌です。分かってて聞いてるなら最低です。」

「実際、食ってみねぇと分かんねぇだろ?」

「分かります。酸っぱいんでしょう?」

「いやいやいや。美味いって。」

「美味くありません。」

「だから、実際に食ってねぇだろ。」

「匂いで分かります。この鼻をつく刺激臭。滅。」

「……そこまで嫌う?」


店主が、向こうで笑った。


「嬢ちゃん!醤油、気に入ったか?」

「ふふん!!まぁまぁですね!」

「すげぇ勢いで食ってるけどな……。」


エミリが、少しだけ箸を止める。

また、食べた。


「……やっぱり、美味しいです。」

「ははは!だろぉ?」


店主が、嬉しそうに笑う。

俺も、少しだけ笑った。


「何ですか?」

「いや。なんでもねぇよ?」

「笑いましたよね?」

「いいから。食えって。麺伸びるぜ?」

「……滅。」

「なんなんだよ。それ。」


同じ店で、同じ顔をした奴と。

全然違うラーメンを食っていた。




—




夕方。

仮住まいへと、二人で戻った。


扉を開ける。


「ただいま。」

「おかえりぃ!」


カイラが、共有スペースから顔を出した。


エミリも、俺の後ろから中へ入る。

辺りを見回して、少しだけ首を傾げた。


「……。」

「何だよ?」

「ここに、住んでいるんですか?」

「まぁ、そうだけど。」

「……せっっっま。」

「お前、マジで失礼だからな?」


普通、もうちょっと遠慮とかすんだろ。

エミリは、共有スペースから部屋の方へ視線を移す。


「一人で住んでるんですか?」

「いや。今は、俺とカイラとサヤだな。」

「え、三人で?」

「あぁ。」

「ここで、三人?あ、私入れると四人です?」

「まぁ。そうだな。」

「……せっっっま。」

「二回言ったな。しばこうか?」

「ひぇ。」


カイラが、苦笑いする。


「あはは。まぁ仮の住まいだからねぇ。」

「なるほど。ジュディの懐事情というわけではないようですね。」

「……何の心配してんだ?お前。」


その時、奥の部屋から声がした。


「あ。おかえり~。ボンクラ。」

「……っ。」


エミリが、ぴたりと止まる。

棒付きキャンディを咥えたサヤが、こちらを見ていた。


「……。」


エミリが、すっと俺の後ろに隠れる。


「おい。どうしたんだよ?」

「……誰ですか?」

「隠れんなって。失礼だろ?」


服の裾を掴まれている。

サヤも、エミリを見たまま動かなかった。


銀色の髪。青い瞳。

顔だけなら、本当に同じだ。


「……へぇ。聞いてた通り、似てんね。」

「……まぁ、そうだよな。」


俺は、少し横へ退く。

エミリも、一緒に動いた。


「おい。いい加減にしろよ?」

「だって、知らない人ですもん。」

「サヤだよ。前に話しただろ?」

「話と、実物は違いますので。」

「何がだよ。」

「迫力。」


……なんそれ。


サヤが、んははと笑った。

そのまま、キャンディを口から外してエミリを見る。


「初めまして。サヤ・ウインドウだよ。」

「……ども。エミリですが。」

「んはは。出て来いよ。別に、取って食わねーって。」

「……本当ですか?」

「たぶん。」

「……たぶん!?」


エミリが、俺の後ろへ戻った。


「サヤ……。怖がらせてどうすんだよ。」

「んはは!冗談だって!」


サヤが、小さく笑う。

俺は、後ろにいるエミリを見る。


「ほら。エミリ。」

「……。」


少しだけ顔を出した。


「エミリですが。」

「あぁ。知ってるよ。」

「……そうですか。」

「てか、さ。随分あれだね。」

「なんですか?」

「ジュディに、懐いてるじゃん?」

「……懐いてませんが。」

「懐いてなけりゃ~、背中になんて隠れねぇよ?」

「安全が確保されるまでは、障害物に身を隠す。当然の護身です。」

「んはは!ボンクラ!!あんた障害物だって!!!」

「……止めろや。」


そんなこんなで。

エミリを、仮住まいへと招いた。




—




「街は、どうだった?」


カイラが、湯呑をエミリに渡しながら聞いた。


「人が、多かったですね。」

「ん~。それだけ?」

「ラーメンが、美味しかったです。」

「おぉ!ラーメン食べたんだ!」


カイラが、嬉しそうに笑う。

エミリも、少しだけこの場所に慣れたみたいだ。


「あ、あとあと。服も見ました。」

「マジ!?何買った?」


サヤが、身を乗り出した。

そういえば、サヤって服好きだったよな。


「いや。買ってません。見ただけです。」

「ボンクラ、買ってやれよ。一張羅だろ?これ。」

「いやいやいや。別に買うの渋ったわけじゃねーよ。本人が分かんないって。」

「ん?分からない?」

「自分が、どんな服好きなのか。」


——コクコクコクコク!!


エミリが、頷く。

いや、頷きすぎな?


「何を選べばいいのか、全然分かりませんでした。」

「なんだ。んな事かよ。じゃあ、今度一緒に行くかぁ。」

「はい!!!」


返事が、早い。


「……あぁ~。いいね。こういうの久々で燃える。」

「燃えんな。」

「私、燃やされるんですか?」


さっきまで、俺の後ろに隠れてたくせに。

もう普通に喋ってる。


サヤが俺を見る。


「ボンクラは、何か選んであげたの?」

「あ、あぁ。一応、黒いロングコートだっけな?」

「……。」

「……。」

「え、何。」

「今とそんな変わんねぇじゃん。」

「で、ですよね!!!やっぱそうですよね!!!」

「あぁ。ない。それだけはない。」

「もっとです!もっと言ってやってください!!」


……ボッコボコだった。




—




夕飯を食べた後、それぞれ思い思いに茶を啜っていた。


「……あ。」


昼間買っておいた本を思い出し、鞄から取り出した。

そのまま、エミリを見る。


「なぁ。エミリ。」

「へぁ?」

「これ。」


本を、手渡す。

エミリが、表紙を見て、俺を見た。


「……これ、買ってたんですか?」

「あぁ。内容は興味あるって言ってたしな。」

「でも、私はデータでいいって言いましたよね?」

「いいじゃん。内容は面白そうだぜ?」

「だから、データでくださいよ……。」

「いやいや。紙にしかない良さがあるんだって。読んでみろって。」

「良さって……。例えば、何です?」

「……ん~。匂いとか?」

「くんくん。ん。データで、いいですね。」

「えぇ……。んな雑な。」


横から、カイラが本を見る。


「あ。これ、私も読んだことある。」

「へー。これ、面白い?」

「うん!面白いよ!魔術式ってよりも、エンタメだね。」

「エンタメとな?……なら、読んでみましょうか。」

「なんで渋々なんだよ。」

「まぁ。カイラが面白いと言うなら。致し方なしです。」

「もうちょっと俺も信用してくんねぇかなぁ!?」

「えへへ。冗談ですって。」


エミリが、笑う。

本は、そのままテーブルの上に置かれた。


まぁ、読んでくれるなら、いいか。


ふと、横を見ると。

サヤが、こっちを見ていた。


「ん。どうしたんだよ?サヤも読みたいか?」

「……いや。」


キャンディを、口に戻す。

しばらく黙ってから、もう一度俺を見る。


「……ジュディ。」

「んだよ?」

「本当に、分かってんだよな?」

「……。」

「本当に、本当に。分かってんだよな?」


『何が』とは、聞かなかった。


今日俺が連れていった場所は、昔エルナと歩いた場所だった。


似合うと思った服も。

手に取った本も。

昼飯だって。


気付けば、俺が知っているエルナを基準にしていた。


——でも。

エミリは、そのどれとも違った。


黒い服は、好きじゃない。

紙の本には、興味がない。

酸っぱいものは、嫌いで。


普通の醤油ラーメンを、美味そうに食べる。


「……あぁ。分かってるよ。分かってる。」

「……そっか。」

「あぁ。悪いな。」

「何が?」

「変な心配、かけてさ。」

「んはは。べっつにぃ?」


サヤが、大きく伸びをする。

肩の調子は、良くなってそうだな。


「……そういえば、サヤ。」

「ん?」

「俺達が、アッシュタウンに行ってる間さ。どうしてたんだ?」

「ん~。実家帰ってた。」

「……そっか。お母さん、元気だったか?」

「変わんねぇよ。まぁ、荷物取りにいっただけだし。」

「ふ~ん?」

「私のことは、今は、まぁいいでしょ。気にかけてくれんのは嬉しいけどさ。」

「んだよ。それ。」


サヤの視線を、追う。


その先に、エミリがいた。

カイラと並んで、テーブルに置いた本を捲っている。


「……なんですか?変態ですか?」

「なんでだよ。なんでもねぇよ。」

「そうですか。変態ですか。」

「……こいつ。」

「へへ。」


また、本へ視線を戻す。

少しして、呟くように言った。


「……紙も、悪くないかもしれませんね。」

「お。だよな?」


エミリが、ページを一枚捲る。


「データの方が、効率いいですけど。」

「そういう問題じゃねぇんだよ。わびさびって奴だよ。」

「意味不ぅ~~。」

「……へいへい。」


カイラが、笑う。

サヤも、小さく笑った。


俺も、笑った。


ふと部屋を、見回す。

ただでさえ狭い仮住まいに、今日から一人増えた。


「……そういやぁ。」


……寝る場所。

どうすんだ、これ。


「……。」

「ん?今度は、どうしました?」

「……いや。」

「変態ですか。」

「お前いい加減にしろよ?」


これは、後で考えよう。


今は、まだ分からなくていい。


好きな服だって。

好きな本だって。

好きな食い物だって。


これから、知っていけばいい。


エミリは、もう一枚。

ゆっくりと、ページを捲った。


第百九十話、お読みいただきありがとうございます!


仮住まいにご招待です!

そして、サヤとは今回が初対面。


知らない人がいたので、とりあえずジュディの後ろに隠れました。

あの、一応この子、兵器だった子です。


この狭い部屋でどうすんだ。こいつら。


次回は、もう少し女性陣のお話をば。

ブクマやコメントをいただけると、エミリが自分の好きな服と寝る場所を見つけられるかもしれません。

次回もよろしくお願いします!


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