第百八十一話「こうやって、生きたい」
「カイラ、話がしたい。」
「うん。私も。ジュディと、話したい。」
カイラと、目が合った。
昨日、お互いに怒鳴り合った相手。
「「……。」」
き、気まずい。
何から、話せば……。
「あぁ~~~!!!もう!じれったい!!!!」
ネルが、頭を抱えた。
そのまま、ぐしゃぐしゃと頭を掻き回す。
「……ネ、ネル?」
「あのなぁ!!!もう、答え出てんのぉ!」
「……な、何の?」
「ジュディ!!」
「は、はい。」
ネルが、こちらを睨んでいた。
あ、めっちゃ怖い。
「き、昨日から。お、お前らときたらさ。本当に、ちったぁこっちの身にもなれよ。」
「……。」
「私はなぁ!!!眠いんだよ!!」
「あ、あぁ。」
「さっさと、終わらせるぞ。バカどもが。」
ネルが、椅子を引っ張ってくる。
そのまま、俺とカイラの間に座った。
「謝罪やら何やらは、後でやれ。」
「……。」
「方針を決める。他は知らん。マジめんどくさい。」
「ネ、ネル?」
「まず、ジュディ!!!」
声でっか。
いや、声でっか。
「は、はい……。」
「今日、やったことを報告しなさい。」
「あ、え。えーと……。」
「っやくしろよぉ!!!ボンクラァ!!」
……こ、怖すぎだろ。
「ガ、ガレスとアーヴィンから、アッシュタウンの物流で働いてる人の情報を集めた。」
「……アーヴィンさんから?」
カイラが、目を丸くする。
「ジュディ。それは、なん——」
「お前の為に決まってんだろぉがぁ!!いちいち分かることを聞くなぁ!!金髪ぅ!!」
「え、えぇ……。」
ネルが、パンと手を叩いた。
「はいぃ!!次ぃ!!カイラァ!!」
「は、はい!!」
「今日、何してたぁ!?」
「……え、えっと……。」
「っちぃ!!!」
ネルが、盛大に舌打ちをする。
懐から端末を取り出し、俺へと投げた。
「うわっ!……何だよ、急に。」
「ジュディ。それ、読め。」
「は?」
「いいからぁ!!読めや!!」
「……なんなんだよ。」
言われるがまま、端末へと目を落とす。
「……。」
今日の、ネルとカイラの通信履歴。
俺と動いていた裏で、ネルはカイラの相談に乗っていた。
……そこには。
エミリの居場所を探して、ある程度当たりをつけたこと。
アッシュガードから連れ出すためには、アーヴィンを拘束する必要があること。
そして。
転送装置の再提案で、アーヴィンをカイラが引きつけて時間を稼げるかもしれないこと。
ポツポツと、二人のメッセージが載っていた。
「……これ。」
「読んだかぁ?」
「あ、あぁ。」
「読んだらぁ、返せ!!」
端末を、ネルに引ったくられる。
思わず、カイラを見てしまう。
「……二人とも、理解できたかぁ?」
ネルが、椅子に背を預けながら、呟くように言った。
「……私は、今朝。自分の事だけ考えろと言った。」
「……。」
「これが結果だ。マジで、めんどくせぇ。」
確かに、目も当てられない。
ネルが、言葉を続ける。
「もう情報は出揃ってる。」
「あ、あぁ。」
「内部の協力者のお陰で、侵入経路も分かってる。後は、どれだけアーヴィンを拘束できるかの勝負。」
ネルが、大きく伸びをした。
「あっふ……。な?答え出てんだろぉ?」
「アーヴィンにぶっ刺さる、提案をする。」
「そぅ!!で今やることはぁ?」
「提案資料を、作る?」
ネルが、頷いた。
「よぉ〜し。じゃ、私寝るから。」
「え?資料は?」
「知るかぁ〜。私は、寝る。」
「まだ、昼間だぜ?」
「……昨日、誰のせいで寝不足なのぉ?」
「……。」
「今日一日、誰と誰にいらない気ぃ使ったと思ってんだよぉ。」
フラフラと、ネルは寝室へとむかった。
寝室の前で、振り返る。
「二人とも。」
「……あぁ。」
「おやすみぃ。」
「あ、ネル!」
思わず、ネルを呼び止めた。
「……んぁ?」
「ありがとう。」
「……。」
「お前が傍に居てくれて、良かったよ。本当に。」
ネルは、少しだけ間を置いて。
「……ばぁ〜〜か。」
それだけ言って。
寝室へ消えていった。
—
扉が、閉じる。
急に、部屋が静かになった。
「……ネル、大変そうだね。」
「あぁ。本当、おんぶに抱っこだな。」
「……今度、甘いもの買ってあげようか?」
「それだけで、許してくれっかな?」
「……ダメかも?」
少しだけ、二人で笑った。
もう、前みたいには話せないんじゃないか。
どこかで、そんなことを思っていた。
でも今は、不思議と息苦しくなかった。
「……カイラ。」
「ん?」
「昨日、酷いこと言って、ごめんな。」
「……でも、本当に思ってたことも、あったよね?」
「あぁ。でも言い方は、悪かったと思う。」
「……否定しないんだ。」
「あぁ。しないよ。」
カイラが、俯いた。
呟くように、言葉を紡ぐ。
「うん。そうだね。……そうだよね。」
「……。」
「私もね。全部、本当の気持ちだった。」
「あぁ。」
「でも、わざと傷つけるような言葉を選んで、伝えちゃった。」
「……。」
「酷いこと言って、ごめんなさい。」
「うん。」
沈黙が、落ちた。
でも、不思議と居心地は悪くない。
カイラが、膝の上で両手を組む。
「私たち。ダメダメだね。」
「……カイラはともかく。俺は、そうだな。間違えて、ばっかりだ。」
「うーん。そうでも、ないよ?」
「ん?」
「私もね。間違えて、ばっかり。」
「……そんなこと、ないさ。」
カイラが、少しだけ笑った。
「ジュディは、優しいね。」
「いやいやいや。」
思わず、笑ってしまう。
「カイラに言われた通りだよ。俺は、自分が壊れるのが怖いから、優しくしてるだけだ。」
「うん。そうだね。」
「うんって……。」
「だって、そうなんでしょ?」
「……あ、あぁ。」
カイラは、それでも俺を見る。
真っ直ぐに、見る。
「でも。ジュディは、私に幸せになってほしいと思ってくれた。」
「……。」
「自分のためでも、さ。人に優しくしたいって思うことは、間違いじゃないよ。」
言葉が、すぐには返ってこなかった。
結局は、自分のため。
昨日は、酷く汚い言葉に聞こえた。
でも。
誰かを失いたくない。
誰かに幸せでいてほしい。
それが、自分のためでも。
全部が、嘘になるわけじゃない。
「……そう、なのかな。」
「うん。そう信じても、いいと思う。」
信じても、いい。
そうか。
そう、信じてもいいのかもしれない。
「……じゃあさ。カイラもだな。」
「……私?」
「みんなを幸せにしたいってやつ。」
カイラは、俯いた。
俺は、そのまま言葉を続けた。
「カイラは、間違ってるかもしれない。」
「……。」
「でも。みんなに幸せになってほしいって思うことまで、間違いにしなくていいよな?」
カイラが、自分の胸に手を置く。
「うん。私は、また間違うかもしれない。」
「あぁ。」
「でも。私の思いは、間違いじゃない。」
「あぁ。そう、信じてもいいよな。」
「うん!」
正しくなくても。
間違っていないものもある。
今までの俺は。
正しいか。間違っているか。
そればかりを、考えていた。
「俺はさ。」
「……うん。」
「カイラに、幸せになってほしい。」
「……。」
「これは、変えられねぇよ。」
カイラが、少しだけ笑った。
「私はね。ジュディに生きていてほしい。」
「……。」
「これも、譲れない。」
「……そっか。」
「うん。」
俺は、カイラに幸せでいてほしい。
カイラは、俺に生きていてほしい。
お互い、譲る気はないらしい。
「……困ったな?」
「あはは。うん。困ったね?」
「どうしようか。」
カイラが、俺を見る。
「一緒に、考えよう?」
「……。」
「私も、一人で決めないから。」
昨日まで。
俺は、カイラの答えを決めようとして。
カイラも、俺の答えを決めようとした。
それで、思い切りぶつかった。
だったら。
次は、二人で困ってみよう。
「……一緒に、悩んでくれるか?」
「望む、ところです。」
カイラが、笑った。
—
「やって、みるか。」
「うん!」
アーヴィンから貰ったメモリーチップを、端末へ挿す。
「……それが、情報?」
「あぁ。人を見るための、情報だ。」
カイラが、椅子を動かして。
俺の隣へ来た。
肩が、少し触れる。
「……近くね?」
「でも、画面見えないよ?」
「……まぁ。そうか。」
資料を、開く。
物流従事者の数。
前職。
就業時期。
保有資格。
現在の再開発の進捗。
物流量。
契約規模。
画面に、情報が並んだ。
「……。」
カイラが、選ぶために。
俺は、そう決めた。
でも、この先にあるのは。
きっと、綺麗な答えじゃない。
誰かが、仕事を失うかもしれない。
誰かの生活が、変わるかもしれない。
そして、カイラは。
その全部を知った上で、選ぶことになる。
……傷つくかもしれない。
それは。
嫌だ。
「……。」
できることなら。
俺が、傷つかない答えを作ってやりたい。
俺が決めて。
俺が、守って。
……でも。
それをやった結果が……。
「……ジュディ?」
カイラの声に、顔を上げる。
「どうしたの?」
「……いや。」
カイラも、不安そうな顔で画面を見ていた。
少しだけ、触れている肩が。
……震えていた。
「……カイラ。」
「ん?」
「……大丈夫か?」
少しだけ、カイラが黙った。
「……正直言うとね。ちょっとだけ、怖い。」
「……。」
「間違えるかもしれないし。誰かを、傷つけるかもしれない。」
「……そう、だよな。」
カイラは、画面から目を逸らさなかった。
「でも。考える。」
「……。」
「ちゃんと、考えるんだ。」
……そっか。そうだよな。
怖いのは、俺だけじゃない。
カイラだって、答えなんて持ってない。
それでも。
今、彼女は進もうとしている。
「……。」
——なら。
俺にできることは、何だ。
俺が、選ばなきゃいけないことは、何だ。
カイラの代わりに、答えを出すことじゃない。
傷つかない場所へ、閉じ込めることでもない。
彼女が選びたい未来。
その未来に、少しでも近づけるなら。
怖くても、間違っていたとしても。
……それくらいなら。
今の俺にも、選べるはずだ。
「……。」
画面を見る。
俺の記憶。
元いた世界の仕事で、散々見てきたような数字。
……これなら。
「カイラ。」
「ん?」
「仕事を、しよう。」
「……仕事?」
「あぁ。仕事。」
一度、大きく息を吐いた。
「こういうの、結構やってたんだよ。元の世界でさ。」
「……そうなの?」
「課題の抽出と、施策の立案。提案と実施。」
「ん、ん?」
「……俺の、得意分野だったんだ。」
—
「おし。」
新しく、まっさらな画面を開いた。
「まず。何をしたいのか、整理しようか。」
「転送装置を、入れることだよ?」
「……う~ん。ちょっと違うかもな。」
「え?」
カイラが、こちらを見る。
「カイラは、みんなを幸せにしたいんだよな?」
「う、うん。」
「で。そのために、転送装置を入れようと思った。」
「そうだよ。でも、実際は——」
「入れれば、良くね?」
「引っ叩いていい?」
……あ、怖い。
「待て待て待て。最後まで聞いてくれ。」
「次は、本当にいくからね?」
「……へい。」
目が、マジだった。
め、めげるな。俺。
「じゃあ。なんで、入れるって言えなくなった?」
「……みんなを、幸せにできないから?」
「そうだよな。」
画面に、【みんなを幸せにする】と入力する。
「転送装置は、目的じゃない。」
「……。」
「これを達成するための、手段の一つ。」
「……手段の、一つ。」
「あぁ。」
その下に、【転送装置】と入力した。
「入れたら、何が良くなる?」
「復興が、早くなる。」
「あぁ。物流量が上がるからだな。他には?」
「物資が、安定して届く。」
「そうだな。他には、あるか?」
「えっと……。輸送費が下がる?」
「うん。いいな。メリットはこんなもんか。」
「……う、うん。」
「じゃあ、悪くなることは?」
「……運送の仕事が、減る。」
「あぁ。他には?」
「……。」
カイラが、止まった。
……ここだな。
「もっと、細かくしてみよう。」
「細かく?」
「何が問題なのか。一個ずつ見えるようにする。」
「ん~?」
カイラが、首を傾げる。
「ブレスト、してみようか。」
「ブ、ブレ?」
「あぁ、ごめん。アイディアを出し合おう。」
「……う~ん。アイディアか。」
「そんな身構えなくても大丈夫だよ。金。人。場所。仕事。なくなるもの。新しく必要になるもの。思いつく限り、全部出してみようぜ。」
「それだと、ぐちゃぐちゃにならない?」
「それでいい。後で、マッピングする。」
「ま、まっぴんぐ?」
「分類して、整理する。」
「最初から、分けちゃダメなの?」
「最初から枠を作ると、その枠の中だけで考えがちになるからな。」
「……へぇ。」
「とりあえず、やってみよう。」
「……なんかジュディ、先生みたい。」
「先生じゃない。社会人だよ。」
「シャカイジン?なんか。変な種族だね?」
「種族じゃねぇよ……。」
昔、エルナにも同じようなことを言われたっけな。
「あはは。」
カイラが、少し笑った。
………………。
…………。
……。
そこから、思いつくものを二人で出し合った。
転送拠点。倉庫。保守施設。人員。建設。運用。管理。費用。
現在の運送会社に、そこで働く人。
元々、この街で別の仕事をしていた人。
戦争が終わってから、物流へ入った人。
「……うっわぁ~。」
「ん?」
「ぐちゃぐちゃだね。」
「はは。でも、これだけ沢山出たのは、いいことだな。」
「いいことなんだ……。」
画面いっぱいに、文字が散らばっている。
「ここから、大きい項目を作って、分ける。」
人。金。設備。仕事。運用。
一つずつ、項目を移していく。
いくつか内容が被っているものは、くっつけて中分類として振り分ける。
「……ほぉ。すごいね。」
「なんだ?」
「なんか、見やすくなった。」
「あぁ。問題が分かりやすくなったよな。」
「ジュディ。ちょっとだけ、かっこいいね。」
「ちょっとだけ?」
「うん。ちょっとだけ。あ、でも本当にちょっとだけだよ?」
「……何が『でも』なんでしょうか。」
「あはは。」
まぁ。
嬉しいから、いいか。
—
「転送装置の維持って、どんくらい金かかるんだ?」
「うん。前の資料にあるよ。」
カイラが、別の資料を開いた。
数字を見る。
「……あ、そんなに掛からないんだな。」
「うん。転送装置は、座標さえ予め決めておけば最低限の魔力で運用できるから。」
「へぇ。やっぱ、すっげぇな。……今の案だと、誰が払んだ?」
「え~と、アッシュガードかな?」
「全部か?」
「……うん。」
「じゃあ、手数料取ろうか。」
「え?」
カイラが、こっちを見る。
「ま、待って。なんで?」
「転送装置を使う時の、利用料。」
「でも。安く物を運べるようにするためなのに。」
「今のままだと、安くなり過ぎるんだよ。」
現在の輸送費と、転送装置を使った場合の見込み。
その差額を、出す。
「今まで百掛かってたものが、五十になるとする。」
「うん。」
「そこに十取っても、利用者は四十得する。」
「……。」
「その十を、装置の維持費と。街への投資に使う。」
「投資?」
「あぁ。投資だ。」
画面に、【転送利用料 → 維持費・再投資】と書く。
「建設。設備。転職支援。新しく仕事を作るための金。」
「……支援金。」
「仕事がなくなるなら。その次を作る金がいるだろ?」
カイラが、画面を見つめる。
「技術入れました。便利になりました。今までの仕事なくなりました。後は頑張ってください。」
「……。」
「それじゃ、あんまりだろ?」
「うん。アーヴィンさんにも、そこを突っ込まれたと思う。」
カイラが、小さく頷いた。
「転送装置を作るだけじゃ、ダメだったんだね。」
「あぁ。むしろ、作った後の方が長いな。」
新しい仕組みなんて。
大体、導入してからが本番だ。
昔も、何度それで揉めたことか。
「……ジュディってさ。」
「ん?」
「結構、企業でも『上』のほうだった?」
「……まぁ。」
「見えないね。」
「……失礼じゃね?」
「あはは。」
「部下だって、結構いたんだぞ?」
「へぇ~。」
「ちなみに、結構モテ——」
「次、何する?」
「……。」
最後まで、言わせてほしいな。
—
「……次は、優先順位かな。」
「えっと。転送装置を入れた後の話?」
「あぁ。転送装置を入れるとして。その後、何を優先的に建てればいいのか。」
「えっと~、倉庫かな?」
「……。」
現在の建設計画を見る。
住宅。商業施設。倉庫。道路。
「……道路。」
「ん?」
「まずは、道路だ。」
「でも。転送装置を入れるんだよ?」
「だからこそだよ。」
配置図を、開く。
「物が、転送拠点まで届くよな?」
「うん。」
「その後は?」
「……運ぶ。」
「誰が?」
「運送の人。」
「何で?」
「……それは、車とか、道路——」
カイラが、少しだけ目を見開いた。
「あ。」
「アッシュタウン内の輸送距離は、確かに減る。」
「うん。」
「でも、転送装置が各家庭の玄関まで物を送ってくれるわけじゃない。」
「……市内輸送。」
「あぁ。」
「物が、今よりたくさん入ってくるようになったら……。」
「むしろ、増えるよな。」
カイラの手が、動き出した。
「じゃあ、道路を整備して。転送拠点からの配送網を作る。」
「あぁ。」
「今の運送会社も、思ってたより残せるかもしれない!」
「そうだな。でも段階的に、慎重にな。」
「……えっと、なんで?」
「道路の整備と、入ってくる物の量。合わせて増やさないとな。片方だけ先に進んだら、事故になる。」
アーヴィンから貰った、人の情報を見る。
「例えば、この人。戦争前は、建設業だ。」
「……本当だ。」
「こっちの人は、設備関係の資格持ってる。」
「転送装置の保守に、使えるかも。」
「こいつは、元々運送だな。」
「じゃあ、市内配送だね。」
「……いや。」
手が、止まった。
「……どうしたの?」
この人は、今までずっと運送業で働いてきた。
市内配送へ切り替えればいい。
たぶん、そんな簡単な話じゃない。
「……。」
画面の文字を見る。
——一人の人。
さっきまで、ただの情報だったもの。
「……ジュディ?」
「いや。」
少しだけ、息を吐く。
「勝手に決めたら、ダメだよな。」
「……。」
「俺達は、あくまでも選択肢を作るところまでだ。」
「……うん。」
「その後どうするかは、本人が選ぶ。」
「うん。」
カイラが、小さく笑った。
「今の私たちと、一緒だね。」
「……そう、かもな。」
今は、俺達はお互いを決めつけない。
選択肢を増やして、悩んで、考えて、決める。
確かに、そうなのかもしれない。
また、画面へ向き直る。
「ねぇ。ジュディ。」
「……うん?」
「……大好き。」
思わず、画面から目を離した。
カイラが真っ直ぐに、こちらを見つめていた。
「……え、今?」
「うん。今。」
「……えっと。」
「あはは。ごめんね。なんか、溢れちゃって。」
「……。」
「続き、しよう?」
……答えを求めているわけじゃ、ないのか。
また、二人で画面に視線を戻した。
「あぁ。続き、だな。」
「うん!」
—
そこから。
書いて、消して。
分類を変えて、戻して。
俺が出した案を、カイラが技術的に無理だと切る。
「それは、無理かも。」
「え、なんで?」
「転送装置一基で、その量は処理できないよ。」
「じゃあ、複数入れれば……。」
「その分、維持費増えちゃうよ?」
「……あー、ここの試算、詰め直しかよ。めんどくせぇ……。」
「考えるんでしょ?」
「……へい。」
カイラが出した案に、俺が穴を見つける。
「カイラ。これ、人足りない。」
「……えぇ!?」
「ほら。人数、見てみ。」
「……本当だ。」
「じゃあ、どうするか?」
「……。」
「……。」
「増やせばいいんじゃない?」
「なんか、雑になってきたな。」
「ジュディに言われたくないもん!」
その度に、また考える。
答えは、全然完成しない。
考えれば、考えるほどに。
新しい問題が、出てくる。
それでも、不思議と嫌じゃなかった。
—
「……ジュディ。」
「ん?」
どのくらい、時間が経ったのか。
端末の時計を見る。
思っていたより、ずっと遅い時間になっていた。
「私ね。」
「うん。」
「ジュディと、話せてよかった。」
「……俺も、今日。カイラと話せて、よかったよ。」
カイラが、首を横に振る。
「違くて。今日じゃなくて。」
「ん?」
「昨日のね。喧嘩。」
「……喧嘩?」
……結構、怒鳴りあったと思うけどな。
「嫌じゃ、なかったか?」
「嫌だったよ?」
「……どっちなん?」
「あはは。」
カイラが、笑う。
「怒ったし。悲しかったし。ジュディ、すっごいムカついた。」
「……。」
「もう本当に、すっごいムカついた。」
「……そこ強調すんの?」
「するよ。」
「……ごめん。本当に反省してるよ。」
「ううん。私も、酷いこと言ったから。」
カイラが、作りかけの資料を見る。
穴だらけの、資料。
明日、本当にアーヴィンへ出せるのかも分からない。
「でもね。本気で怒れた。」
「……。」
「ジュディも。本気で怒ってくれた。」
「……あぁ。」
格好悪くて。情けなくて。
お互いに、見せたくないところまで、見せた。
それでも、二人は。
今、隣にいる。
「ジュディとね。出会えてよかった。」
「……喧嘩したのに?」
「もう〜〜!喧嘩できたからだよ!それも込みでのお話!!」
カイラが、画面へ目を戻す。
「ジュディと、ずっと、こうしてたいな。」
「……仕事してるだけだぜ?」
「仕事だけじゃないよ〜。」
お互いの肩は、相変わらず触れたままだ。
熱と思いが、伝わってる気がした。
「たまにね。また、喧嘩するの。」
「……えぇ。嫌だぁ。」
「あはは。でもね。その後に、一緒に悩むの。」
「……。」
「でね?また、間違えて、後悔するの。」
「……それ、幸せなのか?」
「え~!」
カイラが、俺を見る。
「すっごい、幸せだよ?」
「……そうなの?」
「うん。そうなの!」
カイラが、俺の肩に頭を乗せた。
「こうやってね。」
笑っていた。
昨日、泣きながら俺に怒鳴っていた彼女が。
「ジュディとね。こうやって、生きたいな。」
第百八十一話、お読みいただきありがとうございました!
なんやかんや。
一緒に、考えることになりました。
一緒に困る二人です。
多分、これからも一緒に困るんだと思います。
あと一言。
ネル、本当にありがとう。
そして、ありがとう。
ゆっくり、眠ってね。
次回も20:10、更新予定です!
ブクマやコメントをいただけると、ブレストの項目が一個増えます(嫌だぁ)。
よろしくお願いします!




