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スペル・エラー ~娘が生まれるのに異世界へ召喚されたので、何があっても帰ります~  作者: とろたま愚鈍
第二部:第五章|アッシュタウン編

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第百八十一話「こうやって、生きたい」

「カイラ、話がしたい。」

「うん。私も。ジュディと、話したい。」


カイラと、目が合った。

昨日、お互いに怒鳴り合った相手。


「「……。」」


き、気まずい。

何から、話せば……。


「あぁ~~~!!!もう!じれったい!!!!」


ネルが、頭を抱えた。

そのまま、ぐしゃぐしゃと頭を掻き回す。


「……ネ、ネル?」

「あのなぁ!!!もう、答え出てんのぉ!」

「……な、何の?」

「ジュディ!!」

「は、はい。」


ネルが、こちらを睨んでいた。

あ、めっちゃ怖い。


「き、昨日から。お、お前らときたらさ。本当に、ちったぁこっちの身にもなれよ。」

「……。」

「私はなぁ!!!眠いんだよ!!」

「あ、あぁ。」

「さっさと、終わらせるぞ。バカどもが。」


ネルが、椅子を引っ張ってくる。

そのまま、俺とカイラの間に座った。


「謝罪やら何やらは、後でやれ。」

「……。」

「方針を決める。他は知らん。マジめんどくさい。」

「ネ、ネル?」

「まず、ジュディ!!!」


声でっか。

いや、声でっか。


「は、はい……。」

「今日、やったことを報告しなさい。」

「あ、え。えーと……。」

「っやくしろよぉ!!!ボンクラァ!!」


……こ、怖すぎだろ。


「ガ、ガレスとアーヴィンから、アッシュタウンの物流で働いてる人の情報を集めた。」

「……アーヴィンさんから?」


カイラが、目を丸くする。


「ジュディ。それは、なん——」

「お前の為に決まってんだろぉがぁ!!いちいち分かることを聞くなぁ!!金髪ぅ!!」

「え、えぇ……。」


ネルが、パンと手を叩いた。


「はいぃ!!次ぃ!!カイラァ!!」

「は、はい!!」

「今日、何してたぁ!?」

「……え、えっと……。」

「っちぃ!!!」


ネルが、盛大に舌打ちをする。

懐から端末を取り出し、俺へと投げた。


「うわっ!……何だよ、急に。」

「ジュディ。それ、読め。」

「は?」

「いいからぁ!!読めや!!」

「……なんなんだよ。」


言われるがまま、端末へと目を落とす。


「……。」


今日の、ネルとカイラの通信履歴。

俺と動いていた裏で、ネルはカイラの相談に乗っていた。


……そこには。


エミリの居場所を探して、ある程度当たりをつけたこと。

アッシュガードから連れ出すためには、アーヴィンを拘束する必要があること。


そして。

転送装置の再提案で、アーヴィンをカイラが引きつけて時間を稼げるかもしれないこと。


ポツポツと、二人のメッセージが載っていた。


「……これ。」

「読んだかぁ?」

「あ、あぁ。」

「読んだらぁ、返せ!!」


端末を、ネルに引ったくられる。

思わず、カイラを見てしまう。


「……二人とも、理解できたかぁ?」


ネルが、椅子に背を預けながら、呟くように言った。


「……私は、今朝。自分の事だけ考えろと言った。」

「……。」

「これが結果だ。マジで、めんどくせぇ。」


確かに、目も当てられない。

ネルが、言葉を続ける。


「もう情報は出揃ってる。」

「あ、あぁ。」

「内部の協力者のお陰で、侵入経路も分かってる。後は、どれだけアーヴィンを拘束できるかの勝負。」


ネルが、大きく伸びをした。


「あっふ……。な?答え出てんだろぉ?」

「アーヴィンにぶっ刺さる、提案をする。」

「そぅ!!で今やることはぁ?」

「提案資料を、作る?」


ネルが、頷いた。


「よぉ〜し。じゃ、私寝るから。」

「え?資料は?」

「知るかぁ〜。私は、寝る。」

「まだ、昼間だぜ?」

「……昨日、誰のせいで寝不足なのぉ?」

「……。」

「今日一日、誰と誰にいらない気ぃ使ったと思ってんだよぉ。」


フラフラと、ネルは寝室へとむかった。

寝室の前で、振り返る。


「二人とも。」

「……あぁ。」

「おやすみぃ。」


「あ、ネル!」


思わず、ネルを呼び止めた。


「……んぁ?」

「ありがとう。」

「……。」

「お前が傍に居てくれて、良かったよ。本当に。」


ネルは、少しだけ間を置いて。


「……ばぁ〜〜か。」


それだけ言って。

寝室へ消えていった。




—




扉が、閉じる。

急に、部屋が静かになった。


「……ネル、大変そうだね。」

「あぁ。本当、おんぶに抱っこだな。」

「……今度、甘いもの買ってあげようか?」

「それだけで、許してくれっかな?」

「……ダメかも?」


少しだけ、二人で笑った。


もう、前みたいには話せないんじゃないか。

どこかで、そんなことを思っていた。


でも今は、不思議と息苦しくなかった。


「……カイラ。」

「ん?」

「昨日、酷いこと言って、ごめんな。」

「……でも、本当に思ってたことも、あったよね?」

「あぁ。でも言い方は、悪かったと思う。」

「……否定しないんだ。」

「あぁ。しないよ。」


カイラが、俯いた。

呟くように、言葉を紡ぐ。


「うん。そうだね。……そうだよね。」

「……。」

「私もね。全部、本当の気持ちだった。」

「あぁ。」

「でも、わざと傷つけるような言葉を選んで、伝えちゃった。」

「……。」

「酷いこと言って、ごめんなさい。」

「うん。」


沈黙が、落ちた。

でも、不思議と居心地は悪くない。


カイラが、膝の上で両手を組む。


「私たち。ダメダメだね。」

「……カイラはともかく。俺は、そうだな。間違えて、ばっかりだ。」

「うーん。そうでも、ないよ?」

「ん?」

「私もね。間違えて、ばっかり。」

「……そんなこと、ないさ。」


カイラが、少しだけ笑った。


「ジュディは、優しいね。」

「いやいやいや。」


思わず、笑ってしまう。


「カイラに言われた通りだよ。俺は、自分が壊れるのが怖いから、優しくしてるだけだ。」

「うん。そうだね。」

「うんって……。」

「だって、そうなんでしょ?」

「……あ、あぁ。」


カイラは、それでも俺を見る。

真っ直ぐに、見る。


「でも。ジュディは、私に幸せになってほしいと思ってくれた。」

「……。」

「自分のためでも、さ。人に優しくしたいって思うことは、間違いじゃないよ。」


言葉が、すぐには返ってこなかった。


結局は、自分のため。

昨日は、酷く汚い言葉に聞こえた。


でも。


誰かを失いたくない。

誰かに幸せでいてほしい。


それが、自分のためでも。

全部が、嘘になるわけじゃない。


「……そう、なのかな。」

「うん。そう信じても、いいと思う。」


信じても、いい。


そうか。

そう、信じてもいいのかもしれない。


「……じゃあさ。カイラもだな。」

「……私?」

「みんなを幸せにしたいってやつ。」


カイラは、俯いた。

俺は、そのまま言葉を続けた。


「カイラは、間違ってるかもしれない。」

「……。」

「でも。みんなに幸せになってほしいって思うことまで、間違いにしなくていいよな?」


カイラが、自分の胸に手を置く。


「うん。私は、また間違うかもしれない。」

「あぁ。」

「でも。私の思いは、間違いじゃない。」

「あぁ。そう、信じてもいいよな。」

「うん!」


正しくなくても。

間違っていないものもある。


今までの俺は。

正しいか。間違っているか。


そればかりを、考えていた。


「俺はさ。」

「……うん。」

「カイラに、幸せになってほしい。」

「……。」

「これは、変えられねぇよ。」


カイラが、少しだけ笑った。


「私はね。ジュディに生きていてほしい。」

「……。」

「これも、譲れない。」

「……そっか。」

「うん。」


俺は、カイラに幸せでいてほしい。

カイラは、俺に生きていてほしい。


お互い、譲る気はないらしい。


「……困ったな?」

「あはは。うん。困ったね?」

「どうしようか。」


カイラが、俺を見る。


「一緒に、考えよう?」

「……。」

「私も、一人で決めないから。」


昨日まで。


俺は、カイラの答えを決めようとして。

カイラも、俺の答えを決めようとした。


それで、思い切りぶつかった。


だったら。

次は、二人で困ってみよう。


「……一緒に、悩んでくれるか?」

「望む、ところです。」


カイラが、笑った。




—




「やって、みるか。」

「うん!」


アーヴィンから貰ったメモリーチップを、端末へ挿す。


「……それが、情報?」

「あぁ。人を見るための、情報だ。」


カイラが、椅子を動かして。

俺の隣へ来た。


肩が、少し触れる。


「……近くね?」

「でも、画面見えないよ?」

「……まぁ。そうか。」


資料を、開く。


物流従事者の数。

前職。

就業時期。

保有資格。


現在の再開発の進捗。

物流量。

契約規模。


画面に、情報が並んだ。


「……。」


カイラが、選ぶために。

俺は、そう決めた。


でも、この先にあるのは。

きっと、綺麗な答えじゃない。


誰かが、仕事を失うかもしれない。

誰かの生活が、変わるかもしれない。


そして、カイラは。

その全部を知った上で、選ぶことになる。


……傷つくかもしれない。


それは。

嫌だ。


「……。」


できることなら。

俺が、傷つかない答えを作ってやりたい。


俺が決めて。

俺が、守って。


……でも。

それをやった結果が……。


「……ジュディ?」


カイラの声に、顔を上げる。


「どうしたの?」

「……いや。」


カイラも、不安そうな顔で画面を見ていた。


少しだけ、触れている肩が。

……震えていた。


「……カイラ。」

「ん?」

「……大丈夫か?」


少しだけ、カイラが黙った。


「……正直言うとね。ちょっとだけ、怖い。」

「……。」

「間違えるかもしれないし。誰かを、傷つけるかもしれない。」

「……そう、だよな。」


カイラは、画面から目を逸らさなかった。


「でも。考える。」

「……。」

「ちゃんと、考えるんだ。」


……そっか。そうだよな。


怖いのは、俺だけじゃない。

カイラだって、答えなんて持ってない。


それでも。

今、彼女は進もうとしている。


「……。」


——なら。

俺にできることは、何だ。

俺が、選ばなきゃいけないことは、何だ。


カイラの代わりに、答えを出すことじゃない。

傷つかない場所へ、閉じ込めることでもない。


彼女が選びたい未来。

その未来に、少しでも近づけるなら。


怖くても、間違っていたとしても。


……それくらいなら。

今の俺にも、選べるはずだ。


「……。」


画面を見る。

俺の記憶。

元いた世界の仕事で、散々見てきたような数字。


……これなら。


「カイラ。」

「ん?」

「仕事を、しよう。」

「……仕事?」

「あぁ。仕事。」


一度、大きく息を吐いた。


「こういうの、結構やってたんだよ。元の世界でさ。」

「……そうなの?」

「課題の抽出と、施策の立案。提案と実施。」

「ん、ん?」

「……俺の、得意分野だったんだ。」




—




「おし。」


新しく、まっさらな画面を開いた。


「まず。何をしたいのか、整理しようか。」

「転送装置を、入れることだよ?」

「……う~ん。ちょっと違うかもな。」

「え?」


カイラが、こちらを見る。


「カイラは、みんなを幸せにしたいんだよな?」

「う、うん。」

「で。そのために、転送装置を入れようと思った。」

「そうだよ。でも、実際は——」

「入れれば、良くね?」

「引っ叩いていい?」


……あ、怖い。


「待て待て待て。最後まで聞いてくれ。」

「次は、本当にいくからね?」

「……へい。」


目が、マジだった。

め、めげるな。俺。


「じゃあ。なんで、入れるって言えなくなった?」

「……みんなを、幸せにできないから?」

「そうだよな。」


画面に、【みんなを幸せにする】と入力する。


「転送装置は、目的じゃない。」

「……。」

「これを達成するための、手段の一つ。」

「……手段の、一つ。」

「あぁ。」


その下に、【転送装置】と入力した。


「入れたら、何が良くなる?」

「復興が、早くなる。」

「あぁ。物流量が上がるからだな。他には?」

「物資が、安定して届く。」

「そうだな。他には、あるか?」

「えっと……。輸送費が下がる?」

「うん。いいな。メリットはこんなもんか。」

「……う、うん。」

「じゃあ、悪くなることは?」

「……運送の仕事が、減る。」

「あぁ。他には?」

「……。」


カイラが、止まった。

……ここだな。


「もっと、細かくしてみよう。」

「細かく?」

「何が問題なのか。一個ずつ見えるようにする。」

「ん~?」


カイラが、首を傾げる。


「ブレスト、してみようか。」

「ブ、ブレ?」

「あぁ、ごめん。アイディアを出し合おう。」

「……う~ん。アイディアか。」

「そんな身構えなくても大丈夫だよ。金。人。場所。仕事。なくなるもの。新しく必要になるもの。思いつく限り、全部出してみようぜ。」

「それだと、ぐちゃぐちゃにならない?」

「それでいい。後で、マッピングする。」

「ま、まっぴんぐ?」

「分類して、整理する。」

「最初から、分けちゃダメなの?」

「最初から枠を作ると、その枠の中だけで考えがちになるからな。」

「……へぇ。」

「とりあえず、やってみよう。」

「……なんかジュディ、先生みたい。」

「先生じゃない。社会人だよ。」

「シャカイジン?なんか。変な種族だね?」

「種族じゃねぇよ……。」


昔、エルナにも同じようなことを言われたっけな。


「あはは。」


カイラが、少し笑った。


………………。

…………。

……。


そこから、思いつくものを二人で出し合った。


転送拠点。倉庫。保守施設。人員。建設。運用。管理。費用。


現在の運送会社に、そこで働く人。

元々、この街で別の仕事をしていた人。

戦争が終わってから、物流へ入った人。


「……うっわぁ~。」

「ん?」

「ぐちゃぐちゃだね。」

「はは。でも、これだけ沢山出たのは、いいことだな。」

「いいことなんだ……。」


画面いっぱいに、文字が散らばっている。


「ここから、大きい項目を作って、分ける。」


人。金。設備。仕事。運用。


一つずつ、項目を移していく。

いくつか内容が被っているものは、くっつけて中分類として振り分ける。


「……ほぉ。すごいね。」

「なんだ?」

「なんか、見やすくなった。」

「あぁ。問題が分かりやすくなったよな。」

「ジュディ。ちょっとだけ、かっこいいね。」

「ちょっとだけ?」

「うん。ちょっとだけ。あ、でも本当にちょっとだけだよ?」

「……何が『でも』なんでしょうか。」

「あはは。」


まぁ。

嬉しいから、いいか。




—




「転送装置の維持って、どんくらい金かかるんだ?」

「うん。前の資料にあるよ。」


カイラが、別の資料を開いた。

数字を見る。


「……あ、そんなに掛からないんだな。」

「うん。転送装置は、座標さえ予め決めておけば最低限の魔力で運用できるから。」

「へぇ。やっぱ、すっげぇな。……今の案だと、誰が払んだ?」

「え~と、アッシュガードかな?」

「全部か?」

「……うん。」

「じゃあ、手数料取ろうか。」

「え?」


カイラが、こっちを見る。


「ま、待って。なんで?」

「転送装置を使う時の、利用料。」

「でも。安く物を運べるようにするためなのに。」

「今のままだと、安くなり過ぎるんだよ。」


現在の輸送費と、転送装置を使った場合の見込み。

その差額を、出す。


「今まで百掛かってたものが、五十になるとする。」

「うん。」

「そこに十取っても、利用者は四十得する。」

「……。」

「その十を、装置の維持費と。街への投資に使う。」

「投資?」

「あぁ。投資だ。」


画面に、【転送利用料 → 維持費・再投資】と書く。


「建設。設備。転職支援。新しく仕事を作るための金。」

「……支援金。」

「仕事がなくなるなら。その次を作る金がいるだろ?」


カイラが、画面を見つめる。


「技術入れました。便利になりました。今までの仕事なくなりました。後は頑張ってください。」

「……。」

「それじゃ、あんまりだろ?」

「うん。アーヴィンさんにも、そこを突っ込まれたと思う。」


カイラが、小さく頷いた。


「転送装置を作るだけじゃ、ダメだったんだね。」

「あぁ。むしろ、作った後の方が長いな。」


新しい仕組みなんて。

大体、導入してからが本番だ。


昔も、何度それで揉めたことか。


「……ジュディってさ。」

「ん?」

「結構、企業でも『上』のほうだった?」

「……まぁ。」

「見えないね。」

「……失礼じゃね?」

「あはは。」

「部下だって、結構いたんだぞ?」

「へぇ~。」

「ちなみに、結構モテ——」

「次、何する?」

「……。」


最後まで、言わせてほしいな。




—




「……次は、優先順位かな。」

「えっと。転送装置を入れた後の話?」

「あぁ。転送装置を入れるとして。その後、何を優先的に建てればいいのか。」

「えっと~、倉庫かな?」

「……。」


現在の建設計画を見る。

住宅。商業施設。倉庫。道路。


「……道路。」

「ん?」

「まずは、道路だ。」

「でも。転送装置を入れるんだよ?」

「だからこそだよ。」


配置図を、開く。


「物が、転送拠点まで届くよな?」

「うん。」

「その後は?」

「……運ぶ。」

「誰が?」

「運送の人。」

「何で?」

「……それは、車とか、道路——」


カイラが、少しだけ目を見開いた。


「あ。」

「アッシュタウン内の輸送距離は、確かに減る。」

「うん。」

「でも、転送装置が各家庭の玄関まで物を送ってくれるわけじゃない。」

「……市内輸送。」

「あぁ。」

「物が、今よりたくさん入ってくるようになったら……。」

「むしろ、増えるよな。」


カイラの手が、動き出した。


「じゃあ、道路を整備して。転送拠点からの配送網を作る。」

「あぁ。」

「今の運送会社も、思ってたより残せるかもしれない!」

「そうだな。でも段階的に、慎重にな。」

「……えっと、なんで?」

「道路の整備と、入ってくる物の量。合わせて増やさないとな。片方だけ先に進んだら、事故になる。」


アーヴィンから貰った、人の情報を見る。


「例えば、この人。戦争前は、建設業だ。」

「……本当だ。」

「こっちの人は、設備関係の資格持ってる。」

「転送装置の保守に、使えるかも。」

「こいつは、元々運送だな。」

「じゃあ、市内配送だね。」

「……いや。」


手が、止まった。


「……どうしたの?」


この人は、今までずっと運送業で働いてきた。


市内配送へ切り替えればいい。

たぶん、そんな簡単な話じゃない。


「……。」


画面の文字を見る。


——一人の人。

さっきまで、ただの情報だったもの。


「……ジュディ?」

「いや。」


少しだけ、息を吐く。


「勝手に決めたら、ダメだよな。」

「……。」

「俺達は、あくまでも選択肢を作るところまでだ。」

「……うん。」

「その後どうするかは、本人が選ぶ。」

「うん。」


カイラが、小さく笑った。


「今の私たちと、一緒だね。」

「……そう、かもな。」


今は、俺達はお互いを決めつけない。

選択肢を増やして、悩んで、考えて、決める。

確かに、そうなのかもしれない。


また、画面へ向き直る。


「ねぇ。ジュディ。」

「……うん?」



「……大好き。」



思わず、画面から目を離した。

カイラが真っ直ぐに、こちらを見つめていた。


「……え、今?」

「うん。今。」

「……えっと。」

「あはは。ごめんね。なんか、溢れちゃって。」

「……。」

「続き、しよう?」


……答えを求めているわけじゃ、ないのか。

また、二人で画面に視線を戻した。


「あぁ。続き、だな。」

「うん!」




—




そこから。


書いて、消して。

分類を変えて、戻して。

俺が出した案を、カイラが技術的に無理だと切る。


「それは、無理かも。」

「え、なんで?」

「転送装置一基で、その量は処理できないよ。」

「じゃあ、複数入れれば……。」

「その分、維持費増えちゃうよ?」

「……あー、ここの試算、詰め直しかよ。めんどくせぇ……。」

「考えるんでしょ?」

「……へい。」


カイラが出した案に、俺が穴を見つける。


「カイラ。これ、人足りない。」

「……えぇ!?」

「ほら。人数、見てみ。」

「……本当だ。」

「じゃあ、どうするか?」

「……。」

「……。」

「増やせばいいんじゃない?」

「なんか、雑になってきたな。」

「ジュディに言われたくないもん!」


その度に、また考える。

答えは、全然完成しない。


考えれば、考えるほどに。

新しい問題が、出てくる。


それでも、不思議と嫌じゃなかった。




—




「……ジュディ。」

「ん?」


どのくらい、時間が経ったのか。


端末の時計を見る。

思っていたより、ずっと遅い時間になっていた。


「私ね。」

「うん。」

「ジュディと、話せてよかった。」

「……俺も、今日。カイラと話せて、よかったよ。」


カイラが、首を横に振る。


「違くて。今日じゃなくて。」

「ん?」

「昨日のね。喧嘩。」

「……喧嘩?」


……結構、怒鳴りあったと思うけどな。


「嫌じゃ、なかったか?」

「嫌だったよ?」

「……どっちなん?」

「あはは。」


カイラが、笑う。


「怒ったし。悲しかったし。ジュディ、すっごいムカついた。」

「……。」

「もう本当に、すっごいムカついた。」

「……そこ強調すんの?」

「するよ。」

「……ごめん。本当に反省してるよ。」

「ううん。私も、酷いこと言ったから。」


カイラが、作りかけの資料を見る。

穴だらけの、資料。


明日、本当にアーヴィンへ出せるのかも分からない。


「でもね。本気で怒れた。」

「……。」

「ジュディも。本気で怒ってくれた。」

「……あぁ。」


格好悪くて。情けなくて。

お互いに、見せたくないところまで、見せた。


それでも、二人は。

今、隣にいる。


「ジュディとね。出会えてよかった。」

「……喧嘩したのに?」

「もう〜〜!喧嘩できたからだよ!それも込みでのお話!!」


カイラが、画面へ目を戻す。


「ジュディと、ずっと、こうしてたいな。」

「……仕事してるだけだぜ?」

「仕事だけじゃないよ〜。」


お互いの肩は、相変わらず触れたままだ。

熱と思いが、伝わってる気がした。


「たまにね。また、喧嘩するの。」

「……えぇ。嫌だぁ。」

「あはは。でもね。その後に、一緒に悩むの。」

「……。」

「でね?また、間違えて、後悔するの。」

「……それ、幸せなのか?」

「え~!」


カイラが、俺を見る。


「すっごい、幸せだよ?」

「……そうなの?」

「うん。そうなの!」


カイラが、俺の肩に頭を乗せた。


「こうやってね。」


笑っていた。

昨日、泣きながら俺に怒鳴っていた彼女が。



「ジュディとね。こうやって、生きたいな。」


第百八十一話、お読みいただきありがとうございました!


なんやかんや。

一緒に、考えることになりました。


一緒に困る二人です。

多分、これからも一緒に困るんだと思います。


あと一言。

ネル、本当にありがとう。

そして、ありがとう。


ゆっくり、眠ってね。


次回も20:10、更新予定です!

ブクマやコメントをいただけると、ブレストの項目が一個増えます(嫌だぁ)。

よろしくお願いします!


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