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スペル・エラー ~娘が生まれるのに異世界へ召喚されたので、何があっても帰ります~  作者: とろたま愚鈍
第二部:第五章|アッシュタウン編

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第百七十九話「人を見る」

「……ジュディ〜。おっそぉ。」

「ごめぇーん。まったぁ?」

「……うっざぁ。」


ザインに教えてもらった場所から、少し離れたバー。


店の奥に座っていたネルが、端末から顔を上げた。

今は、リオ・サーンの姿をしている。


バーなのに、ネルの前に置かれているのはジュースだった。

ストローで、グラスの中の氷をぐるぐると回している。


本当に、酒飲まないんだな。

……今度、飲ませてみよう。


「でぇ?どこ行ってたんだよぉ。」

「……悪ぃな。ちょっと込み入っててさ。」

「私は、お前と離れるだけでもリスクなんだぞぉ?それなのに昨日から……マジで。」

「……ごめんって。」

「反省してなぁい。」

「してるよ。」

「してませぇん。」


さっきまで俺は、例の地下にいた。


ガレスから送られてきた情報は、バックドア端末へ送られていた。

情報を自分の端末へ転送して、そのままここへ来た。


ザインが勝手に仕込んだバックドアを、アルカナ幹部のネルに見せるわけにはいかないしな。


「それでぇ?何か分かったのぉ〜?」

「あぁ。とりあえず、知り合いからアッシュタウンの輸送に関する情報を送ってもらった。」

「……へぇ。見せてみぃ?」


ネルの隣に座る。

端末を開いて、ガレスから受け取った資料を表示した。


ネルが、画面を指で送っていく。


「ふぅん。外側の情報は、よくまとまってるねぇ。」

「……あぁ。」

「再開発に関わってる企業。元請け、下請け。運送、建設、食料、資材。」

「うん。」

「契約規模に、輸送量。人員の概算まである。」

「結構、細かいだろ?」

「そうだねぇ。でもさぁ。」

「ん?」

「これが、今ジュディが、やりたいことぉ?」

「……。」


ネルが、俺を見る。


「自分が死なない方法は、探さないのぉ?」

「……何か、とっかかりがあればと思ったんだよ。」

「もういいよぉ。ごまかさなくて。」

「……。」

「カイラのためだろう?」

「……あぁ。ゴリゴリに喧嘩したけどな。」

「あっは!二人とも、本当にバカだねぇ。」

「うるせぇ。」

「二人が、それぞれやりたいことって言ったのにねぇ……。」


ネルが、小さく呟いた。

そのまま、また資料に目を戻した。


「他にはぁ、何かあるのぉ?」

「……あるにはあるけど……。口には出しづれぇな。」

「ふぅん?」


直後。

頭の中に、ネルからの着信。


(じゃあ、これなら話せるでしょぉ?)

(……なんだよ。急に通話飛ばすなよ。)

(口に出しづらいんでしょ?)

(……あぁ。まぁ、そうなんだけど。)

(で。他に何か分かったのぉ?)


少しだけ、周囲を見る。


客は、まばらだった。

店員も、今のところこちらを気にしていない。


(……エミリの居場所。)

「はぁ!?」

「わ。急にデカい声出すなよ。」


店員が、こっちを見る。

ネルが、何事もなかったようにジュースを飲んだ。


(き、昨日の今日で、どうやって。)

(……話すと長くなるんだけど。)

(端的に。)

(昨日。アーヴィンの傍にいた、仮面の男いるだろ?)

(うん。)

(そいつは、ライアスだった。)

(……ライアス?)

(あ。分かんねぇよな?説明すると——)

(ちょっと待って。)

(ん?)


ネルは、自分のこめかみをトントンと叩く。

……ルーティンか何かだろうか。


(あー。おっけ。思い出した。カイラの父親か。)

(……なんで知ってんだよ。)

(ジュディと接触した時に、ジュディのことは粗方調べてるよぉ。三年前だけど。)

(……怖ぇよ。)

(今さらでしょ〜?)


……それ。

最近、よく言われる気がするな。


(でも。ライアスは、死亡扱いだったはず……。)

(……。)

(はっは~ん。なるほどねぇ。)

(……話が早い。怖い。)

(あっは!予想するに、情報提供までは協力してくれるって感じかなぁ?)

(……あぁ。)

(回線も、貰ったぁ?)

(貰ってる。今日のエミリの所在も、もう分かってるよ。)

(見せてぇ。)


ライアスから送られてきた情報を、そのままネルへ共有する。

ネルは俯き、しばらく黙っていた。


(……へぇ。)

(どう?)

(館内の間取り。警備の配置。監視設備。全部あるねぇ。)

(あぁ。侵入経路自体は、もう見えてる。)

(じゃあ。あとは救出?の作戦だけだねぇ。)

(俺の方は、割と順調だな。)


場所までは、もう分かってる。

内部の協力者もいるし、後は掻っ払うだけだ。


(……ふむ。予想は、正しかったわけか。)

(……何だって?)

(この場所。問題は、アーヴィンがすぐ来れる距離ってことだねぇ。)

(……え?そこか?)

(そこでしょ~?この警備見る感じ、絶対バレずにはまず無理。)

(……そうかな?)

(うん。ドアにもロックがかかってる。それ自体は、私の方で何とかできるとしてぇ。)


その言葉に、一瞬面食らった。

正直、一番の障壁だと思ってたんだけどな……。


(何とか、できんのか?)

(できるよ。私を誰だと思ってんの?)

(……天才?)

(そぉ〜天才。でも、開けた時点でまずバレるね。)

(……なるほど。)

(三英雄に駆けつけられたら、無傷での奪取はまず無理だねぇ。)

(正直、ライアスにも建前がある。他の部隊とぶつかったとしても厄介だな。)

(……まぁ。その辺の有象無象なら、ジュディの高速移動で捌ける……としておこう。)

(しておくって……適当だな。)

(いいのぉ。アーヴィンと相対するほど大きい問題じゃなぁい。)

(……まぁ、そうか。)

(ジュディがエミリを連れ出すまで。何かで、あいつを拘束する必要がある。)

(……う~ん。今のところ分かんねぇな。)

(……うん。まぁジュディなら、ここまでだよねぇ。)


……なんだ?

何か、案があるのだろうか。


ネルに声を掛けようとしたところで、通信が切れた。


「……ん?」


見上げると、店員が、ちらちらこちらを見ていた。


そりゃ、そうか。

二人で座って、ずっと無言なんだから。


ネルが、ストローから口を離した。


「……昨日、さ。」

「あ?」

「昨日の痴話喧嘩さ。あれ何?」

「……今、その話する?」

「するぅ。」

「いや、何っていうか。あんなこと言うつもりはなかったんだけどなぁ。」

「分かってるよぉ。マジ不毛だったもん。」

「……うるせぇよ。」


周りを誤魔化すための、適当な会話。

俺は、店員にアイスコーヒーを注文した。


「私はぁ。どっちも、自分のためっていうのを責めてるのが、訳分かんなかったぁ。」

「……は?」

「みんなそうでしょ~?自分のために、生きてるでしょ~?」

「……あ、あぁ。」

「他人のために生きる。それが、本人にとって気持ちいいならぁ。別にいいんじゃないのぉ?」

「……。」

「私だってぇ、そう。私が、知りたいことのために生きてるぅ~。」

「お前は、極端なんだよ。」

「あっは!ジュディもでしょ~?もう怒る気も起きないほど筋金入りだしぃ~。」

「……否定できねぇ。」


店員が、アイスコーヒーをテーブルに置いた。

俺は、一口だけストローで啜る。


「……ジュディのことも、今なら、ちょっとだけ分かるよ。」

「……ん?」

「取り返しのつかない過去ってやつ。」

「……。」

「それで、ジュディが今感じてる恐怖の理由が、私には少し理解できる。」


俺は、椅子の背もたれに体を預けた。


「……そっか。」

「ん。そう。」


俺は、カイラのために生きることを、自分で望んでいる。

それが、俺自身のためでもある。


でも、その選択が彼女を傷つけるのだとしたら……。


「……ネル。」

「ん~?」

「俺は、どうすればいいんだろうな。」

「……知らなぁ~い。」

「だよなぁ。」

「でも。私は、ジュディを生かす。ジュディの都合は、知らなぁ~い。」

「……。」


昨日、カイラに言われた。


——私の幸せを、勝手に決めんな!!!


あの言葉が、まだ頭に残っている。


「ネルは、怖くねぇのか?」

「何がぁ?」

「自分で決めて、間違えて、誰かを傷つけたら。って考えるとさ。」

「……。」

「やっぱ、怖ぇよな。」

「ふぅん。そういうもんかぁ。」

「……なんだよ。」

「私も、まだそこらへんは研究中だからなぁ。」


……研究中か。なんだか、こいつらしいな。

ネルが、またジュースを飲む。


「カイラは、さぁ~。」

「……カイラ?」

「カイラは、どうしたいんだろうねぇ。」

「……。」


俺は、ずっと勝手に決めていた。


カイラが傷つかないように。

苦しまないように。


知らなくていいことは、知らないまま。

綺麗なまま、生きればいいと。


それが、カイラの幸せだと思っていた。


でも、少なくとも。

カイラは、それを望んでいない。


「……俺は。」

「ん?」

「まだ、自分の選択に自信は持てねぇ。」

「なさけなぁ。」

「あぁ。情けないよな。……でも。でもさ。」


カイラは、俺じゃない。

カイラ自身が、自分で考えて、自分で選ぶなら。


「カイラが、選ぶことなら。」

「……。」

「信じられると、思う。」

「ふぅん?」

「……なんだよ。」

「んふふふ。別にぃ?」

「なんか、その顔ムカつく。」

「あっは★」


何も解決したわけじゃない。


……俺は、まだ怖い。

自分で選ぶことも。間違えることも。


でも、だからって。

カイラの答えまで俺が決める必要はない。


なら、カイラが決められるように。

自分で選べるように。


俺が、彼女に、できることは。


「……。」


端末を見る。

ガレスから、送られてきた資料。


「……見てみる、か。」

「この、資料ぉ~?」

「あぁ。」

「……ジュディらしく、なってきたじゃん?」

「うるせぇ。」


改めて、再開発に関係している企業を見る。

その中から、物流に関係する会社だけを抜き出した。


建築資材。ストーンウェア。食料。生活用品。

それに人員輸送。


現在の輸送量。

契約規模。人員。


一つずつ、並べていく。


「……この三社が、かなりデカいな。」

「そだねぇ~。」

「転送装置が入った場合。長距離輸送が、一番減る。」

「うん。」

「食料は、全部が全部転送に切り替わるわけじゃない。」

「建築資材もだねぇ。」

「あぁ。けど、大型の資材輸送はかなり減る。」


数字を並べて、計算する。

どの会社に、どれくらいの影響が出るのか。


どれだけ仕事が減って。

どれだけ、人が余るのか。


概算なら、すぐに出せる。


「……こんなもんか?」

「え、はやぁ。私ほどじゃないけど。」

「こういうのは、慣れてんだよ。」

「慣れてるならぁ、暗算でしょぉ?」

「……あ、もういいです。」

「あっは!」


資料を整理する。

何が必要で。何が課題になるのか。


こういう作業は、久しぶりだった。


「……。」

「どう?できたぁ?」

「一応、な。」


画面を、ネルへ見せる。


「ずぞぞー。あ、店員さんおかわりぃ~。」

「……見ろや。」


会社名を始めとして。

契約規模。輸送量。業務内容。人員。


転送装置を導入した場合に。

どこへ、どれくらいの影響が出るのか。


数字としては、かなり見えるようになった。


「ふぅ~ん。そんなに数は大きくないねぇ。」

「……。」

「むしろ、発注を集約すれば、潰れるのは一社に抑えられそうじゃなぁい?」

「……。」

「……ジュディ?」


何か。

何か、引っかかる。


もう一度、ガレスから送られてきた資料へ戻る。


「……。」


資料の、一番最後。


一文だけ。

ガレスから、追記があった。




——情報屋の仕事は、人を見ることだ。




「……人。」

「無視すんなよぉ!!」

「人、か。」

「ひとぉ?」


自分が作った資料を見る。


会社の情報。仕事の情報。契約の情報。

そこに、人数も書いてある。


「……ネル、これ。」

「さっきから、なんなのぉ?」

「これさ。人の情報か?」

「……はぁ?」


ネルが、端末を覗き込んだ。


「人数は、ある。」

「……うん。」

「今、何の仕事をしてるかも分かる。」

「それを、調べたんだろぉ?」

「でもさ。この人らは、なんで今この仕事を、何のためにしてるんだ?」

「……そんなの、食べるためだろぉ?」

「いや。そうじゃない。戦争の前から、運送だったのか。復興が始まって、仕事があるから物流に入ったのか。」

「……なるほどねぇ。」


新しい資料を開く。


「……前職。」

「……。」

「今の仕事に就いた時期。持ってる資格。」

「……。」

「元の仕事に戻れるか。物流以外の経験。家族構成も必要か?」

「……。」

「転送装置を入れた後、輸送以外の需要も必ず増えるはずだ。なら、それに適性のある人材だって……。」

「……ジュディ。」

「……ん?」

「急に、かっこいい顔になったねぇ。」

「……仕事してる時は、結構モテてたんだぜ?」

「あっは!バカっぽぉ~!!!」


項目を、一つずつ増やしていく。


足りない。

これじゃあ、全然、足りない。


俺が見ていたのは、物流という仕事と企業だった。

その仕事をしている、人じゃない。


「……ネル。」

「ん?」

「少し、付き合ってくれねぇか?」

「……カイラのことぉ?」

「あぁ。どちらにしても、俺の作戦はもうちょっと練る必要がある。」

「……そうだねぇ。ほんっと、バカといると疲れる……。」

「……帰っても、いいぜ?」


ネルは、頬を膨らませた。

ジト目で、俺を見る。


「いいよぉ。毒を食らわば皿まで。」

「……意味、合ってんのかなぁ。」

「知らなぁい。で、何すんの?」

「アッシュタウンの内部で働いている人の情報を、集める。」

「……効率わるぅ。」

「って言われてもなぁ。」


実際、内部の情報を得るための伝手はない。

ここは、泥臭く足を使うしかないと思うんだけど。


「……聞けば、いいじゃん?」

「聞くって、誰にだよ?」

「アーヴィンに。」

「……。」


ネルを見る。


何でもない顔で。

ジュースのストローを咥えていた。


「……マジか。お前。」

「あっは!」


第百七十九話、お読みいただきありがとうございました!


ジュディが、ちょっとだけ進めましたね。


まだ、自分自身の選択には自信がない。

でも、カイラが選ぶことなら、信じられるのかもしれません。



そして、今回一番疲れているのは間違いなくネルです。


カイラのポテチを奪い、睡眠時間を奪われ。

今日は、仕事に付き合わされます。


頑張れ、ネル・クライス。


次回も20:10、更新予定です!

ブクマやコメントをいただけると、ジュディの計算が早くなります。

よろしくお願いします!


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