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スペル・エラー ~娘が生まれるのに異世界へ召喚されたので、何があっても帰ります~  作者: とろたま愚鈍
第二部:第五章|アッシュタウン編

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第百七十六話「仮面の男」

通話は、すぐに繋がった。


『……なんだ。』


開口一番、それだった。

こいつは、もっと愛想ってものを覚えた方がいいな。


(……ザイン。今どこ?)

『お前は、もっと愛想ってものを身につけた方がいい。今は、宿泊施設だ。』

(うるせぇな……。ちょっと、頼みがあんだけど。)

『……碌なことではないな。』

(まだ、何も言ってねぇけど。)

『いい。ただの愚痴だ。で、頼み事とはなんだ?』

(ガレスと、通信したい。)

『ガレス。それは、アッシュタウンから、外と通信がしたいと?』

(あぁ。できるか?)

『できるな。』


思わず、足を止めた。


(え、できんの?)

『なんだ。都合がいい回答だろう?』

(……いや、そうなんだけどさ。)


アッシュタウンは、外部との通信を遮断している。

それは、何度も確認していた。


『とりあえず、座標を送る。一人で来い。』

(……なんで、一人?)

『不特定多数の人間に、知られたくない。』

(ってことは、裏口なんだな?)

『……来れば分かる。』


通信が、切れた。


……怖ぇな。


届いた座標を確認する。

宿泊施設から、そう遠くはない。


俺は、そのまま指定された場所へ向かった。




—




指定された場所は、再開発区域の端にある古い三階建ての建物だった。


外壁は崩れ。

窓も、ほとんど割れている。


その入口で、ザインが煙草を吸っていた。


「……よぉ、ザイン。」

「あぁ。」

「なんで、ここ?廃墟じゃねーか?」

「意味もなく、ここに呼ぶわけないだろう。中は生きている。」

「……何が?」

「通信設備だ。」


ザインは、煙草を足元へ落とし、もみ消した。

そのまま、建物の奥へと歩いていく。


「あ、おい!」

「……いいから、ついて来い。」

「……。」


ザインの後を追う。


埃っぽい廊下を抜け、階段を降りる。

地下の壁際に、古い端末が置かれていた。


「ここ、何なんだ?」

「元々は、何かの事務所だったようだな。」

「……そこに、何でお前が使える端末があんだよ?」

「俺が、残しておいた。」

「……。」


ザインが、端末へ触れる。


——ピッ。


死んでいたはずの画面に、光が灯った。


「……これで、繋がんのか?」

「あぁ。MANAの技術を使って、バックドアを仕込んである。」

「一応聞いておくけど、勝手にだよな?」

「当然だろう。」

「……怖ぇな。お前。」

「今さらだろう?」


ザインが、端末を操作する。


「アッシュタウンには、外壁を起点として強力なジャミングが張ってある。街全体を覆うようにな。」

「あぁ。だから、外と通信できねぇんだろ。」

「しかし、全てをジャミングするわけではない。アッシュガードのIDを使えば、外と通信が行える。」

「……んで?」

「この端末からの通信を、アッシュガードのIDだとシステムに誤認させる。」

「……完全に、アウトじゃん。」

「あぁ。アウトだな。」

「どう考えてもリスクだろ?なんで、こんなもん仕込んでんだ?」

「当然だ。依頼主を信用していなかったからな。」

「……依頼主?」

「無論、アッシュガードだ。」


思わず、ザインを見る。


「MANAって、アッシュガードと仕事してたのか?」

「いや。厳密には俺が、傭兵として受けた。」

「……アルカナの情報を、探ってた時か。」

「あぁ。この端末を仕込んだのは三年前。カリドでの依頼を受けた時だ。」

「……カリド?」


三年前の、カリド。

確か、ザインと最初に出会ったのは……。


「おい、ザイン。それって——」

「……繋がったぞ。」


ザインが、端末から手を離した。

画面に、見慣れた男の顔が映る。


『……誰だ。』

「よぉ。ガレス。」

『ジュディ?なぜ非通知の回線でお前が出てくる。アッシュタウンはどうした?』

「まだアッシュタウンだ。どうしても声が聞きたくてさ。」

『止めろ。気持ちが悪い。……この識別パターンは、MANAの通信か?』


その言葉で、ザインが眉を上げた。


「……ほう。分かるのか?」

『その声は、ザインか?……なるほどな。』

「あぁ。ジュディに頼まれてな。無償で。」

『っふ。無償かどうかはこれからだろう?』

「あぁ。たんまり請求するさ。飲み会もハブられたからな。」

「……怖ぇこと言うなよ。」


思わず、声が出た。

画面の向こうで、ガレスが葉巻を咥えている。


『それで?わざわざリスクを冒してまで通信を繋いだ理由は?』

「あぁ。追加で調べてほしいことがある。」

『……聞こう。』

「アッシュタウンの再開発に関わってる企業のリストがほしい。」

『……随分と、広いな。』

「運送。建設。食料。資材。人材。なるべく詳細に。」

『なんだ。いつもと違って表の情報だな。一体何に使うんだ?』

「アーヴィンとの交渉に使えるかなってさ。まだどう使うかは分かんねぇけど。」

『……なるほど。』


ガレスが、少しだけ目を細める。


『元請け。主要取引先。契約規模。搬入量。その辺りまでは追える。』

「あー、もっと下も知りたい。子会社とか、実際の働き手のリストとか。」

『アッシュタウンは通信が遮断されている。外から取れるのは概要までだ。』

「……分かった。リスト貰えれば、こっちで内側から動く。」

『ふむ。らしくなってきたじゃないか。……いつまでだ?』

「早いほど、助かるな。」

『……今夜中に、今通話している端末に送っておく。朝、回収しに来い。』

「悪いな。助かるよ。」


これで、少なくとも足場はできる。


外から骨組みを調べて。

中にいる人間は、この街で見る。


『では、他にないなら切るぞ。早速取り掛かろう。』

「……あぁ。」


通信を切ろうとして、手が止まった。


「あ、ザイン。」

「……何だ。」

「さっきの、三年前って何のことだ?」

『……三年前?』

「あぁ。さっき、ザインが三年前にアッシュガードから傭兵として仕事を受けたって。」

『……ほう?』

「俺にも、関係ある……らしんだけどさ。」


ザインが、ガレスの映る画面を見る。


「丁度いい。その辺りは、こいつの方が詳しいだろう。」

「……ガレスが?」

『……何だ。』

「三年前に、ザインが受けたアッシュガードの仕事ってなんだ?」

『……それは、カリドでの仕事か?』

「あぁ。」

『……。』


ガレスが、少しだけ間を置いた。


『当時、ザインを傭兵として雇っていた依頼主は、ライアス・ドゥーナだ。』

「……は?」

『他にも、マグとシン。合計で、三人を雇用していたな。』

「……。」


思考が、止まった。


三人の護衛。カリドでの依頼。

俺たちが、転送装置を奪取する時に相対した人数と、同じ。


「それは、おかしい。」

『何がだ?』

「……ライアスは、カリドの企業。イグニスの所属だろ?」

『違うぞ。ジュディ。』

「……は?」

『カイラは、イグニスの所属だった。しかし、ライアスは、イグニスの外部顧問にすぎん。』


ガレスが、葉巻を置く。


『ライアス・ドゥーナの本来の所属は、アッシュガードだ。』

「……はぁ?」


ライアスが、アッシュガード?

俺は、過去の記憶を探る。


ライアスと出会った時。三年前。


「……。」


あいつは、確かに言っていた。


——一応、イグニスの外部顧問を務めている。


外部顧問。確かに、本人はそう言っていた。


——そうだ。

あいつは一度も、イグニスの人間だとは言っていない。


『もっとも。本人は三年前に死亡している。』

「……あぁ。」

『今さら所属を知ったところで、どうにもならんがな。』


指先が、少しだけ止まった。


「……そう、だよな。」

『なんだ。他に気になることがあるのか?』

「いや。今のところは、なんも。情報、頼むよ。」

『……あぁ。』

「ザインも、ありがとな。」

「礼はいらん。きっちり請求するさ。」

「……なんか、お前ら似てるよな。」

「『やめろ。』」

「……息、ぴったりじゃん。」


通信が、切れた。

地下に、静けさが戻る。


「……。」

「どうした?ジュディ。」

「……いや。」


ライアスが、アッシュガード。

……知らなかった。


「もう、用はないだろう。長居したくない。さっさと戻るぞ。」

「……あぁ。」


ザインが、階段へ向かう。

その背中を追おうとして。


——ピッ。


視界の隅に。

見慣れない表示が出た。


「……ん?」


送信者が、ない。

履歴にも、何も残っていない。


表示されているのは、短い数字の羅列だけ。

どこかの、座標だった。




—




ザインと別れ、指定された座標へと向かった。


「……なんだ?ここ。」


指定された場所は、アッシュタウンの西側だった。

復旧の手が、まだ入っていない区域。


崩れた建物に、割れた道路。

街灯すら、ほとんど点いていない。


「……。」


安易に、来るべきじゃなかったかもな。

ザインに、同行してもらうべきだったかもしれない。


……いや、今さらだな。


太もものホルスター。

そこに格納されている銃へ、手を添える。


座標の場所へ近づくと、そこには古い倉庫があった。

扉は、開いている。


「……嫌な予感しかしねぇ~。」


中へと、入る。


やけに、暗い。

天井の一部が崩れ、夕方の光が細く差し込んでいる。


「……あ?」


その中央に。

一人の男が、立っていた。


「……。」


黒いスーツ。顔には、仮面。

午前中に、アーヴィンの隣にいた男。


「……お前。」


男は、何も答えない。


「アーヴィンの、側近だよな?」

「……。」

「俺を呼んだのは、あんたか?」

「……。」

「……だんまりかよ。」


返事は、ない。

右手を、銃へ掛ける。


「悪いけど。俺もあんまり時間がなくてな。」

「……。」

「何もねぇなら、さっさと——。」


——ヒュッ。


瞬間。

頬の横を、何かが通り抜けた。


「……っ!」


反射的に、身体を横へ倒す。


——バシャッ!


背後の壁へ、水が叩きつけられた。


「……水?」


男が、片手を上げている。

足元から、水が浮かび上がった。


「……おいおいおい!」


銃を引き抜き、発砲。


——パンパンパン!


男が手を前にかざす。

そこから、水の盾が出来上がった。


弾丸は、水の壁に弾かれ、そのまま床へと落ちる。


……水の魔術属性。

嫌なことを、思い出させる。


「……ちっ。」


迷わず、水の壁へ電撃を流す。


——バヂンッ!!!


男は、すぐに水を切り離した。

電流が、床へ落ちた水だけを走る。


「……へぇ。」


両足へと、電撃魔術を流す。


一歩、踏み込む。

強化した脚で、一気に距離を詰める。


「……っ!!」


男の懐へ、右腕を振るった。


——ガンッ!!!


義手が、水で作られた細い刃に止められた。


「……。」


男と、至近距離で目が合う。

……どこか、懐かしい。そう感じる瞳。


「急に、随分なご挨拶じゃねぇか?」

「……。」

「あんた、誰だよ。目的は?」


男は、俺の義手を見た。

次に、脚。


最後に、俺の顔を見た。


「……強くなったな。」

「……あ?」


聞いたことがある、低い声。


まずい。体が、動揺した。

まずは、距離を——。


「……っち。」


細い刃を弾く。

俺は、男と距離を取った。


「……ふぅー。」

「判断も適切だな。三年前とは、別人のようだ。」


三年前。アッシュガード。

……先ほど、聞いた話。


「……あんた。まさか。」


男が。

ゆっくりと、仮面へ手を掛ける。


「あぁ。」


仮面が、外れた。


「……。」


息が、止まった。

見間違えるはずがない。


——三年前。

俺が撃った。死んだはずの男。


「……ライアス。」


昔と変わらない顔で、俺を見る。

そして、少しだけ、笑った。


「久しぶりじゃないか。ジュディ。」


第百七十六話、お読みいただきありがとうございました!


仮面の男。

正体は、ライアスおじさんでしたね。


三年前に、ジュディが確かに撃ったはずの男です。

なんで生きてるんでしょうね。


いやぁ、次回が気になりますね!!

ね!!気になりますよね!!


次回も20:10、更新予定です!

ブクマやコメントをいただけると、ザインがバックドアをもう一本増やします。

よろしくお願いします!


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