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スペル・エラー ~娘が生まれるのに異世界へ召喚されたので、何があっても帰ります~  作者: とろたま愚鈍
第二部:第五章|アッシュタウン編

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第百六十九話「二つの窓口」

アルカナ本社。

週に一度のはずの、役員会議。

いつもの役員と、カイラとサヤが参加していた。


今日は、いつもの予定時間とは違い臨時の開催だった。

……それだけ、ジュディの時間がなくなってきてるんだろうな。


エルドが俺を見て、口火を切った。


「ではジュディ。事前に言われていたように報告を頼む。」

「……はい。」


いつもの場所に座ったまま、端末を操作する。

テーブルの中央に、事前に作成した資料が投影された。


「まず、アッシュタウンに出入りしてる人間をざっと調べてみた。」


説明に合わせて、投影された画面を切り替える。


運送業者。

建設関係。

資材を扱う企業。


「特に多いのが、運送と建設関係。食料もほとんど外から入れてる。入場にはアッシュガードの許可が必要だけど、思ったより閉じてないな。」


エルドが、手元の資料へ目を落とす。


「そうだな。現状、アッシュタウンだけで復興に必要なものを賄うのは難しい。建材、機材、食料、人員。外から入れざるを得ない。」

「えぇ。ガレスの話とも合ってます。」


資料をもう一枚送る。


「業者ごとに入れる区域は違うみたいだな。中に入れば通信も遮断される。……まぁ、バカンスに行ける街じゃねぇのは間違いないな。」

「……あぁ。以前のMANAほど、入り込むのは難しくないだろうね。」

「えぇ。どう中に入るかは、まだ課題ですね。今日は、その方針を相談できればと。」

「そうだな。接触できるルートを、この後整理していこう。」


俺は、会議室の参加者に目を向ける。


「——俺が調べた情報は以上だ。何か質問がある人は?」

「はい!」


カイラが、勢いよく手を挙げた。

この面子の中で、すげぇなカイラ。


「……カイラ、どうぞ。」

「資料の字、大きくない?」

「……え、そこなん?」

「うん。っていうか出す情報絞りすぎじゃない?もっといっぱい調べてたじゃん。」

「いいんだよ。資料は、一ページに言いたいこと一個あれば。」

「……そうなの?」

「細かい根拠とか数字は、後ろとか別紙につければいいの。」

「そういうものなの?」

「そういうものなの。後は質問来た時に答えれば十分だよ。」


これでも元の世界では会社員だったしな。

久々の会議資料の作成は、少し楽しかった。


カイラが、ほぅ、と資料を見る。

サヤは、飴を咥えながら髪の毛の毛先をいじっている。

……せめて資料開けや。おいこら。


「……いい資料だよ。端的で分かりやすい。」


エルドが言った。


「ふふん。ほらな?今の聞いたろ、カイラ?」

「……何その顔?」

「褒められたぞ?俺。」

「あはは。はいはい。」


……流された。


「次は、私からも報告しよう。」


エルドが資料を切り替えた。

画面に、アッシュガードの名前が表示される。


「ゼノ社長からアッシュガードへの正規の接触経路を探るよう指示を受けていたからね。」

「……お。」

「外部企業向けの受付を通して、こちらから問い合わせを入れた。その直後だ。向こうからもアルカナへ連絡があった。」

「……向こうから?」

「あぁ。」


俺は、少しだけ身を乗り出した。


「アッシュガードから、アルカナへ提案があるそうだ。詳細は直接会って話したいとのことだった。」

「誰と会う予定なんです?」

「アーヴィン・ロックウェル本人だ。」


すげぇ。

もう、そこまで行ってんのかよ。


「現在、接見の日程を調整している。」


思わず、エルドを見る。


「……エルドさん。これ、いつやったんです?」

「ん?質問の意図が分からないね。」

「いや。今、めちゃくちゃ忙しいはずですよね?」

「まぁ。君に八つ当たりするくらいには忙しいね。」

「え、えぇ。ハピレスに爆破されたビルの復旧やって。」

「あぁ。」

「他の支社も見て。」

「それは、元々の業務だね。」

「その間に、アッシュガードへの窓口を調査して連絡したんですか?」

「そうだよ?」

「……怖っわ。」


エルドが、よく分からないという顔をしている。

あぁ。この人、無自覚に優秀なタイプだ。


「エルド。」


ゼノが、口を開いた。


「あちらの提案内容は、まだ分からないのだな?」

「はい。接見の場で伝えるとのことです。」

「構わない。そのまま進めろ。」

「承知しました。」


相変わらず、決めるのが早ぇな。

ゼノが、俺を見る。


「あちらから接触してきたのであれば、話が変わってくる。アーヴィン・ロックウェルの協力を得る形の方がリスクは少ないだろう。」

「……レガシーコードは、どうすんだ。」

「そちらも並行して進める。アーヴィンは魔法使いだ。レガシーコードの欠損した記述の修復に加えて、直接世界のルールに干渉させる。」

「……。」

「あちらの提案内容次第だが、交換条件をこちらも出す形で交渉する。それが最善だろう。」


話に、筋は通ってる。

でも、それじゃあ俺の目的は半分しか達成できない。


それを察してか、ゼノは再び口を開いた。


「こうなっては、A-3Rについては不要だな。」

「……エミリ、だ。」


勝手に、口が動いていた。


「なに?」

「A-3Rじゃねぇ。名前は、エミリだ。」

「……。」


少しだけ、間ができた。


カイラとサヤは、特に反応しなかった。

ゼノが、俺を見る。


「くだらんな。何が違う?」

「ふざけんなよ。全然違ぇだろ。」

「ただの呼称だ。伝わるのであれば——」

「人の、名前なんだよ。」


ゼノの言葉を遮る。


「エミリ本人が、エミリだって名乗ってる。尊重しろよ。」

「……。」


ゼノが、少しだけ黙った。


「……不毛な会話だ。」

「そう思うなら、合わせろよ。時間もったいねぇだろ?」

「……エルド。『エミリ』について続きを話せ。」


……めんどくさくなったな。こいつ。


これで、ゼノが俺の意図を全て汲んだとは思わない。

でも、言い直してくれりゃなんでもいい。


「はい。では、エミリについて。」


エルドが、普通に続けた。


「現在は、アッシュガードが確保している。これはほぼ確定だね。」

「えぇ。エミリ本人からの情報だと、そうですね。」

「……ジュディ。」

「はい?」

「君は、なぜそこまで彼女を気にしている?」


……まぁ、気になるよな。

エミリと俺が共感覚で繋がっていること自体は、みんな知っている。


ただ、どのくらい話しているとか。

飯を食うたびに、勝手に味見してくるとか。


ソフトクリームを食っただけで、幸せスパイラルとか言い出すとか。

『エミリ自身』を知っているのは、俺だけだ。


「……俺は、彼女と直接話をしています。」

「情にほだされたということか?」

「いえ。そういうことじゃありません。単純な信頼性の問題です。」

「……それは?」

「アーヴィンとは、まだ話もしていないし狙いも分からない。」

「……。」

「エミリは、人となりや望みも知っている。そんだけですよ。」


エルドが、少しだけ眉を動かした。


「……そうか。まぁ。そういうことにしておこう。」


それ以上は聞いてこなかった。

ゼノが、机の上で手を組む。


「お前の言い分は分かった。それでも、エミリの確保は優先事項ではない。」

「……まぁ、そうだよな。」

「アーヴィンから協力を得られれば良い。余計な危険を増やす必要はない。」

「あぁ。」

「……。」


ゼノが、俺を見る。

俺も、ゼノを見た。


「あんたは、そう言うと思ってたよ。」

「私も、お前はそう言うと思っていた。」

「……っは。」


なんだ。

分かってんじゃん。


「じゃあ、もういいだろ。」

「……何がだ?」

「そっちはそっちで勝手にやれよ。」


椅子へ、背中を預ける。


「こっちはこっちで、勝手にやるさ。」


ゼノは、しばらく黙っていた。


「好きにしろ。どうせ聞かんだろう。」

「……あぁ。」


話が早い。


俺が頼んだわけでもないし。

ゼノが止めたところで、やめる気もない。


その辺は、もうお互い分かっている。


「では。アーヴィンとの接見については、引き続き私が調整しよう。」


エルドが、話を戻した。


「おそらく、研究者の同行も必要だろう。場合によっては、ネルにも同行してもらおう。詳細な人選については、日程が決まり次第こちらで整理する。」

「……あぁ。恙なくこなせ。」


ゼノが、頷いた。

これで、正面からアッシュガードへ接触する道はできた。


あとは、もう一つ。

俺とネルが、開いた道がある。




—




アルカナ、第七研究室。

机の上に、ミゼラから回収した端末が置かれている。


ネルがロックを解除したものだ。


「……。」


画面を見る。

通信履歴に残っている名前は、アーヴィン・ロックウェル。


——本人への直通回線。


「ジュディ。」

「ん?」


隣に座るネルが、俺を見る。


「緊張してないね?」

「え、なんで?」

「相手、アッシュガードの長だよぉ。普通、ビビるでしょぉ?」

「まだ話もしてねぇのに、ビビるだけ損だろ。」

「……そういうとこぉ。」


ネルが、少しだけ笑う。


「バカで、かっこいいよねぇ。」

「……褒めるなら、ちゃんと褒めてよ。」

「あっは★」


端末へ、視線を戻す。


「おし!んじゃ、掛けるぞ。」

「どぉぞ。」


指を伸ばして、一度止まった。


「……これ、普通に掛けていいんだよな?」

「え、知らなぁい。」

「……ネルが開けてくれたんじゃん?」

「開けただけだよぉ。後は知らなぁい。」

「……んだよ。役に立た——」

「あ?」

「掛けま~~す。」


画面の通話ボタンに、触れる。

呼び出し音が鳴った。


一回。

二回。


——繋がった。


端末の画面に、一人の男が映し出された。


後ろへ撫で付けた髪。

軍服に近い服装。


年齢は、六十前後だろうか。


背筋を真っ直ぐに伸ばし。

画面の向こうから、こちらを見ている。


この男が、アーヴィン・ロックウェル。


第二次魔術大戦を終結させた三英雄の一人。

そして、今のアッシュタウンを率いる魔法使い。


何を言うか考えるより先に。

向こうが、口を開いた。


『やぁ。キムラ・ジュディ。』

「……は?」

『待っていたよ。』

「……。」

『予想より早かったな。優秀だ。』


思わず、ネルを見る。

さっきまで笑っていた顔から、表情が消えていた。


「……俺から掛かってくるって、分かってたの?」

『あぁ。近いうちにな。』

「えっと~。なんで?」

『その説明には、時間がかかる。特に君の場合、時間は貴重だろう?』

「……。」

『そうだな。まずは礼を言おう。』

「礼だって?」

『あぁ。ハピレスを、よく潰してくれた。』


……どういうことだ?

ミゼラは、アッシュガードへ情報を流していた。

二つの組織は、協力関係じゃなかったのか?


「……ハピレスは、仲間じゃなかったのか?」

『仲間?』


アーヴィンが、少しだけ眉を上げた。


『ただ一度、契約をしただけだ。あのギャングには、こちらも手を焼いていた。』

「……へぇ。そういうもんか。」


いやに、あっさりしている。

まぁ、俺には関係ないな。


「あんたに聞きたいことがあって、連絡した。」

『分かっている。早速本題に入ろうか。』

「……あぁ。」


アーヴィンが、僅かに笑った。


『この連絡の意図は、まさしく君自身のことだろう?』

「……あ?」

『アルト・フェルン。』


ネルが、僅かに動いた。


珍しいな。

ネルが、相手の思考を掴みかねるなんて。


「……あんた。一体どこまで知ってんだ?」

『その質問も、回答に時間がかかるな。』

「……。」

『端的に言えば、君が『同一化』で死にかけていることは分かっている。』


……こいつ。

どこから、そこまで調べたんだ。


『A-3Rと同じ状況だ。』

「……エミリと同じ?」

『エミリ?』

「あいつの、名前だよ。」

『……なるほど。』


アーヴィンが、少しだけ間を置いた。


『では。今後は、エミリと呼ぼうか。』

「……。」


ゼノより、話が早いな。


『エミリと君に起きているのは、根本的には同じ事象だ。多少の差異はあるがね。』

「……。」

『エミリは、エルナ・クロイツ。君は、アルト・フェルン。手を打たなければ、それぞれ存在が置き換わる。』


……また、俺はネルを見る。

何も言わず、画面を睨むように見ていた。


「……アーヴィン。」

『なんだ?』

「知ってること、全部話してくれないか。」

『あぁ。構わない。』

「……え?」


あっさり返されて、逆に詰まった。


……なんなんだ。

親切すぎる。絶対に、何か裏がある。


アーヴィンが、口元を少しだけ緩める。


『……ただし、この場では話せないな。』

「なんだよ。もったいぶんなよ?」

『直接話した方が良いだろう?元々、君はそのために連絡を寄こしたはずだ。』

「……。」

『一度、会おうか。キムラ・ジュディ。』


画面の向こうで。

アーヴィンは、俺が来ることを当然のように待っていた。


第百六十九話、お読みいただきありがとうございました!


第五章「アッシュタウン編」開幕です。


情報屋の下っ端になったジュディ。

早速、前職の資料作成スキルが役立ちました。


何気に、会社員スキルがちゃんと役に立ったのは初めてでは?


そして、アーヴィン・ロックウェル。

意外と良い奴なのかもしれませんね。たぶん。きっと。


次回も20:10、更新予定です!


ブクマやコメントをいただけると、ジュディの資料の文字がもう少し大きくなります。

よろしくお願いします!


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