第十六話「急造チーム、それぞれの役割」
カイラに案内されたアジトは、潰れた地下のバーだった。
外観は寂れていて、看板もろくに読めない。
用がなければ、まず近寄らないだろう。
でも中に入ると、思ったより整っていた。
作戦用のテーブル。
端末が複数台並んだ作業スペース。
簡易的なベッドが並ぶ休憩スペース。
「一応ここが、私達の拠点。…こんなところでごめんなさい!」
カイラが申し訳なさそうに言う。
全然いい。
この間のモーテルよりは幾分マシだと思った。
奥から、二人の男が出てきた。
一人は、でかいアフロヘアが目を引く黒人の男だった。
体格は華奢だが、なんだか陽気な雰囲気がある。
こちらを見るなり、ぱっと顔が明るくなった。
もう一人は、背が高く、細身だががっしりとした体格。
口元に煙草を咥えていて、こちらを一瞥してからすぐに視線を外した。
「ヴィンと、クロウよ。今回のチームメンバーです!」
「ヴィンだ!よろしくぅ!情報収集とか~、ハッキングとか?そういう細かいこたぁ~俺に任せてくれ!いや~、べっぴんさんが二人も!こりゃ~今回の仕事は当たりだなぁ!」
一息で喋り切った。
元気だな、この人。
「…ふぅ~。クロウだ。」
一方、クロウは煙草の煙を、吐き出し一言。
それだけだった。
「……まぁ、どっちも個性的だけど!腕は確かだから!」
何故か、カイラがフォローした。
「ジュディです。よろしく。」
「エルナ・クロイツ。」
エルナは短く答えた。
クロウと目が合った。
クロウは、特になにも言わずに視線を落とした。
なんとなく、クロウを観察する。
煙草の持ち方、立ち方、視線の動き。
なんとなく、この人は本物だ。
そう感じた。
「——吸うか?」
クロウが、煙草の箱を、僕に差し出した。
その煙草を見て、何故かふと思い出す。
——『僕』は辞めておけ。舐められないことも重要だ。
「……いや、俺はいい。辞めたから。」
昔吸っていたこともあったが、
明里と結婚、妊娠を経て煙草はもう辞めていた。
「そうか。」
それだけだった。
クロウは煙草の箱をしまって、また煙を吐いた。
ちなみに、エルナはその煙草の煙を一身に受けていた。
顔をしかめている。
我慢できて凄いな。エルナ。
—
「よし!メンバーの自己紹介も済んだし、早速作戦の話をしましょうか!」
そう言いながら、カイラがテーブルに地図を広げた。
全員が集まる。
「目標は、イグニスがノヴァへ運送する転送装置の試作品。今回の作戦は、大きく分けて二段階!」
「二段階?情報収集と実行って感じか?」
「ジュディおしい!でもいい線よ。今回の転送装置は、車での郵送がメインになるわ。そのためにはまず、運送ルートの確認と車を停止させる準備が必要なの!」
「車を止める準備?そんなの、車をぶっ壊せばいいじゃない。」
エルナが物騒な提案をする。
普段はそんな力任せの提案はしないのに。
なんかイラついてるな。
「ん~!それでもいいけど、中の転送装置も、壊れちゃうし、ね?」
全然否定してくれていいんだよカイラ…。
「まず一段階目!支社のシステムに潜入してハッキングを行う。それで、運送当日のルートの確認と、車両に停止信号を送って動きを止める下準備をする。」
「で、二段階目はいよいよ当日!この俺様が車を停車させて、その隙に車両を襲撃!目的のモノを見つけたらトンズラこくってわけだ!」
二人はすでに話しを聞いていたのだろうか。
ヴィンが途中で口を挟んでくる。
「ヴィン!せいか~~い!」
パチパチとカイラが手を叩く。
この二人の会話は、作戦会議と思えないくらい陽気だ。
ここはパリピ会場だろうか。
そのうち、ダンスを踊るのだろうか。
「ハッキングは、もちろん俺が担当だぁ!支社の基幹システムに繋げれば、後はなんとでもならぁ~な!」
「問題は、基幹システムのある区画に入ることね!」
カイラが続けた。
「私はイグニスの社員証で支社には入れるけど…、基幹システムの区画は、別のセキュリティがかかってて困っちゃってるんだ〜。」
「その、困ったこととはなんです?」
「単純に警備員がいるんだよねぇ〜。つまり、誰かが警備員の注意を引きつけて、時間を稼ぐ必要があるの!」
「カイラが直接、基幹システムにアクセスできればぁ、後は俺の方でちょいちょいって感じだな!」
「……なるほどね。で、その警備員は誰が、どうするの?」
全員の視線がこちらに向いた。
カイラはパンッと両手を合わせる。
「エルナとジュディには、そこをなんとかお願いしたいの!」
「……私たちが囮ってわけね。」
エルナが静かに言った。
「そういうこと!私は当日、『ある荷物』を届ける名目で支社に入るの。その荷物の中に、二人を潜ませる。」
「……箱の中に入れと。」
俺は、思わずエルナを見た。
エルナも、俺を見た。
なんとなく、嫌な予感がした。
「人につかないところで箱を開けるから、あとは警備に見つかって!ある程度時間がたったら、事前にクロウが用意した逃走経路でだっしゅ~つ!」
クロウが、煙草を一口吸って頷いた。
「……(すごく、嫌なんだけど)。」
エルナがアイコンタクト?で俺を見る。
いやいや、この状況で断るの無理だって。
俺は手を上げた。
「ジュディ!どうぞ?」
「あ~。作戦は大体分かった。ありがとう。」
「……(断りなさいよ)。」
エルナの主張を無視する。
「その上で質問なんだけど。いいか?」
「ふふ。どうぞ!」
「停止信号だけで、大丈夫か?」
カイラが、少し眉を上げた。
「どういうこと?」
「いや、停止信号は有力な手だと思う。でも、それが上手く行かなかった時も考えておいた方がいいんじゃないかと思って。停止信号が動作しない可能性はもちろん、止まったとしても、乗員が別の手段で動こうとする可能性もある。物理的に車を止める手立ても用意しておいた方が確実だと思う。」
カイラとヴィンが、目を合わせた。
「ジュディ!すごい!」
カイラが、グワッと距離を詰めてくる。
そして俺の頭を両手で捕獲。
そのままくしゃくしゃと撫でられる。
「——!……(殺気)。」
感じる。感じるぞ。
エルナの視線が、痛い。
「いやぁ~~。恐れ入った!あんた意外と慎重派なんだなぁ!」
「ね!でも、より確実な方が絶対いいわ!」
「……ハナシテ、イタダケマスカ。」
カイラの両手を振り払い、咳払い。
恐る恐るエルナを呼んだ。
「エルナ。土の魔術で、車の周りに城壁を作れるか?停止信号で車が止まったタイミングで。」
「あ?朝飯前よ。」
エルナがあっさり答えた。
その「あ?」は辞めてほしい。
怖いから。
「じゃあ、それで行きましょう!停止信号で止めて、エルナが物理的に固定する。二重の保険ね!」
カイラが頷いた。
「よし!じゃあ、まずは第一段階ね!ヴィン!システムの作業時間は最短でどのくらいかかる?」
「んあ~!システムの構造次第だがぁ~。まぁ五分もあれば余裕だろ!俺様だしな!」
「さっすが~!クロウ、逃走経路はどのくらいで確保できそう?」
カイラがクロウを見た。
クロウは煙草を吸いながら、少し考えた。
「三分で確保する。建物の外側の警備員を『寝かす』だけだしな。」
「うんうん!頼もし~!」
エルナが言った。
「五分でいいなら、なんとかするわ。」
「ジュディ、他は?」
「いや、今のところはない。」
カイラが、こちらを見て少し笑った。
「ガレスが言ってた通りね!なかなかできる奴だって!」
褒められた。
人の評価を人づてに聞くと、結構嬉しいもんだな。
マジで今度、ガレスに菓子折り持っていこう。
「……。」
ふとエルナの冷ややかな視線が俺を指す。
なんなんだよ…。
—
作戦会議が終わり、各自の準備時間になった。
ヴィンは端末に向かった。
クロウは倉庫の外に出て、煙草を吸い始めた。
カイラは書類を広げて何かを確認している。
「カイラ!」
集中しているところに申し訳ないが、声をかけた。
「んー?なぁに?」
「少し、話せるか?」
「ふふ。いいよぉ。」
カイラが、テーブルの端に移動した。
俺も続く。
「転送装置の試作品、カイラが作ったってガレスから聞いた。」
「うん?そうだよ?」
「……なんでだ?」
俺は、一つ一つ足を止めて確認してしまう性分だ。
やることは分かった。
でも、なんでやるのかを知らないとスッキリしない。
「まぁ~そうだよね~。」
カイラは、苦笑いをしながら頬をポリポリと掻く。
少し考えて、言葉を続けた。
「最初、MANAから依頼を受けた時はね、純粋にいいものだと思ってたの。もし、転送装置が実現できれば、移動の手間が省ける。遠くにいる人を瞬時に助けにいける。世界にとって便利で、何かを救う手助けになるぅ~って、思ってた。」
カイラは、書類を見たまま話した。
目が伏せられていて、表情が読みにくい。
「でも、試作品が完成した日。MANAの研究者が、それを何に使うか教えてくれたの。多分、テンション上がっちゃったんだろうねぇ~!」
誤魔化すような、乾いた笑い。
カイラが、少し間を置いた。
「…聞かなきゃよかった。いや、聞いて良かったのかな?」
「…なんて、言われたんだ?」
「これがあれば、敵の拠点に転移して、瞬時に主要人物を暗殺できる。ノヴァはこれまでお互いが不可侵の都市だったけど、これで一方的に殲滅できるって。」
「……。」
「世界を良くするために作ったものが、人を殺す道具になる。そんな事を知ったら、渡すわけにはいかないじゃない?」
カイラがようやく顔を上げた。
目が、さっきと違う。
「だから、奪うの。絶対に。」
短く、でも確かな言葉だった。
「……なるほど。」
俺は、その目をしばらく見ていた。
カイラが軽く笑って、書類に戻った。
「そんなに暗い顔しないで!ジュディもこれが必要だって聞いたよ?」
「あぁ。でも、人を殺すとか。そんなことには絶対使わないよ。」
「うん!それは、なんとなく分かるよ。」
俺のなにを信じているのか。
カイラは、迷いなくそう言い切った。
—
その日の夜。
今日一日を振り返ると、エルナが終始不機嫌だった気がした。
まぁ、車中であんなことになれば無理もないか。
人には見られたくない姿だよな。
「……エルナ。」
部屋で、エルナが端末を見ていた。
「なに?」
「その、体調大丈夫か?今日ずっと気分悪そうだったし。」
エルナは端末から目を上げた。
「……別に。」
そう言って、また端末を見た。
取り付く島はないみたいだ。
「……。」
「……。」
「……。」
「……あんたは、私のよ。」
突然だった。
「……は?」
「私が、召喚したんだから。私の。」
エルナは、端末を見たままそう言った。
顔は、こちらを向いていない。
しばらく、部屋が静かだった。
——あんたは、私のよ。
その言葉が、頭の中でゆっくりと意味を持ち始めた。
……これって。
もしかして。
「嫉妬……とか?だったり?」
……。いい年して、自意識過剰か?
エルナが、端末を閉じた。
「っ。……おやすみ。」
それだけ言って、エルナは毛布を被った。
返事を待たずに。
俺はしばらく、毛布の膨らみを見つめていた。
第十六話、お読みいただきありがとうございました!
新キャラのヴィンとクロウも加わり、いよいよ「強奪作戦」が形になってきましたね。
最近、作者のエゴなのかエルナが可愛くってしょうがない。
そこ、キモいとか言わない。
明日も20:10に更新予定!
ブクマやコメントをすると、視力が0.1回復する効果が期待できるかもしれません(薬事法対策)。
よろしくお願いします!




