↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スペル・エラー ~娘が生まれるのに異世界へ召喚されたので、何があっても帰ります~  作者: とろたま愚鈍
第二部:第四章|間章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

167/216

第百六十六話「まずは理解から」

相変わらず、社長室とは思えない妙な場所だった。


石灯籠に苔むした岩、そして小さな池。

室内に広がる、和風の庭園。


その奥にゼノはいた。

机に座り、何かの資料に目を通している。


「よっす。」

「……何だ。」


ゼノが、顔だけをこちらへ向けた。


「冷てぇな。アポは取ったろ?」

「だから、何の用かと聞いている。」


俺は、手に持った紙袋を掲げた。


「これ、土産。一緒に食べない?」

「……。」

「なんだよ。その顔。」

「何故だ。」

「何故って……。」


俺は、応接用のソファへ勝手に腰を下ろした。


「この間、気付いたんだよな。」

「……何にだ。」

「一年近く外部顧問やってるけどさ。まだ、お互いのこと何も知らねぇなって。」

「……それと土産に、何の関係がある。」

「話すなら、なんか食いながらの方がいいじゃん?」

「私は、仕事中だ。」

「知ってるよ。だからアポ取って時間作ってもらったんだろ?」

「不要だ。帰れ。」

「嫌だよ。せっかく来たんだし。」


ゼノが、小さく息を吐いた。


……なんだよ。

そんなに嫌そうな顔しなくてもよくねぇ?


俺は、紙袋から箱を取り出し机の上へ置いた。


「ほら。ここ、結構有名らしいぜ?」

「その店は、確か……大福で有名だったな。」

「浅いな。おじいちゃん。」

「……何がだ。」

「これは、ただの大福じゃない。フルーツ大福だ。」

「……。」


ゼノが、箱を見る。


「何だ、それは。」

「知らねぇの?最近出たみたいだぜ?」

「聞いたことがないな。」


よしよし。食いついたな。

俺は箱の蓋を開けた。


中には、丸い大福がいくつか並んでいた。


苺。

みかん。

ぶどう。


白あんを使ったものもある。


「大福の中に、果物が入ってんだ。」

「……果物。」

「そう。苺とか、みかんとか。あんこと果物が、結構合うんだよ。」

「……。」

「これは白あん。こっちは普通のあんこ。美味そうだろ?」

「……そうか。」


ゼノが、箱を見ている。

何も言わずに。


「……。」

「……。」


沈黙が、流れた。

……素直じゃねーな。


「食ってみるか?」

「……一つ、もらおう。」

「欲しいんだろ?そう言えって。」

「貴様の手に乗らなければ、帰らんだろう?」


……本当、素直じゃねーな。このじいさん。

ゼノが、みかんの大福へ手を伸ばす。

俺は、苺を取った。


「ゼノ、こういうの好きそうだと思ってさ。」

「何故だ。」

「なんとなくだけど?」

「……根拠がないな。」

「和菓子とか、好きそうじゃん?」


部屋の入口に目を向けた。

そこには、先ほど通った室内庭園が広がっている。


「ほら。この部屋もこんなんだし。」

「……。」


ゼノが、大福を一口食べた。


「……。」

「……どう?」

「……。」

「感想くらい言えよ。」

「急かすな。小僧。」


……なんだよ。

せっかく買ってきたのに。


俺も、苺の大福を一口食べる。


「あ、美味いじゃんこれ。」


白あんと苺の組み合わせは初めて食べた。

結構合うんだな。


ちらりとゼノを見る。


「……。」

「何だ。」

「みかん。美味い?」

「……。」


ゼノは答えない。

黙々と、普通に食っていた。


結構、気に入ってんだよな?

……なら、何か言えよ。




—




「……そういやさ。」

「何だ。」

「息子のエルドさんがいるってことは、奥さんいるんだよな?」

「……。」


ゼノの手が、止まった。


「……いるが。」

「へぇ~。」

「何だ。」

「なんか意外だな。ゼノが結婚してんの。」

「エルドがいる時点で分かるだろう。この問答に何の意味がある?」

「雑談だよ。いい加減付き合えって。」


俺は、残っている大福を眺める。

次、ぶどうにしようかな。


大福を二つ取り、ゼノに一つ手渡した。

何も言わずに、ゼノは受け取った。

……まぁ、いいか。もう。


「奥さん、どんな人?」

「何故、お前に説明する必要がある。」

「いいじゃん。教えろよ。」

「……断る。」

「んだよぉ!何も教えてくんねーじゃん!」


ゼノが、俺を見る。

いやいや。見られても困る。


「じゃあ、一個だけ答えろよ。」

「……。」

「好きで、結婚したのか?」


ゼノは、少しだけ黙った。


「……アルカナの跡を継ぐ人間を残す必要があった。」

「……それだけ?」

「それだけで十分だろう。」

「でも、その人を選んだのはあんただろ?」

「……。」


ゼノが、手元の大福へ目を落とす。


「帝王の妻となるに、相応しい人物を選定しただけだ。」

「……帝王って、自分で言っちゃうんだな。」

「事実だ。」

「そうですか……。」


ネルといい、アルカナの人間は自認がデカいな。

まぁ事実を言ってるだけなんだけど。


「今度、会わせろよ。見てみてー。」

「断る。」

「理由は?」

「必要がない。」


即答だった。


……ちぇ。

俺は、ぶどうの大福を口に入れた。


「あ。これも美味いな。」


しばらく、二人で黙って食べていた。

庭園の眺めもいい。

ゆったりとしていて、心地いいな。


「あ。」

「今度は何だ。」


もう一つ。

前から気になっていたことを思い出した。


「なんでエルドさんって、アルカナじゃなくてヴィオなんだ?」

「本人の希望だ。」

「へぇ。」

「母親の姓を名乗っている。」

「……あんたは、それでいいの?」


ゼノなら、跡継ぎならアルカナを名乗れ、とか言いそうな気がした。

なんとなくだけど。


「何も問題はない。」

「え、そうなの?」

「少なからず、メリットもある。」

「……メリット?」


メリットだの。必要か不要かだの。

そういう話ばっかだな。


「アルカナの名を持たぬことで、初見では私の跡継ぎと判断されにくい。」

「……それがメリットなのか?」

「多少なりとも、暗殺の予防にはなる。」

「暗殺……。」


さらっと言うなよ。


「そんな、狙われるもんなの?」

「アルカナだぞ。」

「……調べれば分かるもんだよな?」

「名を持たない。それだけで外部は勝手に想像するものだ。」

「へぇ。そういうもんかぁ。」


ゼノが、残っていたみかんの大福へ視線を落とした。


「……。」

「食えば?」

「……もらおう。」

「っくく。」


やっぱり、気に入ってんじゃねーか。

心の中で、密かにガッツポーズを取った。




—




——コンコン。


扉が、ノックされた。


「入れ。」


ゼノの言葉の後、扉が開く。


「失礼します。」


入ってきたのは、エルドだった。

両手に端末と、大量の資料を抱えている。


「……。」


思わず、顔を見る。


髪は少し乱れている。

目の下には、はっきりと隈があった。


「……エルドさん。」

「何だい?」

「もしかして、疲れてますか?」

「……。」


エルドが、俺を見る。

気のせいか、殺気を感じる。


「誰のせいだと、思うかね?」

「……んえ?」

「ハピレスの拠点だった企業ビル爆破による被害報告。元々テナントとして入っていた企業への補填。爆破の被害を受けた下水道や道路の修繕……。」

「……。」

「さて、ジュディ。誰のせいかね?」

「……すんません。」


いや、本当にすみません。


エルドは、大きく息を吐き。

ゼノの机へ端末を置いた。


「ハピレスによる被害地域の、現時点での復旧状況です。」

「いいだろう。報告しろ。」

「はい。」


エルドが、端末を操作する。


空中に、カルディアの地図が映し出された。

いくつかの区画が、赤や黄色に塗られている。


「企業ビル手前の主要道路は、本日中に仮復旧する予定です。ただし、周辺住宅への被害が大きい。住民の一時移送は、まだ三割ほど残っています。」

「水道や電気などのインフラは。」

「二地区で復旧。残りは明日以降になります。」

「……遅い。遅れている要因は何だ。」

「現場に、人員が足りません。」


エルドの声が、少しだけ低くなる。


「倒壊建物の撤去。物流経路の確保。被害店舗への補償。病院への物資供給。企業間での費用分担。その全てを、同時に行っています。」

「……。」


俺は、地図を見る。


戦っている時。

そんなこと、考えてもいなかった。


爆発して、建物が壊れた。


——それで、終わりじゃない。


そこに住んでいた人がいる。

働いていた人がいる。


道を戻す人がいる。

水を戻す人もいる。


「……大変ですね。」

「あぁ、大変だ。誰のせいだろうね?」


エルドが、すぐに返した。

……あぁ。やめて。ちくちくしないで。


「……すみません。」

「……。」

「本当に、すみませんでした。」


エルドが、頭を掻く。

珍しい。こんな仕草もするんだな。


「はぁ。すまない。少し気が立っていた。」

「……いえ。俺が原因の一端であることは事実ですし。」

「事前にカルディア政府、ジャス・サインから申請は受けていた。許可したのは私だよ。」

「……。」


エルドが疲れた顔のまま、僅かに笑った。


「君がハピレスを止めなければ、被害はもっと大きかった。それも事実だ。」

「……。」

「だから、これは単なる八つ当たりだよ。受け流したまえ。」

「そう、ですか。」


俺のやったことは消せない。

それでも、少しだけ軽くなった気がした。


「……エルドさん。」

「何だい?」

「これ、食べます?」


俺は、エルドに箱を差し出した。


「……美味しそうだね。大福かい?」

「えぇ。フルーツ大福です。」

「……フルーツ大福?」

「大福の中に、果物を入れたやつです。新商品なんですって。」

「何故、社長室でそんなものを?」


ゼノが、横から口を挟んだ。


「私も知らん。こいつに聞け。」

「……。」


エルドが、ゼノを見る。

それから、俺を見た。


「では、一つだけ。いただこうかな?」

「どうぞどうぞ。」


エルドさんが、苺の大福を取った。


「それ、美味いですよ。」

「……そうか。」

「エルド。」


ゼノが、静かに言った。


「まだ、報告の途中だろう。」

「……え。えぇ。」


エルドが、大福を持ったまま背筋を伸ばした。


「おい。いいだろ?食べさせてやれよ。」

「お前は、黙っていろ。」

「自分なんか、もう三つ食ってるくせによ。」

「……。」


この親子は、相変わらず他人行儀だな。




—




一通り、報告が終わった。

エルドが、ようやくソファへ腰を下ろした。


「……つ、疲れた。」

「お疲れ様です。」

「あぁ。」


エルドが、残っていた大福をもう一つ取る。


「気に入りました?」

「あぁ。糖分が頭に染みるよ。」

「……ははっ。」


ゼノが、エルドを見る。

そして、淡々と言った。


「エルド、先ほどの報告だがな。小を切り捨て、多くを救う手立てを優先して実行しろ。」

「……しかし——」

「復興を遍く同時に実行するから、遅れが出るのだ。」

「……。」

「全てを救うことはできん。優先順位をつけろ。」

「……分かっています。」


エルドが、小さく息を吐く。

俺は、二人の会話を聞いていた。


——優先順位、か。


誰かを後回しにする。

誰かを切り捨てる。


今の俺はもう、それを頭ごなしに否定できなかった。


「……ジュディ。」


ゼノの声がした。


「ん?なんだよ。」

「何か、言うことはあるか。」

「……いや。」


こいつがやっていることを、認めたわけじゃない。

人を数字で見るやり方は、今でも好きじゃない。


——でも。


「なんでもねぇよ。」

「……そうか。」


ゼノは、それ以上何も言わなかった。

エルドが、大福を食べる。


「……うん。これは美味いな。ジュディ。」

「……ですよね?」

「あぁ。」


俺は、大福の入った箱を見る。

もう、残り一つしかなかった。


「ゼノ。最後、食うか?」

「……。」


ゼノが、箱を見る。

しばらく黙って、静かに口を開いた。


「……もらおう。」

「っは。やっぱ気に入ってんじゃん。」

「黙れ。」


ゼノが、最後の大福を取った。




—




しばらくして。


エルドは、また仕事へ戻っていった。

俺とゼノだけが、社長室に残った。


「……結局、全部食ったな。」

「あぁ、そうだな。」

「これ、気に入ったか?」


ゼノが、少しだけ間を置いた。


「……美味かった。」

「っは。だよな?」


思わず、笑ってしまう。


「ゼノ、こういうの好きだと思ったんだよ。」

「……そうか。それが、お前なんだな。」

「何が?」

「……いや。」


ゼノが、空になった箱を見る。

そして、俺にまた視線を戻した。


「ただな。ジュディ。」

「……あぁ。」

「このような趣向は、私には不要だ。」


少しだけ、言葉に詰まった。


「……そっか。」

「あぁ。」

「多分。美味いとか不味いとか。そういうことじゃないんだな。」

「……。」

「あんたは、これを不要だって言うんだな。」


俺は、空になった箱を紙袋へ戻した。


ゼノのことが、少しだけ分かったような。

やっぱり、全然分かっていないような。

そんな、気がした。


「んじゃ。俺は帰るわ。」

「あぁ。」


紙袋を持ち、立ち上がった。

そのまま、扉へと向かう。


「ジュディ。」

「……ん?」


振り返り、ゼノを見る。

ゼノは、すでに手元の資料へ視線を戻していた。


「もう、ここへは来るな。お互いに無駄なことは分かっただろう。」

「……いや?そんなこともねーさ。」


ゼノが、資料から視線を外した。

そのまま、真っ直ぐに俺を見る。


「ゼノ。あんたは、大福を食べた。」

「それが、なんだ。」

「あんたも、人間だってことだよ。」

「……。」


俺は、それだけ吐き捨てて。

社長室を、後にした。


第百六十六話、お読みいただきありがとうございました!


ゼノと少しだけお話をしましたね。

相手を理解するなら、まずはその人自身を知るところから。

ジュディらしいけど、ちょっとしつこいですね。


ゼノは大福とかそういうのは、自分には必要ないらしいです。

……全部食っといて?


次回も20:10、更新予定です。

ブクマやコメントをいただけると、ジュディがあなたの好物を勝手に予想して持ってきます。


よろしくお願いします!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。