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スペル・エラー ~娘が生まれるのに異世界へ召喚されたので、何があっても帰ります~  作者: とろたま愚鈍
第二部:第四章|ハピレス編

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第百六十一話「こう言わなきゃ」

「死んでも幸せになれるって、言えんの?」


銃口を、ミゼラの額へ向ける。


「……。」


ミゼラは、何も答えなかった。


涙を流し。

震えながら、俺を見上げている。


「……はは。」

「……ジュ、ジュディ?」

「ははは!!」


笑いが、こみ上げてきた。

止まらなかった。


「お前、その顔!!!ははは!!!」

「……。」

「あははははは!!!」


銃口を下げる。


——パンッ!!


「ぎゃああぁぁぁぁぁっ!!!」


ミゼラの右太腿へ、もう一発撃ち込んだ。

体が跳ねる。


「い、いたい!!痛いぃ!!!」

「うるせぇよ。喚くな。」

「な、なぜ……?何を……。」

「結構、楽しいじゃん?」

「……は?」

「ははは!!なんだこれ!!楽しいな、おい!!!」


ミゼラが、右腕を持ち上げる。

床へ広がった水が、僅かに動いた。


——パンッ!!


右腕を撃ち抜く。


「あ、ああぁぁぁぁっ!!!」


水が、床へ落ちた。


「ははは!!ミゼラ!!」


銃を向けたまま、近づいていく。


「ミゼラ・ノックス!!!」

「……ひ、ひっ。」

「お前の言ってること、少しだけ分かるよ。」

「……。」

「お前の不幸な、その顔を見るとさ。」


ミゼラが、俺を見上げる。


口元が。

僅かに、笑った。


「……あぁ。ジュディ。」

「最高に、幸せだ。」

「やはり、私は——」



「——ジュディ!!!」



背後から、声が響いた。


「……。」


振り返らなくても、分かる。

ロイドだ。


「……邪魔すんなよ。今、いいとこなんだ。」

「止めろ!!!」

「なんで、止めんだよ。」

「そいつは、もう戦えない。」

「……だから?」

「お前の、成すべきことを見ろ。」

「……。」


成すべきことだぁ?

くだらない。

今、そんなことは心底どうでもいい。


俺は振り返り、ロイドを見た。


「そいつを苦しめることが、お前の目的か。」

「今は、そうだな。」

「そんなことをしても、お前は幸福になどなれない。」

「……んなこと分かってるよ。」

「なら、止めろ。」

「別に、いいじゃねぇか?」

「何?」


銃口を、ミゼラへ戻す。


「これ、楽しいんだよ。」


ロイドが、俺とミゼラの間へ入った。


「邪魔だ。どけよ。」

「……退かん。」

「邪魔すんなら、お前も殺すぞ。」

「……やってみろ。」


ロイドは、俺を見ている。

銃も構えていない。


ただ。

俺の前に立っている。


「お前は、この行いを必ず後悔する。」

「……俺の何が、分かんだよ。」

「分かるさ。お前は、そういう人間だ。」

「……。」

「ジュディ。お前は、まだ戻れる。」


ミゼラが、後ろで息を震わせた。


「ず、ずるい。」

「……。」

「ずるい!!!」


ミゼラが、叫んだ。


「ジュディ!!なんで!!!ずるい!!ずるいじゃないですか!!!」

「……あ?」

「私だって、欲しいのに!!!」


涙と鼻水で、顔をぐしゃぐしゃにして。

ミゼラは、喚き続けた。


「欲しかったのに!!!が、頑張って!!いっぱい、頑張ったのに!!!」

「……何言ってんだよ。お前。」

「幸せになるために、いっぱい、いっぱい頑張ったのに!!!」

「……。」

「なんで、あなただけ!!!」


ミゼラが、ロイドを見る。


「なんで、あなたには止めてくれる人がいるの!!!」

「……。」

「なんで!!あなただけ、人からもらえるの!!!」


俺は、何も答えなかった。

答える言葉なんて、なかった。


「……うるせぇよ。」


ミゼラには。

何もなかったのかもしれない。


だからって。

こいつが殺した人間が、戻るわけじゃない。


「ジュディ。」


ロイドが、俺を見ている。


「銃を、下ろせ。」

「……。」

「頼む。」

「はぁ。……もう、いいよ。」

「……ジュディ。」


銃口を下げた。

ロイドの目が、僅かに動く。


「……分かったよ。」

「……。」

「ミゼラを、拘束する。」

「……本当だな?」

「あぁ。アッシュガードについても聞かなきゃだしな。」


ロイドは、俺の目を見ている。


「……。」


しばらく。

何も言わなかった。


「そこ、どいてくんねぇか?」

「……。」

「拘束できねぇだろ。」


ロイドが、ゆっくりと横へ退いた。


「……あぁ。」


俺は、ミゼラへ歩いていく。

銃口は、下げたまま。


「わ、私は……。」


ミゼラが、俺を見上げた。


「どうしたら。」

「……。」

「どうしたら、よかったの?ジュディ?」


足を止める。


「幸せに。」

「……。」

「幸せに、なりたいの。」

「ミゼラ。」

「……。」

「ミゼラ・ノックス。」

「……はい。」


ミゼラが、俺を見る。


「……。」

「……ジュディ?」


銃を持ち上げた。


「おやすみ。」

「……え?」


——パンッ!!


こめかみへ、一発。

ミゼラの頭が、横へ弾かれる。

倒れていく顔へ。


——パンッ!!


——パンッ!!


——パンッ!!


四つの銃声が。

地下駐車場へ、響いた。


ミゼラの体が、床へ落ちる。


もう、動かなかった。


「……。」


後ろを、振り返る。

ロイドが、立っていた。

表情は変わらない。


ただ。

俺を見ていた。


「……なぜだ。」

「こう言わなきゃ、お前、どかなかったろ?」

「…………利用したな?」

「……。」

「私の、お前への信頼を。」

「悪ぃな。」


ロイドは、何も言わなかった。

視線だけが、ミゼラへ落ちる。


「こいつは、殺すべきだろ。どう考えても。」

「それは、誰が決めた。」

「俺だ。でも、俺以外もそう決めると思うぜ?」

「理由は。」

「人を殺した。これからも殺す。」


ロイドは微動だにしていない。

ただ、瞳が小さく揺れていた。


「戦闘能力は、既に失っていた。」

「拘束したって、逃げるかもしれねぇだろ?」

「……違うだろ。ジュディ。」

「……何が、違うってんだ。」

「お前は、人を甚振ることに愉悦を感じた。」

「……。」

「そして、その感情のままにミゼラを殺した。それが、問題なんだ。」


ロイドが、俺を見る。


「お前は、以前。人を役割だけで見る私を否定したな。」

「……人は、役割がどうので生きてねぇだろ。」

「あぁ。だが今のお前は、自分の感情で人の価値を決めた。」

「……。」

「殺したいと思った人間は、殺しても問題がないのか。」

「じゃあ、役割があれば人を殺してもいいのかよ?」


ロイドが、俺へと詰め寄った。

真っすぐに、俺の瞳を覗き込む。


「その線引きは、どう決める。」

「……。」

「殺した人数か。」

「……。」

「反省したか、どうかか。」

「……。」

「お前が、許せるか。殺したいかどうかか。」



「——違う!!!」



思わず、声を荒げてしまう。

ロイドの言葉が、胸に、痛い。


「では、何だ。」

「……。」

「答えろ。ジュディ。」


答えられない。


ミゼラは、殺すべきだった。


そう思う。


今だって。

そう思っている。


でも、何を基準に。

誰までを殺していいのか。


俺には、答えられない。


「——お前だってよ。」

「……。」

「エミリを、役割で縛ってんだろ。」

「あぁ。」

「本人が嫌がっても。兵器へ戻すって言った。」

「あぁ。」

「そんなお前が、俺に言えんのかよ。」

「言える。」


ロイドは、迷わなかった。


「私が間違っていることと、お前が間違っていることは、別だ。」

「……。」

「私は、私の選択を引き受ける。そう決めて、生きている。」

「……。」

「お前は、どうする。」


床に転がるミゼラを見る。

頭部から、血が広がっている。


「……俺が、殺した。」

「あぁ。」

「それで、終わりだ。」

「……終わりにはならん。」


ロイドが、静かに言った。


「お前は、人を殺すために、人の信用を利用した。」

「……。」

「ただ、自分の感情を晴らすために。」

「……。」

「今のお前は、お前が憎む連中と、一体何が違う。」

「……。」


ロイドは、目を逸らさない。

ただ、俺の言葉を待っている。


「……謝りゃいいのかよ?」

「そういう問題ではないことは、分かっているはずだ。」

「……。」

「今日お前がしたことを、よく考えろ。」


ロイドは、俺から視線を外した。


ミゼラへ近づき。

その死体の前へ、しゃがみ込む。


首元へ、指を当てる。


「死亡を、確認。」

「……。」

「これで、満足か。ジュディ。」

「……分かんねぇ。」

「お前は今、幸福か。」

「幸福なわけ、ねーだろ。」

「では、何だ。」

「……。」


答えられない。

ロイドが、立ち上がる。


「行くぞ。ジュディ。」

「……。」


ロイドは、俺を見なかった。


「……政府に、連絡をしておく。」


それだけ言い。

地下駐車場の出口へ、歩いていく。


俺は、その背中を見ていた。


声をかければ。

止まったかもしれない。


でも。

何も、言えなかった。


第百六十一話、お読みいただきありがとうございました。


こう言わなきゃ、どかなかった。


人の信頼を利用し、人を殺す。

堕ちるところまで、堕ちました。


次回も20:10、更新予定です。

よろしくお願いします。


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