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スペル・エラー ~娘が生まれるのに異世界へ召喚されたので、何があっても帰ります~  作者: とろたま愚鈍
第二部:第四章|ハピレス編

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第百五十三話「いいバディ?」

ロイドの拠点、潰れたバーの地下。

机の上に、カルディアの地図が広げられている。


赤い印が、四つ。

うち一つには、もうバツ印が付いていた。

先に潰した、通信網の拠点だ。


「……残りは、三つだ。」


ロイドが、印の一つを指で叩いた。


『まずは、残りの拠点を整理しようか。』

「……あぁ。」


端末越しに、ガレスの声が響く。

あの巨体は今、別の場所で情報を回している。


それぞれの分担は、すでに決まっていた。


画面越しに、ガレスが指を一本立てた。


『一つ目は、運送会社だ。表向きはまっとうな運送業だが、裏はハピレスが乗っ取っている。連中の武器と物資を、そっくり管理している拠点だ。』


今度は二本。


『二つ目は、カルディアで以前から営業していたクラブだ。裏の運用はハピレスが仕切っていた。資金の調達と、依頼主との交渉に使っている。』

「……実質、この拠点にはあんまり意味はなさそうだな。」

『いや、そうでもない。ハピレスの資金などは、一度ここを経由しているようだ。』

「……なるほどね。」


ガレスが、三本目の指を立てた。


『そして三つ目が、市街の中央に立つ企業ビル。複数の会社が入る建物の、三十階のワンフロア。そこがハピレスの本拠点で、寝泊まりの機能もあるらしい。おそらくミゼラも、そこにいる。』

「……本拠点は、後回しだな。」

『ほう。それは、なぜだ?』


俺は、三つ目の印を指で押さえた。


「他の企業も入ってるビルだ。真正面から踏み込みゃ、無関係な連中まで巻き込むだろ?」


ロイドが、地図から視線を俺へ移した。


「……では、どうする?」

「手足から、捥ぐ。」

「……手足?」

「あぁ。虫ってのは、頭を潰してもしばらく手足が動く。」

「……っふ。虫、か。」

「あとで妙な動き方をされて、想定外の事態になるのが一番面倒だ。だから先に、運送とクラブを潰す。物資と金の流れを、両方止める。」


二人は何も言わず、俺の話に耳を傾けていた。

そのまま、言葉を続ける。


「その間に、だ。政府とアルカナへ、本拠点を秘密裏に通達しておく。」

「……他企業の、退去が目的か?」

「あぁ。まっとうに退去要請すりゃ、ハピレスにも勘づかれる。政府には、設備点検か何かをでっち上げてもらう。悟られねぇ形で、他のフロアを空にするんだ。」

「……手回しがいいな。」

「無関係な奴らを外に出しちまえば、あとは思いきりやれるだろ?」


ロイドが、小さく頷いた。


「……しかし、他の拠点を制圧したら必ず本拠点に通達が行く。逃げられる可能性はないのか?」

「構いやしねぇさ。ここはカルディア。アルカナの庭だぜ?」

「……ほう。」

「もう本拠点は割れてんだ。逃げる動きを見せれば、逆に追いやすいだろ?」

「そのために、アルカナへも通達か。……悪くないな。」

「っは。だろ?」


ロイドもある程度は納得したみたいだ。

後は、詳細な戦略を立てて実行だな。


『……お前ら、本当に息が合ってきたな。』


ガレスの声に、少しだけ笑いが混じっていた。

——うるせぇよ。


………………。

…………。

……。


最初に叩くのは、運送会社。

制圧の相談は、すぐに核心へ入った。


「制圧には、まず逃走経路の封鎖が要る。加えて、援軍を呼ばれないよう、警報にも注意を——」

「ちげぇな。」

「なに?」

「ここは、逃走経路より救援経路を抑えた方がいい。その上で、あえて警報を鳴らさせる。」


ロイドが、わずかに眉を寄せた。


「警報を鳴らして、中の隊員が逃げず、援軍が来る保証は。」

「ねぇよ。でも、この手の奴らは逃げねぇし、援軍も来る。」

「……。」

「ギャングってのは、面子で動く生き物だ。拠点に堂々と喧嘩を売られりゃ、潰すまで向かってくるさ。」

「それは、感情論ではないか。」

「いんや。経験則だ。」


俺は、肩をすくめてみせた。


「普段、企業相手にしてるエージェントにゃ、分からねぇか?」

「……なるほどな。覚えておこう。」


ロイドは、しばらく地図を見つめていた。

やがて、救援経路の一本に指を置いた。


——これで、準備は整った。


「今夜。動くぞ?」

「……あぁ。早速、取り掛かろう。」







倉庫の裏手に、俺たちはいた。

突入の、直前。


営業時間は、とうに終わっている。

ガレスの調べでは、今この倉庫に残っているのはハピレスの構成員だけ。

運転手も事務員も、もういない。


俺は、グリム三十式の弾倉を抜いた。


いつもの、非殺傷弾を外す。

代わりに、実弾を装填した。


人を殺す、武器だ。


——カチャリ。


その音を、ロイドが聞いていた。

何も、言わなかった。


「……行こうか。」


正面から、堂々と入った。

警報が、鳴り響く。


「んだぁ!!!テメェら!!!」


狙い通り、奥から隊員が湧いてくる。


「……ロイド。」

「あぁ。」


ロイドが、前に出た。

腰の容器を、床へ投げつける。

事前に打ち合わせをした通りだ。


——バッシャ!


「あ?んだ!!!こりゃ!!!」


砕けた中身から、大量の水が広がっていった。

バイオストーン製の、工作用装備らしい。


——目が、合った。


言葉は、要らなかった。

俺は、濡れた床へ電撃を放つ。


——バヂヂヂヂヂッ!!!!


水が、導線になる。

面で、電流が走った。


「が、があぁぁぁぁぁぁ!!!!」


触れた隊員が、まとめて崩れ落ちる。


前なら、意識だけを刈る強さを選んだ。

今は、選ばない。


「……。」


倒れて、痙攣している男の頭へ。

俺は、歩きながら実弾を撃ち込んでいく。


——パン。パン。パン。


一人ずつ、確実に。

起き上がる芽を潰して進んだ。


「……えげつねぇ組み合わせだよな。」

「お前が、言うな。」


残った数人が、奥へ逃げ出す。

ロイドが行く手へもう一つ容器を投げた。

砕けた容器から水が広がり、床一面を塞いだ。


退路を失った連中が、俺の正面へ雪崩れてくる。


「……っ!!くそっ!!!」


そこを、電撃でまとめて刈った。


………………。

…………。

……。


外で、複数のエンジン音が止まった。


——来たな。


警報を聞きつけた、救援部隊だ。

読み通り、逃げずに向かってきた。


「ロイド。予想通り、裏手だ。」

「分かっている。」


ロイドが、救援経路へ回る。

俺も、その後を追う。


倉庫へ雪崩れ込もうとした連中の足元へ、ロイドがもう一つの容器を投げた。

広がった水へ、俺が電撃を叩き込む。


——これで、終わりだな。


ロイドが退路を読み、角を取る。

俺が、人の逃げ癖を読んで先回りする。


どちらも、口には出さない。

目配せ一つで、次が分かった。


こいつと組むのは、悪くなかった。

——それが、少しだけ癪だった。







拠点の、最奥。


一人だけ、逃げずに残っている男がいた。

この拠点を仕切る、ハピレスの幹部だ。

床に膝をつき、それでも俺を睨みつけている。


「……殺せよ。」

「嫌だよ。ちょっと、話そうぜ?」

「……これだけの隊員を殺しておいて、話だと?」

「あぁ。正直、今回のことは、俺らもやりたくはなかったんだ。」


もちろん、嘘だ。

半分はな。


「今日、ここにいなかった隊員がいるだろ。教えてくんないか?」

「……言うわけが、ないだろう!」

「落ち着けって。これは、あんたらを保護するためだ。」

「……なに?」


俺は、しゃがんで目線を合わせた。


「……っ。」


ガレスから送られた人物相関は、頭に入っている。

この男には、同じ組織に恋人がいた。今日、この場にいない隊員の一人だ。


「ハピレスがカルディアに拠点を移して、政府とアルカナが動いてる。俺たちは雇われで、殲滅の命令を受けてるだけだ。」

「……だから、残りの隊員を、あぶり出したいんだろう。」

「違う。殺すためじゃねぇ。」


俺は、静かに続けた。


「この拠点は、もう壊滅だ。生き残った隊員は、どうなると思う?」

「……。」

「ハピレスに、消されるぜ。役立たずを殺すのが、お前ら組織の気質だろ。」


男の目が、揺れた。

——ここだ。


「今日、来てなかった隊員の中に、あんたの恋人がいるな。」

「……っ!?」

「守りてぇと、思わねぇか。」


男の顔から、虚勢が剥がれていく。

俺は、その隙間へ言葉を滑り込ませた。


「こっちも、カルディアで死人は増やしたくねぇんだ。残りの隊員を捕まえて、政府に引き渡す。そのために、情報が要る。」

「……。」


沈黙が、あった。

やがて男は、ぽつりぽつりと話し始めた。


隠れ家の場所。

連絡の手順。

逃げ延びた隊員の、数と名前。

——そして、恋人の名を。


「ミイナ、を。……頼む。あの子だけは。」

「……あぁ。」


全部、聞き終えた。


「……あんがとな。」

「あぁ。本当に、これで。ミイナは、保護してくれるんだな?」

「……っはは。」

「……おい?」

「するわけ、ねぇだろ。」


男の顔が、固まった。


「これから、殺しに行くよ。」

「……っ、お前!!」


——パン。


額に、一発。

男が、糸の切れたように崩れ落ちる。


俺は、銃をしまった。

この鼻をつく血の匂いにも、もう慣れちまったな。


——ミイナを殺すというのは、嘘だ。


情報は、もう全部聞き出した後だった。

黙らせるだけなら、そのまま撃てばよかった。


なのに、俺は。

一番大事なものを奪うと告げた。

絶望する顔を見てから、殺した。


——苦しませたかった。


ただ、それだけだった。







ロイドが、奥から歩いてきた。


「……終わったか。」

「あぁ。隠れ家の場所も、連絡手順も割れた。」


俺は、聞き出した情報を淡々と伝えた。

逃げた隊員の数。

ルートの見当。

次に叩く、クラブの構造。


まるで、天気の話でもするみたいに。


ロイドは、それを黙って聞いていた。

死体を見なかった。

——俺の、横顔を見ていた。


「……なんだよ。」

「いや。」


一拍、あった。


「ミゼラの端末に関しては?」

「あぁ、それな。」


俺は、首を振った。


「やっぱり、拠点幹部を潰したところで、上とは繋がれねぇな。連絡は全部、ミゼラの端末を経由してる。生体認証つきだ。」

「前の情報の通りか。抜け道があるかもとも思ったが。」

「あぁ。最後はやっぱ、本人に辿り着くしかない。」


だから、外堀を埋める。

金と物資を、根こそぎ止めて。

最後に、あの女を引きずり出す。


俺は、倉庫の出口へ足を向けた。

警報は鳴り止んでいた。


「……次だ。」


ロイドが、少しだけ間を置いた。

それから、黙って俺の後についてきた。


第百五十三話、お読みいただきありがとうございました。


ジュディとロイド。

息の合った、いいバディのように見えますね。


でも、ジュディの挙動がなんだかおかしい。

どうしたのよ。お前。


明日も20:10、続きます。

よろしくお願いします。


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