表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スペル・エラー ~娘が生まれるのに異世界へ召喚されたので、何があっても帰ります~  作者: とろたま愚鈍
第二部:第三章|バイオストーン編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

144/150

第百四十三話「潰す決意」

(……エミリ。)


気づけば。

あいつが、ベンチの隣に座っていた。


いつの間に、繋がったのか。

アルカナに閉じ込められてから、こいつからの接触はなかった。


『……よかった。やっと、繋がった。』

(……あぁ。)

『何度も、繋ごうとしたんです。でも、届かなくて。』

(……繋ごうと、してたのか?)

『え、えぇ。何か、青い靄?のようなものに阻まれて。』

(……。)


——青い靄。


心当たりが、あった。

廃工場突入前に、自身に打った、青い薬。

その時、なぜかアルトの声は聞こえていた。


(……。)


確証はない。

でも、何か大事なところに触れている気がした。


(……エミリ、それは——)

『……。』

(……エミリ?)


エミリの顔は、いつもの飄々とした顔じゃなかった。


(どう、したんだ?)

『……あなたの、大事な人が。……いなくなった。』

(……。)

『分かるんです。あなたの中の穴が。……昨日より、ずっと大きくなってる。』


それは、なぜだ。

分からない。


でも、エミリが何かを感じ取っているのは、確かだった。

エミリの目に、涙が溢れそうになる。


『……ごめん、なさい。』

(……なんで、お前が謝るんだよ。)

『私が。……自由になりたいって、思ったから。』

(……。)

『人を殺めたくないって言いながら。結局、私は。……人を、死に追いやった。』


——違う。


『望んでは、いけなかったのでしょうか。』

(……エミリ。)

『私が、人を殺めるために生まれたなら。どんな事をしたって……。』

(エミリ。)

『嫌、です。』

(……。)

『嫌だよぉ……。』


エミリが、顔を覆って泣いた。


『死んでほしく、ないよぉ……。』


初めて外を見て、はしゃいでいたあいつが。

プリンで、幸せを噛みしめていたあいつが。

今、自分を責めていた。


——それは、違う。

絶対に、違うだろ。


(エミリ。)

『……。』

(お前のせいじゃ、ねぇよ。)

『でも……。』

(自由に生きたいって思うことが。……罪なわけねぇだろ。)

『……。』

(だから、謝るな。)


——謝らないで。

あの人が俺に言った言葉が、そのまま口をついて出た。


(巻き込んだのは。……あくまで、俺だ。)

『でも。ジュディを巻き込んだのは。……私、です。』

(それでも、俺の都合でお前の話に乗ったんだ。)

『……。』

(お前に会う目的は。……俺にも、あった。)


上書きを止めるため。

自分が、生き残るため。


それだけじゃない。

外を見て笑うこいつを放っておけなかったのも、ある。


(お前は、謝らなくていいんだ。)

『……ぐず。』

(エミリ。)

『……なんでしょうか。』

(……ありがとうな。)

『何が、ですか?』


(一緒に悲しんでくれて、ありがとう。)

『……。』


——妙な、話だ。


アイラさんに言われた言葉を、今度は俺が、こいつに言っている。

自分では、まだ半分も信じられていないのに。


エミリが、涙で濡れた顔を上げた。


『……では。』

(……あぁ。)

『私たちのせいでないと言うのなら。』

(……。)

『なぜ、その人は。……ダンさんは。死んで、しまったのでしょうか。』


——それは。

言葉に、詰まった。


俺の依頼。

俺の、都合。

それが、きっかけなのは間違いない。


でも。


——殺したのは、ハピレスだ。


ジャスの言葉が、脳裏に響いた。


それが免罪符になるわけじゃ、ない。

分かってる。


でも、明確に。

ダンの命を、奪ったもの。


その名前は、はっきりしていた。


——ハピレス。


(……ダンさんを殺した連中が、いる。)

『……それは、誰ですか?』

(ハピレス。)

『……私を作った、組織。』


腹の底で、静かに何かが決まった。


——潰す。


あいつらを、潰す。

それが、ダンのためになるかは、分からねぇ。

きっと、ただの自己満足だ。


でも。


これ以上、あいつらに。

誰かの帰る場所を、壊させるわけにはいかねぇ。


——ガロウに言ったことと、同じだ。


俺の都合で。

俺の責任で。

あいつらを、潰す。







エミリとの感覚共有が終わった。

しばらくして、別の通信が入った。


(……ガレス。)

『ジュディ。チップの解析が、終わった。』

(……どうだった。)

『……覚悟して、聞け。』


ガレスの声は、いつになく重かった。


『ダン・ベルンが、命がけで掴んだ情報だ。』

(……。)

『——ハピレスは、バイオストーンを裏切っていた。』

(……は?)

『飼い主であるはずの、バイオストーンの情報を。……アッシュガード側に、流していた。』

(……。)

『そもそも、ハピレスは。とっくに、アッシュタウンと繋がっていた。』


——繋がった。


ポエロの、死体。

アッシュガードとの、通信ログ。


飼い主を裏切った、ギャング。

その、後始末。


ダンは、その裏切りの証拠に触れて。


——消された。


(……ガレス。じゃあ、ダンさんは。)

『あぁ。汚いものの、掃除に巻き込まれた。』

(……くそ。)

『……すまない。』

(なんで、あんたが謝るんだよ。)

『情報屋だと言うのに、こんな報告しか、できない。』

(……んなこと、ねーよ。)


——こんなもののために。


あの人は、死んだのか。

家族を、遺して。


胸の底が、冷たくなる。

でも、それは悲しみじゃなかった。


もっと静かで。

もっと硬い。


形を持った、殺意だった。


(……ガレス。)

『なんだ。』

(……ロイド・カーターへの、接触経路は。)

『……あぁ。それも、確保している。ただし。』

(……なんだよ?)

『正規の回線ではない。暗号化された、メッセージ送受信のみだ。』

(送ったとしても、返ってくる保証はねぇか?)

『……あぁ。届いてるかも、分からん。』


それでも。

今は、それしかない。


俺は、脳内でメッセージ通信を開いた。

ガレスの寄越した、暗号回線に。

短いメッセージを、打ち込む。


——エミリの所在を、知っている。


送信。


届いたか、どうか。

反応は、なかった。


『……返事は、気長に待て。あの手の人間は、慎重だ。』

(あぁ。分かってる。)







通信が、切れた。

また、一人になった。


新しい煙草を取り出し、火をつける。


「……ふぅ。」


俺は、空を見上げた。

朝日が、カルディアの街を照らし始めている。


ダンは、もういない。

その理由は、反吐が出るほどくだらないものだった。


ロイドが応えるかも、分からない。

先のことなんて、何も見えない。


でも。


——ハピレスだけは、潰す。


それだけは、決めた。


その決意が胸に収まった時。

少しだけ、心が軽くなるのを感じた。


第百四十三話、お読みいただきありがとうございました。


これで、第三章「バイオストーン編」は、終わりです。

いかがだったでしょうか?


生きることは、人を救うこともある。

でも、人を不幸にしてしまうことも、ある。


そんなテーマの章でした。



ジュディは、一つだけ、決めましたね。


ハピレスを、潰す。


守るためでも、正義のためでもなく。

これ以上、誰かの帰る場所を壊させないために。


四章から、ハピレスとの決着が始まります。


引き続き、お付き合いいただけると嬉しいです。

よろしくお願いします!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ