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スペル・エラー ~娘が生まれるのに異世界へ召喚されたので、何があっても帰ります~  作者: とろたま愚鈍
第二部:第三章|バイオストーン編

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第百四十話「人の都合」

ガロウの叫びが、廃工場に反響していた。


「なぁ、答えろよ。」


刃物をぶらぶらと揺らしながら。

ガロウが、こっちに歩いてくる。


「俺はよぉ。人間が、好きなんだよ。」

「……。」

「大好きなんだよ。止まらねぇんだ。どうしようもねぇんだよ。なんでか、壊したく、殺したくなる。」


その目が、きらきらと光っていた。

まるで、宝物の話をするみたいに。


「泣くとこ。怒るとこ。恐怖で歪むとこ。……最後に、諦めるとこ。」

「……。」

「人間が壊れていく、あの瞬間がよぉ。たまらなく、好きなんだ。」

「……。」

「なんでだよぉ。なんで、好きなんだ。俺は、なんで、普通に生きられない。」


——素直な感情だった。


こいつは、理性では分かっているんだろう。

ただ、好きなものを好きだと言っているだけ。

それが、普通の人間からすれば嫌悪される対象。


それなのに止まれない。

救いようが、なかった。


「でもよぉ。お前は、違うよなぁ!!!!」


ガロウの笑みが、少しずつ歪んでいく。


「お前、俺と同じだろ。」

「……。」

「いや、俺よりもひでぇ。空っぽで、欲ってものがねぇ。」


——カフェで。

こいつは、そう言った。


「だからこそ、お前は人から貰ったもんで埋められた。普通じゃねーのに、そっち側だ。」


ガロウの声に、熱がこもっていく。


「大事なもんができてよぉ。悲しいって、何か知れて。……普通に、なれてよかったなぁ!!」

「……。」

「同じこっち側のくせに!お前だけ、ずるいだろ!!なぁ!!」


——ずるい。


こいつは、本気でそう思っている。


——ずるい、か。


否定できなかった。

確かに俺は、借り物の記憶で。

空っぽのまま、この世界に落ちてきた。


そこに、エルナがいて。

カイラがいて。

サヤがいて。

ダンが、いて。


気づけば、埋まっていた。

——ように見えていた、だけかもしれねぇ。


こいつと俺の違いなんて。

きっと、紙一重だ。


だからこそ。

こいつの言葉に頷いちゃ、いけねぇ。

俺は、口を開こうとした。


『——ジュディ。』


アルトの声が、割り込んだ。


『答えなくていい。さっさと殺せ。』

(……。)

『ダンのことを、忘れたわけじゃねぇだろ。』

(……。)

『ガロウに答えるってことが、どういうことか。お前は、分かってるはずだ。』


——分かってる。


こいつを言葉で相手にすること。

それは、こいつを……。


分かってる。

分かってて、なお。


俺は、口を開いた。


「……別に、変わらねぇよ。」

「……あぁ?」

「どうでもいいんだよ。普通とか、こっち側とか。……全部、どうでもいい。」


ガロウの顔から、笑みが消える。


「お前は、俺の大事なものを殺した。」

「……。」

「これからも殺すんだろ。放っときゃ、もっと沢山。」

「……。」

「だから、俺は。俺の都合でお前を殺す。」


——それだけだ。


「俺も、お前も、自分の欲で人を殺す。何も、変わらねぇよ。」

「……。」

「——だから。しゃべるなって言ったんだ。」


俺は、銃を構えた。


「人を殺してぇんだろ?俺も、今はお前を殺したい。」

「……。」

「さっさと構えろよ。殺し合おうぜ?」


ガロウが。

ぽかんと口を開けて。


そして。


「……ぷ。」

「あ?」

「ははぁ。あはははは!!!」


腹を抱えて、笑い出した。


「ジュディ!前言撤回だ!!」

「……。」

「お前、気に入ったぜ。最高だ。」


その目に、また恍惚が戻ってくる。

でも、さっきとは違う色の。


「あぁ!殺し合おう!!……同じ人として、なぁ。」


——人として、か。


その言葉が、やけに耳に残った。


アルトの言った意味が。

分かる気がして。

分からないふりをした。







ガロウが、地面に手をついた。


——ズズッ。


床のコンクリートを突き破って。

太い木の根が、うねりながら生えてくる。


——木の、属性?


木を操る魔術師なんて、少なくとも俺は初めて見た。

ストーンウェアを介しているのか?


思わず、目を見張る。


「……珍しいだろぉ?」


俺の反応に気づいて、ガロウが嗤った。


「魔術属性ってのはよぉ。生まれつき、刻まれてんだ。」

「……。」

「たいていは、火、水、風、土。——四大元素ってやつだ。その人間の気質に近いのが、割り振られる。」


木の根が、ガロウの体に絡みつく。

みるみる、鎧みたいに固まっていく。


「でもよぉ。まれに、そのどれにも当てはまらねぇ奴がいる。四大元素から、外れた属性。」

「……。」

「——第五の元素。『空』ってんだ。」


ガロウが、両手を広げてみせる。


「四大元素以外の、全部ひっくるめた総称でなぁ。人から外れた気質の奴が、大抵これになる。」

「……。」

「俺の、木。お前の、電撃。」


ガロウの笑みが、深くなった。


「どっちも、『空』だ。——なぁ?やっぱり俺たち、同じだろぉ?」


——あぁ。


否定はしねぇ。

できねぇよ。


「……だから、なんだよ。」

「あぁ?」

「普通じゃねぇから、なんだってんだ。」

「……。」

「壊れてても。普通じゃなくても。……人は、人だろうが。」

「は、ははぁ!!!そうだよなぁ!!!」


言い終わる前に。

地面から、木の鞭が跳ねた。


「……っち。」


——避ける。


両足に電撃を纏う。

ストーンウェアをオーバークロックし、加速する。


視界の全部が、ゆっくりになる。

木の鞭が、うねる軌道まではっきりと見えた。


紙一重でかわす。

その隙に、ガロウの懐へ。


——ビッ。


生体電流を阻害する、いつもの一撃。

これで、動きを封じて弾丸を叩き込む。

いつもの、必勝パターン。


「ははぁ!!効かねぇなぁ!」


木の鎧が、電撃を遮断していた。

生身に届かない。


「ちぃ!!」


銃を撃つ。


——パンッ。


弾丸は、ガロウの前にせり上がった木の盾に弾かれた。


近接も、駄目。

銃も、駄目。


しかも、こいつ。

あの鎧を纏ってなお。

——身軽だ。


ナイフを握りしめて。

猛烈な速さで、切りかかってくる。


「ははぁ!!!あははははぁぁ!!」


オーバークロックの加速で、捌く。

お互いに、決定打は入らない。


——埒があかねぇな。


砕けた肩が、青薬越しに鈍く軋む。

息が上がってきた。


このまま、長引けば。

不利なのは、こっちだ。


俺は、銃をしまった。

代わりに懐から、別の銃を引き抜く。


——レールガン。


撃つまでに時間がかかる上に連射もできない。

ただ、威力だけは桁が違う。


「あぁ?なんだぁ、それ。」


ガロウが、首を傾げる。

それでも、攻撃の手は緩めない。


木の鞭。ナイフ。

畳みかけてくる。


——それでも、当たることはない。


「……。」


正直に言えば。

勝負には、なってなかった。

こいつの攻撃は、全部見えている。


避けながら。

レールガンに、魔力を注ぎ込む。

チャージのゲージが、満ちていく。


避けて。

かわして。

また、避けて。


「……あ?」


——おかしい。


ガロウの攻撃が、少しずつぬるくなっている。

当てる気がないみたいに。

まるで、俺のチャージが終わるのを待っているみたいに。


——嫌な予感がした。


でも。

もう、止まれない。


——あと、少し。


「よし。」


チャージが、完了した。

その、瞬間。


——ズルッ。


足元のコンクリートを突き破って。

木の幹が、俺の足に絡みついた。


「……なっ。」


しまった。

——動けない。


「——捕まえたぁ!!!」


ガロウが、ナイフを握りしめて。

俺の顔面めがけて、踏み込んできた。


第百四十話、お読みいただきありがとうございました。


正義でも、復讐でもなく。

自分の都合で、自分の責任で止める。

ジュディが選んだのは、そういう答えでした。


けれど、ガロウに「答えてしまった」こと。

彼を、一人の人間として扱ってしまったこと。

それが何を意味するのか——アルトだけが分かっています。


戦いは、まだ終わりません。


明日も20:10、続きます。

よろしくお願いします。

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