↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スペル・エラー ~娘が生まれるのに異世界へ召喚されたので、何があっても帰ります~  作者: とろたま愚鈍
第二部:第二章|レガシーコード編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

122/153

第百二十一話「私の全部で、決めること」

翌日。

鉄火市、二日目。


俺たちはまた、あの拠点の裏手にいた。

すり鉢状の、石造りの闘技場。


中央にレンカが立っていた。

昨日と同様に、右腕の旧式ストーンウェアを軋ませている。


その向かいに、サヤ。

昨日の傷は、まだ癒えていない。

頬は腫れ、唇は切れたまま。


それでも、その目は——昨日とは、違っていた。


「……来たね。」


レンカがサヤを見て、ニヤリと笑った。

それから視線を俺に移す。


「で。今日は、あんたがやるんだろう?」

「……いや。」

「はぁ?」

「悪ぃな。二人で、話し合ったんだ。」


俺は、レンカを見て言った。


「今日やるのは、サヤだ。」

「……はっ。」


レンカが、鼻で笑った。


「昨日と、同じ結果になるよ。」

「……どうかな。」

「あの子じゃ、アタイには届かない。あんたが一番、分かってるだろう。」

「……いや。そうでもねぇさ。」


俺は、首を振った。


「もう一回、相手してやってくれよ。」

「……。」

「サヤを、信じてる。」


——レンカが、俺をじっと見た。

それから、つまらなそうに、肩をすくめた。


「……はぁ。好きにしな。」







「サヤ。」

「ん。」

「……手は、出さねぇ。約束する。」


サヤが、こちらを見ずに、小さく笑った。


「当たり前だろ。今度出したら、絶交だから。」

「……善処します。」

「はっ。善処すんなよ。」


——昨日と、同じやり取り。

でも、昨日とは、何かが違った。


サヤが、前に出る。


両足のストーンウェアを起動した。

靴底から、ブレードが展開する。


——だが。


「……サヤ。ダガーは?」


俺は気づいた。

サヤの手には、いつものダガーがない。


両手とも空。

何も握っていなかった。


「いらない。今日は、これでいく。」

「……。」


——何か、考えてるな。


俺には、まだ分からない。

ただ、サヤの背中には、迷いがなかった。


「来な、小娘。」

「……言われなくても。」







サヤが地面を蹴った。


昨日と同じ速度。

いや、ダガーを捨てたぶん、わずかに身軽になっている。


サヤの足が跳ね上がる。

ブレードがレンカの右腕を狙う。


——ガッ。


レンカが、右腕で受けた。

昨日と、同じ。


「……っ。」

「なんだい!これじゃあ、昨日と同じだよ!」

「う、っるせぇよ!!」


サヤが跳ね回る。

何度も何度も、蹴りを叩き込む。


——ガッ。ガッ。ガッ。


全部、右腕に弾かれる。


——やっぱり、軽い。


昨日と、同じだ。

技術はある。速さもある。

でも、一撃が、軽い。


そう、思った瞬間——



「っおらぁ!!!!」

「……っ!!!」



——ガガガガッン!!!



レンカが、サヤの足技でのけぞった。

右腕のストーンウェアから、煙が立ち上っている。


「……何だ。今の。」


何かが、おかしい。

音が、変だった。


「……どんな、手品だい?」


レンカが、右腕を振りながらサヤへと尋ねた。

サヤが、右足をフラフラと振りながら答える。


「べっつにぃ?大したこと、してねぇよ?」

「……。」

「あんたの言う『軽い一撃』ってやつ?それを、センスでごり押してるだけ。」

「はっ。言うじゃないかい?」


再び、サヤが高速でレンカへと詰め寄る。


——ガガガガン!!


蹴りが当たるたびに鳴る、その音。

一発に対して——多すぎる。


「……。」


俺は、額に電撃魔術を纏わせた。

神経を加速させる。

視界の情報を引き伸ばす。


——そして、見えた。


サヤの一振りの蹴り。

それは、一発じゃなかった。


——ズダダダダッ。


一回の足技に見える、その軌道の中で。

サヤのブレードは、超高速で、何度も何度も叩きつけられていた。


五発。いや、六発以上。


一撃に見える一蹴りが、実際は、何度もの連打。

同じ箇所を、寸分違わず、繰り返し打つ。


「……だから、サヤは。」


ダガーを、捨てた理由。


両手を空けたのは——この、魔術制御に集中するためだ。

脚部ストーンウェアの出力を、極限まで細かく刻む。

その一点に、意識も魔力も、全部つぎ込んでいる。


——軽い一撃を、何度も。


レンカの、旧式ストーンウェア。

その継ぎ目に。排熱部に。装甲の薄い場所に。

サヤの連打が、確実に傷を刻んでいた。


「……へぇ。なるほどね。」


レンカの顔から、笑みが消えた。







——ガガガガッン!


サヤの猛攻は続いていた。

昨日と違い、レンカが反撃する余地を与えない。


……でも、これじゃ——


「こんな攻め方じゃ、ジリ貧だよ!」


俺の思考と同時にレンカが叫んだ。


「タネは分かった。でも、根本は変わってないね!」

「……っ。」

「こんな使い方してたら、魔力なんてすぐ底を尽きるよ!」


レンカの言う通りだった。

一撃の内に、何回魔術を発動しているか、分からない。

ガス欠になった時、サヤの敗北は確定する。


——サヤ!


「ガタガタ、うるせぇな!!!」


サヤが、叫んだ。

蹴りを、叩き込みながら。


——ガガガッ。


「そうやって、いつまで駄々をこねる気だい!」

「駄々なんかじゃ、ねーよ!ちゃんと、あんたの言葉は刺さってる!」

「……っ。」

「あんたの言ってることは、図星だよ!」

「なら、さっさと引きな!!クロウを思ってんならね!!」

「引かねぇ!!!絶対に!」

「ガキが!!!」

「私が、今ここにいんのはよ!!兄貴への意地もある!反骨だって、ある!」


——ガガガガッ。


「あんたに言われなくても、そんなもん全部、あるに決まってんだろ!」

「……っく!!!」


レンカの右腕に、ヒビが入る。


「でもな!」


——ズダダダッ。


「そん時の私は、それでも、全力で選んだんだよ!」

「……っ。」


レンカが、初めて後ろに下がった。

……自らの意思で、後退した。


「今だって揺れてる!ブレてる!何が正しいのかなんて、全然わかんねぇ!」


——ガガガガガッ。


「でも、それが私だ!誰かの何かに影響されたって、私なんだよ!!!」


レンカの旧式ストーンウェアの、継ぎ目が、軋む。

——いける!


「間違ってたなら、また選ぶ!迷っても、それでも選ぶ!」


——ガッ、ガガガッ。


「何度だって、私が、その時の私全部で、選ぶんだよ!」

「この……っ。」


サヤが、最大の踏み込みで、地面を蹴った。


「あんたの、兄貴への罪悪感か何か知んねーけどよぉ!!」


——ドッ。


「んなもんで、私を、否定すんな!鬱陶しいんだよ!」


サヤの右足が、振り上げられる。



「ババアが——邪魔すんじゃ、ねーよ!!!!」



サヤの右足のブレードが、レンカの右腕に叩きつけられた。


——バキィッ!


砕けた。

サヤの、右足のブレード。

そして——レンカの、右腕の旧式ストーンウェアも。


同時に、壊れた。


「……っ!」

「——っ。まだ、まだぁ!!!」


サヤは、止まらない。

壊れた右足のまま、前に踏み込む。

握った右の拳を、レンカの顔面へ。


——だが。


レンカの左腕が動いた。

サヤの拳に合わせて。

カウンター。


——ゴリッ。


レンカの拳が、サヤの顔面を、捉えた。


「——っ、が。」


サヤの体が、後ろへ、弾かれ——


「————。」


サヤが、自分の背後に、風魔術を放った。


——ブアッ。


殴られた勢いを風で押し返す。


逃げるどころか。

サヤは、拳を食らったその相手へさらに突っ込んだ。


「……う、ううううう、あぁぁぁぁぁ!!!!!」

「……この、ガキ!」


頬に食い込んだレンカの拳を、顔ごと押し返す。

ただ、前へ。

力任せに踏み込んだ。


「あ、あああぁぁぁぁぁ!!!」


サヤの拳が、伸びた。



——ペチ。



サヤの拳が。

レンカの、右頬に。


触れた。


「……ちく、しょう……。」


それだけ言って。

サヤは、前のめりに、倒れた。







俺は、地面を蹴っていた。


額の電撃魔術を、足に回す。

倒れるサヤとレンカの間に滑り込む。



——ぽすっ



サヤの体を抱き止めた。


「……サヤ?」

「すー。すー。すー。」


腕の中で、サヤは、目を閉じていた。

気を、失っている。

でも、その顔は——どこか、満足そうだった。


「……っ。」


——気づけば。


俺の左の拳から血が滴っていた。

ずっと、握りしめていたらしい。

爪が手のひらに食い込んでいた。


手を出したくて。

飛び出したくて。

それを、ずっと、堪えていた。


——でも。

俺は、手を出さなかった。


「……やったな、サヤ。」

「……。」


サヤが、自分の足で、立った。

それを、最後まで、信じられた。







「無理を通して、こじ開けるとはねぇ。……強引な小娘だよ。」


レンカが自分の右頬に触れた。

ストーンウェアの砕けた右腕を、だらりと下げている。


「レンカ。」

「……何だい?」

「一発は、一発だよな?」

「あんなもの、拳のうちに入るのかい?」


俺は、サヤを抱えたまま、言った。


「認めろよ。一発、入ったよな?」

「……触れた程度の拳だよ。」

「……否定なんて、させねぇぞ。」

「……。」

「それを否定すんなら。マジで、俺と殺るか?」


レンカが、しばらく、俺を見た。

それから、ふっと、息を吐いた。


「……分かった分かった。……認めるよ。」

「……。」

「小娘……。サヤの一撃は、確かに入ったよ。」


——その声に。

昨日までの、棘はなかった。


「……ふん。」


レンカが、サヤの寝顔を見下ろした。


「……大事にしてんだね。」

「あぁ。俺の生きる意味の一つだよ。」

「……重いね。」


レンカが、少しだけ、目を細めた。


「この子、あんたに惚れてるよ。」

「……そうかもな。」

「おや?その様子だと、鈍くはないんだね。」


レンカが、意外そうに言った。


「じゃあ、答えてやんないのかい。」

「……まだ、何も言われてねぇからな。」


俺は、サヤの顔を見た。

腫れた、寝顔を。


「俺が先回りすることじゃねぇよ。」


レンカが、しばらく俺を見て——ふっと、笑った。


「……なるほど。ボンクラだね。ズバリだ。」

「……余計なお世話だ。」


俺は、サヤを抱え直した。


「俺とサヤが、決めることだよ。」

「……そうかい。」


——レンカは、静かに笑っていた。


ただ、砕けた右腕を眺めて。

どこか、懐かしそうに、笑っていた。


「いい、コンビじゃないかい。クロウ。あんたも、そう思うだろ?」


第百二十一話、お読みいただきありがとうございました!


サヤ、一撃。


軽い一撃を、何度も。

それが、サヤの選んだ、戦い方でした。


不器用で、ブレてて、軽くて。

でも、何度だって、立ち上がる。


それが、サヤ・ウインドウです。


そして、ジュディは——今度は、手を出しませんでした。

信じて、待ちました。

拳から血が出るくらい、堪えながら。


明日も20:10、続きます。

ブクマやコメント、評価をいただけると、サヤの「ペチ」が少しだけ重くなります。

よろしくお願いします!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。