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スペル・エラー ~娘が生まれるのに異世界へ召喚されたので、何があっても帰ります~  作者: とろたま愚鈍
第二部:第一章|オーバーライド編

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第百話「アルカナ第三支社」

走った。


廊下を抜け、エレベーターを待たず、階段を駆け下りる。

ジャスが隣を走っていた。


「状況は?」

「カルディアのアルカナ第三支社。爆発が二件、建物の東側から火の手が上がっている。職員の退避は完了していない。」


ジャスが脳内通信で情報を拾い上げていた。

こういう時、こいつの判断の早さは頼りになる。


「敵の数は、どんなもんだ?」

「不明だ。ただし、武装した集団が複数。支社の警備隊では対処しきれていない。」


本社ビルの正面を飛び出した。

空気が、変わった。


——遠くに、黒い煙が見えた。

アルカナ第三支社の方角だ。

俺は、脳内通信でバイクを呼び出す。


「ジャス、バイクは?」

「乗せてくれ。」

「っち。野郎と二人乗りかよ!」

「……何か問題か?」


駐車場に回ると、既に無人のバイクが停車していた。


俺は、即座にバイクへ跨る。

続いて、ジャスが後ろに乗った。

ジャスが、俺の腰に手を回す。


「ジャス!肩掴め!肩!」

「何故だ!」

「気色悪いからだよ!」

「細かいことはいい!早く出せ!」


エンジンが唸った。


バイクが走り出す。

カルディアの大通りを駆け抜けた。







アルカナ第三支社が、見えた。


五階建ての建物の東側が崩れかけていた。

火の手が二階から四階まで広がっている。

窓から黒煙が噴き出し、地上には瓦礫が散乱していた。


敷地の入口で、バイクを降りる。


「……ひでぇな。」


支社の正面玄関は吹き飛ばされていた。

その周囲に、アルカナの職員が倒れている。

生きているのか、死んでいるのか。

遠目では判断がつかない。


——パパパン。


銃声。

建物の裏手から聞こえた。

そこから、おそらくバイオストーンの部隊が現れた。


「ジュディ!いつも通り、突っ込め!」

「……言い方あんだろ!」


ジャスが、懐から球体を五つ展開した。

カルディア政府の最新技術、遠隔操作型レーザー銃。

それが、ジャスの周囲に浮かび上がる。


俺は、両足にのみ電撃魔術を纏う。


——チリッ


脚が軽くなる。

この一年で、体の一部のみ纏う方法にも慣れた。

これなら、魔力の消費を最小限に抑えられる。


「お前は後方の敵に集中しろ!向かってくる奴は、俺が捌く!」

「あぁ!さっさと行け!」


——瞬間。

俺は敵前線部隊の中央に移動した。

敵から見れば、瞬間移動したように錯覚するだろう。


「——っな!」


武装した男たちが、一瞬だけ怯んだ。

その一瞬で、十分だ。

両手に銃を構える。


——グリム三十式。


電撃魔術と共に歩んできた、俺の相棒。

非殺傷弾を装填済みだ。当たっても死にはしない。

……しばらく動けないほど痛ぇけど。


——パパパパンッ。


一発目で先頭の男が崩れ落ち、二発目で右翼の男が吹き飛ぶ。

三発目は躱された。四発目は当たった。


「くそっ、なんだこいつ!」

「一人だ!囲め!」


左右から、二人が同時に飛び出してくる。

銃を構えるより、こっちの方が早い。


——ビッ。


ノーモーション。

左側の男の足が止まった。

生体電流の阻害。動きを封じる電撃。

そのまま右に体をずらし、もう一人の腹に非殺傷弾を撃ち込む。


「がっ——」


二人目が倒れた。

一人目は足が止まったまま動けない。

追加でもう一発。


——パンッ。


これで、前線は片付いた。

後方からは、ジャスのレーザーが走っている。


——ピュン、ピュン、ピュン。


五つの球体が独立して動き、逃げる敵を正確に撃ち抜いていく。

非殺傷設定のはずだが、当たった敵はしばらく立ち上がれないだろう。

あれ、地味にえぐいんだよな。


「ジュディ!東側に抜けろ!まだ残ってる!」

「了解!」


ジャスと共に、建物の東側に回り込む。

崩れかけた壁の隙間から、中が見えた。


——地獄のような絵面だった。


オフィスの中が、滅茶苦茶だった。

デスクが薪みたいにひっくり返っている。


天井の一部が落ちて、瓦礫の山ができていた。

火が壁を這い、煙が視界を塞ぐ。


その中を、アルカナの職員が逃げ惑っていた。

武装した男たちが、逃げる職員を追い回している。


銃口を向けている奴がいた。

丸腰の職員に。


「やらせるかよ!」


考えるより先に、体が動いた。


——ビッ。


電撃が、銃口を向けていた男の腕を止めた。

その隙に、踏み込む。


——パンッ。


非殺傷弾が、男の胸に当たった。

男が後ろに吹き飛ぶ。


「逃げろ!今のうちだ!」


職員がこちらを見た。

俺の顔を見て「外部キムラ!」とか言っている。

その呼び方は止めてくれ。マジで。


「いいから、さっさと走れ!」


職員が出口に向かって走り出した。

俺は、その背中を見送りながら、次の敵を探す。


——そこで、気づいた。


「何がどうなってんだ!?」

「何がだ!」

「明らかに、勢力の違う部隊がいるだろ!」


バイオストーンの傭兵とは別に、もう一つの集団がいた。

装備が違う。動き方も違う。

統率が取れていて、明らかに訓練された部隊だった。

しかも、その部隊はアルカナ職員だけでなく、バイオストーン側の傭兵にも銃口を向けていた。


「……あの腕章。」


ジャスの声が変わった。

どうやら、見覚えがあるらしい。


俺は、迫りくる部隊を捌きながら問う。


「なんだよ!さくっと言え!」

「アッシュガードだ!バイオストーンじゃない!」


アッシュガード。

アッシュタウンを拠点にする武装自警団。


第二次魔術大戦後、戦地に残った軍人たちが立ち上げた組織だ。

企業ではない。


ただ、その戦力は下手な企業警備隊よりよほど厄介だ。


だが——なぜ、ここにいる?

アッシュガードがアルカナを襲撃する理由がない。

いや、バイオストーンが雇ったのか?

それにしては、動きが噛み合ってなさすぎる。


「ジャス!こいつらがいる理由は?」

「分からん!」

「っち!ここにいる以上は、制圧するぜ?」

「あぁ!構わない!」


緑色の腕章をつけた兵士が、三人。

こちらに向かってくる。


動きが、バイオストーンの傭兵とは段違いだった。

連携が取れている。

一人が正面から牽制し、二人が左右に回り込もうとする。


「……面倒だな!ったくよぉ!」


正面の一人に向けて、電撃。


——バチッ。


が、躱された。

訓練された兵士は、反応が違う。


なら。


俺は正面の男に向かって踏み込んだ。

銃を向ける——フェイント。

男が銃口に反応して横に飛んだ瞬間、本命の電撃を放つ。


——バチッ。


足が止まった。

すかさず、非殺傷弾。


——パンッ。


一人目、沈黙。

左から来た二人目には、ジャスのレーザーが走った。


——ピュン。


吹き飛ぶ。

三人目は——もう逃げていた。


「……っち。逃がしたか。」


周囲を見回す。

敵の姿は、もう見当たらなかった。


火の手はまだ残っているが、戦闘は収まりつつある。

遠くから、サイレンの音が聞こえてきた。

消防と救急だろう。


「ジュディ。概ね制圧した。残党は北側に逃走中。追うか?」

「いや。職員の安全が先だろ。」

「……それも、そうだな。」

「……あんだよ?」

「いや、お前はそういう奴でいい。」


……意味分かんねぇ。

でも、今は問答をしている場合じゃない。


俺は建物の周囲を回りながら、逃げ遅れた職員がいないか確認する。

壁際に倒れている人を起こし、出口を指差す。

腕を怪我した職員の肩を貸して、外まで運ぶ。


——戦闘よりも、こっちの方が大事だ。


ジャスが合流してきた。


「被害状況を伝える。建物東側が半壊。負傷者、現時点で十二名。死者は確認されていない。」

「死者なし……。不幸中の幸いかな。」

「敵の残留装備からバイオストーン製のストーンウェアを複数確認している。アッシュガードの腕章も回収した。」

「……なんなんだよ。」


二つの組織が、同時にアルカナを襲撃している。

偶然じゃない。

これは、仕組まれている。


「ジャス。」

「何だ?」

「……嫌な予感がする。」

「あぁ、俺もだ。」


建物の裏手に回り、最後の確認をしようとした時だった。

火の手が回っているはずの一角だけ、妙に空気が冷えていた。


——崩れかけた壁の向こうに、人影が見えた。


敵の残党か?

俺は銃を構え、慎重に近づく。


壁の角を曲がった。


「……はぁ?」


そこに立っていたのは、武装した兵士ではなかった。


少女だった。


銀に近い灰色の髪。

整った顔立ち。

細い体つきにも関わらず、その落ち着いた立ち姿。


「——エルナ?」


声が、勝手に出た。


そこには、魔法使いがいた。

俺が三年前に、この世界で失った人。


大切だった、その人が。


第百話、お読みいただきありがとうございます。


百話です。百話ですってよ。

ここまで読んでくれて本当にありがとうございます。


お付き合いいただいた方、凄すぎます。


また、10分後にお会いしましょう!

ブクマやコメントをいただけると、今はただ、君に感謝を。

よろしくお願いします!


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