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FILE 01 特監(トッカン)へようこそ!

《……アメリカ政府はきょう、疾病予防管理センター、CDCの組織再編を発表し、寄生虫疾患部門を含む複数の研究部門を閉鎖する方針を明らかにしました。この再編により、現地疫学調査官など数十人規模の職員が解雇、または配置転換となる見通しです。

 ホワイトハウスは「限られた予算を新興感染症やパンデミック対策に集中させるため」と説明していますが……》


《次のニュースです。東京都練馬区のマンションで、7歳の女児が屋上付近で意識不明の重体で発見され、搬送先の病院で死亡が確認されました。

警視庁によりますと、女児はきょう正午ごろ、マンションの屋上付近で倒れているのを家族に発見されました。 練馬区では今月、同様に小学生が屋上の鉄塔から転落して死亡する事故が起きたばかりで、屋上には立ち入り禁止の鉄塔が設置されており、警視庁は事故の可能性も含め調査を……》


 アトランタから東京羽田へ向かう飛行機の中で、機内食を食べ終わったルシアはそんなアメリカや日本のニュースを聞きながら眠りについていた。朝早い時間にアトランタから出る便に乗ったからだ。

 


 それから数時間後。羽田に到着した。時刻は丁度正午。


 何かご飯でも……と思うかも知れないが、ルシアには厚生労働省からの迎えが来ていた。



『エート……ルシア・カスティージョ調査官女史、デ、ショウカ?』

 めっちゃコテコテの英語で確認をする厚生労働省のスーツの男。


 答えると、私コウイウ者デス。と日本人らしく名刺を差し出す。どうやら特殊感染症監理課の佐藤という名前らしい。


「あー。私日本語、分かりマスヨ!」

 ルシアは日本アニメをきっかけに学んだ日本語で答える。

 その言葉に、佐藤は安堵の様子を浮かべる。


「それはよかったです。日本へようこそ。ルシア・カスティージョ調査官。特殊感染症監理課の佐藤と申します」

「はい、よろしくお願いしマス!」


 そういう訳で2人は霞が関の厚生労働省の特殊感染症監理課へと向かう。


   ☆      ☆



「こちらも暑いデスネ。もう9月なのに……」

「日本は湿度がある分特に暑いでしょう。そちらアメリカも暑いのですか?」


 道中の車内でそういう他愛のない話を行う。


「はい、アトランタは南の方ですし、活動場所も暑い場所デシタので」


「貴方が見つけた新種の寄生虫は大変興味深いものでした。特にカエルの寄生虫は生態学的にも大変面白い生態でした」


 どうやら佐藤さんは生物学に詳しく、カエルに関しては特に興味があった様子である。


「しかし、本当に暑いですな。確か今日も30度近い炎天下だった筈」


「30度!それは本当に暑いデスネ。水浴びでもしたいデスネ!」


「ははっ。確かに。噴水のある公園では子供達は水浴びしていますからね」

「暑いですからネェ」


 仕方ないデスヨと談笑を続け、そんなこんなで厚生労働省の特殊感染症監理課へ到着する事となる。



   ☆      ☆



『君がマーカスが言っていたルシア・Cカルメン・カスティージョ・Mモラレス博士だね? 私はこの特殊感染症監理課の課長。松下一朗(まつしたいちろう)です。トッカンへようこそ!』


 厚生労働省の入っている中央合同庁舎第5号館の一角にある特殊感染症監理課のオフィス。


 そこでルシアは松下課長より英語で歓迎を受けていた。ちなみにマーカスとはCDC時代のルシアの上司である。


 松下課長は如何にも中間管理職げな中年の男性で、ルシアとしてはその物腰柔らかそうな様子から、マーカス部長と気が合いそうな印象であった。


「ハイ、こちらこそ。よろしくお願い致しマス」

 ペコリとお辞儀をするルシア。

「あら。日本語話せるのぉ……」

 気合を入れて英語で話そうと思っていた松下はそんな感じに残念がった。


「さて、長旅でお疲れだと思うのですが、さっそくちょっと調べて欲しい案件があるんですが……その、バディになる人がちょっと席を外していて……」

 松下課長はそう気まずそうに言う。


「エッ。佐藤さんデハないのでスカ?」

 意外そうな声で尋ねるルシア。


「うん、佐藤サンではなく、飯酒盃くんって人なんだけど…」

「い、イサカイ……?」

 聞き慣れない名前に戸惑いを隠し得ないルシア。


「いや、イサハイ。えーと。ひょっとして飯酒盃くんはまた屋上かな?」

「ここに居ないならそうでしょう」

「さっきタバコ吸いに行くって屋上行きましたよー」


 そう言うのは佐藤と、奥のデスクに籠って何やら仕事をしている女性の声。


「んもう……。あー佐藤くん。ルシアさんを連れて屋上行って来……」


「飯酒盃戻りました」


 来て。と言いかけた時に、果たして飯酒盃を名乗る男がやって来た。


 ルシアとしての第一印象は、「(ダウナー系の方ですね……)」であった。


 背は大体170cm以上だが華奢。やる気はイマイチそうだが、底に熱いなにかがありそうな気がする。

 見た目は有り体にいえば、漫画雑誌跳躍(週刊少年ジャン…)の呪術の方のウニ頭の人的な……?


「えっと。この人が例のCDCの……?」


 この間僅か数秒の思案であったが、ルシアは飯酒盃の言葉にハッとする。


「そうだよ。名前は……」


「ルシア・Cカルメン・カスティージョ・Mモラレスと申します。ルシアと呼んで下サイ」

 松下課長の紹介を強引で自分でする形で自己紹介するルシア。


「あっ。どうも。飯酒盃いさはい たくみです。よろしくお願いします」

 お辞儀をする巧。釣られてお辞儀するルシア。


「えっと、じゃあルシアさんは飯酒盃くんとバディで動いて貰いますね」


「それはいいんですが、課長。なんの要件ですか」


 課長がルシアに説明するとともに、要件を尋ねる飯酒盃。


「例の練馬区のマンションのさ、例の転落事件あるじゃない?」


 とりあえずルシアと飯酒盃両名を座らせ、佐藤さんも仕事に戻らせて説明を行う松下課長。


「それは分かりますが、ルシアさん知らないでしょその事件」

「ハイ……東京行きの飛行機の中で聞いたかも? 程度デシテ……」

 申し訳なさそうに言うルシア。


「うん、ごめん。今説明する。

 3日前に練馬区のマンション団地で市月始いちつきはじめくん11歳が住んでいるマンション屋上床面で意識不明の重体で倒れているのを家族が発見し、病院に搬送されているも死亡が確認された事件があり、調査の結果鉄塔に上っていたが転落したのではないかという話で、まぁ事件と事故の両面のみらず自殺の線も含めて警察が調査をしていた。

 ん だ け ど 」

 そう言って松下課長は資料を渡す。


「昨日、また同じマンション団地で別のマンションに住んでいた通川丹衣つうがわにいちゃん7歳がまたもそのマンションの屋上で倒れているのを発見。これも意識不明の重体で倒れていて、その後死亡した事件があった。んです」

 そこで課長は一息つく。


「成程。私が聞いたニュースは丹衣ちゃんのニュースでしたか。でもニュースで聞いた事よりもちょっと違うヨウナ?」


「ああ、多分それ初動報道だからな。実際の調べと微妙に違う場合があるんだ」

 ルシアの言葉に飯酒盃はそう補足を行う。


「ナルホド。それで短期間で同じ団地で同様の事件が……丹衣ちゃんの件も鉄塔に上っていたのデスカ?」


 ルシアは資料を見てそう呟く。


「はい、丹衣ちゃんも鉄塔に登っていたと指紋等の関係で明らかになってます」

 松下課長はそう肯定する。


「すんません。これ、やっぱ警察の仕事じゃないですか?」

 どうもこれはうちの仕事じゃないと訝しむ飯酒盃。


「んーそれがね。2人とも何やら発症していたらしく40度近い高熱が出ていたようなんだよ」


「アッ。確かに資料に始君には39.8度。仁衣ちゃんには39.2度の高熱がありマスネ」


 課長の言葉にルシアは資料をよく見て熱がある事を確認した。


「高いな……脳炎症か?」

 資料に目を通しつつそう呟く飯酒盃。


「ん……【小児科の問診票には【眼の痛み】と【咳も喉の痛みもなかった】と記入あり】……か」


 資料を読み、気になった項目を読み上げる。



「ね? 普通の風邪にしては妙な点が多いからって言う訳で、警視庁からウチへ依頼が来た。という事なんだ」

「成程」

 飯酒盃は合点が言ったとばかりに一呼吸付く。


「それなら行きます。行きますが、ルシアさんは大丈夫なんですか? 今日来たばっかりじゃないですか」

 ルシアの事を気遣う飯酒盃。


「あ、私なら大丈夫です。こういうのは慣れっこデス!」

 すかさず親指を立てるルシア。


「そういう訳だから、警察さんを待たせるのも悪いから顔合わせだけでもいいから今日中に行ってきて欲しいんだ」


「了解しました。場所は……ふむ、練馬区の光が丘か」


「じゃあそういう事で頑張ってね。飯酒盃くんにルシアさん」


「OK。ボス」

 ルシアはそう言って席を立つ。


「ぼ、ボスか……初めて言われた……」

 ルシアの言葉にちょっと動揺する松下課長。


「あ、ボス。そういや屋上にネズミの死体があったんで片付けといた方がいいですよ」

「え゛」


 去り際に飯酒盃はそう言ってルシアと共に現場に向かうのであった。


   ☆      ☆



「……えっと、ルシアさんでしたっけ」


「ハイ、呼び捨てタメ口でもNo Problemですよ」


 現場に向かう車内。車は厚生労働省の車である。


「資料見ましたよ。博士号も持ってて、博士号の論文は『都市下水系における寄生線虫の生活環と齧歯類宿主』だっけ?」


「はい、よくご存じで」


「で、CDCの本部勤めだったんだよな? 正直、日本に来るよりアメリカ本国の研究機関や企業の方が給料高いし引く手数多だったんじゃ?」


「ひ、轢く手あまた……?」


 聞きなれない日本語に聞き返すルシア。


『あー……製薬会社からぜひウチに来てくれ。というラブコールが多かったんじゃないのか?』


 面倒くさくなり、英語を話す飯酒盃。めっちゃ上手である。


『それについては、確かに高い給料の企業の求人はあったのですが、結局は人間に利益がある研究しかできないと思って。それに大学や研究機関も、今の大統領ではいつ脅かされるか分かったもんじゃなかったので』


 飯酒盃の流暢な英語にちょっと驚くが英語で答える。


『成程ね……しかしウチも中々に閑職だよ。給料も安い』


『それでも、こっちの方が良いと感じました。アニメは好きですし』


 そうやってルシアはにこやかに答える。


『成程ね……ってなんか面接みたいになっちゃったな』


「ブフフッ。確かにそうデスネ!」


 飯酒盃の言葉に思わず吹き出してしまうルシアであった。


「ふふ。あ、煙草ないからコンビニ寄るけどいい?」


「あっ。そういえば空港着いてから何も食べてなかったデス! 何か買いマス!」


「おっけ。じゃあ寄るね」


 こうして2人は最寄りのコンビニに寄り、ルシアは鮭おにぎりとたまごサンドイッチにホットスナックのチキンと冷たいコーヒーを購入し、日本のコンビニの良さを実感したのであった。


 その後、転落事件があった練馬区光が丘のマンション団地へと向かったのだった。


 続く。

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