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【書籍化決定】世界はまだ、俺が魔女で聖女だと知らない  作者: 月森 朔
番外編

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206/207

外伝(小坂 霞の潜伏) 第1話 霞と潜伏開始

外伝を開始させていただきました。

数話以上は続ける予定ですので、お付き合いください。

6章で霞を送り出した時に遡ります!

 俺は笹木ではあるんだけど、状況は複雑で、ドッペルゲンガーじゃない本体の笹木で変身した影子の分身だ。コードネームは、霞だ。ただし、影子の分身だと、ほかのアバターになることができない。そうは言うものの、影子自身が物理的にも強い上に、壊れた性能を持つ変身や分身が可能なこともあり、特に不安はない。


 俺自身のミッションはただ1つで、笹木本体の分身保険だ。今後、笹木に何かあっても、この身が犠牲になることで笹木は死なないという自己犠牲の塊だ。我ながら泣けてくる健気な俺。

 とまあ、そう言ったものの、かなり気楽な立場だ。笹木からはポシェット型のマジックバックに使いきれない額の現金を持たせてもらっている。遊んで過ごしてもいいし、何か仕事をしてもいい。潜伏といっても、分身保険を狙ってくるような状況自体は考え難い。目下の悩みは、何をして過ごすかだ。今はJR名古屋の中で少し悩んでいる。

 

「さて、どこに行こうかな?」

 

 近所に出かけるようなパーカーに膝丈のスカート、サンダルといったラフな服装で、髪も簡単に結んでおり、地味目な感じにしている。近所の女子大生か休み中のOLさんが、切れた電球を買いに来たといったスタイルだな。それでも、霞の見た目は可愛らしく、目を引いてしまう。すでに変身をつかって影子とは別の見た目にしている。警戒感を抱かれない、優しげな雰囲気を持たせている。


 そんな時、大きなテーマパークの紙バッグを下げた女の子たちが目の前を通りすぎる。千葉か。いいかもしれない。関東近県を転々とするのもありだな。そういうわけで、俺は東に向かうことにして切符を買うことにした。



 東京駅に降り立った後、俺は行き先を絞ることにした。千葉のテーマパークに近い、東京がいいかと考えると、台東区? 江東区? 土地勘はないので、地下鉄に乗ってみる。台東区に行ってみるか。名古屋から旅立ってからすでに夕方にさしかかろうとしていたので、どこかに泊まろうとして、ビジネスホテルに入った。下町にある古い感じのビジネスホテルだ。若い女性というよりは、おじさんたちが出張に使うことが多いだろう。まぁ、最初の拠点としては問題ない。問題ないはずだったのだが…。


「すみません、身分証がないと宿泊はしていただけません」


 フロントにたった初老の男性スタッフが、申し訳なさそうに伝えてくる。どうしてこんなことになっているかというと、俺というか、フレイヤとして活躍したアルカトラズでのテロが原因だった。テロの後、アビスヴォーカに対する警戒が高まり、それが身分証の確認義務といった形で現れたのだった。ホテル業界からも多少の反発はあれど、ギルド側からの要請ともなれば、認めざる得ないということで今この状態だ。

 当事者の1人だったのに、うかつだった。笹木には、くノ一の領分だとかなんとか言って身分証の用意をお願いしていなかったことを悔やむ。身分証がいらないホテルを探すか…。


「あんた。身分証がないのかい?」


 フロントの前でどうしようかと思案していた俺の背後、ロビーのソファーに座っていた女性。派手めの化粧にパーマをきかせた、おばあさんと言っても差し支えない女性が声をかけてきた。声はハスキーで、バーかスナックのママなんじゃないかと思う。


「千代さん。あんた、またかい? 前、痛い目見ただろうに」


 フロントの男性がため息交じりで応える。何が始まったんだ?


「ずっと役所に尻尾振ってるあんたよりマシさ。訳ありの女1人泊められないんだったら、さっさとマンションにでもしちまった方が、先代も浮かばれるってもんだよ」


 話の流れから、どうやら俺を助けてくれようとしているらしい。この2人は、相当古い仲のようだ。夫婦? いや、そんな感じでもないな。


「親父はまだ死んでないって、熊谷の施設で悠々自適だ。分かったよ、あんたの好きにすればいいさ。ねーさん、あの人は、千代さんって言って、はす向かいのスナックのママさんだよ。世話好きだから、話聞くといい。しかし、すまんね。テロのせいで、規制が厳しいんだ。特に都市部はね…」

「いまさら、謝ってもね…、さぁ、あんた、うちに部屋はあるから泊めてやることはできるよ。着替えも持たずにホテルに来るなんざ、なんか事情があるんだろ? 千代さんが聞いてやるから、来なよ」


 この間、俺は一言も話していないんだが、何か話が始まったみたいだ。これはこれで、面白い。しかし、着の身着のままな様子でホテルは確かに不審だな。悪い男から逃げてきた女性か、家出娘みたいに思われているんだろう。いや、状況的に、笹木にお金を渡されて、どこへでも行けって言うんだから、あながち間違っていないというか…。あれ、俺って悪い男なのか? 若い女の子を身代わりにしたあげく、どこかに身を隠せ…。うん、悪いな。しかし、このストーリーは使えそうだと思い直す。少し心に刺さった自己嫌悪みたいなものは、ささっと消しておいた。


「ありがとうございます。お願いします」


 俺は素直に千代さんに頭を下げると、年の割にしゃんと伸びた背中を見ながら、スナック『ちよの灯』に入っていった。そこは、4階建てのビルで1階にスナックがあり、2階から上は住居のようだ。


「昔はね、何人か住まわせてたんだけど、今はからっぽさ。あたし1人で回してるんだけどね。なんか背負ってる女みるとね、手を差し伸べたくなっちゃうのよ」


 そう言って、1階のスナックの中に入ると、スナックというよりは小料理屋のような様相だ。広くはないが、カウンターの上には惣菜が盛られた大皿がいくつかあり、いい匂いだ。


「腹減ってるかい? さっきのホテルの親父にも差し入れしてやったんだけど、うまいんだよ。うちの鮭大根。あと、カレーなんかもおすすめだね。開店まで少しあるから話を聞こうじゃないか。ほら、座った座った」


 千代さんの勢いに押し負けて、俺はカウンターに座る。


「静かだねぇって、あたしがしゃべりすぎかい? あはは、勘弁ね。こういう仕事だから、仕方ないんだよ。あんた、どっからきたんだい?」


 どこまで答えたものか悩む。潜伏ということであれば、明かす内容は最小限だろう。名前も霞くらいしか考えていない。


「場所は言えなくて…。でも、他県で」

「そうかいそうかい。なけなしの金で切符買ってきたんだね。大丈夫さ、東京はあんたみたいな娘を受け入れる度量はあるさ」


 千代さんは、カレーライスと小皿に盛ったお惣菜をいくつか出してくれる。

 

「あの、お金はあるんです。お金だけは持ち出せたので。こちらもお支払いできます」


 俺はそう言ってポシェット型のマジックバッグからお金を取り出そうとする。お札を出そうとして、間違って札束がこぼれ落ちてしまう。


「あんた。それ。んー、わかった。やばい橋渡ってんだね。でもね。まっとうな金か、そうじゃないかは分からないが、新しく生活するならそんな金に頼るのは良くない。あんたがよければ、ここで働いてもいいし、働く場所を紹介してやってもいい。ちなみに、追われてるのかい?」

「分からないんです。でも、私が生きていることで救われる命があるとだけ…」

「あぁ、嘆かわしいねぇ。いや、何にも言わなくていいよ。あんたみたいな娘が泣くことはないんだ。あたしゃね、あんたみたいな娘が笑顔で出て行くまで何回でも世話してやるって決めてるんだ」


 うん。なんか、千代さんの中でストーリーができあがってきているようだ。なかなか、強烈な人だな。しかし、その善意の剛速球みたいなものがぶつけられて、なんだか申し訳なくなってくる。ここは、早く独り立ちして、出て行くのがいいだろう。


「そうだ、名前は? 本名じゃなくていいよ。呼び方を教えな。あたしゃ、小坂 千代。ここのオーナー兼ママさ」

「霞です」


 千代さんは、優しく微笑む。


「いい名前だね。霞。よーし、今日から小坂 霞って名乗りな。娘っていうには歳が離れすぎてるからね。孫か親戚ってことにしなよ。そしたら、新しい身分証とスマホもすぐ手に入るさ。とはいっても、今日はそろそろ開店時間だからね。食べ終わったら部屋に案内してやるから、今日はそこで休みな。よし、ほら、食べた食べた」


 こうして、霞としての潜伏初日は、幸子さん以上にパワフルな千代さんというスナックのママさんとの出会いによって締めくくられたのだった。


こんにちは、月森です。

第11回オーバーラップWEB小説大賞の銀賞をいただきました!(感涙)

皆様に応援いただいたおかげです。ありがとうございます!

書籍化にむけて頑張っていきますので、応援よろしくお願いします。

書籍化がうまくいけば、コミカライズ・・・さらには・・・と夢が見れます。

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― 新着の感想 ―
銀賞おめでとうございます。書籍化楽しみです。 どうせなら。なろう版をプロット的な感じにして、書籍版はもっと話しを膨らませて…とか期待したらダメでしょうかw
書籍化おめでとうございまーす!コミカライズ…等まで行ってほしいですねえ…狂気!全部笹木女学院!をビジュアル化してほしい。
受賞、書籍化おめでとうございます。 本編では幸運にも出番のなかった霞のその後、気になっていましたので外伝も楽しみです。
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