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【書籍化決定】世界はまだ、俺が魔女で聖女だと知らない  作者: 月森 朔
番外編

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笹木と休暇その2

愛知の海辺でのお話です。

 俺は釣り道具を返すと、ジェシーが運転してくれるワゴン車に乗って移動した。探索者向けの免許は世界共通ライセンスとして存在しており、ジェシーだけが取得した。移動だけならば、アリス能力やフレイヤの飛行能力が生かせる訳だが、車に乗りたいときってあるじゃない。俺は元々、自動車の免許を持っているので問題はない。自家用車は持ってなかったが、前の会社で社用車を運転していたので、技術的には問題ない。


「ギルド契約のレンタカーだが、かなりいいな」


 ジェシーがご機嫌だ。


「そうだな。外観は業務用に見せて目立たないけど、内装は凝ってるな」

「そうね。この冷蔵庫はいいものよ。ほら、ワインが入ってるわ」


 そして、さっそく飲んでいるフレイヤ。


「あれ? さっき買った魚は?」

「あー、あれなら、マジックバッグに詰め込んである。ほかの食材は常に補充してあるから問題ない」


 そう言うと、おもむろにジェシーが横断歩道の手前で停車する。横断歩道を渡ろうとしている人は誰もいないようだが…、いや、なんか気配は感じる。おっと、角から自転車がノンルックで横断していった。ジェシーは何事もなかったかのように、車を発進させる。



「お菓子も買ってあるの。お気に入りの洋菓子屋さんのなの。マナおねーちゃんが好きなやつもあるの。ケーキもあるの」

「あ、ハーブスの新作買ってきてくれたのね。メルちゃん、ありがとう」


 マナがメルに抱きつく。眼福だ。メルが器用に一般的なショートケーキの2倍くらいの大きさのケーキを見せつけてくる。いちごがたくさん載っている。


「一個くらい、食べてもいい?」

 

 その結果、一箱分が消えてしまったが、この車、テーブルとかもついていてメルの食欲を満たすのに向いている。そして、30分もしないうちに、目的地に着いた。ギルドが契約している宿泊所で、優先的に探索者が借りることができる。結構予約でいっぱいのはずだけど、よくとれたものだ。

 普通の戸建てサイズの建物が建ちならぶ町だ。広い庭の芝生の感じが相まって、アメリカの住宅を思わせる。


「あたし、管理棟から鍵をもらってきますね」

「メルも一緒に行くの」


 マナとメルが連れ立って管理棟に向かうので、フレイヤとジェシー、そして俺は、そこからの景色を少し堪能する。港の中にある施設なため、近くのマリーナから出発したヨットなんかが見えていい感じだ。さっきの漁港は漁船が見えて楽しかったが、それとはまた違った趣がある。


「しかし、よくここの予約ができたな」

「予約をしたのは南さんだ。名古屋ギルドの慰労会で余分にとってあったらしい。ほら、あっちの建物に南さんだ」


 ジェシーが指さすと、見慣れた女性が走って近づいてきた。ジーンズに薄着のカーディガンを羽織ったラフな格好の南さんだ。


「笹木さん。結局、一緒に遊ぶことになったんですね。お一人で、羽を伸ばすっておっしゃってたのに」


 南さんが笑う。確かに、昨日南さんに、のんびり一人で過ごすとかなんとか言った。


「一人で釣りをしてましたけど、魚も釣れなかったし、こういう楽しみ方もありですよ」

「あら、釣れなかったんですか」

「そうらしいな。魚はいっぱいいるのにな」


 ジェシーは沖合を見つめている。多分、魚影が見えるんだろう。俺の目だとそこまでは見えない。

 そして、マナとメルが連れ立って戻ってくるとジェシーがにやりとした。


「さぁ、パーティの開始だ」


 そこからは、ジェシーがキッチンに籠もり、料理を始めた。マナも手伝いはじめる。俺も手伝おうとしたのだが、マナからゆっくりしておくようにと小瓶のビールを渡されて庭に置いてあるおしゃれなソファーに座らされた。


「春ね。ワインがおいしいわ」


 隣にちゃっかり座っているのはフレイヤだ。ジェシーが用意してくれたチーズを少しずつかじってはワインを飲んでいる。


「いつでもおいしいって言ってるよな」

「そうね。ふふ」


 フレイヤは俺の皮肉に笑って返す。中身は俺なんだけど、この笑顔は少々困る。そんな中、南さんがチームメンバーを引き連れて遊びに来た。男性メンバーはこれから釣りをするそうだ。海に面しているので、すぐに釣りができるのもここの売りだ。



 バーベキュー用のグリルを何個も用意したジェシーがフレイヤを呼んでいる。火起こしを手伝わせるのだろう。そこからほどなくして、メルとマナが加わって、グリルからおいしそうな匂いが漂い始める。


「イカ焼きなの。おいしそうなの」


 メルが満面の笑みでマナに話しかける。


「そうだね。おいしそう。もっと焼いておこっか、いっぱい買ってきてあるし」


 マナが皿からイカを追加で焼き始める。ジェシーは中で別の料理を作っているらしい。


「これは、さっきの港で買ったのかい?」

「こじにーも食べて。さっきの港は、なんか漁獲量が落ちてるって言ってましたよ。これは、名古屋駅前の市場で今朝買ってきたものです。おいしそうでしょ」

 

 確かに、釣果が芳しくない人ばかりだったな。そうこうするうちに、メルは2杯目のイカを食べ始めている。一口は小さいのに、するすると食べていく。

 そんな中、釣りをしている男性陣から声が上がる。釣り竿が大きく揺れている。


「かかったみたいだ」


 そのとき、わずかにスキルの危機察知が働く。


「うわぁぁぁ」


 釣り竿を大きく超えて、マグロよりもひとまわりほど大きな魚が海面から飛び出してきた。


「あれは、モンスターだよな?」


 そのとき、メルが動く。釣られたわけではなく、手近な人間に襲いかかろうとしているモンスターの前にメルが割り込む。背後には、今まさに焼き上がろうとしているイカや野菜がある。


「秘技24連撃!」

 

 メルの見えない拳がモンスターに突き刺さり、その体を砕いていく。その破片が消滅する前にバーベキューグリルに当たって倒してしまった。


「ああああ。イカがぁぁぁ!」

 メルが倒れたグリルからこぼれ落ちたイカや野菜を見て、がっかりしている。

 素早くマナが堤防に寄って警戒している。ギルドの職員たちを避難を始めている。


「あの魚影は、モンスターだったか。完全に魚型だから見逃していたな。無事なものは、洗ってまた焼くから、あまり嘆くな」


 外に飛び出してきたジェシーがメルに声をかける。


「その間、これでも食べてるんだな。タコのアクアパッツァだ」


 走って出てきたはずなのに、手に持った料理はきれいに整ったままだ。

 そのとき、フレイヤが声を上げる。


「スタンピードのようね。海を通じて遠くからきたってところかしら。どこにいるかわかるかしら?」

「あの辺だな」


 ジェシーが指を指すと、フレイヤが空に昇る。


「見えたわ。ちょっと強引に捕獲してくるわ」


 倒すじゃなくて、捕獲?

 そこからは、なんだか金魚すくいのプロを見ているようだった。海面を飛び回るフレイヤがサイコキネシスを使って海中からポンポンと巨大な魚型モンスターを引き抜いていく。


「それで最後だ!」


 ジェシーの声に周辺に集まっていたギルドの職員たちも歓声を上げる。フレイヤには、交信で伝えたようで、大きなうごめく塊となった魚型モンスターを陸上まで持ってくると、魔法を使ったのかモンスターが炎に包まれた。


『ドロップが落ちると思うわ。お皿で受け取るのよ』


 フレイヤから交信でそんな声がかかる。


「わかったぞ」


 ジェシーが皿を持ち出してきて、俺に渡してくる。そして、上空で燃えさかっていた魚のモンスターが消滅する中、ゆっくりと何か肉片みたいなものが落ちてくる。

 それは、フレイヤのサイコキネシスで正確に皿に吸い込まれてくる。


「おいしそうなの!」


 それは、魚の肉のようだ。こんがりと焼けていて、ステーキといった風貌だ。確かにいい匂いはするが、食べられるのか?


「これは何だ?」

「短時間のステータス上昇のある食材よ」


 地上に降り立ったフレイヤが説明してくれる。


「思い出したのよ。あの魚型モンスターのドロップ方法を」


 どうやらペルソナ情報のようだ。


「ステータス上昇か。そういう食材を集めるのもいいな」


 俺の言葉にジェシーもうなずく。


「だが、うまいかどうかも問題だな」


 ジェシーが手に持った小さなフォークでその身を少し食べる。


「うまいな」

「メルもたべるの!」

「わたくしは、警戒にいってくるわね」


 そう言うと、フレイヤが海上に飛び出していった。騒動の中、ギルドの職員たちも俺たちの建物のところに集まってくる。メルとマナは人気があるので、途端に囲まれて、声をかけられていた。そんな中、南さんがステータス上昇の食品の話を聞いて、南チームが招集されたりしていた。食品事業化について議論が始まったようだ。少し仕事を離れてもいいのになぁ…。


「人がいっぱいいるな。よーし、これは盛大にやるか」


 ジェシーが数台のダンジョンガイダンスを浮かべると、軽快な曲が流れ始める。そして、日帰りだと思っていた休暇は、夜まで続き、結局宿泊することになったのだった。

海鮮バーベキュー食べたい。釣りがしてみたい。

そんな願望が漏れ出てました。

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