外伝(小坂 霞の潜伏) 第2話 霞とギルドカード(商用)
千代さんのキャラが好きです!
書いてて楽しい。
俺は影子の分身、コードネームは霞。いや、今は、お世話になっている千代さんの親戚の娘ってことで、小坂 霞と名乗っている。影子とは姿を変えており、優しげな二十歳ごろの女性となっている。
そして、今は千代さんがやっているスナック『ちよの灯』の3階にある部屋に居候している。風呂トイレは共同で、使わせてもらっている部屋は小さいが綺麗に整備してある。寝具も手入れしてあり、女の子の世話を焼いているという話は本当だと思えた。その部屋でぐっすりと眠った翌日、朝早くから千代さんは料理の仕込みをしていた。昨日の夜も0時過ぎまで常連さんの相手をしていたようだが、早く寝ろと言われて休ませてもらった。
「おはようございます。千代さん、何か手伝いますか?」
俺は、パーカー姿で千代さんに声をかけた。服を買うお金はあるんだが、まだ服はほかに持ってきていない。影子の能力的には、服装も自由に変えられるのだが、服を持ちこんでいないことになっているため、そのままだ。
「おはよう。よく眠ったかい?」
「はい、ぐっすりねました」
「ぐっすり眠れるんなら安心だよ。朝ご飯食べるだろう。すぐ用意してやるからね」
千代さんはテキパキと配膳をしてくれる。何か手伝おうかと言ったのにも関わらず、本当にいい人だ。
「私もやります」
「いいんだよ。このカウンターはあたしの戦場さ。まぁ、店を手伝うってんなら入ってもらうのもやぶさかじゃないよ」
スナックの手伝いか…。
「いや、あんた歳は? 20歳かい?」
えーと、年齢の設定を考えていなかった。高校は卒業しているが、20歳にはなっていないくらいにするか。今の姿は柔和な雰囲気もあり童顔寄りだ。そのため、高校生といっても通るだろうな…。ちょっと考えていると。
「やっぱりね。あんた、まだ20歳になっていないね。分かるんだよ。歳を誤魔化そうったってあたしゃお見通し」
お見通しらしい。
「スナックだからね。20歳超えたら手伝ってもらうことにしようかね。さぁ、食べな。千代さんの特製豚汁定食だよ」
そこには、おいしそうな豚汁とごはん、それにハムエッグにサラダがついてきた。納豆もつけてくれて、本当に定食となっている。豚汁の香りがいい。
「おいしそうです。いただきます」
遠慮なく手をあわせて、千代さんにお辞儀をする。そして、朝ご飯を食べると体に出汁のうまみが染み渡る。影子の分身だが、こうして食事も睡眠もとり、ちゃんとした人間としての日常生活が送れている。一体この分身が人体としてどうなっているのかは不明だ。いや、人体としては過不足ないことは分かっているんだが、あまり考えずに普通に過ごしている。ご飯もおいしいし、体調も悪くない。
「体調は問題ないようだね」
一瞬考えていることを見透かされたかと思って、ビクッとした。
「はい。おかげさまで」
「よし、じゃあ、あたしと一緒に商工会議所にいくよ」
「商工会議所ですか?」
千代さんがニヤリとする。悪巧みをしているような悪戯っぽい笑みだ。そして、その笑みの理由を、食事の後に連れて行かれた商工会議所にて俺は知ることになった。そこは、千代さんのスナックから歩くこと15分にある古びたビルだった。
「ここで身分証をゲットするよ」
中に入るとカウンターの奥に3人ほどの男女が働いている。千代さんは、彼らに声をかける。すると、手間に座っていた男性が立ち上がって千代さんの方に近づいてくる。
「支部長は、いるかい?」
「あ、小坂さん。はい。支部長室の方にいますよ。今なら直接行ってもらってかまいませんよ」
なんと顔パスだ。
「あいよ。じゃあ、霞いくよ」
中の男女が俺のことを見てクスクスと笑う。
「なんだい、人の顔見て笑うなんて趣味が悪いね」
「いえ、笑ってなんか。また、ご親戚ですか?」
「フン。分かってるなら質問しないでおくれ」
千代さんは鼻息を荒くした後、俺に手招きをする。今のやりとりからすると、千代さんが世話をしている女の子の身分証をゲットするのは、お決まりになっているようだ。
「こっちだよ。霞」
廊下の奥に向かって歩いて行く中、千代さんが小さな声で話す。
「あんたはうなずいてりゃいいからね。あたしゃあんたの遠縁だからね。覚えとくんだよ」
そして入った支部長室では、驚くべきことに今まで知らない裏技が使われていた。千代さんが40代くらいの支部長さんに向かって、ギルドカードの発行を依頼したのだ。しかし、そのギルドカードというのは業者用のギルドカードだ。ダンジョン内での作業を行う際に必要なギルドカードで、探索者のものと同等の機能を持っている。そして、驚くべきことに、ギルドカードと同じく身元の保証人と本人のDNA採取だけでギルドカードが発行できることだ。しかし、その条件は、商工会議所への加盟団体に限るということだ。
そう言えば気にしていなかったが、E&Sの人たちもこのギルドカード(商用)を使っていたのかもしれない。
まぁ、とにかく、俺の手元には、小坂 霞という人物のギルドカード(商用)が作られた。探索者用との差は、ダンジョン入場の際の申請が毎回必要なことだ。それと、1年間の期限付き。毎年更新となる理由は業務更新と合わせているらしい。
「いつか俺、捕まるんじゃないかとヒヤヒヤしてるんだけど。千代さん」
支部長さんがそう言いながら頭を掻く。
「弱気なことを言うじゃないか。人助けをすることは、ちゃんとお天道様が見てらっしゃるさ。それに法律上は問題ないんじゃないのかい?」
「そうなんですよね。あんなにテロに対しては厳しいのに、ギルドカードの作成については甘いんですよ。まぁ、このDNA採取ってのがあるからなんですかね」
千代さんが先ほど俺のDNAを採取する機械に触れる。
「だめですよ。貸与品なんで触らないでいただけると」
「こわしゃしないよ。子供じゃあるまいし」
「分かりましたよ。にらまないでください。しかし、霞さんでしたっけ。千代さんはお人好しだから、裏切らないでやってくださいよ」
そこまで言うと千代さんが咳払いをする。
「余計なことを言うんじゃないよ」
「でも、前…。はいはい。分かりました。まぁ、何かあったら私も力になるから」
苦言を呈していた支部長さんが打って変わって優しい。
「いいこと言うね。じゃあ、この子に仕事を斡旋してくれないかい? まずは短期がいいね」
千代さんと今朝話をしたんだが、食い扶持を稼ぐくらいの仕事をするのがいいと進められた。誰かから隠れるためだからと閉じこもると気持ちを病んでしまうからと話をされた。世話をしていた女性に、そういう人がいたんだろうか。まぁ、俺もひまつぶしは必要だから、その話に賛同しておいた。いや、ひまつぶしとは言ってないよ? さすがに。
「あー、それなら、呉服屋さんが引っ越しするとかで、お茶出しの人探してたな」
「ん? 引っ越しの業者を入れたらいいんじゃないのかい? わざわざお茶出しってなんだい」
確かに。
「それが引っ越しは呉服屋の一族でやるらしいんですけどね。親戚の若い衆があんまり集まらなくて、お茶を出したり握り飯出してくれる人がほしいって言ってましたよ」
「そうかい。霞、どうする? あんたが決めたらいいさ」
「やってみたいです。ひ、時間はありますから」
暇だからと言いそうになった。あぶない。
「いい子だ。じゃあ、やってみな」
千代さんに背中をぱしっと叩かれる。そういうことで俺は、翌日からお茶くみとして呉服屋さんの引っ越し現場に向かうことになったのだった。期間は3日間ということだった。
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