メルとムーちゃん
不定期で書く、番外編2つ目です。
俺は俺4号。メルを主に担当している。最近は、ダンジョン世界に行くことも多くなり、あちらの食べ物を堪能することがある。しかし、今は名古屋駅前におり、目の前には俺9号が変身したムー教授がいる。俺9号がムー教授になっているときは、ほとんどペルソナを起動しっぱなしにしているようで、俺の存在をあまり感じない。これには、ムー教授のペルソナの自我なり主張が強いというのがあるが、正直なところを言うと女子小学生の振りをするのは中々大変だというのも理由の1つだ。
そして、その苦難については、今ムー教授のペルソナが担当している。
「決まったの? ムーちゃん」
俺は目の前に座っているムー教授は、ワンピースにレギンスを着こなして、頭には大きなリボンをあしらっている。マナが色々と揃えてくれて、目立ちにくい服装にしてくれた。しかし、その狙いは厳しいものがある。何故なら、北欧の人種に似たダンジョン人の特徴を持つムー教授の孫娘がモデルだけあって、人目を惹く可愛らしいお嬢さんなのだ。もちろん、
メルは有名人なので、変装をしている。
ちなみに、今はムー教授の要望で地球の食事を楽しみたいということで人気のあるカフェに来ているのだ。
「ムーちゃん、じゃと?」
ムー教授がメニュー表からジト目でこちらを見てくる。
「偽名がいいなら考えるの」
メルが高校生で、ムー教授は女子小学生くらいなのだから、ちゃん付けは仕方ないだろう。マナや南さんたちにも中身がおじいちゃんだというのは伏せて、ひよりみたいな天才系女子として紹介している。ダンジョン人は未知なことが幸いして、あっさりと受け入れられている。
そして、何よりその風貌が愛らしく、教授というのはそぐわない。しかし、語尾に「じゃ」とか付けてしまうのは面白い。
「お主はいっぱい食べられるから構わぬのじゃろうが、わしは小食なんじゃ。よくよく考えての注文が必要じゃ。このパフェの種類が多すぎるのは、どういう意図なんじゃ。客を悩ませてほくそえんでおるのか!?」
そんな的外れな憤りはスルーして、俺の目の前には1つめのパフェがやってくる。
「ちょっとずつ食べたいの? すこしあげるの」
本来のムー教授(80歳オーバーのおじいさん)にパフェをシェアするのは気が引けるが、目の前のぴちぴちした美少女ならば許せるというものだ。
「そうじゃな…。それでお願いしようかのう。しかし、本当に演じるのがうまいの、お主」
アバターの女性陣の中でもキャラが独特だし、歳若いというのもあるだろう。
「演じるとか言わないの。誰が聞いてるか分からないの」
俺が注意すると、ムー教授はあたりを見回す。
「大丈夫じゃろうと言いたいが、ちらちらこちらを見ている輩がおるの。カップルの振りをしたスパイか?」
それは単に可愛い女の子に目を奪われている男子だろう。学生カップルも多いから、俺やムー教授にも目移りしそうだ。
「ムーちゃんは、感知できるの?」
「いや、ない。わしの知識や知能をコピーするので精一杯じゃ。それ以上はリソースが足りなくてな。特殊なスキルは持たせられんかった。笹木が後付けで獲得したスキルは別じゃがな。おお、これは旨い」
長いスプーンでいちごとホイップクリームと採っていったムー教授がその一口に蕩けた表情を見せる。うん、可愛い。
「たぶん、ムーちゃんが可愛くて見てるだけなの」
メルも感知系の能力は基礎的なものは持っていないのだが、武術を身に着けるにあたり、殺気みたいなものを感じることができるようになっていた。そのため、好色な視線は感じる者の、殺意を持った視線は感じない。ジェシーやアリス、そして影子ならばもっと広範囲で明確に分かるだが、メルとしては殺意の有無くらいだ。
そして、その後、パフェを5種類堪能した俺は、食べ過ぎで口を押えているムー教授と一緒に散歩をすることにした。今日は土曜日ということもあり、休日を楽しむ人たちが多く、少女2人に絡んでくるような輩は居ない。
「しかし、こちらの文明はすごいもんじゃ」
横を歩くムー教授がそんなことを言ってくる。視線は、ハイランドスクエアや高い駅ビル、そして、新幹線のホームなどを眺めている。
「ダンジョン世界もすごいの」
「お世辞もあるかと思うがの、工業的な生産力はこちらの世界の方が上じゃな。優れた魔道具はあるが、優れた魔法使いしか使えないものもある。こっちじゃ、車も免許があれば、わしでも乗れるんじゃろ?」
「ムー教授は若すぎるから無理なの」
「年齢設定を間違えたのぅ」
ムー教授は唇を尖らせる。
「魔法を得るためだけの魔法未開拓の世界というのが地球に対する認識じゃ」
ムー教授はオブラートに包んで言ってくれているが、魔法もろくに使えない遅れた星という扱いだったと聞いている。調和派は、それでも地球の環境に配慮してくれていたが、原生生物の保護といった観点が強い。しかし、その認識は、今急速に変化しようとしていた。特に、ジェームと一緒にやっている配信によってフレイヤが大人気となっていることからもうかがえる。フレイヤは地球側の優秀な魔法使いとして尊敬を集めているのだ。やはり、魔法が使えることが尺度にあるのだが、それもうまく利用していると言える。
「ごはんはどちらもおいしいの」
「そうじゃな。今日のパフェのお礼に、あちらのスイーツも紹介してやろう。きっと気に入る」
「ありがとなの」
「ところで、次はどこへ行くんじゃ?」
俺はムー教授にさっき言われた演技をするのが上手だというところを思い浮かべていた。これは、うまい下手というよりは、気持ちの問題だろう。つまり、楽しくなりきろうというのだ。
「マナおすすめのお店にいくの」
そうして、俺は駅前にある大型のショッピングモールにムー教授を連れていき、プチプラの化粧品売り場へと乗り込む。
「化粧…じゃと」
そう。孫娘の姿になったことを楽しそうに言っている割には化粧を自分ですることに対する抵抗があるムー教授。俺というか、俺9号は、それを見抜いていた。髪飾りもかわいいワンピースも自主的というわけではなく、マナや南さんに勧められて来ている体裁をとっている。そう、簡単に言えば自分でやるのは気恥ずかしいらしい。
店員さんに話しかけて、口紅などを探してもらうことにした。
「この子のお化粧デビューをしたいの」
「あらあら、まぁ」
20代前半くらいの柔らかい雰囲気の女性店員が、顔を赤くしているムー教授を見て目をきらりと光らせた…ように見えた。
「はい。こちらへどうぞ。小学生さんかしら。お姉さんとお買い物いいですね」
メルとムー教授は人種的な差は大きそうに見えるので、一般的なお姉さんという意味なんだろうかとか、そんなことを考えていると店員さんが試供品をいくつか持ってくる。
「こちらのチューブのティントは、最近はやりの色なんですよ。唇がちょっと艶がでるだけで、学校でもバレにくいんですよ。お姉さんも自然な色のティントお使いですね」
「え? 自然な色? メルは化粧しておるのか?」
おっと、この化粧に気づかないのか。
「もちろんなの」
ムー教授がじっくりとこちらを見てくるが、化粧は自分でもするし、結構レベルも上がってきていると思う。そして、その後、店員さんになされるがままに購入に至って、化粧の仕方を教わる段となった。
「わぁ。かわいいです。色白だから、この色味が合うんですよ」
「わし、かわいい?」
鏡の前で、化粧をしてはにかむ女子がいた。ひよりと居ると化粧とか服装とかに構わなくなるので、今回の買い物はよかったのだろうと思う。
「かわいいの。帰ったらマナにも見せるの」
「うん」
顔を赤らめるムー教授は、ムー教授であることを忘れたら可愛い。
さて、まずは、この『わし』とかいうのを止めさせよう。俺はそんなことを思っていたのだった。
ムー教授とメルという年少2人組の話でした。
ここにひよりも加われば小中高の3人組ですね。




