だって騙された方が悪い
『良い所まで行ったのに惜しかったな…しかし、あの状況【月夜の静寂】に残してた分や『天授眼』など利用できる物はそれなりにあった気がするが何故使うのに渋った?』
『負けたら意味ないと分かっているはずだ、魔法に関してはその眼が担うとして無尽蔵の魔力があるというのに中途半端ではないか?援護が遅いと愚痴を吐いたがあの『剣透』の攻撃は全て英雄武器で対処できた筈だ』
確かに首元を抉られ死を悟った。為す術なく倒れ込んでいる最中反響して聞こえる声はこれでもかと馬鹿にしてくるが正論過ぎて何も言い返せない。確かに攻撃の見極め方も全て『天授眼』で視て対応するのが一番だったのかもしれないけど…裏を搔くために後回しをしていた魔法はいくつもあったからもっと大胆に攻めるべきだった。
『意識は保っている割に反応が無い…悔しいのか?』
(うるさいな…負けたんだよ、痛みはなくとも最後の最後で永遠とお前の愚痴を聞くなんてあんまりだ。さっさと老い耄れの所行けよ)
『……一つ言っておくが賢者の石と交わした契約が消えると分かるのは安全地帯に送り込まれ意識がハッキリしている時に分かる物だ。完全に治癒するまでに数秒掛ったが気分はどうだ?』
「は?」
真っ暗だった視界が一瞬にして真っ白に変わったと思った時には身体はどういう理屈か宙に浮いており『虚飾』が言っていた事が本当だったら魔眼による完璧な妨害が首に負った怪我がある筈だ、そう首元に手を当てるが至近距離で放たれた魔法によって抉れた跡はどこにもなく何ともなく余計頭の中が混乱する。
『確かにお前が慢心を抱いたことで首を抉られその場に倒れ規則上だったら安全地帯に送り込まれる程の攻撃を喰らった事は変わりない』
「じゃあ何故!?」
『そこにいる老い耄れと戦い始める前にお前が言った事だ、俺等はいつまでも満たされない娯楽に飢えている。この『虚飾』に宿る力すらも誓約を結んだ者に開示するのは誓約に従うのが道理だが手の内を全部見せる必要は俺からしたら詰まらない』
『元々この争奪戦が無ければこんな事を考えるに至らなかったがなってしまったものは元に戻すのは難しいが貧乏くじを引かずに済んだのだから思う存分楽しみたいのは引かなかった奴等も同じ事を考えているだろう』
疑問が尽きなかった、娯楽に飢えているのは言動から、考え方から滲み出ている所から気づけていた。元は【錬金導師】の持ち物だというのに何者かの手によって奪われたとしても個々が自力で戻ってくれるほどの力を持っているのにこの争奪戦を引き起こしているのは他の賢者の石が『虚飾』と同じようにこの現状が詰まらないと考えたからなのだろうか
だからと言って圧倒的な力を完璧に扱わせる為だけに勝手に詳細を頭に叩きつけて流し込まれた俺からしたらただの嫌がらせに等しかった。賢者の石についての詳細を搔い摘んだとしてもそれは誰だって理解できる事なのに…あらゆる感情が入り混じり言葉が詰まる、あれだけ大量の情報の開示すらも『虚飾』が任意で操作が出来るとするのなら…いや、出来るからこの不可思議な事すら容易に引き起こせるのか。
『死ぬその時までお前を嘲笑う…クク、人間はこうも簡単に当たり前に処理された事に何の疑問も持たない。勝手に決めつけて結論を見出したと思ったら今更悔やんで蹲るその姿はあまりにも滑稽で情けなさ過ぎてこちらが悪いことをしたみたいじゃないか』
「チッ、娯楽の為なら何でもする…そういうことか」
『あぁ、騙された方が悪いというのも学んでいるからな。お前が今平然と呼吸が出来るのも抉られた喉を完璧に治癒したのも回りくどくなったが全て【死への脚色】のお陰だ、素晴らしいだろう?この正常じゃない事に対して憤慨し声を荒げる事も考慮して【傍観者】のおまけ付きなのだから』
やっぱりコイツとは仲良くするとかいう考えはしない方がいいみたいだ、しようとした自分も殴りたいがそれよりもこの状況が老い耄れと戦う寸前と同様だというのならこの沸々と込み上げて来る怒りを不用意にぶつけるのはアレだがそっちも殺したって勘違いしているんだし戦いは終わっていない。
終わらせるつもりはなかったし例え死んだとしてもそれを否定するかのように自分を優位に立たせる為に張っておいて魔法が勝敗はまだついていないんだから勝った気でいるなよって俺の気持ちが鏡写しのように反映してこの場に閉じ込められていた『剣透』があの手この手とこの魔法を打ち破ろうとしていたが『虚飾』が手を加えてたのか、追い求める娯楽の為なら何でもか…
【傍観者】がまだ相手にバレていない状況で最低限の準備を済ませる。これ以上『虚飾』のにやけ顔で喋る姿を想像したくないからな手札を残しておく事は一切考えずに大量に、自由に、手札が溢れて処理しきれない位節度を持って曝け出す。その事だけを毛頭に置いて『秋風』に戦う為の魔力を流し込む
「【谿紅葉】」
『あれほど省くのを躊躇っていた詠唱はいいのか?』
「既存の詩に変に付け加えてどうするんだよ、元々段階を踏んでいただけだしお前が気にすることじゃないだろ」
雲が数刻先の豪雨を予告して雨を穿つ日差しが場を和ませ【勇者】が見たであろう俺にとっては幻想郷のような光景に目を疑う。それまで薄暗かった空間が一気に明るみが増すと領域魔法を取り壊そうとした老い耄れの手が止まり、舞い落ちる紅く彩った葉の絨毯を踏み締めながら踵を返すとこちらに顔を上げる。
「……その姿は本当に【神子】なのか?」
「【鑑定】でも好きにどうぞ?別に今更って感じだし」
「俺もお前も騙されたんだよ、呆れた奴が平然とやり遂げた死への冒涜にな」
【傍観者】の時に準備は終わらせた、こっからは何があろうと勝つ。老い耄れが何に姿を重ねようと知った事じゃない地面に足が着く寸前を刈る刃を舞い落ちる紅葉が弾き静かに振り落とした『秋風』は蒼々としたカタナに行く手を阻まれる。力強く燃える炎により攻撃を防いでくれた紅葉は燃え再び勢いを持って足元を滑らす。
すかさず【鱗雲】で押し出しながらも絶えず攻撃の手を止めず『秋風』を振るう、魔眼で位置をずらされ攻撃を強制的に止められ動きが止まった所を狙って大蛇が口を開けて噛みつこうとするが『秋風』から溢れ出す魔力を取り込んでいた【鱗雲】に触れた途端覆い被さるように雨粒が大蛇を斬り刻み魔法としての形が壊れた大蛇は力無く倒れる。
だが、標的を失った雨粒は『秋風』を持つ人間が向ける殺意を感じ取り攻撃の姿勢を取っていた『剣透』に無数の槍のような雨が注がれる。炎が揺れ雨粒を蒸発させながら対処仕切れない箇所は眼と自らを守るカタナを光らせ襲い掛かる脅威を撥ね除け押し通しながらも振り落とされる純白の刃を逃さず絶え間なく攻撃の手を止める事は無い。
視線誘導の為に普段よりも魔力を多く含ませた魔法を飛ばして選択を迫らせて差し向けられるカタナの炎を警戒して水魔法を『天授眼』で準備しておいて文句しか言わない『虚飾』を黙らせて紅葉に小細工をするがそれでも戦いを心から楽しんでいる老い耄れが放つ魔法を『秋風』で斬り落としながら間合いに入った所を【日和】で薙ぎ払う。
攻撃の構えを取っていた筈だが【日和】を警戒した老い耄れはすぐさま『蒼然』を添え置くような振る舞いをすると攻撃を全て斬り裂いて見せた。あの『蒼然』が持つ固有の魔法じゃないな…だったらもっと悪趣味な攻撃の仕方の筈だが洗練されつくしているあの構えは確か『剣王』自流の剣術の一つだった気がする。
『【越境】…剣術の一つだから魔法でも無いし当然『天授眼』での妨害は難しいだろうな。というか扱える人間がまだいるとはな』
(純粋な斬り合いが続いたから頭の中からすっぽかしてた、魔法の相殺なら別に二振りの魔剣の魔法を使わなくとも技量で何とか出来るっていう煽り…)
『気にするのか?』
(いいや、そういうのは嫌というほど身体が覚えているから対処できる)
純粋な剣術による魔法の対処法、一切役に立たないと割り切っていたがこういう所でそんなのに出くわすとは考えもしなかった。【剣王】は今まで無害だった獣が魔法に適応し魔物として人間に害を及ぼすようになり魔法無しでは太刀打ちが出来なくなった時代の中魔法の需要が今まで以上に増えた中でも剣術を磨き続けた末に編み出した剣術は魔法を打ち破る為の御業だった。
当時は剣術を磨き極めた者が自らをより強くする為の糧として取り込み猛威を振るう魔獣と渡り合ったが、人間から産み出た悪意に極め至った人間が闇に葬られ数少ない剣士しか知らない秘伝の業とか書物が…歩く書物が言っていたからそこまで重要性が無いものだと思っていたけどこうして見せつけられるが『天授眼』により生成された魔法を向けられ想像していなかったと口に出そうなくらい驚いている老い耄れを見ながら間合いを詰めて『秋風』に魔力を込める。
「ほぅ…分かっているじゃないか」
二度も同じような行動をすれば魔剣であろうと強制的に武器自身に負荷が掛かり砕け散る、迷う事は無い、ここで攻め切る。一呼吸、人によっては短くも長くも感じるが終わった時には周りの紅葉に火が付き、互いに放った魔法は行く手を封じる物だったり魔法が残した軌跡は幾千と重なる。攻撃自体は当たっている筈だけど全く変化がない、こっちはこれでもかと動いたから息が上がって仕方ないのに最低限の動きしかしないけど…少しは焦った方がいいんじゃない?
老い耄れの動きが鈍り『秋風』が吹かせた風に乗って舞った紅葉がそれまで辿り着かなかった空間を踏み越え血肉に葉が刺さり削がれ血が皮膚を伝る。
「そろそろ小細工は通じないよ」
「小細工したつもりは一切ないがこれこそ追い求めていた闘争だ…まだ戦える。この身砕き滅びようとも眼の前の獅子を討ち取るに『剣透』一度も手を抜いたことはない」
『何か言わないのか?』
(まーた小難しい言葉使ってる……とか?)
『剣王』流の剣技はそれまで魔力に適さなかった獣が急激に魔力を扱えるようになり元々特化した部分がより強力になった場合や生存する為に自らの弱点を補った結果人類が束になっても対処仕切れなかったが魔法というよりも魔力から魔法に変化する過程に作用する普通だったら無理だが【勇者】と『剣帝』の助力により誰にでも扱える人類が魔獣と渡り合える手段だったが予期せぬ出来事により人類どうこうの話ではすまなくなり人に教える事が困難になり事が終わる頃には皆必死になって魔力という概念を学んで魔法を会得したため
人類「そこまで必死になって習得する物じゃ無くね?魔法があるやん」
剣王「まぁ魔法が扱えなかった時の応急処理みたいな奴だから…必要性はないかもだけど知りたい奴だけ俺のとこ来いよ…」
みたいな感じになった。今じゃ剣術よりも魔法の方が融通利くから魔法に全振りしているんすわ!とか息巻いている奴を一方的に嬲れる剣技になりつつあるが魔法じゃなくとも魔剣にも対応するから知る人ぞ知るとっておきの流派




