変わりようがない事実
『天授眼』から得られる情報を全て加味しての三手先の動きを前もって対処し続けている訳だが…あの二振りの魔剣が届くか届かないかの所でこちらの攻撃を叩き落してくる。罠として効力を、一定以上の魔力を関係なく感知した際に無差別に反撃として放たれる【秋霖】の攻撃は攻撃の無力化を主軸とした老い耄れが持つ『蒼然』によって相殺される。
早速『天授眼』からの情報を簡潔に整理しようと思う、あの主に攻撃を重きに置いている『茜雲』は魔法というより魔力を引き寄せて一点に纏めた瞬間を狙って亀裂を生み出す【昏黄】によって成り立っているから当たれば致命傷間違いなし…しかし魔力を込めた物には全く反応を見せない所から魔剣とかは別にって感じ。
それで防御、反撃等の『茜雲』での対応が遅れた際の保険みたいな粗末な扱い…なんて大雑把な扱いではなく攻撃としての一手だろうと負けず劣らずの一面を隠している『蒼然』は難なく【秋霖】の無力化とこちらが放った攻撃の相殺として面倒な立ち回りをしてく。
だというのに二回しか使われていないがここまで印象に残ると攻撃の幅が著しく狭まれるので今の攻防だけで本当に頭が悩まされる。でも、抜け道を発見するのが得意な『秋風』なら上手く隙を突けるだろうか。
「まずは、邪魔をして様子見って所かな?」
何も言わずにバットウ術…?で周りに湧き始めた魔法の数々を瞬時に受け流しこちらに迫ってくる、やっぱり視点誘導の為に牽制としての役割でしか魔法は役に立たない感じか?それでも手数としてだったら押し切れるから捌き切れなくなる位には魔法の密度を高めて嫌がらせするのが正解だな。
『注文が多いな、一つに絞れ』
(集中しているから静かにして、取り敢えず一瞬でも魔力に気を紛らわせられたらいいから)
各種の下級魔法の盛り合わせが奴の視界全体を一瞬で魔力の塊と同等のこれは一番致命的で魔眼持ちにとって最も有効打、その空間に作用する『歪曲の魔眼』だろうと無数の魔法の強制解除は賢者の石を手にしていないお前にとっては魔力が腐る程潤っていようとも本来通りの活躍が出せない筈…というか『天授眼』だったら上級魔法以上の連続発動でやっと魔力の供給が遅れる位だし【覘透】からの情報に噓偽りが出来ない事も含めて次に取るであろう行動は手元に有り余る二振りの魔剣による回避か反撃の二択に絞られる。
「魔眼に対するよくある対処法だが…舐められては困る。『英雄武器』に認められているのだろう?」
「『趨勢に流されず』『留まり浮かぶ綿』『遠方に轟く雷鳴』『数刻先んずる』」
「【鱗雲】」
思惑通り、押し寄せる魔法に顔一つ変えずに後ろに下がったが平然と『茜雲』を前に構えながらも背には『蒼然』を忍ばせて迎撃の準備は完璧だと言葉にせずとも体で表現していた。構えていた魔剣に触れた魔法が紅く燈ると音を立てて燃えていき無傷でやり過ごしていたがこちらの詠唱を耳に挟むと笑みを溢しながら両手に握る魔剣をただ振るう為だけに突っ込んでくる。
普通はどんな攻撃をするかを確認しながら対処するのに臆さず来れるのは引っ切り無しに睨みを利かせ発動する度に輝かせる『歪曲の魔眼』の効果で物理的に押し寄せる真っ白の雲を捻じ曲げながら足場を確保し、今まで以上に魔力を吐き出し続ける魔剣を駆使し近づいてくる老い耄れに乾いた笑いが零れる。
剣劇が熾烈を極めながらも少しでも気を休めると誘い込むように剣先の空間を歪ませ踏ん張りを効かせないようにしてくるし、意識的に集中を割くことが難しい時でも貶めるように仕向けて来る魔剣の放つ魔法が隙しかない立ち振る舞いだというのに完璧に埋め合わせをしてくる。
攻撃の手数を増やした方がいいのか?手の内を晒してでもあの完璧すぎる包囲網を突破する為なら考えとか行かなくちゃいけないが…そろそろ防戦一方的な戦況を壊してやる。
「【秋霖】」
【月夜の静寂】の半分を占める程敷き詰められた【鱗雲】は『秋風』が溢れ出す魔力を大量に取り込み無数の雨粒へと変化した。
こちらに攻撃をしようと動いていた老い耄れはただ障害物でしか思わなかった雲が触れたら破裂する地雷原へと変わったことに驚いていたが防ぐ素振りを見せる訳でもなくその眼に映る人物なら出来て当然だと声を上げて喜ぶ。
呼応するように『茜雲』に燈る火がどんどんと勢いが増しているけど、魔剣から視える魔力量に関しては変化は無いし何が原因なのか分かんないな…そこらかしこに【秋霖】があるっていうのに全く動じる様子も無いみたいだしもう少し強気に攻撃をしても大丈夫そうだな。
破裂させた存在に身体に穴を空ける程の水飛沫が牙を剥くのに合わせて自分も攻撃に移るが平然と受け流され片手に握るもう一本が巧みに滑らせて顔面眼掛けて刃を躍らしてくる。
「まだまだこれからだろう、私の知る【勇者】は大量の魔法を敷き詰めてくるぞ」
「化け物に姿を重ねるな…!」
これ以上の攻撃をする奴なんて人間ができてたまるか、攻撃を防御しようとする『秋風』を持つ手の周りを歪みによってその場に固定してくる妨害を受けるが『虚飾』の魔法のお陰もあって攻撃を防ぐことができ、『天授眼』で歪みを解き近づく老い耄れの顔を薙ぐようにして『秋風』を振るうが【亜空間】と思われる空間魔法から取り出した魔導書の紙切れを使って攻撃を避けたりと分かっていたけど本当に戦いずらい敵だな…
『使い方次第で化ける魔眼は良く知っているがここまで正確に扱い切る奴も珍しいな、【勇者】を追い求めてここまで至れるのは流石だ』
(【勇者】とかそういうのは次元が違う訳だし…それよりも援護遅いの何とか出来ない?)
「【赤蜻蛉】」
転移してすぐに攻撃してこないと高を括っていたのが裏目に出た、視界を遮る【鱗雲】と同様の効果を持つ今にも身を焦がして灰になりそうな虫が集り始めた。追い払うべきか…考えている今にも攻撃が飛んでくることを考慮すると仕掛けてきた時の保険を掛けた方が正解な気がするな。
「『降り滴る空』『合間縫う日差し』『天照らす道筋』『和やかな彩色』」
「【日和】」
「爪が甘いが久方振りに楽しめたわい【蛇】」
薙ぎ払われた一閃に集ろうとしていた虫は何も出来ずに葬り去られたが攻撃終わりを見計らって現れた老い耄れは先程の一閃を避ける為に前傾姿勢になりつつも振り上げられた攻撃を防ぎ切り身動きの取れない状況を利用としたのに嬉々として迫り来る攻撃を平然と弾き返し至近距離で放たれた魔法が首に噛みつき齧りつく。
すぐに振り払えなかった時点で駄目ぽかったな…虫に関しては『天授眼』で何とかできた感じある、詰め込んで考えてみれば全部何とか出来たのに何やってんだろ。抉られた首元にできた傷跡を抑えながら回復魔法を促すが音も無く近づいていた老い耄れ…オーラトス・オガスに意識を刈り取られた。
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オーラトス・オガスは契約魔法により魔力を二振りの魔剣で完結できるようにしている、それは【神子】が一瞬で事が終わった有象無象の戦闘で視て取れた考えに関しては正解である。だが、本質的には感情の起伏を代償にした事から生まれた二本の魔剣の副産物であり賢者の石の【叡智】に限りなく近い構造をしている。
賢者の石に英雄武器を手にしている稀有な存在と刃を交えた率直な感想としたらとても惜しい、あと一歩であの【勇者】と同じような感覚で刃を振るえたのに…そんな気が晴れない感情が募るが『天授眼』による魔眼対策として視界を遮る数々の魔法で邪魔をしつつ的確に攻撃を与える為に手札を惜しみなく使って来るのは流石ではあった。
しかし、【神子】が自らを優位に立つ為に張ったのであろうこの領域魔法、結界魔法は何か眼に見える物として機能していただろうか、張った本人を仕留めたというのに魔法が解かれる様子も全く感じられない。死んだ後にこの場に留めておくための魔法だったのか?本人が生き残れば道理だが…それはそれで自らの力を過信しすぎではなかろうか。
「【透刃】」
魔法を貫通し構造自体を一時的に破壊する【勇者】から享受した技を放ったが何も変化のない魔法に首を傾げながら別の案として魔法の構造上綻びがある箇所を探そうと魔力感知を試みる直前、視界に真っ赤な葉が入り込んできた。それまで感じなかった、無意識的に溶け込んでいたと言った方が正しいのだろうか、それまでの出来事を印象深く残っていたあの感じ…
「歪曲の魔眼で回復魔法の阻害も完璧だった筈だ」
この賢者の石を賭けた争奪戦が始まる直前の情報として頭の中に強制的に入って来た事として致死的な一撃、人間にとって死ぬと同義の事を起こすと賢者の石と簡易的に繋がりを保つ為に【仮初の命】を消費してこの場から姿を消す。
この自然の摂理のように決められた規則が成り立つのならこの手あたり次第探りを掛けている魔力感知が反応を示さない結果に偽りはない…間違っている事は無い、無いのにこの心の底から安堵を感じられないのは何故だろう。自らに言い聞かせるようにしていたがそこまで時間が経っていないのに今にも【神子】が張った空間に地面を覆い尽くす程の真っ赤な葉が積もっていた。
ふと、それまで月夜が照らしていた筈の空間だったというのに足元がハッキリと分かる程明るかっただろうか。静かに落ちる赤みがかかった見た事が無い特徴的な葉はどこから舞い落ちているのか、疑問を晴らす為に?いやそんなのは後付けに過ぎないかった。ただ興味本位が想像以上に駆り立てられた結果が視線を上に向けたのだろう。
「……その姿は本当に【神子】なのか?」
「【鑑定】でも好きにどうぞ?別に今更って感じだし」
その視線を上げた先には魔力感知には引っ掛からずとも魔眼がとってつけた魔法を省いて視せたのは数秒前に止めを刺した【神子】だった。
「俺もお前も騙されたんだよ、呆れた奴が平然とやり遂げた死への冒涜にな」




