時節を憂う剣
この世で最も信仰されている神教、三神教とも呼ばれる宗派の中で神から産み落とされ多大なる恩恵と溢れんばかりの幸運を既に手に入れた存在を崇めるように『神子』というたった二文字だけで表現される。『神子』の名を持つ人間は竜と同等の桁外れの魔力を身に秘めそれを完璧に扱う事を可能とさせる『天授眼』も宿している、これほどまで神に愛された『神子』が誕生した瞬間から今に至るまで至れり尽くせりの愛情を受け取ったが…
身の危険がありますので…!とか適当な事を言っていた面倒な護衛も道中の魔物に善戦したものの途中から現れた野蛮人に背後を取られて壊滅、野蛮人は俺の持つ賢者の石と『天授眼』の奪取がどうのこうのと意気込んで近づいてきたが何も出来ずに土魔法による窒息に圧力により皆ぺしゃんこにしたが阻害系統の魔法があるくらいなんだから考えての強襲と思ったが拍子抜けだった。手応えのない敵に明け暮れていると烏合の衆が一人の老い耄れの為に突っ込んでばっさばっさと斬り捨てられるのに遭遇した。
『気になるか?』
「そこら辺に充満している魔力量からして十数人分だし、それくらいの事やってのける訳だから気にならない方がおかしいでしょ」
『その喋り方よく表に出さないな、これだけ表と裏がハッキリしているのに混ざらないのもおかしいが』
「一人の時くらい狭苦しい言い方は嫌だし、こういう時は流れに乗るんだよ。人の表情見てその時必要な顔をしてさ」
平然と『虚飾』と会話をしているがこれも権能の一つである空間魔法による認識阻害、加えて魔力感知に干渉されない【傍観者】による影響下だからこんな風に目の前で戦闘が行われていようとも危害が及ばないこの場にいない人としての動きが出来ている。
瞬殺された弱虫なんか剣一筋で魔法を扱えないように見せているよぼよぼの爺ちゃんに身動きの取れない妨害系統の魔法連発して安心して突っ込んでいたのを見た時はどういう思考をすればそんな動きをしたのか意図を汲めなかったが、ただ魔力が使えないと踏んだ行動したのだと頭で理解した時は堪え切れずに【傍観者】を解除しそうになった。
人間って大体第一印象で大方決まるのはまぁ分かるけどそんなに魔法に疎そうに見えるか?魔物で例えるのなら上位種並みの威圧感を持つ剣士なんてそうそういないだろ…
噂程度でしか知らない【神出鬼没】とかは存在すら偽りを通している可能性はあるかもしれないが…今は関係ないか、戦闘とかよりも視線が動くのは…
「手に持っている…昔見た事あるんだけどなんだっけあれ」
『刀の事か?』
「あーそうそうカタナだ、カタナ。敵の強さの指標として大体の人間が信頼を寄せている魔力感知をした際に結果として残るのが腰に携えている二本のカタナ…いや魔剣の圧倒的な魔力量に目が移る、というかそっちに気が行かない方がおかしい訳で」
その圧倒的な気配を巻き散らす魔剣に危険視する訳だから身動きの取れないような魔法を放って安心できる状況を作って近づいたら持ち前の技量で倒す、ここでおかしいのが爺ちゃんの魔力が無いに等しい所…普通魔剣を扱うに当たって人並み以上の魔力が無いと本領が発揮できずにただちょっと重量の増した剣になるわけだけどそんなことになっていないのを見て違うだろう。
「あ、『契約魔法だろう』」
「うっわぁ…今答え言おうとしてたのに」
『機嫌を損ねたのなら謝ろう』
お爺ちゃんの魔力が全部カタナに集約というか、そこで完結しているのを見て分かったのに本当に空気読めないが開き直っているその反応には言葉が詰まる。
だが、それよりも二振りの魔剣だけで魔力が完結させている構造が知りたい。体内の魔力を全て魔剣に流し込んで魔力供給などの魔力関連を全てを担わせているのか…?
疑問というよりも興味が湧いてきたのと同時に最後の一人が魔剣から引っ張り出した魔力で強靭に仕立て上げた手刀で身体を斬り落としていた。
「それでそこにいるお主は人の散り際を見る程の価値はあるのか?」
「ありゃ、魔法とか諸々使って完璧な擬態をしてみたんだけどこれでバレるってことはお爺さん魔眼持ちの珍しい人?」
今の言葉に偽りはない【傍観者】を看過できるのは魔眼と抜きん出た空間認識による歪みに気付いた瞬間…絶対前者の魔眼と分かったのは『天授眼』に映った存在に無条件で行われる【覘透】という一回切りだけ肉体に刻まれている情報を覘いた事による戦闘以前からの圧倒的な優勢によるものである。
ちなみに相手に見られている不快感を多少与える【鑑定】の上位互換である【覘透】は相手に気づかせる事は無い為『虚飾』の賢者の石との相性は抜群である。
今までに感じたことのない感覚に身を震わせながら『天授眼』によって得た相手が自分と同じ魔眼使い…頭の中に流れ込んでくる老い耄れの眼の情報からして最初の一撃は貰わない方がいい。この緊張感が続いている状況の中で攻撃を受けられるよう『虚飾』に命令しておいて虚をつく為に大袈裟に懐に手を伸ばしてみる。
「つまんないなぁ…反応くらいしてくれてもバチは当たらないと思うよ?僕はそれくらいこの争奪戦に認められた人間なんだからさ」
「【蛇】」
「うわっ!有無も言わずに斬りかかるとか危ないなぁ…」
魔法に無頓着を装っていたが見せつけられた賢者の石にはハッキリ反応を示した、その場で考えた煽るためだけに放った言葉を真に受けたのか一瞬で臨戦態勢に移っていたお爺ちゃんは右手にカタナを構えた途端首元を当てる為に曲がる斬撃を飛ばしてきたが難なく避けたがこれも多分技量の部分で何とかしているみたいだな…
正直名前がどうこう言うのは昔からの人間がどれほどまでに強かったかを表す為の指標に過ぎない。【神子】なんていう大層な…あの時代に名を刻み続けた【勇者】と比べればちっぽけな肩書きだがそれを逆手に自分の事をこれでもかと誇示させる為だけに必死に振る舞う人間の意地汚い部分が隠せずにいるどうかしている奴も『天授眼』で嫌と言うほど視てきたが…この緊迫した中での名のやり取りは僅かな瞬間でも互いに強さを認めた確たる証拠である。
『この場からの逃走は?まだ可能ではあるが』
(はぁ…ここまで来て逃げるなんてやだね、賢者の石は気の弱い人間なんかに誓約寄りの契約魔法を結ばせる事なんて無いし常に娯楽に飢えてんだろ?)
(それを分かっていてこのワクワクが必ずある戦闘を目前にして逃げる手段を取らせたいならどうぞ?)
『……分かっているじゃないか、これで負けたら死ぬその時まで嘲笑ってやる【月夜の静寂】』
覆い尽くす領域魔法は俺にとって都合のいい土俵を造り出す、契約魔法の重ね掛けで神聖魔法が使えない代わりに身体能力の向上と神聖魔法以外の全ての魔法の威力の底上げとかできるがそれは等しく僕らを照らす【月夜の静寂】が許さない。天秤のような機能を齎すこの魔法は一人が何かを得た場合、魔法は対になるように負債を吹っ掛けて来る
今、領域魔法を敷き終えた時に自分自身に掛けた魔法は目の前でいつでも攻撃に転じる事が出来る老い耄れに対する最高打点の反撃の準備…これが相手に露呈した時にこっちが優位に立てる算段、それに対する負債はお得意の神聖魔法に使用する魔力の増幅…普通だったら致命的な物だが賢者の石の無尽蔵の魔力があるからそこまで気にすることでもないか
得体の知れない二振りの魔剣には細心の注意を向けて置くとしても魔法だけだと物足りないからこっちも相応、それ以上の特別な魔剣を引っ張り出すとしよう。
「この儂の目指す圧倒的な存在感……【勇者】が数多く造り上げた『英雄武器』、この世に実在する武器の頂に君臨する内の一つ…!」
「正解、その存在感の正体は英雄武器『秋雨』…」
「【神子】と聞き魔に才があるというのは確定していたと思っていたが…英雄武器に認められるとなれば先の賢者の石も道理だな」
さすれば、言葉も交わさずとも刃で、魔で事足りる。気早な老い耄れは【月夜の静寂】の中での摂理を完全に無視して手に二振りの魔剣を握らずとも目の前の空を斬って見せた。
思った以上の攻めの姿勢に驚きが隠せないが食いついてくれてとても助かる、『秋雨』を横に薙ぐと間合いを極端に狭めていたオーラトスが警戒したのか腰に掛けていた真っ黒の魔剣の一つが魔力を取り込むと馴染むように紅色に鞘も色が染まっていき引き抜かれた魔剣の刃を防御…回避の為に扱うように据え置く行動をしつつ【水球】と【火球】を薄々と地面を伝わせて僕の行動を制限させてたった一撃の為に動いている。
自らに飛び込んでくる魔法は全て『天授眼』で相殺して対応させて一瞬の気の迷いで刈り取られる攻防に全神経を費やす、【月夜の静寂】に干渉してもう一つか二つ重ねて契約を結ぼうとも考えたが今後手も足も出ない状況にはしなつもりだがもしもそうなってしまった時の為の予備として残しておいてどんどんと鋭利になっていく剣劇に溜息を吐く。
普通に戦闘を楽しんでいるように見えるが、不服そうにも見えるその太刀筋は…
『英雄武器は使わないのか?』
賢者の石も言う通り十中八九それだろうな、確かに渋る理由はないがまだ振るっていないもう片方のカタナが肉体的に、精神的に、空間に、魔法に…何に対応し拒絶するのかこの眼でその力の断片的な物を視たかったが後手に回り続けたら【月夜の静寂】の意味も果たす事も無いだろうしここで負けて『虚飾』に馬鹿にされるのは癪だからな
「『燦々と焦がす日』『移り行く時の流れ』『巡る世無き折節』『顛末を告げる雨音』」
「【秋霖】」
大抵の魔法に必要な魔法陣の展開や詠唱は全て『天授眼』が肩代わり、省略して完成された魔法だけを瞬時に造り出してくれるが英雄武器の『秋雨』は純粋な所有者の声にしか反応を示さない。混戦状態での詠唱は自分自身を自滅に誘い込む。
しかし、これも【勇者】にとっては想定済みというのか、決定的な弱点を消すために存在すると思われる『秋雨』から漏れ出た【一掌風】が出来損ないの魔法を【勇者】に相応しい魔法として呼び起こす詠唱を唱えている過程を完璧に攻撃を防いでくれる。
水魔法の初歩とも言える【水球】が小さいが大量の泡のように溢れ始めると宙に浮かびその場に留まり沈黙を続ける。老い耄れは賢者の石との誓約を交わしている事から本来必要のない魔法の完全詠唱に警戒の色を出して動きを止めていたが魔法の失敗を印象付ける中途半端な魔法を形作る構造の崩壊を眼にした奴は真紅に染まった魔剣を突き出し魔法の失敗により焦りの顔をしている俺の表情によりカタナを振る拍車が掛かるが…
『まんまと引っ掛かったな』
近づいてきた老い耄れに反応してなのか宙に留まっていた泡が魔法としての構造が崩壊すると同時に破裂したが弾け散った僅かな水飛沫が一瞬にして強風に煽られ勢いが増していく雨に変化して老い耄れに襲い掛かる。『剣透』は突如として牙を剥いてきた未完全と偽った魔法を睨み呼吸を挟むといつの間にか【秋霖】が断ち地面に叩きつけられていた。
「へぇ…『蒼然』に『茜雲』なんて粋な銘柄だね」
「そういえば【神子】には『天授眼』とかいうのがあったが本当に実在していたか、賢者の石で色々と偽っていた…尚更英雄武器に認められるに相応しいが…」
「【秋愁】」
「【蒼白】…感情的になるな、心躍る戦いは始まったばかりだ」
突拍子もなく攻撃を挟んで一撃取れるかと思ったが一筋縄にはいかないよなぁ…この古代から生き続けている老い耄れだからこんなにも苛々するのか、【秋霖】はあの後出しにめっぽう強く出れる魔剣に秘められた魔法だとすると下手な動きをしたらすぐに足元刈られるみたいだしそれくらいの芸当が確実にできるのも見越すとかなり時間が掛かりそうだ。
月夜は静かにこの空間を留めてくれる訳だしこっちも早く合流したい奴もいる訳だし全力で倒すとしよう。
〈同胞■■■による保管されている電子情報を閲覧許可を要請……〉
〈支配者による了承を受託、直ちに電子情報を公開します〉
「え、『秋雨』を造った理由?急に言われてもなぁ…というか何で限定的にそれなの?」
「何?待って!これって頼んでいた奴?!スゥー…『秋雨』を造った理由だっけ?」
「まずは前提としての話だけど…あれに想いというか感情を込めている訳なんよ、上手く説明するとほら【■■■■】とかを例に挙げると分かりやすいでしょ、ほら『我、豪傑の鬼才なり』とか言って生涯の怒りを愛用している棍棒に流し込んだのと同じ原理」
「いや、自分も『秋雨』に感情を注ぎ込んだ訳じゃないしそんなに心配しなくてもいいよ。『秋雨』に注いだのは時間の流れというか移ろいを直感的に感じれない嘆きだし…」
「うぅ、正論パンチは止めてよ…確かにお願いしたらそれっぽいもの用意してくれると思うけど当時それどころじゃなかったし」
「それより『秋雨』の話から脱線しているから戻ろ?えっと…移ろいが感じられない嘆きっては話したから…その想いについて話そうかな?」
「あれは僕が友達と一緒に遊びに出掛けた話でね、その時の何とも言えない充実した時間を過ごしたあの今まで通りの何の変哲もない日常なのに物凄く印象深く脳内に焼き付いていて…あの毎日通り続けた道中視点をいつもよりか上げて見るとその時紅葉が―――――」
〈同胞■■■による電子情報の簡略化、重点的な『秋雨』の説明を要望……受理されました〉
〈ご要望の電子情報をお手元の端末に転送しました〉
「君もお疲れ、ありがとね?こんな事に付き合わせちゃって」
〈ご心配していただかなくても私は大丈夫でございます、他にも閲覧なさいますか?支配者は貴方の事を大切な仲間だと仰ってしましたので大抵の情報開示は何も問題なく行われると思いますが〉
「あー今のでその支配者にボコボコにされるかも…結構恥ずかしがり屋だからさ、そういうの分かっていても止めてあげてね?それじゃあいつもの奴も見せてくれない?」
〈承知しました、速やかに準備します〉




