相対する者たち
俺たちはこの争奪戦の中でも特段…いや飛び抜けて強いだろう。周辺の国家直属の騎士団とトントンに並べられる位には大陸中に名が馳せた凄腕の冒険者だし、これくらい強気でいたとしても文句は言われないだろう。凄腕と豪語してもその肩書きを作った人間…ギルマスが失踪したせいで職は失ったがそんな同じ境遇の人間が俺含めて十人が決まり事を決めて元特級の冒険者の相互監視としての団体を作ったら周りの国が特級制度の廃止に感化して反乱軍を作って攻めて来る!とか勘違いされて一時は危なかったが一応持ちこたえたから気にはしていない
毎日国のご機嫌取りにうんざりしつつも小耳に挟んでいた伝説上、お伽噺とかそういう類で存在すら怪しい賢者の石の争奪戦が始まるというので半信半疑でも仲間皆が真実か確かめる必要があるとか如何にもな答えを搔き集めて参加することになったが単に面白そうだからとか単純な考えで動いていたりする奴もいるから本当にギルマスって胃が強い人だって今になって分かる、人間を纏めるのにどれほどの労力が掛かるか分かった。今の今まで存在自体が影だったのに出てくるとは思えないからこれは現地に急行しないとだな?などと息巻く俺も俺で建前を立てているが気にならない奴はいないだろ。
嫌々言う事を聞く仲間はこういう時に限って手際が良くキッチリ争奪戦前日に合わせる事が出来て珍しく酒場で仲間と意気込んでいたのが…もう時の人なのか顔を知らない新参者が勝手に人の言葉で揚げ足を取られて溜息を吐いたがそんな俺たちを馬鹿にしていた世の中を知らない若者はあのギルマスが唯一警戒していた【神出鬼没】の一方的な鏖殺により既に安全地帯送りにされている、そんな惨状に巻き込まれず南下しただただ賢者の石が課してきた試練を乗り越える為に普段だったら洞窟で猛威を振るう魔物と戦闘を交えたりと想定していた以上の一日を過ごした。
二日目に入り難なく課せられた分に達しても俺らは足を休まずに南下した先にある目的地へと、賢者の石を持っていると思われる『戦王』との戦闘に備えての行動だ。争奪戦開始突如に賢者の石と思われる声が示した誓約者の大まかな居場所の提示、契約魔法一つだと思うがここまで親切にされる理由が分からないが使える物は活用させてもらう。
「皆、この先は道が少し入り組む。気をつけてついて来てくれ」
「そんなこと言わなくても俺らは隊長についていきますよ」
馬で草原を駆けながらも段々と近づく岩肌が多く露出する高原地帯は先に見える商業国家が誇るバールテート山脈が聳え立つ道中、昼過ぎということもあって日が俺たちを強く照らしていたが自分を含む十人の戦士は多くの言葉を語らず前へ前へと進んでいく。魚鱗陣の形を崩さずにただただ目的地に進むために馬を走らせていたのだが突如として目の前の景色が一瞬にして真っ暗に変わったのだ。
俺ら全員が魔力感知による周りの警戒は怠っていなかったがこんなハッキリと視覚的に影響を及ぼすとなると魔物…魔獣が該当するが…自らの土俵に持ち込んで何もしてこないとなると上位種…魔将赤鬼や死魂怨霊のような存在を彷彿とさせるかもしれないがこの恐怖のどん底に引き摺り込むように仕向けて来るのは…
「リーダー、どうみてもこの結界魔法を張って俺たちの事を待ち伏せしていたのはあの熊っすよね」
「このとってつけたかのような感じは淵源時代特有の釣り合うことのない不安定な魔力…お前等恐怖に打ち勝つぞ」
全員が移動手段の馬を降りてこれから始まるであろう戦闘の被害に巻き込まれないようにこの場から逃がしておく、利口で従順な馬たちは何も言わずに恐らく結界魔法から出て行くのを見ながら一際岩が突き刺す所に厳格に振る舞うその姿は王者の風格を持ち合わせていた。恐怖心を煽ろうと絶えず【威圧】を視線に混ぜ込み戦意を削ごうとしているみたいだが俺らは協調性が無いに等しいが特級冒険者の肩書きを貰える位、災害を巻き散らすような魔物と何戦も交えて生き続けた奴しかいない馬鹿みたいな集団だ。
敵意の無い存在には結界の行き来を許しているようだが獲物として引き摺り込まれた俺らは逃げる資格も無いってことだな?そんな自信満々な面すぐに潰してやる。
「さて、各々コイツの動きに注意しつつ大好きな連携をしていこうか【根蔕】」
【亜空間】から一本の斧を取り出すと同時に足から放出した魔力が地面に行き渡り即座に成長を促した木の根がボコボコと地面から生え出る。牽制として熊に向かって攻撃を仕掛けてもいいが…相手の手中とも言えるこの星空が映えるこの結界魔法が俺たちに何しでかすか探っていかないから取り敢えず俺に攻撃を向けるように仕立てて置くようにして臨戦態勢を取る。
「『獣衆頂散』…?」
「名前か…?」
「え、まぁ名前から何してくるか推測できることもあるんで一応って奴です。私もリーダーの援護に入るんで危なくなったら言って下さいね?」
近くで【鑑定】をしていたレサーが今も睨みを利かせている熊の名前らしいが…それよりも魔力が徐々に膨れ上がるような勢いで増えているが魔法を放つような素振りを見せずに動く素振りが何かあるのか…?いつでも動けるように魔力を潤沢に活用して身体強化を施した途端、物凄い形相で俺に向かってぶつかって来た。特定の魔法に反応して攻撃か…周りの奴には敵意は無いみたいだからこのまま戦闘に入るとするか
攻撃を根で防御し振り翳した斧で断ち切ろうと試みると抵抗する事もなく両断された『獣衆頂散』は力無く倒れ地面に倒れ込んだが数秒すると分断された身体が何事も無かったように立ち上がり半分は元々の熊に断ち切られた分の身体を再生させ、もう半分は四足歩行の黒色の斑模様が目立つ別の魔物へと変化した。
「こりゃあ長試合だな」
■
「弱い、弱い…魔法に長けている者が多く存在すると聞きつけてこの場に参上してみたがこれほどまでに弱者が集まるとは思いもしなかったのぅ…」
「お、お前…!賢者の石でも持っているんだろ!その馬鹿げた力の正体はそれだろ!」
儂の剣技を見れない、視れない小童共がそこらに伸され既に結果はもう分かり切っている状況なのにそれでもただ道が交え通り過ぎた同じ挑戦者の身として力量を見極める事も出来ずに戦を仕掛けてきたのに心底詰まらん。人の遺物に興味はない、仮初であろうと魔術の極致に、武道の極致に達した存在がどれほどかこの老体に然りと刻み今の儂がどこまで通用するか試す。
「物に縋り生きるのは無力の証、人の生を狂わせる力を目の当たりにした人間はこうも捻じ曲がるか」
「さっきからボソボソと!」
「【無刃】」
雑念が多い剣筋は既に一歩前に足を踏み込んだ儂を捉える事は無く、腰に掛ける二振りの剣を振るわず小童の身体は何の脈略もなく斜めに斬り落とされ散っていく。その後酷く叫び痛みに藻掻くも契約により【仮初の命】が機能し安全地帯へと赴いたが…此奴も自らの力を過信してのこの行動で力を目の当たりにして中身のない口から吐かれた言葉は人を認める事も無くあくまでも争奪戦で主役である賢者の石の存在の力と豪語されるとは…舐められた物だ。
「それでそこにいるお主は人の散り際を見る程の価値はあるのか?」
「ありゃ、魔法とか諸々使って完璧な擬態をしてみたんだけどこれでバレるってことはお爺さん魔眼持ちの珍しい人?」
目の前に立つ弱腰で剣など振るうような立ち姿とは思えないがその自信の表れはその隠密に特化した隠密魔法に近い何か…それを生業にしている人間なら気配すらも消して存在すらも消せると聞くがこの感じはまだ未熟だからなのか?そこを漬け込んでの不意打ちも容易に考えられる。飄々と動くなか懐に手を入れ何かを取り出す素振りを見せ警戒心を煽ろうとしたのかと思ったが…
「つまんないなぁ…反応くらいしてくれてもバチは当たらないと思うよ?僕はそれくらいこの争奪戦に認められた人間なんだからさ」
「【蛇】」
「うわっ!有無も言わずに斬りかかるとか危ないなぁ…」
取り出してすぐに短剣を投擲をするのかと警戒をしていた儂が馬鹿みたいだった、奴の手の中にある赤色の石…溢れる魔力からして本物の賢者の石みたいだがこの大袈裟な行動の答えの理由が怠慢に繋がっている訳だな。その腐り切った根性叩き直してくれるわ
「儂の名はオーラトス・オガス。昔は『剣透』と呼ばれた老い耄れだ」
「『剣透』なんか強張った顔で言われても僕分からないや!人に名を忘れられた人間が何を偉そうなこと言うなよお爺ちゃん」
「あーごめん、こういう昔の人は義理深く名を返さないといけないんだよね。『虚飾』の賢者の石と誓約を結んだ【神子】ネクテリル・メンティル、これでいい?」
「先刻の言葉、後悔するなよ?」
儂の言葉にそんな事出来たらいいねと嘲笑うと奴は領域魔法を拡げ、奴にとっての都合のいい空間を作り上げ始めた。




