名も無き騎士は何を吼える
刺せた、一撃と呼べる攻撃を相手に与える事が出来た。その感触がこの『空穿』が眼前に立つ魔力回路を粉々に砕いた事を確信できる物だった、動きが固まった至福雄飛から魔力が零れ落ちていくのを確認して『空穿』を勢い良く抜いて後ろに下がり【淵明闘竜】を動きが止まった至福雄飛が朽ちる瞬間まで監視させておいて女王に任せていたジェバルの方に視線を動かす。
かなり遠くだが今からでも手助けは出来るだろう、即興でジェバルの武器を拝借したがそういう所全て使って何とかするからそこまで心配はしていないが取り敢えず自分がやれそうな事をしなくてはな…身体全身で深呼吸して経過時間としては一時間強…体感的には数時間分の重みを容赦なく吹っ掛けて多大なる身体能力で押し切ることを可能にした【飢えと代価】に感謝しつつ魔力回路を制御する【淵明闘竜】に解除するように頼もうかと思っていた時だった。
『我が女王に認められなくとも…共に戦った同胞が認めてくれる。私の行き先の無い人間への憎しみを代償に手を差し伸べてくれる名も顔も知らない何かが私の存在を肯定し背を押してくれる』
『欠けた生命線は漏れ出る魔力で繋ぎ合わせ、零れた魔力は亀裂を埋め直す』
監視していた【淵明闘竜】に万が一があった時ように渡していた魔力が魔法としての【爆炎】に変化したのを感じ取った時には無残にも斬り刻まれ魔法としての形を保てなくなり消えてしまった。そんなことをしたのは明白な事だ、確かに魔物としての生命線である魔力回路を潰したのだから魔力で繋ぎ合わせられるはずがないんだ。
異例過ぎる目の前に立つ満身創痍だった奴は今まで以上に生き生きとしていて空っぽだった筈なのに…何かが注ぎ込まれ意義が生まれた。その一連の過程をとても愛おしく大事そうにしながら自分自身を認めた、自分からしたら狂気すら感じたが首元に隠れていた【淵明闘竜】にこれから始まるであろう戦闘の援護を頼み深く息を吸って相手の動きを細かく視る。
『これからお前の事を殺すのはこの【至福雄飛】だ、刺し違えても骨の髄にこの刃を届けて見せる』
違和感が全く感じれなかった、既に差し向けられていて刃が動かずにいた皮膚を撫でられかける一瞬を【淵明闘竜】が身を挺して受け流し足元から奴から攻撃の手を引かせる為に【血嬲覇涙】を巻き散らし後ろに引いた所を掠め取るように『空穿』を振るいながらも間合いを一気に詰めて畳み掛けるのではなく相手の動きを眼で追う事を優先させる。
何を思ったのか攻撃を避ける素振りを見せずに周りに散開する血の刃を掻い潜り懐に忍び込む至福雄飛に刃を向け、回避されたら反射的に【淵明闘竜】に攻撃を任せ目の前で空を薙いだ【血刃】を視界に入れた瞬間を狙って攻撃としての一手を差し向けていた魔剣は身体と同化していた筈だが一本の強靭な魔剣として変貌を遂げており当たる事すらも愚か受け流していた【淵明闘竜】にすら再生に数秒かかる程の傷を一瞬で作っている位だ。
警戒をするのは当然だが直前に【淵明闘竜】が仕掛けた攻撃を繋げる為に『空穿』ではなく【亜空間】から手に取った竜闘刃で斬り出して間髪入れず斬りつけているが、あれだけ妨害したというのにお構いなしに刃を振るう奴の猛攻を弾き落としても差し込んでくる斬撃に舌打ちをしながら自身の身体能力の圧倒的な恩恵を信じてその場を脱却し【亜空間】に預けて置いた黝い槍を手に掛けてその場の動きに拍車を掛ける。
「【慟哭】」
『……【一瀉】』
無数に放たれた突きの攻撃に対抗するように上に薙ぎ払われるように振られた剣捌きが掻き消されたが数発どんどんと俊敏になっていく敵を捉える事が出来た、槍に施された呪いが一瞬を捉えた奴の身体を巡り刻みつける。眼で追いながら、何故か常に未来を視せ続ける数秒先を越せるように身体を動かし地面を、半壊した壁を崩しながら【淵明闘竜】による補助により攻撃の相殺、反撃としての【血刃】による死角を作り畳み掛ける。
一定の距離を保ちながらも絶えず攻撃を仕掛ける刃を跳ね除け反撃としての一撃に的を絞りながらも確実に黝危槍の呪いを着実に押し付ける、視えた斬撃を【淵明闘竜】が放つ【血刃】で対処して次に来る首、肩、腹、腿…肉を削り取るように巧みに動かす刃には『空穿』の【裂空】による魔剣の魔力回路の破壊を狙いながら攻撃を捌き続ける。
血は舞い、より濃く充満する。反して血を裂くように刃もまた舞い踊り、更に鋭利に研ぎ澄まされる。差し向ける剣先、穂先に一瞬の迷いが生まれれば狙い澄ましたような斬撃が意識を奪おうと首元…人間としての急所に刃を突き付けられ弾く事が出来たとしても、どんな動きをしたら一瞬で背後に回り込んで魔剣を別の角度から差し込んでいたりとやりたい放題だ。
魔力を代償にして身体能力を底上げしているのにそれを上回る俊敏さのせいで後手に回ざる負えない状況になりつつあった、手数を増やすとしてもあの異常な脚力による機動力で攻撃を与えようと動いたとしても効果としては望み薄いな…危険を叫び続ける【淵明闘竜】に数秒毎に視せ続けて来る未来視の魔眼に沿って迫り来る攻撃を避け反撃を行い続ける。
黝危槍による範囲差で一気に永遠と続く猛攻を切り上げさせて一瞬動きが止まった蟻に蹴りを一発押し込んで至近距離で【血刃】を放つ。攻撃に対して態勢を整える仕草などを取らずにこちらに未だ形を変える魔剣を奴は滑らせ牙を投げてきた、【淵明闘竜】が受け止めてくれたが少しでも遅ければ腹にでも突き刺さっていたかもしれないがゴリゴリと吹っ飛んでいく奴の身体を抉り取るように血の刃が剥いでいたが動じる事もなく弾かれた魔剣を魔力で引き寄せ再び攻撃へ移っていた。
「戦い方が…雑だな!」
『ただ勝利を女王に捧げる為ならば過程がどうなろうと私は気にしない』
とは言っているがまだ素早く、より鋭利に動くアイツに手も足も出ずに蹂躙されるほど血の獣は弱くはない。失う事に恐れていれば守ろうとする物すら手から零れていくと先生は言っていたし、こんな俺でも信じられる仲間がいるからな。とことん自分自身を使い潰せ、魔力は最大限の刃に、血肉は己を縛る鎖を解き放つ代償の対価として昇華させる。
「出し惜しみは無しだ『朱褪竜』、好きに暴れろ」
『女王が忌み嫌う竜、鬼才は竜との契約者なのか…?それでもこの危険因子は取り除けなければな』
血が姿を形作り現れた真っ白の竜は地を響かせる程の咆哮を近づく敵に向け鉤爪を立てる。ただ冷静に攻撃を躱して竜の首を落とそうと試みる敵に黝い光が差し込まれじんわりとじんわりと奴に溶け込む。片手に握られていた槍で胸を切り裂こうと動かした魔剣を弾き、黝い光を身に纏い片手に『空穿』を手にして無理矢理繋ぎ留められた魔力回路に【貫破】を叩き込む。
吹き飛んでも黝い光が脈動するように肉体を軋ませ全身に痛みを駆け巡らせながらもより強く壊れる音を手に持つ槍が欲していた、こんな痛みを吹っ掛けて来る槍を振り回しながら戦うジェバルも相当おかしいが魔物の生命線である魔力回路をこんなにもぐちゃぐちゃにしたのに平然に動けるのに恐怖すら感じる。穂先が魔力回路を抉った時に感じれた魔力すらないこの空っぽの感じは紛れもなく何かを得る為に代償として消費した時の物だった。
『朱褪竜』が判断が遅れた俺の事を庇う様に放たれた【靡波】が【血嬲覇涙】として攻撃の一手として利用して相手との間合いを強制的に設けて体勢を持ち直してくれた、感謝を伝え再び刃を交える。血魔法が飛び交い足元を掬うようにして攻撃を放つ竜の攻撃すらも軽やかに圧倒的な力量で断ち切り駆けていた。
攻撃を避け、振るい、受け流す。ただこれだけで成り立つ攻防だというのにこんなにも息苦しく続くとは思っていなかった、これでも普通だった致命傷になるはずの攻撃を与え続けているのに目の光が消えずただただ邪魔者を排除するだけの為に刃を振るうこいつに嫌気が込み上げて来るがこのまま感情任せに動くだけで戦況が一瞬でアイツに傾く。一瞬でも隙が生まれればそこに全力を畳み込めるっていうのにな
「【三穿…!」
『そこだ』
死角からの攻撃に対処は出来ないと高を括り槍を突き出したが既に相手の振るった脅威が素早かった。あっさりと横に薙がれていた斬撃が血肉を裂かれ噴き出る赤黒い血を見ながら身動きが取れず二手、三手と身体を斬り刻んでいった、援護しようと動いてくれた『朱褪竜』の攻撃を弾き竜の弱点とも言われる逆鱗を搔き斬り地に伏せるも最後の力を振り絞って吐いた血の息吹も弱々しく攻撃として何も為さなかった。
『忌々しい竜は地に堕ちた。鬼才であるお前も虫の息、代償による魔力の喪失により治癒すらもままならない状況でどう動く?』
「代償……代償なぁ…力を得る為に何かを犠牲にして手にすることのできる魔法の一種だ。相応の何かを差し出せば魔法も相応の恩恵を齎す律儀で俺みたいな奴にピッタリな魔法だ」
『…………?』
「俺の身体能力を底上げさせた【飢えと代価】は魔力の喪失を代償として求めて来る。お前のその心臓とも言える魔力回路と名を代償にして手に入れた魔力を著しく拒絶する魔剣は確かに強力な物だ、でも俺との相性がとんでもなく悪いんだ、分かるか?名も無き騎士」
淡々と言葉を紡ぐ、痛みは日常茶飯事だ耐えろ、そして回りくどく言った言葉をその女王にしか頭にない空っぽの脳で考え続けろ。剣として力を得る為に命も、名も捨てた騎士が言葉を理解するのに一秒も掛からなかった、ただ女王に盾突き脅威と成り得る存在に刃を振るうのは当然の事だったからだ、今もドクドクと溢れる血を眺めながら近づいてくる名も無き騎士の滑稽な姿を視る。
「あの時、ただ使い殺されるただの蟲らしく野垂死にしてれば良かったな」
『侮辱は女王の前で言わせない、下等の存在こそ逃げ蹂躙されればいいんだ【名も無き騎士】』
血は霧となって充満していた。竜の微々たる息吹は地を溶け込ませる、滲ませる為の前準備だった。魔力を拒むその魔剣は果たして魔力を失った俺の血を拒むことができるか?圧倒的な身体能力の差でこちらに勝鬨が上がる事は無かったが全てを投げ出して脅威を打ち払おうとしたお前が女王の事しか考えられないどうしようもない馬鹿で良かった。
「【八牙血死】」
血が溢れ意識が朦朧としようと手から離さずに握っていた『空穿』がその時だけ血の刃として一閃を振るい横に断ち切られた馬鹿は言葉を発さず地に伏せていた。【飢えと代価】を解除し首元に隠れていた【淵明闘竜】に斬られた傷の治癒を任せ真っ二つになって寝っ転がっている馬鹿の下へ足を運ぶ。
『私はただ女王を守りたかった、脅威である鬼才を、竜を打ち払おうとしただけだった。何故か私は何も女王に為せず朽ちていく同じ運命を辿っているんだ?あと少しで、あと少しだというのに自身の未熟さに反吐が出る』
「もうお前らは時代に踏み潰されてんだ、今更這い上がって来るな」
『我が王よ、この不甲斐なさを許してください』
そう言葉を遺して灰になって朽ちていった、傷口が塞がっていながらも血が滲んで気持ちが悪いが動けないよりかはまだマシだな。こんな状態でジェバルの助けなんかできっこないがただ確認の為だけに動くか、足元が真っ赤な血の色に染まった周りを見て乾いた笑いが出たがその中でも異質な物が血の海に遺されていた。
「『討伐した魔物の力の一端を譲渡させる』…そんな事も言っていた気がしたがまさかお前もだったのか、女王だけかと思っていたが思わぬ収穫だな」
「何が『鬼才を穿つ剣』だよ、笑わしてくれる」
周りの血の海には到底似合わない真っ白で凛々しく佇む一本の魔剣が突き刺さっていた。ゆっくりと一歩ずつ血の海を掻き分けながら進みおもむろに【鑑定】を行うとふと笑みが零れる。名も無き騎士が遺した剣の名前にまで私情を挟んでくるなんて馬鹿らしい
変幻種"至福雄飛"
女王の騎士は同胞の声を、背を押され自らが望む鬼才を穿つ存在へと成り立った存在。女王に押し寄せる脅威を打ち払う、この身が魂喰蟻としての姿から変わろうと女王に寄せる信頼、忠誠は消えることなく淵源時代を彷彿させる地獄であろうと私は貴方の傍でこの身朽ちるまで刃を振るうだろう




