誰が為に振るう剣
ルウェーが通りすがりに黝危槍を貸してくれと言われた時は何するのかと思ったがあれも陽動として扱うのか…騎士に一撃与えられたのを見ながら【深海】を操るというよりも防御を任せている『忠義』と共に状況を上手く把握できずにその場に留まり続ける女王にとっておきの一撃を披露という訳ではないがあの埋まっている最後の魔力回路を結果として吹き飛ばすことはできないか…準備としてはあの【血の権力者】とまではいかないが如何せん試み自体が初めてでもあり不安が募る。
不安がどうだ、試みが初めてで…などと弱音を吐いたがあれは嘘である。失敗を恐れればそれがいつかどっかに引っ掛かる尾となってその後の行動全てを芋づる式に引っ張られて一生抜け出せられない沼にどっぷり浸かってしまう、ここは何が何でもこの絶対王政を体現した暴君様には速やかな退場をご希望したい。
『なんか【深海】という魔法の域を超えていません?とんでもない水量ですけど…魔法構築する過程自体が人間が出来るとは到底考えられない…』
(その離れ技のお陰でルウェーが一撃入れられたんだしこっちもこっちで前に見た魔法をそれっぽく再現できたんだし文句言うな)
『あれも魔剣が持つ固有の奴だと思いますけど、風魔法と水魔法の大雑把で大胆過ぎる魔力配分であんなの出来る方がおかしい…いや賢者の石を手にしている時点で普通じゃない!!』
まだ走っている途中だから許せるが賞金狩りの時は剣振るっている時でさえこんな独り言が多いから本当に困る。途中から話を聞かずに動き始めた女王に睨みを利かせながら地面から這いずりながら姿を現してきた蟻を【深海】の水で綺麗に流し押して貰いながら、魔法による攻撃を真っ赤に灯る変光星で断ち切りながらどんどん間合いを詰めていく。
【起爆】によって燃えていく魔力を溜め込んでおいた〔秘華の炎導〕から少しずつ引き出しながらも灯された炎を自らの糧へと還元させ更に【深海】の壁を物量で押し切り雪崩れ込む別の意味での波を溶かしながら駆け進む。まだ距離は遠い
『何故そこまでして拒む?人間は皆魔物という魔力に適応した存在に恐れ慄き逃げ、我々の足元にも及ばず半端で腰抜け共と言い表せる程の存在が何故?』
「何故って言われても…自分からしたら女王は害虫でしかない訳なんだが…!」
女王は淡々とこちらに言葉を投げかけているみたいだが、女王の言葉を揚げ足を取る事になるがその半端者で腰抜けの人間に吹っ掛ける攻撃とは思えないない攻撃にこちらは質量の押し付け合いをしていた。【深海】で防ぐことが出来ずにこちらに有無も言わずに飛び込んでくる実質的な死骸ではないと思うのだが魂が抜けたかのような抜け殻が、しかし魔力回路が微かに動いているからその表現は正しいのかよく分からないが当たれば無事じゃ済まない。
女王には聞こえていない位の愚痴を吐きながらも迫り来る岩石のような塊を振り薙ぎ払い、炎が宿った変光星で断ち切り前へ前へと進み続ける。守り切れない攻撃は背後を張り付きながらも的確に【深海】が軌道を逸らし絶えず魔法の形を変え攻撃を捌き続けていた、反撃するタイミングは言わずとも既に行動に移していたりと驚く事があるが女王は攻撃の手を緩めず息を吸うように魔法を、生み出した駒を進軍させていた。
『勘が戻った。この妾の意向に反逆する者には等しく死を…だが、忌々しく我らを根絶やしにした存在を彷彿とさせるただ個として成り立つお主には絶えず訪れる地獄を与えてやろう』
『【身を焼き悶え苦み、この場を支配し築くは、我らの楽園】』
『その全てを拒み盾突く其方に贈る名は【禁印征妃】』
パタリと攻撃が止んだその時分からなかった。ただ純粋に魔力が無くなったとか駒での量での戦闘に切り替えたなどとそれまでの行動から基づいた奴がしそうな常識通りの考え方をしていたが我を通して好き放題する女王様に常識で推し量るには烏滸がましかったようだ。駒だった魂喰蟻達は見た目がそれまで真っ黒だった姿から今になっては全身を女王に矛としての毒を滲ませ紫に変貌を遂げさせられたが、彼らは種としての存続を賭けたあの死力を尽くして戦ったあの忌々しい記憶を呼び起こし闘志を燃やす。
列をなして女王に危害を出す存在に対しての怒りを、種としての生存本能を曝け出し女王の助力を受け進化した彼らは至福雄飛と同等の近衛騎士としての存在までは行かずとも兵士としての位を確立したのだ、それはただの駒ではなく個としての存在を今の瞬間女王に認められた事を意味していた。
やっと認められた兵士の面々…兵隊蟻は地面を駆け俺の元へと自らの身体を矛として牙や肢を振るい追い詰めようと動いた。薙ぎ払われた攻撃は変光星で弾くか熱し切り流れるように魔法回路に刃を届かせ【起爆】や【超煌弾】を駆使し破壊し薙ぎ払われた時に追撃の役割を果たすかのように猛毒だと見て分かる分泌液が進化の副産物として滲み出る透明の血液が紫色に溶け合い飛び散らせた。
『今は毒を受け止められますけどこれ以上は難しいです』
「【深海】の半分は攻撃に回せ、【水槍】や【濁流】みたいな不特定多数の存在に影響を与えられるような奴中心でもう半分は防御と【水霊の癒華】で毒の中和と回復をしてくれ」
『……!分かりました』
大量の魔力の塊でもある【深海】を全て『忠義』に任せていた理由は意図的に死角を作って自分だけにしか向かない攻撃を極力向けさせずにしたのと多方向から連続して放たれる女王が放っていると思う圧倒的な質量で撃ち込まれる魔法の徹底的な防御…安全策として張っていたが結果としてこんなにも効果を出してくれた所は棚ぼただった。
要望通りに走りながら放たれる大量の【水槍】が攻撃を振るう兵隊蟻達の身体を削り綻びを作り出し狙い定めて放った【超煌弾】が亀裂として綻びを広げ追い打ちを図るように刃を差し込み熱し抉じ開け前へ進むと【水盾】を押し切って間合いに入る兵隊蟻を焦がし丁度いい足場として利用して横跳びをする。
焦がし熱したとしても最後の最後だろうと足掻く兵隊達は近くにいる仲間の礎として盾として身を挺し次に託すせいで中々前へと進めない状況に嵌りつつあった。最低限の防御という手段を取れば掠り傷だろうが毒による追撃が重なり致命傷に成り得る、『忠義』にはその毒の中和も任せているが当たらなければいい話…二度目が通用するか分からないが試せるものはここでやらずに詰むよりかマシだな。
魔剣と同等の事を魔法で行う事は不可能と言える程難しいとされる、理由としては魔剣が持ち合わせる魔力回路とその魔剣扱う人間の魔力回路が必ず同じではないからだ。自分でさえも変光星だけが生み出すことのできる【起爆】を【爆炎】で代用した結果、炎が灯る事はなくただ【爆炎】が勝手にバチバチと周りの魔力を燃やすだけだったりと程遠い機能を齎した。簡単に言えば魔剣の魔法を真似しようとしてもそれ同等の事は出来ないという訳だがそれっぽい真似事は可能という何とも分かりにくいのか…
「光すらも通さないあの濃い靄をそれっぽくするだけで上手い具合に誤魔化せる!」
フリデップの魔剣が吐き出したあの面倒な靄を煙幕として利用させてもらい姿を隠すだけの役割を魔法に担わせて囲まれた状況下を切り抜けてあれほど特徴的だった巨体が真っ白の姿へと変わっており周りに防御を固める紫色の兵隊蟻達を浮き彫りにする程目立つ女王へ再び足を進める。仕掛けるにはまだ早い
絶え間なく押し切ろうと兵隊蟻が刃を振るうが重ね積んだ【起爆】により変光星の刃が身を溶かし、次に託すその行動には【水槍】が身を砕き、【濁流】が奴らが伸ばす攻撃の手から物理的に離し遠ざける。【深海】の残りはまだあるがこのまま兵隊蟻の止まない攻撃を許せばすぐに無くなってしまうだろう、注ぎ足す方法もあるがそれだと調整が難しくなるからこのまま【起爆】で近づく兵隊蟻を吹き飛ばしながら前に足を進める事だけを頭に入れる。
体勢が崩れたら【疾風】や【深海】で持ち直してここぞとばかりに攻撃を仕掛けて来る兵隊達に刃を振るい避ける、近づく度に大きく感じ取れる女王の動きを見ていたら足元を掠め取ろうとしていた存在の対処が遅れたら今までの苦労が一瞬で水に流れるからな…集中を切らすな。猛威を振るう兵隊蟻の波を一旦退ける事に成功した所で間髪入れずに振り払われた女王の攻撃を【水蛇】で受け流し背後から突き刺すようにして毒々しい刃を振るう兵隊蟻を変光星の熱で焼き切り真横から放たれた【水槍】が正確に魔力回路を穿つ。
こちらからの攻撃が限られており対処可能だと判断しての攻撃だと思うがこれほど巨体だと間合いなんて関係なしに一方的に叩き潰せるからな…大振りで回避したら地面に隠れていた兵隊蟻を斥候として突撃させたりしてくるから予定通り女王…禁印征妃は一撃で仕留められる筋書き通りで動いた方がいいな、回数重ねて攻撃した所で周りにいる兵隊達が邪魔な存在を徹底的に叩き落そうとたった一人に向ける戦力の量じゃないんだよな。
「今のでそっちも分かっていると思うが…」
『話していた一点集中の大技…ですよね』
「毒まみれの包囲網を出し抜いて踏ん反り返った女王に一撃できる策はこれしか思いつかなかったからやるしかないんだけどな」
後ろに下がりながら叩きつけて来る兵隊蟻の攻撃を何とかして捌きながら準備に取り掛かっていた時だった、【深海】から感じ取れる広範囲で高性能な魔力感知の中で疑問が突如生じた。後退した先の場所は寸前の魔力感知では兵隊蟻の残骸が残っていたので微かな魔力量だったからそのまま逃げ場として使おうとしていたのだがそこを中心に判別がつかない充満している魔力に警戒を寄せる。
もう少し早く分かれば無理矢理にでも方向を変えられたが既に攻撃に使う魔力の配分を削るのはアレだが不安要素は全部取っ払ってからにしたい、振り向いて充満した魔力の中に飛び入ると案の定粉々になった奴等にとっては同胞を取り込み牙を増やした兵士は飛び込んでくる存在に鋭利な刃を差し向けていた。
兵士の振るった刃を燃え盛る炎で溶かしそのままの勢いで視界に映った魔力回路を焦がし貫くと何も言わずに何の抵抗もなくその場に倒れた。とんでもない量の魔力濃度で何かしらの攻撃をして来たらどうしようと思っていたが同胞の魔力を取り込んで何がしたかったんだ?疑問が絶えずにそのまま女王に向けて足を進める時頭の中を過った疑問を丁寧に諭すかのように酷く重い肉を抉る音が聞こえた、目線を落とすと自分の身体を貫いた紫色の刃が見えた、口に絶えず溢れる血を吐きながらも刃を貫いた勇敢な兵士に向かって変光星を向け【起爆】を行う。
さっきの奴はこの伏兵を隠すためのブラフ…満ち満ちた変化のない魔力の中感じ取らせえなかったのはこの為だったか、俺が身代わりとして使った靄を学習しての託すかのようにしておこなったこの行動…一杯食わされた。『忠義』が予め用意していた【水霊の癒華】が抉られた血肉を繋ぎ合わせていくが一瞬にして身体を巡る毒が忌々しく足を引っ張る。
『攻撃よりも体の再生を優先的に…!』
「ここで傷を癒す為だけに動きを止めて留まったとしても兵隊蟻達が逃げ道を潰して袋叩き状態になる、このまま女王に一撃与える」
視界が歪むが魔力を纏め足元に【深海】をその場に搔き集め身体を持ち上げる、軋む痛みは後回しだ。今はこの一撃に全力を出す。女王の頭部よりも高く、こんな状態でも狙いをつけられるように高く身体を持ち上げ【深海】を全て【津波】に書き換え身体を滑らせる。
「"猫灼魔術【背水の陣】"」
後ろに下がる事は毛頭すらないが自らの不注意で窮地に立たされたことを上手く使わせてもらおう、たった一撃だけの攻撃を当てるだけの過程で形勢がこんなにもガラッと変わるのは不思議な事だ。蟻の女王が、禁印征妃が空を滑る存在に無数の魔法を巻き散らすが思考が信じられない程鈍くなった自分が対処できるような物ではなかったが【津波】を操る『忠義』が攻撃の手を振り払ってくれた。
『この自己を押し通す意地汚い存在は…!』
思考がどんなに鈍くなろうと手元に握る炎が途切れかかる意識を焚き付けてくれる、【津波】が引き起こす波が互いにぶつかり更に荒々しく周りを削り荒波が遠く音を力強く響かせ轟いた。足場の波頭が勢い良く身体を持ち上げると体を浮かせて次の段階に移る、『忠義』に任せていた【津波】の主導権をほんの僅かの間譲ってもらい注ぎ足しという訳ではないが【深海】を無理矢理流し込み魔法という形を意図的に破壊して魔力の塊へと仕立て上げる。
『【覆雨】』
先程まで自分を押し寄せる大波だった魔法が形を崩して大きな水飛沫として弾け変貌するも奪い取るようにして魔力の塊に手を伸ばした『忠義』の言葉に従うように思い描く魔法に創り変えられる。そんな中でも即効性の強い毒による痺れが四肢を駆け巡るのを食い止めるために【水霊の癒華】を施し解毒を素早く促してもいた。
『足掻くことなく打ち伏せろ疫病竜ゥ【軍雄割虚】!!』
「【昊天】!!」
変光星の刃に打ち付ける雨粒を蒸発させ落下する身体に刃を向ける女王の攻撃を掻い潜り禁印征妃の頭上に現れたドロドロとした魔法として不完全な物体…液体のようなものが視界に溢れ覆い尽くしたとしてもこの燃え盛る刃を突き付け豪雨を、過去を吼える女王諸共大空をも穿つ。
【禁印征妃】:自らの名前を魔法の名にするどれだけ影響力を持っていたことを誇示するためだけの普通の生活を過ごす人達にとっては無縁の魔法。
【禁印征妃】の効果としては、【女王の支配】により張られた結界内にいる血縁関係を結んだ存在(ここでは魂喰蟻を指す)に必要のない器官を代償として身体能力の向上、魔力量の底上げを行わせてそれまで子だった魂喰蟻を兵隊蟻に進化させる。また、視覚的には毒素を中和していた器官が消えたため体内に毒素が十分に回った事で皮膚が紫色に見えるようになり【女王の支配】の結界内に侵入した存在に『余所者』の烙印が押された存在の魔力回路の妨害を施す。
発揮する効果は人それぞれであり自分自身だけに作用するものだったり、逆に他人にだけ作用したりと使うその時じゃないと意味が無い圧倒的運要素が絡む魔法と言われている。蟻の女王は時代の波に押し流される前にこれを使った事があり子供が頼もしい兵士となって襲い来る時代の波から遠ざけようとしたが術がなく撃沈。
魔物じゃなくても名が馳せた存在だったら誰でも使える。




